2通の手紙 僕がこの「佐野元春 ACT2002」に「PLUG & PLAY '02」のライブ・レポートをアップした数日後、1通のメールが届いた。以前に何度か僕のサイトを見てメールをくれたことのある人だった。僕は読み始めた。
僕は彼女に返事を書いた。だけどそれが彼女にとって何かの足しになったのか、僕には自信がなかった。時として現実はあまりにも重く、そんなとき僕が持ち合わせている言葉はどれも弱々しく、いかにも無力だった。ありきたりのなぐさめはどれも空疎に響いた。僕は彼女に、「それにもかかわらずすべては大丈夫である」ということを伝えたかったのだが、僕にはそれだけの力がなかった。 何日かして、2通目のメールが届いた。彼女はこう書いていた。
僕は再び彼女にメールを書き、この2通のメールを僕のサイトに転載させてくれるようお願いした。僕にはどうしてもこれらのメールがこの特集の冒頭に必要だと思えたのだ。 もちろん、一人一人のファンには、それぞれのいきさつがありそれぞれの思いがある。彼女の事情はその中のひとつに過ぎない。だけど、それぞれのファンがどんな思いで佐野のライブを迎えたかを思うとき、彼女のテキストはそこにひとつの救いのようなものを与えてくれた。そこにはロック音楽が持つ力とその限界、そしてそれでもなお音楽を切実に感じ続ける心のありようについて、とても力強く気高い宣言がなされているように感じられたのだ。 彼女自身も引用しているように、だれかの身代わりにその悲しみを背負うことはできない。だけど、佐野という共通のモチーフを通じて何かを分かち合おうとすることはできるし、それはこの特集のテーマでもある。カバーコラムに代えて彼女の手紙を転載することで、僕はそれを言いたかった。 個人的、個別的で具体的な思いと、それをだれかに伝えようとする努力、そうやって僕たちは少しずつ進んで行くしかないのだから。 2002 Silverboy & Co. e-Mail address : silverboy@silverboy.com |