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The Essential Cafe Bohemia

2006.12.6発売
Sony Misic Direct / MHCL 971-3

PRODUCER
佐野元春

作詞・作曲・編曲
佐野元春
DISC ONE

Original Tracks
●カフェ・ボヘミア(Introduction)
 Cafe Bohemia (Introduction)
●ワイルド・ハーツ―冒険者たち
 Wild Hearts
●シーズン・イン・ザ・サン―夏草の誘い
 Season In The Sun
●カフェ・ボヘミアのテーマ
 Cafe Bohemia
●ストレンジ・デイズ―
 Strange Days
●月と専制君主
 Sidewalk Talk
●ヤングブラッズ
 Youngbloods
●虹を追いかけて
 Chasing Rainbow
●インディビジュアリスト
 Individualists
●99ブルース
 99 Blues
●カフェ・ボヘミア(Interlude)
 Cafe Bohemia (Interlude)
●クリスマス・タイム・イン・ブルー
 ―聖なる夜に口笛吹いて
 Christmas Time In Blue
●カフェ・ボヘミア(Reprise)
 Cafe Bohemia (Reprise)

Bonus Tracks
●アンジェリーナ(Slow Version)
 Angelina (Slow Version)
●シャドウズ・オブ・ザ・ストリート
 Shadows Of The Street
●ルッキン・フォー・ア・ファイト
 ―ひとりぼっちの反乱
 Looking For A Fight
DISC TWO

Bonus Tracks
●虹を追いかけて
 (2006 middle & mellow groove version)
 Chasing Rainbow
●月と専制君主(Extended Mix)
 Sidewalk Talk
●インディビジュアリスト(Extended Mix)
 Individualists
●99ブルース(Extended Mix)
 99 Blues
●ヤングブラッズ(Special Dance Mix)
 Youngbloods
●クリスマス・タイム・イン・ブルー
 ―聖なる夜に口笛吹いて
 (Vocal / Extended Dub Mix)
 Christmas Time In Blue
●ヤングブラッズ(Hello Goodbye Version)
 Youngbloods
●インディビジュアリスト(Dub Mix)
 Individualists
●クリスマス・タイム・イン・ブルー
 ―聖なる夜に口笛吹いて
 (Instrumental / Orchestra Version)
 Christmas Time In Blue
●双子のコマドリとゴールデンフィッシュ
 Twin Robin And Goldenfish
●ブルーベルズの'サマー'
 Summer
●自由の岸辺
 La Costa Libre
●サンデーアフタヌーン
 Sunday Afternoon
●完全な製品
 Perfect Production
●ある9月の朝
 One September Morning
●…までに
 Until...

アルバム「Cafe Bohemia」のリリース20周年を記念し、ボーナス・トラックやDVD、小冊子などを追加して生産限定で発売された企画盤。全体は「Music」「Movie」「Notes」「Words」の四つに別れている。

「Music」は2枚のCDから構成されており、ディスク1はアルバム「Cafe Bohemia」の全編と、ボーナス・トラックとして、シングルのカップリングである「アンジェリーナ(Slow Version)」「Shadows Of The Street」「Looking For A Fight」の3曲を収録。ディスク2は全編がボーナス・トラックであり、このリリースのために新たにHKBとともにレコーディングされた「虹を追いかけて」の新録バージョンを筆頭に、12インチシングルの音源、「mf VARIOUS ARTISTS VOL.1」でリリースされていたブルーベルズの音源、そして「ELECTRIC GARDEN #2」からの音源などを収録している。尚、「双子のコマドリとゴールデンフィッシュ」はブルー名義、「サマー」「自由の岸辺」「サンデー・アフタヌーン」はブルーベルズ名義。

「Notes」は50ページほどの小冊子で、この時期の佐野の活動の概要を取りまとめたバイオグラフィと佐野へのインタビューで構成(歌詞カードはCDケースに別紙で封入)、「Words」も同じく50ページほどの小冊子で、アルバムのスリーブや「ELECTRIC GARDEN #2」、それに当時佐野が主宰していた雑誌「THIS」で発表された詩やメッセージを掲載している。尚、「Movie」はDVDであり、別稿で解説する。

