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時間都市

  Billenium (1962)
  時間都市 創元SF文庫(1969)


Billenium 至福一兆 (1961) 訳:宇野利泰

人口爆発が起き、都市空間が極限まで不足している世界。人間一人に割り当てられたスペースは4u。それすらも近いうちには3.5uや3uに切り下げられるという噂が絶えない。街路には人があふれ、通勤や買い物にも大変な苦労が伴う。そんなとき、主人公は新しい住居にだれにも気づかれずうち棄てられたスペースがあることに気づくが…。発想としては分かりやすいアイデアSFだが、息苦しい過密社会の描写にバラードの筆力が冴える。

The Insane Ones 狂気の人たち (1962) 訳:宇野利泰

いっさいの精神医療が禁じられた世界。非合法な精神分析を行った罪で服役し、釈放されたばかりの精神科医グレゴリーはアフリカの北岸に沿ってクルマを走らせている。彼がヒッチハイクで拾ったのは精神を病んだ女だった。グレゴリーは助けを求められながらそれを拒み、彼女はモーテルで自殺してしまう。これもまた分かりやすいアンチ・ユートピア系の近未来SFだが、「精神医療の禁止」という発想に若きバラードの非凡さを見る。

Studio 5, The Stars アトリエ五号、星地区 (1961) 訳:宇野利泰

「ヴァーミリオン・サンズ」シリーズに属する作品のひとつ。VTセットというコンピュータが自動的に詩を作る世界で、詩人で文芸雑誌の編集者でもある主人公のアトリエの隣に新たに引っ越してきた謎めいた女性は、不思議な力を使って詩人たちのVTセットを一台残らず壊してしまう。彼らはやがて詩を「自分で書く」ことに目覚めて行く。彼女は詩神ミューズであることが示唆される。オチは大団円だがこれもバラードの着想が面白い。

The Gentle Assassin 静かな暗殺者 (1961) 訳:宇野利泰

新国王即位のパレードの日、国王を狙う暗殺者の爆弾の巻き添えで死んでしまった一人の娘。その恋人はタイムマシンを発明し、年老いた今、その事件があった時に戻って暗殺を阻止しようとしている。だが、彼が暗殺者を撃ったために爆弾はかつての恋人の近くで爆発し、そして彼は暗殺者の共犯として撃ち殺されてしまう。クールなタッチはいいが、恋人を殺したのは自分だったという凡庸なタイム・パラドックスもので文章も説明臭い。

Build-Up 大建設 (1957) 訳:宇野利泰

人口が増えすぎて地下開発が進み、縦横に区画された巨大な人工都市に人々が居住する世界。主人公のフランツは「空を飛ぶ機械」の開発を密かに企てているが、彼にはそれを飛ばす「自由空間」がない。フランツは都市間を結ぶ高速鉄道に乗り、隅々まで建設され尽くした世界の果てを探しに出かける。これも星新一などを想起させるアイデアSFだが、地下深くまで開発が進み火災に脅える人工都市のサイバーなイメージは秀逸という他ない。

Now: Zero 最後の秒読み (1959) 訳:宇野利泰

会社で底意地の悪い部長から日々圧迫を受けている主人公は、家に帰ってノートに部長への呪詛を書き込むことが唯一のストレスの解消だった。ある時、主人公が怒りに任せて部長の死に様をノートで予言したところ、翌日部長はその通り死んでしまう。そのノートはそこに書き付けられた死を実現する力を持っていたのだ。「デスノート」の元ネタとも思われる作品で、アイデア一発。主人公が最後に読者の死を予言するところは愛敬か。

Mobile モビル (1957) 訳:宇野利泰

「ヴァーミリオン・サンズ」シリーズに属する作品。街の広場にモニュメントを飾ることになり、主人公は彫刻家ルービッチに製作を依頼する。だができあがった作品は「廃棄処分にあったレーダー用アンテナ」を思わせる奇怪なオブジェだった。主人公はやむなくそれを自宅の庭に引き取るが、その金属製のモニュメントは少しずつ成長するのだった。後に肉体と金属の婚姻を画策するバラードの着想の萌芽を見るようなファンタジー作品。

Chronopolis 時間都市 (1960) 訳:宇野利泰

時計の使用が禁止された世界。主人公の少年コンラッドは時間を正確に計ることに興味を持ち、密かに腕時計を手に入れる。彼のそぶりがおかしいのに気づいた教師ステイシーは彼を放棄された大都市に連れて行き、なぜ時計が禁制品となったかを説明する。それは過大になった都市人口を調整するための分刻みのスケジューリングに対する反乱だったのだ。大時計を中心にした時間都市の廃墟のイメージは鮮烈であり初期の代表作のひとつ。

Prima Belladonna プリマ・ベラドンナ (1956) 訳:宇野利泰

「ヴァーミリオン・サンズ」シリーズの作品。歌う花を売る花屋スティーヴの店を美貌の女性歌手ジェインが訪れる。彼の店に置かれている貴重な音響植物アラクニッド蘭は彼女の声に感応し、それまでだれも聴いたことのないような歌を歌い始める。彼女がフル・ヴィリュームで歌わせたために激しすぎる感情の起伏で彼の花々は傷つき、アラクニッド蘭は死んでしまう。そして彼女は去って行く。バラード以外には書き得ない作品だろう。

The Garden Of Time 時間の庭 (1962) 訳:宇野利泰

対峙する二つの時間。広大な庭園のある瀟洒な邸宅で、アクセル伯は夫人の奏でるハープシコードを聴きながら時間の花を摘んでいる。庭園の外は荒涼たる原野で、彼方から地平線を覆い尽くす暴徒の一群が少しずつ迫ってくる。庭の時間の花をすべて摘み尽くしたとき、伯の時間は尽き、その暴徒は彼らの庭を蹂躙する。伯と夫人はそのとき、石像に姿を変え庭園にたたずんでいた。失われつつある時間を幻想的に描いたファンタジーだ。



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