logo 2012.12.18 L'Ultimo Bacio Anno 12 ザ・ガーデンホール


■L'Ultimo Bacio Anno 12
■2012年12月18日(火) 19:00開演
■恵比寿ザ・ガーデンホール

年末恒例のシリーズ・ライブに昨年に続き出演。とはいえ形式はワンマン・ライブであり、2日前に熊谷で見たウィンター・ツアーと内容はほぼ同一。途中休憩をはさむなど構成上の違いはあり、演奏曲もやや少なかったようだが、この日のセットリストの中で熊谷で演奏されていなかったのは『ナポレオンフィッシュと泳ぐ日』のみ。事実上ツアーの一部と考えてもいいだろう。

とはいえ、この日の佐野にはどこかリラックスした雰囲気があったのも事実。未就学児童の入場を謝絶したライブだったこともあって、「今日は大人のためのライブだ」と繰り返し、どちらかといえばオールド・ファンを意識したMCで会場を和ませた。

熊谷では新しいアルバムから4曲が披露されたのに比べると、この日は既にネット配信されている『La Vita e Bella』と未発表の『ポーラスタア』の2曲のみ。みんながよく知った曲でパーティを楽しみたいという意思表示か。

しかし、『La Vita e Bella』はこの日のハイライトのひとつだったと思う。新しいアルバムからのリード・シングルとしてiTunes Storeで先行リリースされたこの曲は、佐野の現在地と向かうべき方角を示すだけでなく、佐野がなぜコヨーテ・バンドを必要としたかということを解き明かすひとつの重要なヒントでもある。

印象的なオルガンのリフで始まるこの曲で佐野は、「この先へもっと」と繰り返す。そして「君が愛しい」といつになく率直に表明するが、そこにはもはや「理由はない」。スタジオ音源よりもラウドに、ざっくりと演奏されたこの曲で、その意味は一層はっきりする。

佐野がここで求めているのはバンドとしてのオートマティズムだ。ロックンロールに内在する固有の周波数に信頼したビートの自動性だ。それをできるだけシンプルに、できるだけラウドに、できるだけ直接に、僕たちの日常のリズムと接続し、同期すること。そのために佐野は佐野自身が持つ周波数と共鳴し、共振するバンドを必要としたのだ。

そこにおけるライトモティーフはプレイヤビリティではなく直接性であり即時性である。長ったらしいインプロビゼーションを極力排除し、ひとつひとつの曲を潔くカットアウトして行く佐野のステージングに、「この先へもっと」と前進の意志を明らかにするこの曲はいかにも似つかわしい。

もちろん、そこには佐野らしい内省があり躊躇もある。失ったものを数えながら、「もう一度信じてもいいか迷う」。だが、どうにかたどり着いたこの場所を取り敢えず肯定しながら、そこからさらに先に進みたいという意志を「たったひとつ言えること」と断言するこの曲では、佐野の視線は透徹している。

なぜなら、この目まぐるしく息苦しい世界を生き抜くには、少なくとも自分自身の意志に対する信頼がどうしても必要だからだ。そこに理由を求めている暇は僕たちにはない。偏見であろうと思いこみであろうと、「少なくとも僕は今ここにいて君を愛おしく思っている、その事実だけは間違いようがない」という確信以外に、今僕たちを暖め、動かしてくれるガソリンはあり得ないからだ。理由を探して路頭に迷っている時間はもう僕たちには残っていないのだ。

この日のライブはパーティ色の濃いものではあったが、そこにおける佐野のメッセージは明快だった。生き続けること。毎日を肯定すること。「この先へ」という認識はそこからしか始り得ない。音楽は鳴り続けている。



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