logo グラス私見/呉 エイジ


佐野元春の20周年を締めくくるカタチで発表された編集アルバム「GRASS」。公式サイトで断続的に発表される内容、ハートランド時代の未発表ナンバー収録や、シークレットトラック有などの情報を知るにしたがい、私は武者震いを抑えることができなんだ。
書かいでか。書かねばなりません。とばかりに私は愛機「マック」の前にへばりつく。
グラス、か。透明だもんな。ガラスのコップとかさ。ガラスのジェネレーションって曲もある。無垢の表現、純粋さの比喩をガラスのコップに喩えるスマートさ。
そしてそれは元春ストーリーを絡めた壮大な円環(サークル)を描くレビューになるハズであったのだが、意見を聞こうと思ってフラッ、と覗いてみたSilverboy Clubでは既にたくさんものレビューがアップされており、そのレビューを読み進めるに従って、どうも私の解釈との違和感が浮き上がってくる。書き上がった後の疲労困憊した身体を引き摺って辞書を手に取ってみれば、
「GRASSって草やん。俺のはガラス(glass)やん!!」(驚愕)
という最悪な事態に陥り、完成した途端にグラスで言うところの「未発表トラック」になるという憂き目に遭ったのである。
気分は今もってディープブルーでアイムインブルーなのだが、乗りかけた船だ。謙虚に進めていこうと思う。

[ディズニーピープル]
いきなりハートランド時代の未発表トラックで幕が上がる。「SWEET 16」収録の「エイジアンフラワーズ」の原形だ。こいつは「カフェボヘミア」から「ナポ泳」までの空白の二年間半、元春がどんな音楽をやっていたのかを知る貴重な音源である。この時期のインタビューが音楽雑誌「JAPAN」に掲載されており、そこではかなり呆けたダメダメな元春を見ることができる。実際「カフェボヘミア」の続編として「二枚組」として発表できるだけのトラックが用意されていたのだ。それがこの曲や、「ブッダ」。「水の中のグラジオラス」も、この頃の「地下室での実験の様なセッション」での録音だと思われる。「風の中の友達」もそうかな? 長い間煮詰めていた「レインボーインマイソウル」もあったかも、それから下村誠さんが証言していた「ストリートミーティング」という曲の歌詞入りバージョンもこの「幻の二枚組」収録予定だったハズだ。しかし「なんか違う」という想いを拭いきれなかった元春は「ビジターズ」のように全てブチ壊して単身ロンドンに渡りほぼ書き下ろしのカタチで「ナポレオンフィッシュ」アルバムを製作したのだ。
公式サイトでは、この曲。人気が高いようだが、ハートランドの演奏としてはダメな部類に入ると思う。ドラムのオカズもいいかげんだ。棚上げしてしまった元春の気持ちもわかるような気がする。「SWEET 16 」での煌めくようなハートランドの演奏に到達するまでには、元春の根気強い指導があったんだろうなぁ、みたいなことも勘ぐってしまう。で、この曲、何年も練習を重ねて完成形に至るのだが、以前元春のラジオ番組で「マーク1」という仮タイトルでエイジアンフラワーズが紹介されたことがあった。このバージョンはほとんどエイジアンと同じなのだが、途中が「jumboly Tuesday」なのだ。オノ・ヨーコのバックコーラスなしの元春だけの「jumboly Tuesday」。これがまた強烈にカッコイイ。オノ・ヨーコのコーラス(ロックの象徴として機能はしていたが)はなくとも、ぜひ「マーク1」のカタチで発表してほしかった。

[君が訪れる日]
このアルバムでの個人的ベストトラック。曲の構成も変更されている。テープの逆回転のタイミングもオリジナルと少々違う。ドラムにメリハリ。鳥肌立った。

[ミスターアウトサイド]
全体的に言えることだが無駄な装飾は剥ぎ落とされている。不調だった時期を乗り越えての「SWEET 16」発表。この一曲目を聞くと当時の「安堵感」が思いだされる。

[ブッダ]
ハッピーエンドの原形。ほとんど原石。簡単なセッション。ここでも適当なドラムのオカズ。メモ的なものであり、私の魂には響いてこなかった。

[インターナショナルホーボーキング]
シンセ系が奇麗に落とされてバンドサウンドに近づけてある。オリジナルは「売れセン」な編曲だった。こういうのはタブーかもしれないが、ホボキンはやっぱ上手い。

[君を失いそうさ]
ビートルズフレーバー満載の一曲。今更ながらの手垢にまみれた「ペニーレーン」ベースの元春的解釈。しかし近年にはないメロディアスなナンバー。この路線はイケる。個人的には支持する。

[天国に続く芝生の丘]
三連ワルツ。同じ三連ナンバーのナガブチ辺りと聴き比べると、その資質がよくわかる。やっぱスマートだね。こういう演奏を余裕でこなすホボキンってやっぱ貴重。

[風の中の友達]
この頃からハートランド解散。みたいな空気が自分の中では充満していた。屈折してます?

[欲望]
ショートバージョン。ジャジーなアコギが前面に。ジョンレノンが憑依している。

[ジュジュ]
元春、この曲に頼りすぎ。個人的には「もういい」ナンバー。激辛口調は好きだからこそ。

[石と卵]
最新アルバムから再び。「勝手にしなよ」とか「情けない週末」辺りの臭い。妙な懐かしさ。

[ボヘミアン・グレイブヤード]
当時のインタビューで元春はこう語った。「こういうタイプの曲はこれで最後です。」
あまりの外しまくりに本を読みながら「なんでやねん。この路線イケるやん」を連呼。ベストトラックパート2

[モリスンは朝、空港で]
元春のボーカルは低くなった。低くなった。なんて騒がれてるけと、通して聴けば違和感がそんなにないことにビックリ。不思議発見である。ナイアガラサウンドが心地よい。

[モスキート・インタールード]
音楽の迷宮に迷いこんだ元春の姿が見える。ブライアンウィルソンの「スマイル」と個人的にダブって見える。きっと「ナポ泳」までの二年半、元春はこいった類いの未完成トラックを星の数ほど量産していたんだろうなぁ。「何か違う」とか言いながら…。

[サンチャイルドは僕の友達]
ライブオーケストラバージョン。フルーツパンチに弟と行ったんですがね。よかったですよ。オーケストラとロックの融合ってやつは。すごい迫力の音像でした。迫り来る。みたいな。

以上、駆け足で書いてみた。あるインタビューで元春はこう語っていた。「直球で投げたら変化球になり、変化球を投げたら直球になる。だから次回は変化球を投げる」と。
そういう話を前提にすれば、思わず口走らずにはいられない。
「この作品集は元春の直球だったんだな」
と。


呉 エイジ(くれ・えいじ) 31歳。姫路在住のサラリーマン。子供三人に悪妻が一人。根っからのマックファン。趣味はホームページ作成。打倒エロサイトの旗印の下、日々更新に精を出す毎日。これが私流「つまらない大人になりたくない」である。マックピープルに連載中のヒッヨ子ライター。メールはhirata@mh1.117.ne.jp



Copyright Reserved
2001 Eiji KURE / Silverboy & Co.
e-Mail address : silverboy@t-online.de