logo 2008.01.22 TOUR 2008 'SWEET SOUL, BLUE BEAT'


「パーティ!!」と佐野は言った。ツアーの初日、みんな楽しむためにここに集まってきたんだろ、佐野はそう言いたげだった。ステージに立てる。歌える。ファンと時間を分け合える。その単純なことが嬉しくてたまらないというように、佐野は次々と曲を繰り出し、声を張り上げた。

ライブの出来という意味では荒っぽい部分もあった。アルバム「Coyote」やそこに収録された曲とこのツアーの関係には正直首を傾げざるを得ない面もあった。特にレコーディング・バンドと違うバンドでツアーをすることの積極的な意味合いは見出し難かった。でも、取り敢えずそれはここでは措くとしよう。おそらくまたこのツアーのどこかで彼らに再会することはあるだろうから。今は昨日のライブを反芻しながら幸せな夢の続きを見ていよう。

グッドタイムス&バッドタイムス
ステージ後方のスクリーンに映画のフィルムをセットするショート・ムービーが映写される導入から佐野のピアノ弾き語りで静かに歌い出されるこの曲。信じられなかった。「いいときも、よくないときも」、この街で繰り返して行こう。ライブでは初めて聴いた。いきなり引きずりこまれた。

I'm in blue
ライブでは久しぶりに聴いた。これも思い入れの強い曲だしまさか聴けると思っていなかった。アレンジはオリジナルに忠実だったが、ちょっと分厚すぎる気がした。「たぶん僕は負けたんだ。夢を見てるだけなんだ。でも構わないで、好きにさせて。心配しないで」。もう少しアコースティックな感じでもよかった。

マンハッタンブリッヂにたたずんで
初期の渋めの曲が続く。これもイメージより分厚めだが、都会の夜に息づくひそかな狂気が伝わるサイケデリックな演奏だったと思う。悪くなかった。これも好きな曲だ。

Sugartime
ドンカマの導入から奏でられる聞き慣れたイントロ、でも何の曲だか一瞬分からなかった。そうだ、『Sugartime』だ、と頭の中でラインがつながったのはボーカルに入ってからだった。イントロのシンセはもっとシャープな音で鳴らして欲しかった。僕が佐野を本気で聴き始めるきっかけになった曲。

Heart Beat
前回のツアーでも披露されていたレゲエ・アレンジで披露。指でハートを作ってみせるアクションもそのまま。僕としてはこの曲は静かなバラードで聴きたいところで、佐野がどうしてこの曲とレゲエの組合せに昔からこだわるのかよく分からない。演奏はさすがにこなれている。

7日じゃたりない
ここからはアルバム「THE BARN」からの曲を続けて披露。地味だが安定感のある曲。こういう曲をやらせるとやはりHKBは上手い。一部佐橋がボーカルを取るのはマリッジ・プレミアムか。

ドライブ
オリジナルに忠実なオーソドックスなアレンジでこれも無難に盛り上がる曲。佐橋のスライドが素晴らしい。歌詞を間違えた。

ヤング・フォーエバー
サンボマスターの時も思ったが、この曲のライブ・アレンジはいただけない。おそらくはオリジナルに近いアレンジだと思うのだが、最初から最後まで4つ打ちのスネアとメロディを奏でるベースが正直今いち。オリジナルは嫌いじゃないのだがライブでは入れこめない曲。残念だ。むしろパーカッションとアコースティック・ギターとアコーディオンとか、そういう構成でやってはどうかと思う。

WILD ON THE STREET
『ヤング・フォーエバー』からこの曲へのつなぎはかなり強引。強烈なファンクでグルーヴを作って行く。間奏で佐野がカウベルをたたくのはお決まりだが、タイミングを間違ってスティックを取り、間違いに気づいて投げ捨てたのは愛嬌。展開からは意外な選曲で、眠っていたソウルがたたき起こされる感じ。

Young Bloods
「SWEET SOUL, BLUE BEAT」というツアー・タイトルにはぴったりのソウル・ナンバー。「鋼鉄のようなWISDOM、輝き続けるFREEDOM」。柔らかく、傷つきやすい心を持つ者ほど、それを守る鋼鉄のようにタフな知恵を武器に背を伸ばして都会を歩かなければならない。真冬に必ず聴きたくなるナンバーだ。この曲で第一部は終わる。

HKBのテーマ
前回ツアーの冒頭でも演奏されていた、バンド・メンバーによるインストで第二部は始まった。ステージ後方には「Sweet Soul Blue Beat」のネオンが。メンバーが交替でソロを取る。

君が気高い孤独なら
アルバム「Coyote」から最初はシングル・カットしたこの曲。佐野が25年以上のキャリアを経てリリースしたアルバムのリード・シングルがこの曲であったことを僕は何よりすごいと思った。苦く、つらい認識をいくつも通り過ぎ、否応なく悲観的にならざるを得ない世界で、それでも楽観的でいようとする肯定への強い意志。演奏も悪くなかったがやや重めで軽快さが足りなかったのは残念。

荒地の何処かで
苛立ちを抱えて途方に暮れる歌なのに、この曲からきっぱりとした前向きな意志を感じるのはボーカルが始まって3小節目に入る深沼のラウドなギターのオブリガートの力。それがHKBの演奏では上手すぎて伝わらない。このツアーがアルバム「Coyote」とどうつながっているのか、なぜ敢えてHKBでこのアルバムの曲を演奏するのか、疑問に思わずにはいられない演奏だった。曲は好きなので聴けたのは嬉しかった。

