2001年が始まって間もない冬の夜にこれを書いています。いま流れている音楽は「G*R*A*S*S」。発売されたときに数回聴いて、ラックに横たわっていたものを、引っ張り出して。
2000年、佐野元春にとっては20周年という大きなイベントがあってファンにとっても非常に有意義な年だったと思います。ただ、僕はこの渦中にいながらとても冷静に佐野元春の未来について考えていたように思います。彼がいま、提示している20周年とは過去の遺物であり、提供されている多くのプロダクツは遺産であって、20周年というイベントの価値、あるいは20世紀最後の年に何を残すべきかといった命題においては明らかに物足りなさを感じました。僕が期待していたものとのギャップは確かにそこに存在していました。
遺産を全て吐き出して、20世紀に置き去りにするのだ、という考えもありますが、僕にはそんな風には見えなかったし、割り切って考えることもできなかったわけです。「The 20th Anniversary Edition」、「Club Mix Collection」、「G*R*A*S*S」、「Spoken Words」、そして映像記録である「The 20th Anniversary Tour」、「Live Anthology 1980-2000」、どれも僕にはキラリと光る本物の宝石には見えませんでした。スパイスで料理のおいしさは変えることができるけれど、料理そのものを変えることはできない、僕はもう同じものはできれば食べたくはない、そう思っているのです。
話がそれましたが、「G*R*A*S*S」。話題性としては記念盤の第2弾としては選曲がかなり地味で、そもそも用意されていた仮題の「Another side of Motoharu Sano」的な要素があったということがあげられると思います。またすでに発表した曲の元になった曲とは言え、ハートランド時代の未発表2曲、そしてBonnie Pinkとのデュエット「石と卵」の収録が挙げられるでしょう。その他の曲もリミックスなどで今まで聞こえなかった音も拾えたりして、そういった部分も話題のひとつだったと思います。
このアルバムのテーマはそのタイトルが示すとおり、草の根的な佐野元春自身を表したGrass Rootsだと聞いています。確かにそうかも知れません。でも僕にはそんな風には響いてきませんでした。というよりも「それはこれからに必要なものなのか?」という設問がぐるぐると動き出したに過ぎなかったのです。「いま、それは必要なのか?」そういう想いの中で耳を通りぬけていく楽曲の数々は僕を喚起させてくれるものではありませんでした。正直にいうと、ボーナストラックの前に入っているInterludeには少しからだを震わせたけれど。
きっと僕の中では「G*R*A*S*S」に対する評価がきちんとできる段階ではないのだろうな、という気がしています。20周年のAnniversary Edition 2ndとして発表されたこと自体に僕はまだ腑に落ちないものを感じているわけなのでうまく自分の中で処理することができないわけです。僕は「No Damage」の頃はこんなことは考えませんでした。その発言内容にも納得が行ったし、自分の見つけたいものがそこにあるという確信を僕は持っていました。ですが、今はそれが見つからない。あえて見つけようとしていないだけなのかも知れないけれど、僕の後退を辿る感受性に対して、「G*R*A*S*S」は光を充ててくれはしなかったのも事実です。
僕はそこに何を見るべきなのだろう。
その答えはまだトレイに残されたディスクの中にあるのだと思います。これから何度、このアルバムを耳にするのかはわからないけれど、いつか、ふとした瞬間に佐野元春の言うGrass Rootsが見つかれば、と思います。それが本当に僕がここに書くべき内容なのだろう、と感じますし、事実そうであるならば、またこのページを書き直しにこなくてはいけない日が来るのだろうな、というのも痛感しています。このギャップが成長なのか、後退なのか、それもわかる日が来るといいのですが。
竹村 広司(たけむら・ひろし) 32歳。E-Commerceの旗手となるべくデータマイニングを欠かさない今日この頃。「So Fabulous!」では佐野元春関連情報を掲載するも最近は更新もままならない状態。最近嬉しかったのはケーブルインターネットに入ったこと。一番の楽しみは子供と一緒に入るお風呂。メールはjuju@sutv.zaq.ne.jpまで。