logo 月夜を往け


ある友達は時折月の満ち欠けをメールで知らせてくれる。「今日は半月だね」、「だいぶ丸くなったよ」、「今夜か明日が満月みたい」と。僕はベランダから夜空を見上げてみる。当たり前だけど日本中どこからでも同じ月が見える。月の光、そして夜の冷えた風。そこには何か神秘的な力が潜んでいる。

別の友達はラジオを聴いてメールをくれた。「初聴きで、ナゼか分からないけどかなり泣けてしまいました」と。ごく当たり前の短いラブソングなのに、その気持ちは僕にもよく分かった。

夢だけじゃなくて 今だけじゃなくて
この命を支えきれるだけの愛を 抱きしめて行こう

佐野元春は、確実に「愛」の核心に近づいてる、僕はそう思う。かつて「SOMEDAY」で佐野は、「いつかはだれでも愛の謎がとけて 一人きりじゃいられなくなる」と歌った。だけど僕たちには「愛」の謎は簡単にはとけなかった。何度も夢を見て、何度も裏切られ、打ちのめされ、そしてまた新しい「愛」を見つけて。そうした繰り返しの中で、少しずつ、少しずつ、僕たちはその「意味」に近づいて行くしかないのだということが分かり始めてきた。

そして僕たちはある時知るのだ。大事なことは愛の謎をとくことではなく、いつまでたってもとききれない愛の謎とどこまでも取っ組み合いを続けて行くことなのだと。悪戦苦闘しながら毎日を歩いて行くことなのだと。ぼくらの道がここに続く限り。

佐野は歌う、二人で行くこの道を照らしといてくれ、と。愛の謎は最後までとけないだろう。それでも僕たちはそんな愛の存在を信じながら、今ここにあるものをそっと抱きしめて行くしかないのだ。月の光が照らす夜道を、冷たい風に吹かれながら歩いて行くしかないのだ。そしてそんな営みこそが僕たちを支えて行くのだと僕は思う。

「ベランダに出てみたら丸い月が見えました。同じ月を見てるなんて不思議」と僕はメールを返した。



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