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この曲は2001年7月には既にウェブで公開されていたものである。新曲のシングルとしては1999年12月の「イノセント」以来実に4年ぶり、21世紀に入って初めてのリリースだ。

その間、僕たちはずっと待ち続けてきた。今年こそは新しいアルバムが出るだろうと期待し続けてきた。本来であれば2年前にリリースされるべきであった曲だが、そんなことはもうどうでもいい。いや、どうでもよくはないのだが、とにかく、今はここにある新曲それ自体に耳を傾けてみよう。

3連のロッカバラードはこれまでの佐野のレパートリーにありそうでなかったパターンだ。全体の曲調や進行、中でも「I love you」という歌詞の乗せ方などはハニードリッパーズの「Sea Of Love」を彷彿させる。しかし、ゴージャスなストリングスを導入して甘く歌い上げるロバート・プラントのボーカルに比べれば、この曲のアクセントはブラスであり、ギターの鳴りも明らかで、音の輪郭は幾分くっきりしている。

曲調そのものは、「天使たちの声が聞こえてくる」「繰り返す言葉はI love you」と歌うゆったりとしたラブソングなのだが、僕がこの曲から感じるのはある種の性急さだ。ここでは時の流れに対する無常感が歌われる。この世界は「何も変わらない」が「いつも新しい」。だから時が「静かに流れ」て行くことを祈りつつ自分は「夜明けが来る前に行く」のだと佐野は歌う。なぜなら「明日のことは誰にも分からない」から。だが、「時よ静かに流れて行け」と歌う佐野は、その歌詞とは裏腹に何かを急いでいるように僕には思われる。なぜだろう。佐野は何を急いでいるのだろう。

それはおそらく生きることそのものなのだと僕は思う。佐野はこれまでも生き急いできた。本当のことを知るために走り続けてきた。僕たちはそれにケツを蹴飛ばされ、佐野に置いて行かれてしまわないようにやはり一所懸命走り続けた。だけど、ここ数年、僕たちはそんな佐野の姿を見失っていたんじゃないかと思う。

だが、この曲で佐野は再び生き急いでいる。そこに日はまた昇り、月はまた巡る。何度も同じ夜を繰り返しながら、僕たちは一瞬ごとに自分自身を更新し新しい自分になる。昨夜と今夜は同じ夜でありながらまったく別の夜だ。そうしたひとつひとつの夜を越えながら、今、僕たちが繰り返すべき言葉があるのだとしたら、それは結局のところ「I love you」だけなのだ。どんな夜も、どんな思いも、最後には「愛してる」というたった一つの言葉に収束して行く。

これまで佐野が「I love you」とはっきり歌ったことはほとんどなかった。だが、今、「I love you」というラブソングでは最も陳腐なフレーズを敢えてシングル曲のテーマに使うことで佐野は再び言葉への切実な関わりを取り戻し、この言葉に新しい命を吹き込んだ。かつて「真実」や「まごころ」といった手垢にまみれた言葉をまるで魔法のように蘇生させて見せたあの手際で。

5年前、風に揺れるタンポポを見ながら「それでいい」とつぶやいていた佐野は、今、デイジーの花を胸にかき抱いて「I love you」と歌う。その性急さ、その前のめりさを僕は高く買いたい。



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