logo 2003/2/23 ライブEPIC25


日本にレコード会社はたくさんあるが、「レーベル」として明確なカラーを持ち、ここが出す新人なら聴いてみよう、と思わせるところはメジャーにはそれほど多くない。ましてやそれが25年も続き、それなりのビッグ・アーティストを何組も抱えてレーベル単位のアニバーサリー・ライブができるレコード会社はほとんどないと言っていいだろう。しかし、エピックはそんな数少ない「レーベル」のひとつである。

その25周年の記念ライブ、他ならぬ佐野元春が出演するということで足を運んだ。先に言ってしまえば佐野はトリで登場してパフォーマンスはわずか4曲、曲目は「約束の橋」、「So Young」、「アンジェリーナ」、そして出演者全員が出てきて大団円を迎える「SOMEDAY」であった。ストレートなロックンロールを基調にしながら原曲に比較的忠実なノリ重視のアレンジ、「SOMEDAY」だけはエンディングを意識してかかなり遅めのテンポで演奏された。

佐野は先の「PLUG & PLAY'02」ツアーで聴かせたのと同じ、敢えて声を張り上げないボーカリゼーションで、おそらくはキーを落としているのだろうと思われた。存在感というかカンロクという意味ではさすがと思わせるものもあったが、今のボーカルでは、大ホールを埋めた(1万人以上はいたんじゃないか)、佐野を聴きに来た訳でもない他のアーティストのファンも含めたオーディエンスを一撃でノックアウトするような説得力はなかったと言わざるを得ないだろう。「PLUG & PLAY'02」ツアーではファンクラブ限定という親密な雰囲気の中、少人数のファンを前にセミ・アコースティックで歌われた結果、以前のファルセットに比べればボーカルがはるかに真っ直ぐリスナーの心に届いていたが、今日のライブではホール中をグルグルまわる大音響の中に声が埋もれてしまい、何を歌っているのかよく聞こえない部分も少なくなかった。それは決して会場の音響特性やPAのせいだけではないと思う。

選曲は80年代のヒット曲を中心に歌うというこの日の趣旨からすれば穏当なところだったと思う。ただ、「So Young」を入れるなら「ガラスのジェネレーション」であってもよかった。「SOMEDAY」がエンディングで大団円に使われたのは以前の僕であれば白けたかもしれないが、今となってはこの曲がそういう形で多くの人に受け入れられているという事実を誇りにしたいと思う。この曲は、佐野元春マニア以外に歌われてこその曲なのだと僕は思うからだ。

しかしまあ、今回のライブがある種の「お祭り」であったことを考えれば、あまり分析的に過ぎるのは野暮というものだろう。イベント全体が殊更に80年代当時のヒット・パレードであったことが、エピックの25年を考えるときにあまりに回顧的であったという見方もできない訳ではないが、初めからそういう趣旨で催されているライブなのだし、オーディエンスもそのつもりで見に来ているのだから、それはそういうものとして楽しんでおけばいいのだと思う。

そういう意味では今回のイベントは僕にとっても感慨深いものだった。出演者の中できちんと聴き続けているのは佐野だけだったが、何組かはかつてよく聴いたアーティストだったし、アルバムだって持っていた。中でも特に印象深かったのは大江千里の「REAL」とザ・モッズの「バラッドをお前に」だった。この二つの演奏は、優れた曲というものが時代や状況を超え、いろんな立場、いろんな考えの人がそれぞれに自分を幾重にも投影できる重層性を備えているのだということを明らかにして見せたと思う。ハリーの「風が強い日」もそんな演奏だった。

バービーボーイズのパフォーマンスも楽しかった。大学生の頃、すしづめのライブハウスで見た彼らのステージを思い出した。残念だったのは大スクリーンにいまみちともたかがほとんど映し出されなかったことだ。杏子とコンタがフロントとして大写しになるのは当然だが、僕としてはいまみちがギターを弾いている姿をもう少し見たかった。だって小室哲哉は歌を歌わないのにあんなに映ってたじゃないか…。

この場にいればよかったのにと思わされたのはボ・ガンボスだ。開演前に会場に流れていた「憧れの地へ」が少しずつヴォリューム・アップして本編になだれ込んだり、終演後に「Sleepin'」が流れたりする演出は、エピックが失ったこのアーティストの不在の大きさを物語っていた。最後のスタッフ・ロールでは、このライブが(他の何名かに混じって)どんとに捧げられたものであることが示されていた。

佐野の出番は少なかったが、全体として素直に楽しめるイベントであったと思う。ハウス・バンドの演奏も非常にタイトだった。あとひとつ言っておくとすれば、いくら懐かしくても嫌いなものは嫌いだということかな。それから、「これだれや」と大きな声で言ってた君、あれはストリート・スライダーズのハリーや。よう覚えとけ。ていうか分からんかったら黙っとけ。スライダーズのファンを怒らせたら恐いぞ。



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