Belle and Sebastian 
 
  
  
  
TIGERMILK 
Belle and Sebastian 
 
Jeepster 
1996
  
■ The State I Am In 
■ Expectations 
■ She's Losing It 
■ You're Just A Baby 
■ Electronic Renaissance 
■ I Could Be Dreaming 
■ We Rule The School 
■ My Wandering Days Are Over 
■ I Don't Love Anyone 
■ Mary Jo 
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ベル&セバスチャンの音楽を聴くと、「あ、これは知ってるヤツや」と思う。そこには音楽的な革新はなく、ただアコースティック・ギターの穏やかな鳴りと細い声でひそやかに歌うボーカルがあるだけ。こういう音楽を僕たちは確かにいつかどこかで聴いた。だがいくら考えても、そのような音楽が実際にはこれまでどこにも存在しなかったことに僕たちは気づく。そこにあるのは捏造されたニセの記憶、生きられなかったもうひとつの生だ。
  
もちろん、そこで下敷きにされたエピソードの断片はある。80年代のポスト・パンク、とりわけ本邦ではネオアコと呼ばれるギター・ポップの一派、またザ・スミス。そうした現実と地下で水脈を通じながらも、ここにあるのは「僕たちの知っているなにかにとても似ているが実際のところはなにものでもない音楽」、あるいは陰影だけがあって実物の存在し得ない架空のポップ。ここにあるのはコンセプトであり、音楽は装置に過ぎないのだ。
  
本作はグラスゴーの学生だったスチュアート・マードックが、大学の音楽ビジネスのコースでメンバーを集め1996年に学内のレーベルから千枚のみのプレスでリリースしたファースト・アルバム。以後の作品よりはいくぶん「生身」のマードックが見える隙間もあるが、ベルセバ自体がある種のコンセプチュアル・アートであるという出自はすでにここではっきりしている。そしてそれを支える表現力が初めから高い次元で具わっていたことも。
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IF YOU'RE FEELING SINISTER 
Belle and Sebastian 
 
Jeepster 
1996
  
■ The Stars Of Track And Field 
■ Seeing Other People 
■ Me And The Major 
■ Like Dylan In The Movies 
■ The Fox In The Snow
  
■ Get Me Away From Here, I'm Dying 
■ If You're Feeling Sinister 
■ Mayfly 
■ The Boy Done Wrong Again 
■ Judy And The Dream Of Horses 
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ジープスター・レーベルからリリースされた事実上のデビュー作。なにかのレビューにも書いてあったが、このアルバムはとても静かに始まる。聞こえないのでボリュームを上げると、曲の途中からだんだん音が大きくなり、サビのあたりではかなりの音量になってあわててボリュームを絞ることになる。それはスチュアート・マードックによって意図的にしかけられたリスナーへの注意喚起だ。ここに隠された底意があるというサインなのだ。
  
ひとつひとつの曲を聴けばそれは穏やかでありながらも凛としたアコースティック・ポップだ。ブラシで叩かれるスネアの音、効果的に挿入されるトランペットやチェロ、バイオリン、かき鳴らされるアコースティック・ギターなど、スコティッシュ・ポップの最良の系譜に連なる聴きやすい音楽だ。マードックのソングライティング、アレンジの能力はこの時期にしてすでに完成しており、デビュー作とは思えない高い水準の仕上がりである。
  
しかし聴けば聴くほど、マードックが本当に聴かせたかったのはそうしたひとつひとつの「歌」であるよりは、そうしたものの総体としてのベルセバというひとつのあり方だったのではないかと思えてくる。どこにもなかったはずの夏休みの記憶を、しかし現実以上に美しく、残酷に、リアルに描きだして見せたのがベルセバであり、ひとつひとつの曲は架空の絵日記のページに過ぎない。架空だからこそ本質を一撃できる、そういうアルバム。
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THE BOY WITH THE ARAB STRAP 
Belle and Sebastian 
 
