会社に入ったばかりの頃、僕は流行のDCブランド系のダブダブのスーツを好んで着ていた。幸い僕の職場ではそうしたことに目くじらを立てる上司はいなかったのでそれは何となくアクセプトされていたが、今になって思うとあの頃の僕は本当に掛け値なしのバカだった。大した仕事もできないぺーぺーの茶坊主がDCブランドとは笑わせる。どんなに高くてお洒落なスーツを着ていても肝心の仕事ができなければそれは滑稽なだけだ。当時の僕にはそのスーツはきっと似合っていなかったに違いない。
そのことに気がついたのは、ヨーロッパに転勤して、シティで働く敏腕の金融マンたちがみんなきちんとした仕立てのトラディショナルなダーク・スーツを着ているのを目の当たりにしてからだ。ここではだれもダブダブのDCスーツなんか着ていない。彼らには彼らの確固たるスタイルがあり、そしてそれは収益という具体的な実質に裏づけられることでどんな最先端のモードよりクールでカッコよく映る。スタイルとはどういうものか、スタイルにこだわるとはどういうことか、僕はそれを学んだ。
ザ・ジャムでビート・バンドとして考えられる限りの成功を手にしたポール・ウェラーが、そのバンドを終わらせて始めたグループの名前は「スタイル評議会」だった。ザ・ジャムでこの上のない実質をたたきつけたポール・ウェラーは、その実質に見合うスタイルを手に入れるための旅に出たのだ。「僕たちのお気に入りのお店」。そのまま「POPEYE」か何かの特集タイトルになりそうなこのアルバムの「スタイル評議会」ぶりは腰が抜けるほどクールでカッコいい。さあ、そろそろスタイルの話をしようぜ。
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