logo 2012.6.10 2012 Early Summer Tour ZEPPダイバーシティ


■2012 Early Summer Tour
■2012年6月10日(日) 18:00開演
■ZEPPダイバーシティ東京

横浜での公演から一週間、このツアー唯一の東京公演ということで会場のZEPPダイバーシティ東京は熱気に包まれていた。真新しいショッピング・モールの中を通り抜けてたどり着くホールは、ライブハウスとはいえ立ち見なら2,500人を収容する大きなハコ。整理番号はあまりよくなかったが、立ち見エリア後方の、20cmほど段が高くなっている部分の最前列端っこで手すりを確保できたのはラッキーだった。ステージ全景がさえぎるものなく視野に収まってストレスなく見ることができた。

コヨーテ・バンドは今回からプレクトラムの藤田顕をメンバーに加え、深沼元昭とのツイン・ギターの編成になっている。これまでの佐野のライブの中でもツイン・ギターをパーマネントにフィーチャーしたことは記憶にある限り初めてだ。藤田と深沼はまるで競うようにギターをかき鳴らし、ソロを聴かせた。『SOMEDAY』や『約束の橋』でもヘヴィに鳴らされるギター。歪ませたギターの音色で壁を構築するステージは、これまでの佐野の音楽にはないヘヴィさを意識的に求めているように思われた。

それに合わせるように音量も大きかった。バスドラが鳴るとジーンズがブルブル震えるような音圧が押し寄せる。横浜でのライブで佐野が「みんな、音が大きいなとかって思ってるんじゃないの」とMCしたように、これも明らかに意識的に行われていることだと僕は思った。

ヘヴィさ、そしてラウドさ。佐野元春が、今、このコヨーテ・バンドとともに演奏するとき、その二つを殊更に求めるのはなぜか。佐野はいったい何に対してこのヘヴィさ、ラウドさをぶつけようとしているのか。

『VISITORS』『欲望』そして『警告どおり 計画どおり』あるいは『僕にできることは』。この日、コヨーテ・バンドがそのツイン・ギターのアドバンテージを最もはっきりと示した曲だ。ここにあるのは怒り、戸惑い、闘争の意志といった、どちらかといえばネガティブでハード・エッジな感情だ。そしてそこで問われているのは、どこかのだれかの責任ではなく僕たち自身の当事者性、主体性であり、そこにあるのは「おまえはそんなところで何をしているのだ」という詰問だ。

『VISITORS』を聴いてみればいい。そこにはこの街の運動原理から疎外された「訪問者」のブルースがある。「幻の中で夢を見続けている君」「クロスワード・パズル解きながら今夜もストレンジャー」。しかし、だからこそ「これは君についての物語なんだ」と佐野はリスナーに、そしてもちろん佐野自身にも指を突きつける。

あるいは『欲望』。「地下鉄の窓に映る欲望」「何もかもが手に届かない」。そして「グッドラックよりもショットガンが欲しい」「君を撃ちたい」と。佐野の銃口がだれに向けられているのかは明らかではないか。

『警告どおり 計画どおり』でそれはより明快だ。原子力発電所の事故を告発したこの曲は、僕たちが福島第一原子力発電所の事故を経験した今、避けることのできない政治的な意味合いを帯びている。しかしそれは単純に原子力発電所の賛否を取り沙汰するものではない。それは、これまで原子力の安価な電気を好きなように使って便利な現代生活を享受してきた僕たちが、その代価をどうやって支払うつもりなのかという僕たち自身の覚悟を問うているのだ。それこそが政治的ということの意味なのだ。

そして『僕にできることは』。ハードなスカにリアレンジされたこの曲で佐野は、より直接的に「できることは何か考えている」と歌う。この困難な現代社会で、それぞれのままならぬ生を抱えながら、僕たちはいかに「善く」生きるべきか。手一杯の問題を抱えた僕たちが「歴史のために」できることは何なのか。

そうした僕たち自身の当事者性、主体性に切り込もうとするとき、そこに必要だったのはビートであり、スピードであり、やかましいギターの歪んだ音であり、耳を圧する音量だった。佐野はバンドと僕たちの間に横たわる「演奏者」と「聴衆」という片務的な関係を直接キックし、そこに亀裂を入れるための力を必要とした。それこそがコヨーテ・バンドとツアーに出る意味だ。そして、それこそがロックという音楽の最も大事な仕事のひとつなのだと僕は思う。

渡米までの初期の曲を最小限にとどめ、ヘヴィでラウドなアレンジで押してくるステージングそのものが、佐野と僕たちの関係の再構築を求めているのだ。佐野のその問いに対して僕はどう答えるのか。あなたはどう答えるのか。「オレ達にも調律の時期がやってきた」。



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