Jeepster 
1998
  
■ It Could Have Been A Brilliant Career 
■ Sleep The Clock Around 
■ Is It Wicked Not To Care? 
■ Ease Your Feet In The Sea 
■ A Summer Wasting 
■ Seymore Stein
  
■ A Space Boy Dream 
■ Dirty Dream Number Two 
■ The Boy With The Arab Strap 
■ Chickfactor 
■ Simple Things 
■ The Rollercoaster Ride 
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前作から2年のインターバルでリリースされた3枚めのスタジオ・アルバム。数日間でレコーディングされた過去の作品と異なり、バンドで数カ月にわたるセッションを行って作り上げたとされ、スチュアート・マードック以外のメンバーが書いた曲、ボーカルを務めた曲も収められた。チャート・アクションも悪くなく、彼らの出世作と言っていい。アルバム・タイトルは同じスコットランド出身で交流のあったアラブ・ストラップにちなんだ。
  
このアルバムでは前作ですでに顕著だった「どこにもない架空の記憶」や「実際には生きられなかった過去」「巧妙に捏造された歴史」のような、それまるごとがある種の箱庭であるようなアート・フォームとしてのベルセバの特権性がより自覚的に、暴力的に行使されている。なかったできごとを思い出して流す涙のような、兵器レベルまで尖鋭化された純粋な感傷が僕たちの想像上の傷を開こうとする。痛く甘美で危険なドラッグのようだ。
  
一方で音楽的な表現の幅が確実に広がっており、特にスティーヴィ・ジャクソンが歌うスローな『Seymore Stein』からポエトリー・リーディングを乗せたジャズ・インスト『A Space Boy Dream』、ポップな『Dirty Dream Number Two』への流れは彼らの秘めた可能性を印象づける。「すべての激しい闘いは想像力の中でおこなわれました」という村上春樹の小説※のフレーズを思いだした。ナイーヴさを世界観にまで昇華したおそるべき作品だ。
  
※村上春樹『かえるくん、東京を救う』(短編集「神の子どもたちはみな踊る」所収)
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FOLD YOUR HANDS CHILD, YOU WALK LIKE A PEASANT 
Belle and Sebastian 
 
Jeepster 
2000
  
■ I Fought In A War 
■ The Model 
■ Beyond The Sunrise 
■ Waiting For The Moon To Rise 
■ Don't Leave The Light On Baby 
■ The Wrong Girl 
■ The Chalet Lines 
■ Nice Day For A Sulk 
■ Woman's Realm 
■ Family Tree 
■ There's Too Much Love 
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2年弱のインターバルでリリースされた4作目のスタジオ・アルバム。これまでスチュアート・マードックがほぼひとりで曲を書き、歌っていたが、このアルバムではスティーヴィー・ジャクソン、サラ・マーティン、イゾベル・キャンベルらがボーカルを担当する曲が収められ、またそれらを書いてもいると見られる。タイトルはマードックが大学のトイレで見かけた落書きからとられたものでマードック自身も意味はわからないのだという。
  
これまでの密教の秘典のような、特殊な修練を積んだものでなければ解釈し得ない難解さや晦渋さ、意図を通じた者どうしがこっそりだれにもわからない言葉で交信するような底意地の悪さはやや後退し、あたりまえのポップ・ソングとして西暦2000年の地面にいくらかなりとも触れていたいという欲求の萌芽を感じる。上記のような制作過程もあってか、アルバム全体として風通しがよくなったというかそもそも初めて風が吹いたといえる。
  
これまでベルセバという物語の劇中歌に過ぎなかったひとつひとつの歌が、ここではひとつの作品として自立しようとするモメンタムを感じるのだ。それでいて、複数のボーカリストを擁しながらもアルバムの印象は統一されており、それはベルセバというコンセプト・アートの構成力がハンパないということを意味しているのか。このアルバムを最後にスチュアート・デイヴィッド、イゾベル・キャンベルがバンドを脱退。扉を開いた作品。
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STORYTELLING 
Belle and Sebastian 
 
