logo Elvis Costello "Detour"


Elvis Costello "Detour"

■2016.9.7 18:00開場 19:20開演
■昭和女子大学人見記念講堂

Vo,Gt,Pf:Elvis Costello
Cho,Gt:Larkin Poe
(セットリスト非掲載)



今回のコステロのステージは一人でのギター弾き語り。ステージ終盤にはサポートのラーキン・ポーがスティール・ギター、マンドリン、コーラスで支えるものの、基本的にはバンドの入らないスタイルで、コステロが好き勝手に歌いまくる。

さすがにコステロもいい年だし(62歳)、ギター1本の弾き語りなら1時間半くらいで12〜13曲も歌えばいいかと思っていたが、2時間半近くに亘っておそらく30曲近く歌い、爽やかに去って行ったそのプロ根性というかショーマンシップみたいなものがまずスゴいと思った。

コステロといえば特に本邦では『Alison』『She』『Shipbuilding』みたいな情緒のある曲(この日も全部やった)で知られている節もあるが、基本的にはロックバカであり、ギターを持たせればまず掻き鳴らして声を張り上げたくなる人であり、直情的にガーっと行ってしまう勢いの人である。この日のライブでもギターとピアノを往復しながら出し惜しみすることなく次から次へと歌い続けるのを見ていると、好きこそものの上手なれということわざを思い出してしまう。

本当のところはどうなのか知らないが、とにかくギターもピアノも歌も、要は音楽が好きでおとなしくじっとしていられない、静かにしていられない子供のように、「ほら、次はこの曲を聴いてよ」「こんな曲もあったよな」「たまにはこういうのもやろうか」みたいに本当に嬉しそうに演奏し前後の見境なく声を出し、歓声には深いお辞儀で応える。好きでないとあそこまではやれないと思う。コレクションを見せびらかすガキに近い。

還暦を越えているとは思えないくらい声もよく出ており歌も上手い。3日連続の来日公演の最終日だったが、単純にパフォーマーとしての技量がただごとではないくらいしっかりしているのだ。英米で活動して行く上で、こうした音楽的体力とでもいったものが、時としてソングライティングや表現力といったアーティストとしての力量以前に、基礎的な素養として、あるいは前提条件として必要であることを強く印象づける。

その基礎の上に構築されるひとつひとつの曲のキャラクターは言うまでもなくもはや定評のあるもの。そしてギター1本でそれぞれの曲に内在するストーリーを自在に引き出し、リスナーの頭の中に心情を喚起して行く力もまた確かだ。奇をてらう訳でもなく、ギターを(あるいはピアノを)弾いて歌うだけなのだが、さすがに長年歌い続けてきた曲が多いこともあってか、ステージ構成、演奏、歌ともに緩急自在、こういうのを「表現力」というんだなあ、という感じ。

アンコールではギターを掻き鳴らし『Pump It Up』を大声で歌いながらステージを降りて場内を一周。マイクがなく歓声も大きくて近くを通った時しか聞こえないのだが、もうそんなことはどうでもいいだろうくらいの自由さで作品を投げつけてくる。音楽に対する愛情と敬意、表現するということへの覚悟と責任、プロというのはこういうことなのか。

先に挙げた曲の他にも『Velonica』『Everyday I Write The Book』『Red Shoes』『Peace Love And Understanding』など、これという曲はひと通り演奏する一方、聴きなれない曲もいくつかあったから新曲かもしれない(あるいは最近のレパートリーで頭に入ってないのもあるかもだけど)。エフェクターを駆使してクレイジーな演奏を聴かせた『Watching The Detectives』はステージのハイライトのひとつだったが、僕としては『Mystery Dance』がカッコよくて印象に残った。

必然的に年齢を重ねる中で、表現をどう成長させるかとか、あるいは逆にディナーショー的予定調和で小ガネを稼ぐ世界に居場所を見出すのかとか、アーティストもリスナーもいろいろ考えなければならないメンド臭いことは増えてくる訳だが、コステロはおそらくそんなことは考えてない。考えずに、今ここにあるギターで今ここにある歌を声張り上げて歌う、要はそういうことだ、そういうものだという確信。

成長なんか要らないというのは天才にだけ許されたあり方なのかもしれないが、とにかくコステロには成長も進歩もなく、ただ初めからもう完成していた自律的な表現だけがそこにあって、コステロは死ぬまでその口寄せを続けて行くのだと思った。コステロはよぼよぼのジジイになってもギターを渡したら絶対掻き鳴らして歌い始めるだろう。僕はそれにつきあって行く。



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