10/3・4 なんばHatch ライブ・レポート
なんばHatchは椅子を並べれば700席あまりとこじんまりしている上に大阪フェスのようにオーケストラボックスがないのでステージがとても近い。
ステージの中央には二畳ほどの赤いペルシャ絨毯(たぶん鎌倉スポークンワーズで使われていたのと同じ)が敷かれ、その上にはマイクなどの機材に囲まれるように一脚の椅子が置かれていた。
ラタンのような曲線の背もたれだが、よく見ると木製のようだ。
開演時間を迎え客席の照明が落とされると、予想通り元春はその椅子に座りギターを抱えて一曲目を歌いはじめた。
「Please Don't Tell Me A Lie」
オーソドックスな8ビートのイントロからこの曲名を連想することはできなかった。
元春の抱えているプラグのついたアコースティックギターはエレアコと言うのだろうか。
軽快なリズムで力強く押して来る。
ドラムの位置がいつもと違って、客席から見てボーカルマイクの右隣にボーカルの方向に向けられて置かれていた。
古田たかしがいつも以上に終止上機嫌であったのはたぶんそのせいだ。
客席は誰ひとり立たず、「99ブルース」「風の手のひらの上」と、じっくりと聴き入ることのできる曲が続いた。
なんだかほとんどの曲にリ・アレンジが施されている。
HKBでよくこなれていると思っていた曲でも大なり小なり手が加えられていて、その新鮮味が今回のライブをより印象深いものにするのは間違いない。
「It's Alright」はもしかしたらライブでは初めて聴くのかな。
生で聴くとコラージュされた言葉が益々不思議なポップさを醸し出して何とも言えない心地になるのだが、そのトリップするような感覚は会場の狭さも関係しているのだろう。
もう大フェスには行かないかもしれない(笑)。
このあたりから客は少しづつ立ち始める。
「ガラスのジェネレーション」に続いて、これは確かに「ヘイ・ラ・ラ」のイントロだと思った曲は実は「NEW AGE」だった。
マイナーコードのフェイントにうっかり座りそうになった。
「NEW AGE」は頻繁にアレンジが変わるけど今回のが今までで一番かっこいい。
スローバラードの「Tonight」は昨年9月11日に起こった米同時多発テロ犠牲者への鎮魂歌だろうか。
「No more pain tonight」のリフレインがとても物悲しく聞こえた。
中盤に差し掛かり「Individualists」のシャッフル・ビートに誘われて会場は総立ちで盛り上がるのだが、ここで突然に第一部終了。
えっ?二部構成ですか?
別に一息入れたいという気分でもなかったのだけど、10分間のインターバルで一旦客を座らせたのは第二部のスタートの曲のためだった。
スポークンワーズ「ベルネーズソース」。
実は鎌倉「In motion 2001」にも行ったのだが1号線の大渋滞に巻き込まれて「光 -The Light-」一曲しか聴くことができなかった。
評判高いこの作品の朗読を生で聴けるチャンスはもうないかもと思っていたのでかなりうれしい。
このあと再びじっくりと聴かせるモードになって「ミスター・アウトサイド」「 だいじょうぶ、と彼女は言った」と続く。
本編の最後は、歌詞の内容があざとい気がして好きじゃなかったけど、ライブに限っては手拍子が楽しくていつの間にか結構好きになってしまった曲「楽しい時」。
「♪楽しい時はあまりにも早く過ぎてしまう〜」の通り、ここまで本当にあっと言う間だった。
時間はしっかり経過しているのだけど半分くらい座っていたせいか体力も余っていてまだまだ続けて欲しいという気持ち。
アンコールを求める客の手拍子の中、ほどなく元春とHKBが再々登場で「ワイルド・ハーツ」と「Sail on」が演奏される。
ところで、元春の意向なのだろうけど、ライブ中やたらと強いライトが客席にむけられて眩しかった。
4日のほうの公演ではしみじみと「僕がデビューした頃の10代のファンは今はもう30代だ。女性なら家庭を持って子供がいたり、男性なら職場でそれなりに責任あるところにいるだろう」なんて語っていた。
たぶん元春は何度もじっくりと客席を見渡すことができたと思うけど、僕らの顔を見てどんな感想を持ったのだろう?
まさか「みんな老けたなぁ」なんて失礼なことは思わなかったよね?
ちなみに、4日の公演には西本明がアンコール時に飛び入りして「アンジェリーナ」が演奏された。
西本氏はソロアルバムのプロモーションで次の日に「(元春曰く)全国一ヶ所ツアー」を控えて来阪していたのだ。
ハートランド・メンバーが3人も揃ったということに感激だ。
さて、ライブが終わって最初に思い付いた感想は「はぁ、ホッコリ暖まった…。」である。
元気な元春に会えて晴々とした気分になった。
いつもとはかなり違う選曲もよく見るとファン投票で人気のあるナンバーが揃えられていたのではないだろうか。
「Someday」や「悲しきRadio」を演っていたらいつもと同じになってしまうだろうからこれらは抜いておいてよかったと思う。
完成度の高いステージだったと言っていい。
まったく文句のつけようがない。
つけようがないのだが…強いて言うなら…ということで少し気になった点をば(爆)。
僕が初めてライブを体験した時から毎回よく歌詞は間違えているのだが、それにしても近頃ちょっと多いかもしれない。
最近の曲とかあまり演らない曲ほど顕著だ。
例えば元春の楽曲は1番と2番のBメロを取り替えても大抵の場合、概ね支障が無い。
歌詞にストーリー性を持たせなかったり細かい情景描写もしないことで聴き手に自由にイメージを膨らまさせるのが佐野元春の手法だと思うのだが、反面その脈絡の無さが仇となって次の言葉が何だったか忘れてしまいやすいのだと思う。
まぁその辺はあんまり気にせずにいざとなったらなんなりと即興でやってもらってもいいのだけど、願わくばもう少し歌い込んでおいてほしいなぁと思う(プロンプターとかはちょっと嫌)。
それと最近よく言われる元春の声については幾分戻った気はするものの、やはり音域の狭さは気になった。
Rock & Soul Reviewツアー時はオクターブを下げることで音程を確保することに踏み切ったんだなと思ったが、今回は更にバックの音をシンプルにしてボーカルを際立たせるなどの工夫をしているようだ。
ロックンローラーにとって声質はことさら重要ではないかもしれないが、元春自身が「体や喉のことを考えた1年」と告白しているのだから本人も気にしているのだろうし、「もう大丈夫」とは言いながらも実際の歌声はまだ何か模索が続いているように思う。
ただ、石卵ツアーからの流れを考えると、今回のライブでようやく今の佐野元春にフィットするやり方にうまくシフトしつつあるなという印象を強く持った。
今回のような落ち着いた雰囲気で聴ける曲が中心の構成も悪くないし、「それならばあれもこれも」とリクエストしたい曲が頭の中にたくさん湧いてくる。
文句はないと言いつつさんざん書いてしまったけど、それらは「細かいことだ」とチャラにできるほど今回の佐野元春には圧倒的な存在感があった。
それは次のアルバムの制作やツアーの構想がうまくいってるという自信の表れかもしれない。
「来年の早い内に」という発売時期は眉唾だが、この調子ならば安心して次に会える日を心待ちにしたいと思う。(qawauchi)
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