logo だいじょうぶ、と彼女は言った


いろんなことをひとりで決めてきた。進学も、就職も、別れも、結婚も。だれかに何かを相談したことなんかなかった。悩んだり迷ったりしたことはいくらもあったけれど、それをだれかに決めてもらおうとは思わなかった。僕の生はどうしたって僕のものでしかあり得ないのだし、そこから派生する問題は結局すべて僕自身が引き受けるしかない。自分で正面から対峙できない問題の解決をだれかにゆだねて、それをうまく行かなかったときの言い訳にするなんて僕はまっぴらだった。だから僕はいろんなことをひとりで決めてきた。

それはもちろん時としてヘビーでタフなことだった。だけど僕は本質的にひとりなんだという僕の世界認識は変えることができなかったし、それ以外に真実なんてあるとは思えなかった。僕はこの不完全な、あまりに不完全な世界にあらかじめ絶望していたのかもしれないし、そこにおけるコミュニケーションの不完全さにひとりいらだっていたのかもしれなかった。分かりあうことや信じあうことを楽観的に、無前提に強要する凡庸な世界の無神経さに僕は腹を立て、うんざりしていたのだ。


朝起きて夜まで 狂おしく回る世界を見て


ひとりで生きて行くということ。白々と明るんで行く空を見ながら、手つかずの1日に思いを馳せるとき、孤独と隣り合わせのひんやりと安定した視点を僕たちは得ることができるだろう。どこまで行っても僕はひとりなんだという認識は、僕の隣で眠るパートナーや子供を何よりだれよりかけがえのないものにしてくれるだろう。僕が僕に用意できるもの、彼らのために用意できるもの、それはそれぞれにひとつのブランニューデイだけだ。

「ポップかポップじゃないかなんてどうでもいい、売れるか売れないかもどっちだって構わない、ただこの曲は今、私を癒してくれるとても大事な曲だということだけははっきりと言える」。友達のひとりはそう書いたメールをよこした。だれもがひとりなんだということを知りながら、それでもだれかと寄り添いたいと思う気持ち。「すべてのそんな彼女にささげられた曲ですね」、そう書いてきてくれた友達もいた。


「よろしく」と 誰かが手を振るよ


ひとりで生きて行くということ。自分を信じて行くということ。いつか乗り越えてゆく彼女の物語。そして、だいじょうぶ、と彼女は言った。




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