logo 「親密な集い」


「佐野元春オフィシャル・ファン・アソーシエーション(mofa)」会員限定のライヴが行われたと聞いた。名古屋、大阪、東京、横浜の各所で開催され、佐野が通常行うライヴ会場と比べればいずれも小規模の、ライヴハウスで、アットホームな雰囲気の中行われたらしい。ここではSilverboyが先に記したライヴレポートをベースに、「ノット・ファンクラバー」としての立場から、こうしたファンクラブ会員限定ライヴについて考察してみたい。

まず、ぼく自身は現在も、過去においても佐野のファンクラブ会員であった事はないが、仮にぼくが会員であったと想像してみた場合、何千円かの年会費を支払って会員資格を維持していく以上、そこになにがしかの「見返り」がないと納得しないだろう。ほとんどすべてのアーティスト、バンドのファンクラブがそうであるように、mofaにも「ライヴチケット先行予約」という特典があり、当然ファンクラバーである事の、もっとも大きな魅力のひとつとなっている。もちろん、様々なグッズや会報などもその魅力の一つである事には違いないが、やはりチケット先行予約に優るものではないだろう。そして、今回行われたような「会員限定ライヴ」などはチケット先行予約を上回るような特典であり、まさに「会員冥利に尽きる」イヴェントだったろう。逆に、今まで東京以外ではこうしたイヴェントが一切行われていなかった事の方が不思議に思えてくるほどだ。

以上のような理由から、ぼくとしてはこうしたイヴェントを単純に肯定したい気持ちが強い。また、会場がライヴハウスである事から来る、親密でプライヴェイトな、「スペシャル」ライヴを体験できる特権(というと変に響くが)くらいは、持っていてもいいのではないか。せっかくファンクラブ会員でいるワケだから。ただ、Silverboyが指摘するように今回のライヴの質が、ヘタをすると予定調和的な「内向き」のそれになってしまう危険性は、確かにあっただろう。なぜもっと「外向き」のアクトを起こさないのか、というSilverboyの疑問はもっともだと言える。

しかし。ぼくは思うのだ。こうした「内向き」への危険性は、何もファンクラバー限定ライヴに限った話ではないのではないか、と。なんとなく、このところ佐野とファン(あるいはファン以外の層まで含めて、だと思うのだが)との関係性が「閉じた」それになってきているような気がしてならないのだ。前回参加した「Rock & Soul Review」ツアーでも、先日見た「HEY! HEY! HEY!」の放映でも、ぼくはそうした「空気」を強く感じてしまった。それはおそらく、今回Silverboyが「この日のライブにとても閉鎖的なものを感じずにはいられなかった」と述懐した「空気」と、同じものだったのではないかと想像する。

一つには音楽性の問題があるだろう。「HEY! HEY! HEY!」で演奏された「Sail On」にしても、オーソドックスなロッカバラードであり、どうしても年齢相応の「落ち着いた」ムードを感じざるを得ない。もちろん、アーティストの成長、変化を考慮に入れると、今の佐野に若い頃のような「闇雲なスピードや力」を伴ったロックンロールチューンを期待するのは見当違いだ。いくら「Someday」が傑作だからといって、「Someday」と同じような作品を作り続ける事になど何の意味もない。ただこうした音楽性の問題に限らず、佐野という存在が一般に受容されるに至った長い経緯を経て、今や「佐野元春」という存在はひとつの完成された、あるいは「閉じた」システムになってしまっているのではないだろうか。「やや天然の入ったユニークなキャラクタ」というテレビにおけるキャラをも含めて。

アットホームな雰囲気のもと、何百人という限定されたファンを前に演奏しても、1万人入るアリーナで演奏しても、あるいは何十万人という視聴者が見ているテレビプログラム中で演奏しても、佐野とオーディエンス(視聴者)との間で形成される「親密な集い」と呼べるような空気は同一のものではないか。そんな気がするのだ。

もちろん、こうした「空気」は、どんなアーティスト、バンドにせよキャリアを積めば必然的に生じてくるものだろう。だが、佐野が初期において発散していた「何だか分からないけどとにかく凄い」と思わせるような特異な感覚は、やはり佐野元春にしか表現できない特別な「何か」だった。初めてラジオで曲を聴いた時、初めてライヴを体験した時の「体ごと持って行かれるのではないか」というくらい強烈な体験の記憶を持つ者としては、今の佐野の姿に物足りなさを感じてしまうのも事実なのだ。若い世代が今の佐野をどう見ているのかは、正直分からない。テレビを見て、CDを買ってみようという気になった人はいるのだろうか。おそらくいるのだろう。だがぼく自身が今17歳の高校生だったと仮定してみた場合、「どうしてもこの人のCDを聴いてみたい」と思うような切実感を抱くのかどうか…。はっきり言って心許ない。

すでにできあがってしまった「佐野元春」というパブリックイメージを内側から突き崩すような凄みのあるライヴパフォーマンスができるのか。そういうアーティストであり続ける事ができるのか…。局面局面において期待される「佐野元春」像をいい意味で裏切り、みずからを常にアップデイトさせていく事…。それが今の佐野にとって最大のテーマではないかとぼくは思うし、彼はそれができるだけのアーティストだと思う。思うからこそ、長い間「ファンもどき」みたいな中途半端な立場を続けながら、彼の動向を気にし続けているのだ。来春発表されるという新作に、ぜひとも期待したい。(mine-D)



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