Jeepster 
2002
  
■ Fiction 
■ Freak 
■ Dialogue: Conan, Early Letterman 
■ Fuck This Shit 
■ Night Walk 
■ Dialogue: Jersey's Where It's At 
■ Black And White Unite 
■ Consuelo 
■ Dialogue: Toby 
■ Storytelling 
■ Dialogue: Class Rank 
■ I Don't Want To Play Football 
■ Consuelo Leaving 
■ Wandering Alone 
■ Dialogue: Mandingo Cliche 
■ Scooby Driver 
■ Fiction Reprise 
■ Big John Shaft 
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2年のインターバルでリリースされた5作目のスタジオ・アルバムであるが、純粋なオリジナル・アルバムではなく、トッド・ソロンズ監督による同名の映画のサウンド・トラックである。といっても映画本編にはこのアルバム収録のトラックから数分程度しか使われていないらしく(映画を見ていないのでよくわからない)、ボーカルの入ったトラックは6曲のみ、他はインストや映画のセリフであり全体でも35分のコンパクトなアルバムである。
  
結果としてまるで架空の映画のサントラを作ったような形になったのがおかしいが、聴いてわかるのは、ポップ・アーティストのオリジナル・アルバムという枠を取り払ったことで、スチュアート・マードックが実に自由に、楽しそうに音楽を作りだしていることである。ボーカル曲はどれも他のアルバムでは見られないリラックスした手ざわりで、パズルのピースのようにそこにある意味を厳しく求められたりせず、気持ちよく歌われている。
  
インスト曲や映画からのダイアログを加えたアルバム全体としても、「もしベルセバがサントラを作ったら」という授業の課題に対するレポートのようで、結局のところ映画本体がどうであれ関係ないのではないかと思うほど、サントラであるこのアルバム自体が単体で完結している。今回レビューするにあたって映画も見てみようかと思ったが、きっとあまり参考にならないだろうと思ってやめた。ある種の番外編として素直に楽しめる作品。
  
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DEAR CATASTROPHE WAITRESS 
Belle and Sebastian 
 
Rough Trade 
2003
  
■ Step Into My Office Baby 
■ Dear Catastrophe Waitress 
■ If She Wants Me 
■ Piazza, New York Catcher 
■ Asleep On A Sunbeam 
■ I'm A Cuckoo 
■ You Don't Send Me 
■ Wrapped Up In Books 
■ Lord Anthony 
■ If You Find Yourself Caught In Love 
■ Roy Walker 
■ Stay Loose 
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ジープスターからメジャー・レーベルであるラフ・トレードに移籍しての第一弾となるアルバム。サントラであった前作から数えれば1年のインターバルでリリースされた6枚めのスタジオ・アルバムとなる。プロデューサーにトレバー・ホーンを起用したというニュースを聞いたときにはいったいどんな作品になるのか不安しかなかったが、メジャーに移籍して著名なプロデューサーを起用した意味や意図がきちんとわかるアルバムになった。
  
多くの人はホーンによるオーバー・プロデュースを懸念しただろうが(僕もそうだった)、ここでは贅沢なオーケストレーションを施しながらもアレンジはかなりすっきりと整理され、彼らが自然に成長するとこうなるという納得性のある仕上がりになっている。それは逆にいえばスチュアート・マードックの音楽の中心にあるある種のかたくななものがだれの手をもってしても簡単には損なうことのできないものだということかもしれない。
  
とはいえ、どこまでトレバー・ホーンの仕事かはわからないものの、曲の表情がくっきりと明るく、華やかになったのは間違いない。これまでの彼らの音楽の基本的な動因が悔恨であったり憧憬であったり、なにかもはや取り返しのつかないものやことへのまなざしであったのに比べると、ここには明らかに今ここにあるものへの視線があるように思われる。生きて動くものとのコミットメントに向けた祝福の音楽。幾分の悪意はあるにせよ。
  
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PUSH BARMAN TO OPEN OLD WOUNDS 
Belle and Sebastian 
 
