#20のブルース ええとどこまで話したっけ?そうそうクラブでかち合った話ね。その女最低なのよ。超ムカだよ。だって誰とでも寝てんだから。おねえの世代ではなんて言うの?コンビニエンス・ストア?ああ、Open 24 hoursってことね。開いてる、開いてるよ。開いててよかったってやつよ。どこもかしこも開きっぱなしなんだよ、その女。スツールに無理めに座ってる時も、足なんかたいくの授業のときにやるみたいな、え?何?あ、たいいくね、たいくじゃなくて、体育の授業のマット運動のさ、開脚前転やるみたいに開いちゃってさあ。見せたいんじゃない?ナニを。バカだからさ、そういうアタシもセクシーくらいに思ってるわけ。メイクなんかもさ、真っ赤なルージュとか引いてんの、いまどき。赤だよ赤。似合ってればいいけどさ、彼女がやると「まんま、たらこ唇」だからさあ、なんだっけあの九州の辛いやつ、そう!辛子明太子ね、ああいう唇になっちゃってんのに、そんなアタシもまたジェニファー・ロペスくらいに思ってんの。勘違いもあそこまでいくと、もう脱帽ね。帽子脱いじゃうね、ぽんと。投げちゃってもいいよ、思い切り。谷底まで。 だからね、その女人目をひくからさ、クラブに入ってきたときすぐわかったの。あ、あいつだって。 表に出てさ、「さっむーい」とかバカ面下げてまた言うわけだ、そいつが。寒いの当たり前じゃん、冬なのにクラブ用のタンクトップしか着てないんだから。私はクラークに話をつけてあったからジャケット着てたけどね、へへへ、そういう根回し?私得意なのよ。「あんたさあ、トニーと寝たでしょ?」単刀直入に聞いたね、私は。相手がバカだからさ、ストレートに言わないとわかんないのよ。自分は黒人のSisだと勘違いしてる女だしさ。笑うでしょ?日本人だよ、あいつなんか。たらこ唇だしさ。黒人とつきあってると、自分まで黒人女性の文化背負った気になっちゃってんの。え?そうなの?おねえたちのときにもやっぱいた?ま、ともかくさ、そう言ったらさ、その女が「寝たわよ。それがどうかした?」って開き直るの。 それで終わり、この話は。あ、そういう気遣いしないでよ、おねえ。別に悲しくもないよ。そりゃあトニーのことは好きだったけど、愛とかそういうものではないんだ。ていうか、愛とかってよくわかんないよ、まだ。この人を失いたくないという気持ちなのかなあ?それだけじゃ愛って言わないよね?私にはまだおねえたちがいつも言う、哀しみの深さとか慈しみだっけ?そういう言葉に出来ない気持ちって感覚、まだ味わったことがないんだ。いつかわかるのかなあ。あんな女と対決してるようじゃまだまだなのかな?でもあの女を憎んでるわけでもないんだよね、うまく言えないけど。激しく憎むほど、いつまでもあの女に対して怒ってるわけでもないの。なんか嫉妬とかもさ、長く続かないんだよね、自分。すごくすごく好きとか、嫌いで嫌いでしょうがないとかさ、そういう感情持ったことないんだ。そういうことって知らず知らずに体験するものなのかなあ。え、どういう歌?それ。「スターダスト・キッズ」っていうの?ふうん。確かにいつも「真夜中の扉」に「足」を「かけて」いるかもしんない。でもおねえ、私を綺麗だって誉めてくれるのは嬉しいけど、何度も言うようにその女は別に綺麗じゃないよ。ブスって言ったじゃん、アグリーなんだから。一度見たら忘れないって、すんごいアグちゃんなんだよ?でも綺麗なの?それでも?そうかなあ。顔の造作じゃないって、そうやっておねえみたいに優しく微笑みながらそんなことを言われると、あの女なんか関係ないけど、お礼を言いたくなるよあいつに代わって。ありがとね、こんな話を聞いてくれて。 おやすみ。 2002 Silverboy & Co. e-Mail address : silverboy@silverboy.com |