このアルバムは、1年間のニューヨークでの生活で「VISITORS」というエポックメイキングな作品を制作した佐野が、活動の拠点を再び東京に移して自らの活動の新しいフェイズをスタートした記念すべき作品である。初期作品のアドレッサンスに訣別し、成長とともに僕たちが不可避的に背負いこまざるを得ない責任に、「個人主義」という概念をキーワードにしながら対峙しようというある種のコンセプト・アルバムだと言っていい。

この時期、佐野は都市生活の中に「真実」や「無垢」を探すことの困難さを、それに向かい合う「個」のあり方の問題に還元しようとした。なぜなら、僕たちの日常にあって僕たちを「真実」や「無垢」から隔てているのは、決して僕たちとは違う岸に立つ悪意のあるだれかではなく、僕たちもそこに含まれる「世界」そのものの不完全さだからだ。僕たちはその不完全さをともに背負い、その不完全な場所から自分自身の「真実」や「無垢」に対する「希求」の強さを信じて行くしかないのだ。そのように考えるとき、僕たちは、今まで向こう岸にあるように見えた問題が実はすべて自分自身の問題であるということ、つまり自分がそれらの問題に対してどのようにコミットし、どのように振る舞うのかこそが問われているということに気づかざるを得ない。

同時期に佐野が発刊した雑誌「THIS」で佐野は、1920年代のパリに住み、カフェに集まっては議論を交わした作家や芸術家の系譜を紹介している。そうした「希求」を引き受けるべき「個」のモデルを、佐野はカフェに集まる人々に求めたのだ。「都市生活」に自覚的にコミットし、知的でソリッドなコミュニケーションを交わす「個人主義者」。自己責任と自己決定という「自由」の本質への眼差しを基礎に、何者にも束縛されることのない都市にこそ居場所を見出すボヘミアンたち。彼らの集う場所としての「カフェ・ボヘミア」こそ、佐野元春が「真実」や「無垢」への新しいアプローチの根拠地として目指したものだった。

この試みが佐野のキャリアの中でどのような帰結を迎えたのかはこれに続くアルバムを聴くしかない訳だが、この時提示された「カフェ・ボヘミア」というコンセプトは現在でも生き続けている。ただのおしゃべりや井戸端会議ではなく、コミュニケーションの不全に絶望するからこそ、そこに分け合える何かを求めて集まり、議論をする場としてのカフェ。その原点はここにあったと言えよう。

パッケージとしてのこの企画を考えるとき、カップリング曲などをボーナス・トラックとして丁寧に拾い上げたことは評価されてしかるべきだろう。「虹を追いかけて」の新録を除いては、新たにリミックス等を行うことなく、入手が困難なトラックをそのまま収録したのは良心的だ。また、パッケージそのものも当時の雰囲気を生かしたヨーロピアンでシックなデザインに仕上がっており(デザインは駿東宏)、魅力あるアイテムとなった。

難があるとすれば、佐野のメインストリームの活動とは一線を画すべきブルーベルズ名義のリリースを再録したことだろう。「ELECTRIC GARDEN #2」の音源も敢えてここに収録する必要があったのか疑問だ。一方で「Young Bloods」の12インチシングルのカップリングは収録されなかった。また、ブルーベルズの曲にはそれぞれ、当時ラジオ番組でプレゼントされたシングル盤に収録されたリミックス・バージョンが存在するがそれも収録されていない。このようなボーナス・トラックとしてよりは、カップリング、ブルーベルズ、スポークン・ワーズなどをそれぞれ系統だったコンピレーションとしてリリースする方が親切ではないかとも思う。

小冊子は丁寧に作りこまれている。特に現在では手に入れることの難しい「THIS」などから詩などを再録した「Words」は、リアルタイムで当時の佐野の活動に立ち会えなかったリスナーには貴重な資料になるだろう。

最後に、「虹を追いかけて」の新録についてであるが、この新録は素晴らしい。かつて「君をさがしている」をバーズのマナーで再録したのと同様に、70年代ソウル(中でもアル・グリーン)の文法に則って再録したこのテイクでは、20年を経てこの曲が持つ本来の眼差しがより切実に迫ってくる名演となった。HKBの確かな曲解釈、そして現在の佐野の声質に合わせたボーカル。佐野の音楽表現の可能性を広げる秀逸な新録である。



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