Jeepster 
2005
  
■ Dog On Wheels 
■ The State I Am In 
■ String Bean Jean 
■ Belle And Sebastian 
■ Lazy Line Painter Jane 
■ You Made Me Forget My Dreams 
■ A Century Of Elvis 
■ Photo Jenny 
■ A Century Of Fakers 
■ Le Pastie De La Bourgeoisie 
■ Beautiful 
■ Put The Book Back On The Shelf
  
further tracks...
■ This Is Just A Modern Rock Song 
■ I Know Where The Summer Goes 
■ The Gate 
■ Slow Graffiti 
■ Legal Man 
■ Judy Is A Dick Slap 
■ Winter Wooskie 
■ Jonathan David 
■ Take Your Carriage Clock And Shove It 
■ The Loneliness Of A Middle Distance Runner 
■ I'm Waking Up To Us 
■ I Love My Car 
■ Marx And Engels 
 
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ジープスター時代のシングル、EPの収録曲をまとめた2枚組のコンピレーション。「Dog On Wheels」(1997、1-4)、「Lazy Line Painter Jane」(1997、5-8)、「3.. 6.. 9 Seconds Of Light」(1997、9-12)、This Is Just A Modern Rock Song」(1998、13-16)、「Legal Man」(2000、17-19)、「Jonathan David」(2001、20-22)、「I'm Waking Up To Us」(2001、23-25)の7枚計25曲。オリジナル・アルバムとの重複は『The State I Am In』のみ。
  
基本的には発売順に並べただけのシンプルな構成(7と8だけがなぜかシングルの曲順と入れ替わっている)だが、3曲または4曲で勝負するフォーマットだけに、そこに集中するこの時期のスチュアート・マードックの才気走ったプロダクションが遠慮なくてよい。いちおうタイトル・ソングとカップリングとかいう意識はあるのだろうが、アルバムのように全体の構成とかバランスを考えなくていい分、単発の実験的な試みとかもあって面白い。
  
特に『Legal Man』あたりはベルセバがアコースティックからリズム・オリエンテッドなものにレンジを広げて行こうとする動きの原点になったナンバーであり、シングルだからこそ出せた面が大きい。とはいえこの時期のベルセバはそれ自体がアートフォームであっただけに、こうしてシングルをまとめて発表順に聴いてみても散漫な印象はない。コンピレーションだが彼らの歴史を追うためには外せない。収録のシングル7枚全部持ってる。
  
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THE LIFE PURSUIT 
Belle and Sebastian 
 
Rough Trade 
2005
  
■ Act Of The Apostle 
■ Another Sunny Day 
■ White Collar Boy 
■ The Blues Are Still Blue 
■ Dress Up In You 
■ Sukie In The Graveyard 
■ We Are The Sleepyheads 
■ Song For Sunshine 
■ Funny Little Frog 
■ To Be Myself Completely 
■ Act Of The Apostle II 
■ For The Price Of A Cup Of Tea 
■ Mornington Crescent 
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2年のインターバルでリリースされた7枚めのスタジオ・アルバム。今回はベックなどのプロデュースで知られるトニ・ホファーを迎え、西海岸でレコーディングされた。別に著名なプロデューサーと仕事がしたいとか海外でレコーディングをしたいと思ってメジャーに移籍したわけではないだろうが、自分の表現を更新し続けることに躊躇のないマードックの態度は、彼のアーティストとしての誠実さの表れだろう。インテリジェンスを感じる。
  
それは逆にだれとどこで作ろうがもはや聞き間違えようのないベルセバとしての記名性がすでにしっかりとできあがっており、その核心にはだれであれ指一本触れさせないしその必要もないというマードックの強い確信がそこにあるということでもある。このアルバムでは、前作で獲得した開放感がさらにリズムのあと押しを得てよりリアルにリスナーに響いてくる。かつて彼が周到に忌避してきた具体性すらもはや取るに足りないものなのだ。
  
