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2014 Autumn Tour

■2014.11.29(土)
 16:00開場 17:00開演
■2014.11.30(日)
 17:00開場 18:00開演
■渋谷公会堂

Vo,Gt:佐野元春
Dr:小松シゲル
Ba:高桑清
Gt:深沼元昭
Gt:藤田顕
KB:渡辺シュンスケ
11月29日(土)

●ナポレオンフィッシュと泳ぐ日
●スターダスト・キッズ
●ダウンタウン・ボーイ
●星の下 路の上
●夜空の果てまで
●Us
●黄金色の天使
●呼吸
●La Vita e Bella
●世界は慈悲を待っている
●ポーラスタア
●スーパー・ナチュラル・ウーマン
●詩人の恋
●君がいなくちゃ(新曲)
●優しい闇(新曲)
●ボヘミアン・グレイブヤード
●約束の橋
●SOMEDAY
●アンジェリーナ
●Night Life

●So Young
●悲しきRADIO
11月30日(日)

●ナポレオンフィッシュと泳ぐ日
●スターダスト・キッズ
●ダウンタウン・ボーイ
●星の下 路の上
●夜空の果てまで
●Us
●黄金色の天使
●呼吸
●La Vita e Bella
●世界は慈悲を待っている
●ポーラスタア
●スーパー・ナチュラル・ウーマン
●詩人の恋
●君がいなくちゃ(新曲)
●優しい闇(新曲)
●ボヘミアン・グレイブヤード
●約束の橋
●SOMEDAY
●悲しきRADIO

●So Young
●アンジェリーナ
●Night Life



僕たちは何を信じてきたのだろうか。たくさんの言葉、たくさんの約束。僕たちは清廉で高潔な理想を胸に、真実を探す旅に出たはずだった。そう、もう20年以上も前に。

だが、もちろん、生きのびることは簡単なことではなかった。僕たちは、大切にしていたはずのものを、いとも簡単に諦め、譲り渡し、忘れ去ってきた。そのようにしてしか僕たちは僕たちの生を生きのびることができなかった。僕たちは何を信じてきたのか、それは僕たちの中で曖昧になる一方だった。一義的に明らかだと思われたことは、結局のところ僕たち自身の中にある確信の問題に過ぎないのだということを、僕たちは20年以上をかけて学んできたのだと言っていい。

今、佐野は歌う。「もう一度信じてもいいか迷う」と。佐野はそこで「何を」信じるのか決して口にしない。しかし僕たちには分かる。なぜなら僕たちには、ひとりひとり信じると決めた何かが確かにあったからだ。そのことは僕たち自身がだれよりもよく知っているはずだからだ。

僕たちはそれを「もう一度信じても」いいのか。それはタフな作業だ。僕たちはそれが現実に対して何の効力も持たないことを既に知っている。それを現実に通用させるのはつまるところ僕たち自身の「確信」の力に他ならず、それはすぐれて内在的なものであること、それゆえそれらはすべて僕たち自身の内的な問題でしかあり得ないのだということを。

それでも佐野は僕たちに問うのだ。それをもう一度信じてもいいのか、と。

『La Vita e Bella』、素晴らしき人生。それは、僕たちが、打ちのめされ、諦め、譲り渡し、忘れ去ってもなお、そこに「もう一度信じるに足るもの」を見出すことができるかどうかということ。それは自分の今を問うこと、僕たちが自分自身の「現在」を肯定できるかどうかを問うということだ。

この日のライブで僕に最も強く迫った問いは「もう一度信じてもいいのか」ということだった。それは例えば、『黄金色の天使』にも通じる。この曲でも佐野は何かを探し続け、探し求める。「黄金色の天使」というのはもちろん象徴的な、ある意味便宜的な表現に過ぎない。そこで問われるのもやはり、僕たちは何を探し続けるのかということであり、何であれそれを探し続ける覚悟があるのかということ。

信じること、肯定することには、実際のところ大きなエネルギーが必要だ。なぜならそこにあるものは、すぐに壊れてしまうほどはかないからだ。その中に自分の生きる手がかりを見つけ、よきものとして肯定するのは強い意志の力を要する作業だからだ。

僕たちはそこで躊躇し、逡巡する。もう一度信じていいのか。ここにあるもの、僕たちが手にしているものの中に、もう一度信じるに値するものはあるのか。40代も後半にさしかかった僕たちにとって、信じるに値するものとは何なのか。それは結局自分自身ではないのか、と。だからこそ佐野は歌うのだ。「もう一度信じてもいいか迷う」と。

コヨーテ・バンドの奏でる音はストレートだった。僕たちに、自分自身の覚悟のある場所にまっすぐ降り立つよう求める強さがあった。だが、一方で、ややもすれば直線的だった演奏に柔軟な表現力が具わり、曲のニュアンスを細かに伝える丁寧な聞かせ方もできるようになった。前回のレビューで述べた、渡辺のオルガンの抑制と解放のバランス、小松のドラムの繊細さは今回も強く印象に残った。

僕たちが今いる場所で、僕たちはまた何かを信じない訳に行かない。僕たちは何かを信じずには一歩も前に進むことができない。僕たちは「信じること」に躊躇し、逡巡する。なぜならその答えは自分の身を削る中でしか得られないことだと分かっているから。信じることはタフなことだから。だが、佐野は言う、「その先へもっと」と。それが覚悟であり意志なのだ。

このライブで最も胸に迫ったのはアルバム「COYOTE」と「ZOOEY」からの曲であり、極論すればそれだけでよかった。そこには「その先へ」と急ぐ佐野の「現在」があり、覚悟と意志があった。お約束のクラシックはそれでいいし、『Night Life』は純粋に楽しかったが、僕は佐野の覚悟が最もヴィヴィッドに現れるライブ中盤に高い価値を感じたライブだった。



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