logo 楽しい唄はどこにある


あんなに楽しいライブはなかった。僕はこれまで洋楽、邦楽を合わせてそれなりの数のライブを見てきたが、ライブの間じゅう顔が笑いっぱなしで楽しいなんていうライブはボ・ガンボスのそれだけだった。もちろんそれはMCが面白いとか曲がコミカルだとかいう意味ではない。そういう要素も幾分はあったにせよ、ボ・ガンボスのライブが楽しかったのは、それが音楽の本質を解放していたからだ。人の心を揺さぶり、慰め、泡立たせる音楽の力が確かにそこで現前していたからだ。

僕たちはそこで自由になることができた。たとえそれがその場限りの幻に過ぎなくても、僕たちはそこで心の沸き立つ瞬間を見ることができたし、僕たちの日常をやりくりするための力がそこに宿っているのを確かに感じることができた。そのような祝祭によって僕たちの生活がいったんぶちのめされ、何の変わりばえもない夜や朝がそれによって別の意味を持つこともあるということを、僕たちはそこで学んだ。それはすべてボ・ガンボスが、どんとが教えてくれた。

しかし、その幸福な時期は長くは続かなかった。ボ・ガンボスはその祝祭の熱をメディアに乗せられないまま空中分解し、どんとは沖縄に移り住んだが、それは僕には厭世的なデタッチメントとしか映らなかった。ヒッピーが犯した過ちを、どんともまた繰り返していると思った。僕たちは都会に住み、都会で個のあり方に向かい合うべきだし、どんとが見せてくれた祝祭のエネルギーは僕たちの日常の場にあってこそ力を持つはずのものだ。僕たちは簡単に街を離れる訳には行かないのだ。

僕は待ち続けた。だがどんとは街に帰ってこなかったし、もう帰ってくることはなくなってしまった。街にはまだどんとの祝祭を切実に求めている子供たちがたくさんいるというのに。それが残念だ。

今夜僕は「Sleepin'」を聴こう。そこでどんとはこう歌っている。僕の好きな唄だ。

楽しい唄は どこにある 大きな声を はりあげて
屋根の上から ながめれば 昔の唄が 流れてる

稀有なソングライターであり優れたロック・パフォーマーであったどんとの早すぎる死を悼む。

このまま 遊ばせてくれよ
どこでも 眠らせてくれよ



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