logo 杉真理・伊藤銀次『トライアングルの軌跡』


杉真理・伊藤銀次『トライアングルの軌跡』

■2016.11.25 18:30開場 19:30開演
■THUMBS UP (横浜)

Vocals, Guitar:杉真理
Vocals, Guitar:伊藤銀次

Drums:杉未来
Bass:藤田哲也
Guitar:橋本哲
Keyboards:坂本洋
●DOWNTOWN
●夢見る渚
●Baby Blue
●いとしのテラ
●マイルドでいこう
●Crying All Night Long
●Dear Angie
●ウキウキWatching
●ウィスキーがお好きでしょ
●雨のステラ
●堕落の夏
●Don't Break Me Down
●さよなら逗子マリーナ
●平和な人
●Heroes
●Get Back To Blueberry Hill
●Bye Bye C-Boy
●トワイライト・シンフォニー
●ミュージシャン行進曲
●A面で恋をして
●一本の音楽

●幸せにさよなら
●Nobody
●君は天然色
●君にしてあげられること
(記憶ベースなので脱漏、曲順前後可能性あり)



杉真理と伊藤銀次のジョイントと聞いて、これは行くしかないとチケットを取った。その後で吉祥寺での公演もリリースされたのでそっちにすればよかったのだが、とにかく仕事を何とか切り上げて横浜まで駆けつけた訳だ。

伊藤銀次のライブは今世紀に入ってからも何度か見ているが、杉真理のライブを見たのはおそらく大学生の頃に同志社大学の学祭で見たのが最後ではないかと思われ、実に三十数年ぶりだったはずだ。

もともと昨年、杉真理と村田和人が伊藤銀次を迎え『奇跡のトライアングル』と銘打って行ったツアーの第2弾として村田が会場をブックしていたが、村田が今年2月に急逝したため杉と銀次がバンドセットで回ることになったものらしい。

そのため、MCでは頻繁に村田のエピソードが披露され、『一本の音楽』を初めとして村田のレパートリーも何曲か演奏された。村田の追悼ツアーでもあったのだろうが、村田のエピソードをネタにしながら縁のある曲を歌うことで、湿っぽくなることなく村田の人柄と音楽を偲ぶライブにしていたのはさすがだと思った。

そうした経緯もあってか、杉、銀次のそれぞれのオリジナルからの選曲は控えめで、80年代に彼らのアルバムを毎日のように聴きながら過ごした僕としてはやや食い足りない感もあったが、もともとジョイントである時点で企画ものなのだからそこは割りきりの世界だということなのだろう。それはそれでいいと思う。

ライブを見て強く感じたのは杉真理の「ポップス力」とでもいったものの強さ。ソングライターとしてもう何十年も水準の高い作品を発表し続けていることはもちろんだが、ヴォーカリストとしての実力、ギターの演奏やMCとして場を仕切る力も含めて、アーティストとしての総合力の高さを感じた。

特に、銀次の代表曲のひとつである『雨のステラ』を杉のヴォーカルで演奏したところでは、まるで『内気なジュリエット』や『バカンスはいつも雨』みたいなリバプール調の陽性のポップ・ソングになるのはまさに目からウロコが落ちる思い。聴き慣れた曲がごく自然に杉真理型ポップスの文脈で再構成、再解釈されるさまはマジックのようで、名演だった。

一方、伊藤銀次も、こうやって企画ものの枠の中できちんとコンセプトが決まっている方がうまく流れに乗って行ける人だということを再確認。『Baby Blue』『トワイライト・シンフォニー』など定番の曲がいいのはもちろんだが、杉とのデュエットやコーラスなどでもヴォーカルの表現力がすごく豊かになっている気がした。

杉真理が「予めポップに祝福された男」だとすれば、伊藤銀次は「学習と努力の人」。それ故、その作風は古今のグッド・ミュージックに対する造詣と愛情と敬意にあふれた豊かでロマンチックなものだ。銀次の音楽には、どこかにあるはずのポップの桃源郷に対する素直な憧憬がはっきり分かるくらい盛りこまれている。僕が銀次の音楽を愛するのはまさにそこだ。

杉も銀次もアーティストとしては既にかなりシニアである。活動のステージもこの日のようなライブ・ハウス、ライブ・カフェが中心になり、集まってくるリスナーも「いつもの顔」になりがちだ。しかし、彼らの音楽は仲間内でひそかに共有するにはもったいないくらいオープンで風通しのいい、普遍的なもの。この音楽の力をもっと多くの人に伝えたいと思った。



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