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2015ロッキン・クリスマス

■2015.12.23 16:00開場 17:00開演
■EX THEATER ROPPONGI

佐野元春&ザ・コヨーテ・バンド

Vo,Gt,Perc:佐野元春

Dr:小松シゲル
G:深沼元昭
G:藤田顕
B:高桑圭
KB:渡辺シュンスケ
Perc:スパム
●境界線
●La Vita e Bella
●バイ・ザ・シー
●虹をつかむ人
●スーパー・ナチュラル・ウーマン
●食事とベッド
●みんなの願いかなう日まで
●空港待合室

●So Young
●アンジェリーナ
●スターダスト・キッズ
●世界は慈悲を待っている
●夜空の果てまで
●ポーラスタア
●クリスマス・タイム・イン・ブルー
●優しい闇

●ぼくは大人になった
●国のための準備
●Night Life
●約束の橋



恒例となったクリスマス・ライブ。12月22日、23日の二日に亘って、昨年と同じ六本木のEX THEATERで行われた。キャパシティは900人強と思われる中規模のホール。入場時に3ケタの番号が記載されたクリスマス・カードが手渡される。番号は入場順ではなくランダムになっているようだ。

ピアノのイントロが印象的な『境界線』で始まったライブは、コヨーテ・バンドとともに制作した3枚のアルバム「COYOTE」「ZOOEY」「Blood Moon」からの曲で進んで行く。お約束の『みんなの願いかなう日まで』が藤田のウクレレで披露されたが、一昨年やったコーラスの歌唱指導は今年もなかった。おそらく難し過ぎて断念したのだろう。客席に雪が舞い落ちる演出があったが、やや後ろの客席からは、きらきら光る雪越しに見えるステージがきれいに見えた。

途中、クリスマス・ライブならではの企画が説明された。後半冒頭の曲を、抽選で選ばれたリスナーのリクエストで決めるというのだ。3つのボックスを乗せたテーブルが運び込まれ、佐野がそれぞれの箱から数字の記載されたカードを引いて行く。1の桁、10の桁、100の桁と3枚のカードを引いて当選番号を決めるのは宝くじの抽選のよう。3人の当選者を決めた。

ハードなブギー調の『空港待合室』で前半は終了、20分の幕間となる。

どうでもいいことだが、引いたカードを箱に戻さず次の番号を引いたので、最初の抽選で出た各桁の数字は2番目、3番目の抽選では出ないことになってしまった。例えば最初の抽選の1の桁は確か「4」だったと思うのだが、そのカードを箱に戻さなかったので、1の桁が「4」のカードを持った約90人は2番目、3番目の抽選には絶対に当たらないことがその場で確定した訳だ。同じことが10の桁、100の桁でも言える。フェアにやるならカードは戻すべきだったと思う。まあ、お楽しみなので固いことは言わない約束か。

後半はそのリクエスト・タイムから。ステージは数曲の曲名が書かれたルーレットが運びこまれ、そこに向かって抽選に当たった観客がダーツを投げて当たった曲を演奏するという趣向。エルヴィス・コステロがやった「スピニング・ホイール」からインスパイアされたものだろう。この抽選会で引き当てられた『So Young』『アンジェリーナ』『スターダスト・キッズ』で勢いをつけ、その後は再び「コヨーテ三部作」からの曲となる。

もうひとつのクリスマス・ソングである『クリスマス・タイム・イン・ブルー』を含めて、後半は8曲を演奏。『優しい闇』で本編を終えた。

アンコールではルーレットに記載された数曲のタイトルが再びスクリーンに映し出され、観客からリクエストを募る。前方の席の女性のリクエストでまずは『ぼくは大人になった』、そして真ん中の少年のリクエストで『国のための準備』を演奏。おそらくはここで最後の『約束の橋』に行く予定だったのだと思うが、佐野がもう一曲のリクエストを募り『Night Life』が演奏されることに。渡辺は『約束の橋』の楽譜をセットしていたようで慌てて楽譜を差し替えるハプニングも。

最後に『約束の橋』を演奏して約2時間半(幕間を除けば正味2時間強)のライブは終了。クリスマスらしいお楽しみを盛りこんでハッピーな雰囲気のライブだった。

だが、この日のセット・リストを見てみれば分かる通り、本編のほとんどは最近の3枚のアルバムからの曲。それ以前の曲はルーレットでリクエストされた3曲と『クリスマス・タイム・イン・ブルー』だけだ。この潔く、すっきりした選曲によって、ライブはとても引きしまった、ソリッドなものになった印象を受けた。

当然のことだが最近の作品は佐野の現在の心情により近いはずだ。加えて、これらの曲はこの日のバンドとともに制作したものであり、曲のニュアンスや成立過程を共有した者の演奏としてより説得力があるのは当然だろう。この日のライブには『SOMEDAY』も『Rock & Roll Night』もなかったが、僕は、「クラシック」への寄りかかりを排したこの日のステージを非常に清々しく感じた。

もちろん、これは、並行して行われている35周年アニバーサリー・ツアーで、キャリアを総括するようなステージが行われていることを踏まえての演出でもあるだろう。そう考えれば、最近のアルバムからの選曲が、『スーパー・ナチュラル・ウーマン』『虹をつかむ人』『夜空の果てまで』『空港待合室』など、アニバーサリー・ツアーで演奏されていない曲をいくつか拾い上げていることも納得が行く。

それにしても、このバンドがソリッドでタイトな曲を演奏する時の生き生きした表現力は最近の曲において顕著だ。例えばオープニングで演奏された『境界線』での渡辺のピアノのイントロ。これから何かが始まる、何かが動き始めるという「予感」をまさに音として表現したとしかいいようのないような力強いストロークは、まるで音楽の胎動のようだ。

あるいはこの曲のアウトロで高桑のベースが歌うようにメロディを奏でる一節。寡黙にリズムを刻んでいたベースが一瞬その存在を主張するさまは、このバンドの組み立てる音楽が、シンプルな中にも立体的で対位的な構造を持っていることを印象づける。

今日のこのすっきりした清新な演奏を聴くだに、ふだんのライブもそろそろこうした曲だけで構成することにし、「クラシック」はせいぜいアンコールででもやればいいのではないかと強く感じた。もちろん、リスナーの中には『SOMEDAY』や『約束の橋』を聴きたくてライブに足を運ぶ人もいるだろうから現実的にそれは難しいのかもしれないが、今のバンドの充実を見ると、「お約束」を消化するために時間を費やすより、もっとアップ・トゥ・デイトな佐野元春をしっかり見届けたいと僕は思う。

全体としては楽しいクリスマスの企画ライブだったが、それを通して佐野のライブのあり方を考える機会にもなった。

なお、ルーレットに記載された曲は、演奏された『So Young』『アンジェリーナ』『スターダスト・キッズ』『ぼくは大人になった』『国のための準備』『Night Life』『約束の橋』の他、記憶ベースだが『ナポレオン・フィッシュと泳ぐ日』『99ブルース』『SOMEDAY』『Young Bloods』『悲しきRADIO』あたりだったと思う。



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