2012.12.16 2012-2013 Winter Tour 熊谷文化創造館 ■2012-2013 Winter Tour 前回のツアーから約半年のインターバルでスタートした「冬ツアー」。コヨーテ・バンドをフィーチャーし、ツイン・ギターでぐいぐい押してくるステージングは前回のツアーを踏襲したものだ。 このバンドとともに制作を進めている新しいアルバムは来年の3月リリースとコメントされ、そこから既発表の『La Vita e Bella』を含め4曲が披露された。曲想はバラエティに富んでいるが、どの曲も、コミュニケーションの直接性を奪還しようとするかのような率直さ、清新さが特徴的だと感じた。アルバム「COYOTE」から既に5年半。確かにそろそろ新しい佐野の試行が届けられてもいい頃だ。 この日、最も感慨深かったのは『Heart Beat』だ。この曲は初期の佐野を代表するモニュメント的な作品のひとつで、都市生活の語り部としての佐野の力がもっともはっきりした形で切り取られたセンチメンタルなバラッドである。しかし、この曲はどういう訳かこれまでレゲエにアレンジされたりハネたリズムで演奏されたり、原形を崩して披露されることが多かった。 僕がこの曲の演奏で最も好きなのは、ビデオ「Truth '80-'84」に収録されたライブ・シーンである。オリジナルにほぼ忠実な演奏のバックに、自動車のフロントグラスから撮影された映像が重なる。夜明けの高速道路(おそらくは首都高湾岸線)の景色が流れて行く。やがて白々と夜が明け、ある瞬間、街灯が一斉に消える。その瞬間を見るたびに、心の奥で何かがわずかに身震いするのを感じる。 そして佐野はアウトロでブルース・ハープを奏でる。優しく、そして激しく、切なげに。オリジナルのサックスとはまた異なった切実さで、佐野は歌いきれなかった情感をぶつけるかのようにブルース・ハープを吹き続ける。名演という他ない。 この日の『Heart Beat』はまさにこの、初期のライブ・テイクを思わせるものだった。コヨーテ・バンドが原曲に払う敬意を僕は嬉しく思う。自分が大事にしてきたものをきちんと大事に取り扱ってくれていると実感できる。オリジナルのアレンジ、演奏をしっかりとリスペクトしながら、その基礎の上に、2012年型の、コヨーテ・バンドとしての時代意識がきちんと積み上げられている。僕の脳裏には、通り過ぎる首都高の風景がありありと浮かんでいた。 そして佐野のブルース・ハープ。ハモニカの音色はなぜこんなに人の心をわしづかみにするのだろう。僕たちの一番柔らかく、無防備な部分をヒットする音色。それは果たされなかった約束とか、ずっと忘れていた子供の頃の憧れとか、そんな種類の、ある種の悔恨のようなものでさえあるのかもしれない。僕はこのアウトロがいつまでも続けばいいと思った。 ツアーは始まったばかりで、年を越えて2月まで続いて行く。僕はあのアウトロの続きを聴くためにそこに足を運ぶだろう。 2012 Silverboy & Co. e-Mail address : silverboy@silverboy.com |