黄金色の天使
これはアルバム「Coyote」の中でもHKBに比較的うまくはまる曲だと思う。演奏も危なげがなかった。「僕らがいるこの場所はうつむきたくなるほど儚くて、ほんの少しの言葉で壊れてしまいそうさ」。大げさにいえばこの曲で佐野は『SOMEDAY』を超克したのだと僕は思っている。新しいアルバムからの曲が3曲だけとは思わなかった。

恋しいわが家
ここからアルバム「THE SUN」の曲が続く。前回のツアーでは演奏されなかった曲だがバッキングも安定している。この曲では佐橋のギターソロが素晴らしい。HKBの演奏も生き生きと聞こえる。

観覧車の夜
前回のツアーで演奏し慣れた曲のひとつ。ラテンのグルーヴがはらむ重苦しく呪術的な空気と、サビでそれが一気に解放される瞬間。「喜びと怖れ」。こういう複雑なブレイクの入った曲になると本当にHKBは上手い。「Like the way I used to be」はアウトロで歌われた。

君の魂 大事な魂
この曲は歌詞がいい。「口ずさむメロディは愛、抱きしめる花はデイジー」。佐野には珍しい3連のロッカバラードだが、素直に共有できる名曲だ。ただ、曲終盤、大きく手を左右に振るのは異様だからやめた方がいいと思う。曲が安っぽくなる。

WILD HEARTS
「ここから一気に80年代に戻る」という佐野のMCとともに演奏された。僕の好きな曲の一つ。「仲間の一人は瞳を閉じて、偽りを許してる」。ただ、この曲もライブで演奏されるとオリジナルの歯切れのよさが失われる面がある。途中に挿入されたR&B、何だっけ、あれ。

Rock & Roll Night
前回ツアーではシャウトのないアコースティックなアレンジだったが、今回はオリジナルにアレンジを戻した。シャウトしきった佐野のこの曲に対する意気込みは高く評価しなければならない。僕が佐野の曲の中でいちばん好きなのは、この曲の最後のアウトロ部分だということを再認識した。

約束の橋
会社に入ったばかりの頃、毎日のように聴いていた、僕にとって特別な曲。その後、奇妙な売れ方をして佐野のレパートリーの中でも重要な地位を占めるに至った。でも僕にはそんなことは関係なくて、ただ、この曲のあり得ないくらいの美しい歌詞がきちんと伝わればいいといつも思う。演奏は手堅い。久しぶりにこの曲を素直に聴けた。

SOMEDAY
「みんなで歌おう」と佐野は言った。そう、そういう曲であっていいのだ。パンパパンをやりたい人はやればいい。踊りたい人は踊り、歌いたい人は歌い、笑いたい人は笑い、泣きたい人は泣けばいい。それぞれの『SOMEDAY』をそれぞれの中で奏でればいい。この曲はもう佐野の手をすら離れたのだと僕は思う。何も言うことのない曲。

アンジェリーナ
この曲をラストに持ってくるとは。これも演奏し慣れた曲で危なげがない。「今夜も愛をさがして」というリフレインの回数を減らした佐野の真意はどこに。演奏し終えて猛スピードで袖に消えて行く佐野。本編はこれでいったん終了した。

Happy Man
アンコール1曲目。いつものライブ・アレンジで披露されるが、この曲はやはり名曲。「仕事も適当にみんなが待ってる店まで急ごう」。笑えない。

彼女はデリケート
この曲も定番だが、ライブ・アレンジはオリジナルに比べてかなり大雑把で、オリジナルのスピード感を出し切れてないといつも思う。この曲が終わったところでまた袖に向かって猛烈なダッシュ。一度めのアンコールは2曲。

ダウンタウン・ボーイ
二度目のアンコールはやや意外だった。何度かライブで演奏されているアレンジだがテンポが猛烈に速い。おそらくは意図したことではなかったのだと思う。佐野の音程はかなりメタメタ。でももうそんなことはだれも気にしていない。僕としてはこの曲はできれば本編で、ややテンポを落としたフォーク・ロック調のアレンジで聴いてみたい。

So Young
「もっと行こう、例えばこの曲とか」のMCとともに始まったのはこの曲。これもアンコールでは定番だがやはりアレンジが原曲の繊細さを生かしきれていないと思う。まあ、それがライブというものなのかもしれないが。二度目のアンコールも2曲。これで終わりかと思いきや、またもやすごい勢いで袖に消える佐野。まだやるようだ。

悲しきRADIO〜HKBメドレー
三度目のアンコールはこの曲。3コーラスめでブレイクが入る構成ももはやお約束で今夜は「この素晴らしい伊勢原の夜」。アンコールだからこれでいいのだろう。ブレイクなしで最後まで勢いよく行ってしまうライブ・アレンジというのも一度聴いてみたい。そこからメドレーへ。「いつもの友達も〜」の『Welcome To The Heartland』はやらなかったが、「I love you」「You love me」のコール&レスポンスはあった。夢のような時間は終わった。

楽しければいいというテーゼの立て方自体には疑問もある。しかし、ツアーの初日、ステージに立てる歓びを素直にぶつけてきた佐野に、僕たちはただ笑い、歌い、踊るしかなかった。

佐野のボーカルはつらい部分も多いが、曲によっては無理なく聞こえることもあり、キーの設定でかなり調整できるのかとも思った。音程が悪かったのはモニタの問題かもしれない。モニタ・スピーカがなかったので、イヤホン式のモニタだったのだろう。実際、何度か耳を気にしていたように見えた。別に歌の上手い佐野を期待している訳ではないが、ボーカルの問題は依然として解決していないように感じた。

このライブがどのように消化されて行くのか、またどこかの街へ確かめに行くことにしよう。



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