肉体性を忌避することでどこにもあり得ない王国を建設してきた彼らが、ここまでオープンで、フィジカルなアルバムを制作したのはLAの太陽のせいだけではないだろう。ひとつひとつの曲にきわだったアレンジを与え、アルバムに流れを作ったのはホファーの仕事なんだろうが、ベルセバがベルセバでなくなってしまうギリを攻めたのはマードックの戦略性。『Another Sunny Day』を聴けばそこで変わったものと変わらないものとがわかる。
  
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WRITE ABOUT LOVE 
Belle and Sebastian 
 
Rough Trade 
2010
  
■ I Didn't See It Coming 
■ Come On Sister 
■ Calculating Bimbo 
■ I Want The World To Stop 
■ Little Lou, Ugly Jack, Prophet John
  
■ Write About Love 
■ I'm Not Living In The Real World 
■ The Ghost Of Rockschool 
■ Read The Blassed Pages 
■ I Can See Your Future 
■ Sunday's Pretty Icons 
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前作から4年以上のインターバルを経てリリースされた8枚めのスタジオ・アルバム。プロデューサーには前作と同じトニ・ホファーを迎えた。ノラ・ジョーンズがM5にゲスト・ボーカルで参加している。前二作のオープンな構造は維持しつつもここでは表現自体は抑制的であり、潔癖さで世界と対峙していた初期のような、最低限必要なものだけをスクラッチから積み上げたミニマルなアプローチへの回帰が一部の楽曲から感じ取れて興味深い。
  
それでも、秘密の合言葉を知っている者どうしでしか話をしないような閉鎖性、密室性はもはやない。メジャーでのアルバムも3枚めとなって曲づくり、アルバムづくりに自信を深めたからこそ、絵の具の色づかいを一度グッと抑えてみたとでもいうかのようだ。微妙な濃淡、混色によるバリエーションなど、限られた色数でも美しい絵は描けるのだということをスチュアート・マードックがあらためて認識し、それを示そうとしたアルバムだ。
  
そこにビートの利いたポップ・チューンがうまく組み合わされているせいで、アルバム全体の印象は決して暗くない。全体としてメリハリの利いたバランスのいい作品に仕上がったのはトニ・ホファーの力か。だがそれを下支えしているのがひとつひとつの曲の完成度なのは間違いのないところで、きちんと耳に残るフレーズをブッ込んでくるマードックのソングライティングをあらためて認識。完成度の高い作品でひとつの到達と言っていい。
  
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THE THIRD EYE CENTRE 
Belle and Sebastian 
 
Jeepster 
2013
  
■ I'm A Cuckoo (By The Avalanches) 
■ Suicide Girl 
■ Love On The March 
■ Last Trip 
■ Your Secrets 
■ Your Cover's Blown  (Miaoux Miaoux Mix) 
■ I Took A Long Hard Look 
■ Heaven In The Afternoon 
■ Long Black Scarf 
■ The Eighth Station Of The Cross Kebab House 
further tracks...
■ I Didn't See It Coming  (Richard X Mix) 
■ (I Believe In) Travellin' Light 
■ Stop, Look And Listen 
■ Passion Fruit 
■ Desperation Made A Fool Of Me 
■ Blue Eyes Of A Millionaire 
■ Mr Richard 
■ Meat And Potatoes 
■ The Life Pursuit
 
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「Push Barman...」以降にリリースされたシングル、EPの収録曲を中心に編まれたコンピレーション・アルバム。具体的には2003年の「Step Into My Office, Baby」から2011年の「Come On Sister」までのシングルをカバーしているが、この時期はシングルとアルバムに重複があるため、本作にはオリジナル・アルバムに収録されなかったカップリング曲を中心に、未発表バージョン、アルバムのボーナス・トラックなども併せて収められた。
  
オリジナル・アルバムで構成される世界とは交わらない別の世界線をシングルで構築していた「Push Barman...」の時期とは異なって、ここでは彼ら自身の表現が開かれながらそうしたいくつかの物語がひとつに統合されようとしており、このコンピレーションもよりレア・トラックス集やアウト・テイクス集に近い印象の作品になっている。しかしシングルだからこその肩の力の抜けたシンプルなポップ・ソングが多いのは間違いないところ。
  
