logo 山田稔明 カレンダー展 TALK & LIVE


山田稔明 カレンダー展 TALK & LIVE

■2016.1.17 17:45開場 18:00開演
■経堂 cafe+gallery 芝生

Vo,Gt:山田稔明
●April Come She Will

●I Think About
●北の国から -life in a northern town(未発表)
●言葉はうそつき
●気分(未発表)
●何もない人
●思うことはいつも
●夏の日の幻
●glenville
●星降る街
●my favorite things
●僕はネオアコで人生を語る

●calendar song(未発表)
●猫町オーケストラ

(記憶ベースなので脱漏、曲順前後可能性あり)



経堂の「芝生」はカフェを併設した小さなギャラリーである。ここで山田稔明のカレンダー展があり、そのイベントとしてライブが催されるという情報をキャッチしたのでネット予約して足を運んだ。

店内は狭く、もともとライブなどをするようにはできていないと言うべきだが、そこに何とか椅子を並べ、詰めて座る感じ。人数はおそらく20人弱くらいか。開演も何も山田がすぐ目の前で「この緊張感は何でしょうね〜」とか言いながらマイクスタンドや譜面台をセットするのである。事前の予想を軽く凌駕する近さ。いちばん前に座ってしまい普通に顔を上げるだけで山田と目が合う。照れくさいライブとかなかなかない。近いにもほどがある感じ。

定刻をやや過ぎた頃、ライブがスタート。まずは軽くトークということで山田がこのカレンダー展の趣旨、経緯などを説明。かつてR.E.M.のファンクラブから送られてきたという貴重なカレンダーを披露しながら、彼の音楽がカレンダーや季節感と密接に関係していることが語られる。サイモン&ガーファンクルの「四月になれば彼女は」を導入に演奏パートに入って行く。

まずはトード・ザ・ウェット・スプロケットというアメリカのバンドのカバーで『I Think About』、ここからは「カレンダー」が歌詞に織り込まれた曲をすべて演奏すると言うことで、倉本聰のドラマにインスパイされたという未発表曲『北の国から -life in a northern town』と続いて行く。前半は未発表曲も含めゴメス・ザ・ヒットマンのレパートリーからの曲が中心になる。最近ゴメス・ザ・ヒットマンの初期の曲をよく聴いているので単純に嬉しかった。

未発表曲『気分』をはさんで『何もない人』を演奏したところで「カレンダーを織り込んだ曲は全部歌ったので、ここからは春夏秋冬にちなんだ曲をひとつずつ」と。重要な曲がひとつ抜けているのではないかと思ったがライブは進む。

春の曲として『思うことはいつも』を歌った後は、ソロの曲へ。夏の曲として『夏の日の幻』、そして秋の引っ越しを歌ったということで『glenville』。山田自身も思い入れの深い曲と紹介したが、僕自身もこの曲は山田のレパートリーの中で最も好きな曲でちょっと感極まる。まさか聴けるとは思ってなかったのでちょっと不意を突かれた。

冬の曲として『星降る街』を演奏した後、2016年1月のカレンダーがこの曲をモチーフにしているとのMCがあって『my favorite things』を。アルバムではモータウン調のポップ・チューンにアレンジされているが、ギター1本でどうするのだろうと思ったら、スリーフィンガーでの導入からカントリー風のアレンジで素晴らしかった。正直、アルバムでのアレンジがピンと来なかったのだがようやくこの曲が腑に落ちた感じ。

そして「そういえば『カレンダー』の出てくる曲をひとつ忘れていた」とコメントしてラスト・ナンバーの『ぼくはネオアコで人生を語る』へ。まあ、「忘れていた」はネタだとしても(前日のライブでも演っているのだ)、気になっていた曲が抜けているのでなくてよかった。

ラスト・ナンバーが終わっても会場の構成から簡単に楽屋に掃ける訳にも行かず、その場でアンコールに。前日は4月から12月までしかできていなかったというこのカレンダー展に合わせた新曲『calendar song』を。今日はきちんと4月から3月まで完成していて、なかなかポップなナンバー。音源化を希望する。

そして、カレンダーの絵柄がすべて猫にちなんでいるということで『猫町オーケストラ』がアンコールのラストに。

トータルで1時間半ほどだったが、山田の軽妙なMCと意外性のある選曲、丁寧な演奏とボーカルで充実したライブ。ゴメス・ザ・ヒットマン初期の曲は、レコーディング音源で聴くとアレンジや山田の声などにどうしても時代性が感じられる部分があるが、こうしてライブで聴くと初期の曲も最近の曲もきちんと連続性の上に立っていること、すべてのレパートリーが今の山田の心情に合わせてきちんとアップデートされていることがよく分かる。それを確かめられただけでも照れくささに耐えた価値はあった。

また、ギター1本で弾き語る山田の表現力も再認識した。CD店でのインストア・ライブなどでこれまでも何度か山田の弾き語りは聴いているが、伸びやかなボーカルと開放弦を生かした彩りの鮮やかな美しいギター・アレンジを、細やかなニュアンスまで伝わる狭い会場で堪能できた。何しろすぐ目の前にギターのネックがあるので押さえているコードまで分かるのだ。

また、この日のテーマに即して言えば、山田の書く曲が、季節感とか日常のなだらかな起伏のようなものをとても重要なモチーフにしていることがよく分かるライブだったと思う。もちろんそれは時としてダイナミックな出来事であったりもするのだが、それよりはむしろ連続した時間の中のささやかな「変わりめ」みたいなものを経ながら知らず知らず移り変わるもの。山田がそうした水面でわずかに屈曲する光のような「しるし」や「顕われ」に自覚的なアーティストだということが印象に残った。

ライブ後に山田と少しだけ話すことができ、「Silverboy Club Music Award 2015」の審査員特別賞としてオリジナル缶バッジを授与した。このサイトでもゴメス・ザ・ヒットマンのディスコグラフィ・レビューを予定しているが、そのことを話すと、「今は中古盤を買わなくてもApple Musicなどの定額ストリーミング・サービスでゴメス・ザ・ヒットマンの旧譜が聴けるようになっているので、そのガイドになる企画は有難い」と。言ってしまった以上はやるしかなくなった。

だいたいこういうアットホームな感じのライブは苦手なんだけど、比較的自宅から近いということもあって思いきって行ってみてよかった。ドリンクはジャスミンティーとチャイとビールだったが、ベルギービールも美味しかった。



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