logo 死亡した宇宙飛行士


  Low-Flying Aircraft and Other Stories (1976)
  邦訳: 死亡した宇宙飛行士 NW-SF社(1982)


The Ultimate City 最終都市 (1976) 訳:野口幸夫

これのみ中編と呼べそうな分量の作品。すべての化石燃料を使い尽くし、人々が都市を放棄して自然エネルギーによる田園生活を営んでいる世界。主人公ハロウェイはグライダーで今は廃墟となったかつての大都市に舞い降り、そこを復興させようと企てる。都市文明のグロテスクなカリカチュア、飛ぶことへのオブセッション、そして犯罪が社会をドライブするというビジョン。中期から後期の長編とも呼応し、読み応えのある作品である。

Low-Flying Aircraft 低空飛行機 (1975) 訳:野口幸夫

極端に出生率が低下し、人口の激減した世界。いや、出生はするのだが生まれる子供は皆重度の奇形なのだった。主人公のフォレスターは妊娠した妻を連れて、南スペインの人気もないかつての保養地を訪れた。そこで彼が出会ったのは、盲いた動物を蛍光塗料で誘導する男だった。目の見えない子供たちは本当は進化した新世代なのではないか。アイデアはディック的だが、砂に閉ざされ放棄された地中海のリゾートのイメージは強烈だ。

The Dead Astronaut 死亡した宇宙飛行士 (1968) 訳:野口幸夫

人工衛星の中で死亡したまま地球を回り続ける宇宙飛行士。短編「砂の檻」で披瀝されたビジョンを更に深化させた作品。寿命の尽きた人工衛星はビーコンに導かれ、無人の廃墟となったケープケネディの宇宙センターに戻ってくる。主人公はかつての同僚だった宇宙飛行士の亡骸を回収するべく砂に閉ざされたケープケネディを訪れ、人工衛星の墜落を待つ。死体を乗せて宇宙を飛び続ける人工衛星という着想は素晴らしいが結末が今イチ。

My Dream Of Flying To Wake Island ウエーク島へ飛ぶ我が夢 (1974) 訳:野口幸夫

かつて宇宙飛行士だった主人公メルヴィルは、宇宙船内で精神錯乱を起こし療養中である。顧みられない無人のリゾートで、メルヴィルは太平洋の環礁であるウェーク島への飛行を夢見ながら、砂に埋もれた第二次世界大戦の戦闘機を掘り出す営みを続けている。セスナの飛行練習を繰り返す女性パイロット、ヘレンと懇ろになったメルヴィルは、ウェーク島への飛行を具体的に意識し始める。主人公の男性像はバラード作品特有のものだ。

The Life And Death Of God 神の生と死 (1976) 訳:野口幸夫

宇宙に偏在し人間の思考にも反応する、「知性のあらゆる属性」を備えた微細波動が電磁放射に含まれていることが分かった。それはつまり神ではないのか。世界中は神の現前を目の当たりにして劇的な変化を遂げる。世界からは争いが消え、商業活動が消え、穏やかな平和が達成される。しかしそれも長くは続かなかった。「神とは広漠たるニュートラルな知性」という神性観は興味深いが、それが人の求める神でないという認識も卓抜だ。

The Greatest Television Show Of Earth 地上最大のTVショー (1972) 訳:野口幸夫

タイムトラベルの方式が発見された。この発見に飛びついたのはテレビ局だった。ニュースの枯渇に悩んでいたテレビ局は「過去の実況」という新たなニュース素材を獲得したのだ。だが、次第に、過去の出来事が想像されているほど華々しいものではなかったことが明らかになる。テレビ映えする素材を求めテレビ局は過去の出来事の脚色を始める。ディック的な素材を淡々と書き進めて行く素っ気ないショートショートというか素描メモ。

A Place And A Time To Die 死ぬべき時と場所 (1969) 訳:野口幸夫

川の向こうから押し寄せる軍勢を前に、住人が放棄して逃げ出した街に居残り絶望的な抵抗を企てる二人の男。アメリカ本土に上陸した共産主義勢力を思わせる軍隊は、やがて渡河を始める。街にもう一人居残っていた共産主義かぶれのハサウェイは彼らを迎えに飛び出し、二人の男はついに軍勢を対峙した。背景や説明を一切省略し、ただ街を蹂躙する軍隊だけをバラードは描き出す。共産主義の脅威が現実だった頃の作品として読むべき。

The Comsat Angels 通信衛星の天使たち (1968) 訳:野口幸夫

何年かに一回巻き起こる「神童」騒ぎ。幼くして天才的な能力を示し、学位を受けて独創的な研究を発表する少年たち。しかし彼らがいずれもひそかに研究の表舞台から姿を消すことに気づいたジェイムズはその足取りをたどり始める。彼らは各国政府や大企業で枢要な地位を占めていたのだ。彼らの数は12人。世界の枢要に身を置く彼らは最後の一人の光臨を待っているのでは。途中までは面白いが十二使途になぞらえたオチがピンとこない。

The Beach Murders 浜辺の惨劇 (1969) 訳:野口幸夫

「浜辺の惨劇」のミステリを解明するための断片集という筋立てのコンデンスト・ノベル。時期的に残虐行為展覧会』と重なっており、そちらに入っていてもおかしくない作品。ロマノフ朝の皇女、CIA、ソ連のスパイ、リンボー・ダンサー、米国務省暗号主任らが登場すると想定されるミステリの断片的なシーンだけをカットアップして行く。文学的な価値としては知らないが、正直何度読んでも眠くなってしまって僕には向いてないようだ。



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