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in motion 2003 ― 増幅

2004.5.28発売
GO4 / GO4CD0004

PRODUCER :
佐野元春、井上鑑
MIXER :
赤川新一

作詞・作曲 :
佐野元春
●ポップチルドレン
−最新マシンを手にした陽気な子供たち
●ああ、どうしてラブソングは
●廃虚の街
●アルケディアの丘で
●ベルネーズソース
●こんな夜には
●日曜日は無情の日
●何もするな
●世界劇場
●何が俺達を狂わせるのか?

2003年11月15日と16日に鎌倉芸術館で行われた同名のポエトリー・リーディング・ライブからの音源。2001年に同じ鎌倉芸術館で行われた「植民地の夜は更けて」に続く試みであった。それぞれの楽曲が両日のどの公演からの収録かはスリーブには記載されていない。

このライブでは前回に続き井上鑑を共同プロデューサーに迎え、井上がピアノを担当する他、ドラムに山木秀夫、ベースに美久月千晴、そして今回はバイオリンの金子飛鳥をバンドに迎えた。金子のシャープな演奏はこのライブの緊張感を高めるのに大きな役割を果たしている。全体にバンドは極めてシュアなパフォーマンスを披露しており、ライブ音源とは思えないほどクオリティの高い演奏を聴くことができる。

今回のライブでは演奏曲のうち、「ポップ・チルドレン」と「廃虚の街」(ともにアルバム「sweet16」に収録)を除いてほとんどが散文詩「エーテルのための序章」からのテキスト(「アルケディアの丘で」は「ハートランドからの手紙#60」を下敷きにしたオリジナル)のリーディングであるが、こうした本来「歌詞」として想定されていないテキストを今回の公演の中心に置いたことで、言葉と音楽の自覚的な関係が一層露わになったということができるだろう。

特に「エーテルのための序章」は、佐野が音楽活動に行き詰まりを感じた時期に、自らの中の暗く、禍々しいイメージを外部へ汲み出そうとして半ば自動筆記的に書きつけたテキストだと言われているが、そうやって佐野の内部から自発的にわき上がった言葉の自重がこのライブのテンションの高さを決定づけていたのではないかと思う。僕も11月15日の第一回公演に参加したが、実際最後まで聴くとぐったりしてしまうほど途切れることのない緊張を強いられるライブであった(ライブ・レポート参照)。

その様子はこのアルバムからも十分伝わってくる。この音楽はBGMとして聞き流されることをリスナーに許さない。僕たちはCDをかけた瞬間から、演奏の一音一音、言葉の一行一行に聴き入り、没入することを余儀なくされるのだ。それはやはり、言葉と音楽が互いに手を携えて結果として一つの幸福な体験を指向するポピュラー音楽と異なり、ここでは言葉と音楽が互いにぶつかり合い異化し合いながらそこに発生するハプニングや別種の化学作用を追い求めて行くポエトリー・リーディングというメディアの特質に根差しているのだろう。

ライブ・レポートで僕は、「演奏は曲ごとにきちんと組み立てられ、かなりポップミュージックの文脈で解釈が可能なフォーマットに仕上げられていた」、「ぶつかり合いの中から思いがけないハプニングを期待するというよりは、綿密に用意された演奏と佐野の言葉との関係を楽しむといった色合いの濃いライブだった」と書いた。だが、今回CDを聴き直して僕は、ここで朗読されるテキストと演奏される音楽の双方が、表現的に高い次元でいずれ劣らぬ伯仲したバトル、渡り合いを繰り広げていることにあらためて気づくことになった。確かに自由度という意味では今回のライブはあらかじめかなり練り上げられたものだったと思う。しかし言葉と音楽が互いを頼りに寄り添うのではなく、互いを触発しながら高め合って行く様子はやはり通常のポピュラー・ミュージックとは異なるものであったと言うべきだろう。

佐野のポップ・サイド、メイン・ストリームでの活動が好きな人にとって、必ず気に入るとは限らないサブ・ストリームの音源であり、必携としてお勧めするような作品ではないが、佐野のメイン・ストリームでの活動の背後にあるもの、そこにフィードバックされてその豊かさを裏づけているものの一端を確認したいファンであれば、一聴しても損のないアイテムであるということは保証できる。

尚、本作は当初4月21日にエピックからリリースの予定であったが、メーカーからいわゆるCCCDとしてリリースしたいとの強い要請があり、これを回避するために自主レーベルであるGO4レーベルから通常のCDフォーマットで発売されたものである。



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