全体の流れにひっぱられることがない分、遠慮なくのびのびと、ときとして実験的な試みから短尺の小品、インストルメンタルまで、シリアスなものからノリ一発の思い付きまでさまざまな作品がそろい、アルバムとして通して聴いても退屈しない。ベルセバの作品をひと通り聴いておこうとするなら外せないコンピレーションであり、この時期に彼らの音楽がどうやってその表現の幅を少しずつ押しひろげて行ったかがよくわかるアルバムだ。
  
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GIRLS IN PEACETIME WANT TO DANCE 
Belle and Sebastian 
 
Matador 
2014
  
■ Nobody's Empire 
■ Allie 
■ The Party Line 
■ The Power Of Three 
■ The Cat With The Cream 
■ Enter Sylvia Plath
  
■ The Everlasting Muse 
■ Pefect Couples 
■ Ever Had A Little Faith? 
■ Play For Today 
■ The Book Of You 
■ Today (This Army's For Peace) 
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前作から4年のインターバルでリリースされた9枚めのオリジナル・アルバム。ラフ・トレードからマタドールに移籍、アニマル・コレクティヴなどで知られるベン・アレンをプロデューサーに迎えてアメリカで制作された。ラフ・トレードからメジャー・デビューして以来取り組んできた表現領域の拡張が前作で所期の達成を見たあと、スチュアート・マードックがベルセバというアート・フォームになにを盛りこむかが問われる作品となった。
  
ここでのマードックはリズム面で大きな広がりを見せている。アニマル・コレクティヴでパーカッシヴな祝祭空間を構築したベン・アレンの力も寄与したか、とりわけダンサブルなディスコ・ミュージックへのアプローチが目につく。ペット・ショップ・ボーイズを下敷きにしたかのような半自動テクノがアルバムをドライブする燃料になっているのは間違いのないところであり、発売時には「ベルセバがダンスフロアに進出」と話題になった。
  
しかし、もちろんベルセバの本質というかマードックの世界に対する視線そのものはなにも変わっていないわけで、ただそこに人を呼びこむ集魚灯みたいなものがどんどん周到に、オープンになっているだけのことのような気がしている。我々の生きるべき世界は、時間軸はどこにあるのか、そこではどんな音楽が流れているのか。マードックが注意深く構築してきた世界はますます強固になりそのぶん許容度も増強されたある意味ヤバい作品。
  
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HOW TO SOLVE OUR HUMAN PROBLEMS 
Belle and Sebastian 
 
Matador 
2017
  
■ Sweet Dew Lee 
■ We Were Beautiful 
■ Fickle Season 
■ The Girl Doesn't Get It 
■ Everything Is Now 
■ Show Me The Sun 
■ The Same Star 
■ I'll Be Your Pilot 
■ Cornflakes 
■ A Plague On Other Boys 
■ Poor Boy 
■ Everything Is Now (Part Two) 
■ Too Many Tears 
■ There Is An Everlasting Song 
■ Best Friend 
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2017年末から翌2018年にかけて連続してリリースされた3枚のEPの収録曲を1枚のアルバムにまとめたもの。EPはいずれもアルバムと同タイトルの「Pt.1」から「Pt.3」として統一されたフォーマットのもとに一連で製作されており、オリジナル・アルバムが分割して発表された意味あいが強いもの。レコーディングはグラスゴーで、バンドとブライアン・マクニール、ポール・サヴェイジ、レオ・アブラハムズらのプロデュースにより行われた。
  
Pt.1のラストに置かれていたインストの『Everything Is Now』がPt.3の2曲めにボーカル入りであらためて収録されるなど、アルバムとして通しで聴かれることはあらかじめ想定されているようだ。リズム面で大胆なアプローチを見せた前作から一転し、このアルバムではオーソドックスでポップな「歌」への回帰を感じさせる。しかし、聴くことに必要以上のテンションを要求しない「表現のオープン化」はここでも間違いなく前進している。
  
アルバム・タイトルは、物質文明の発達によってもたらされる人間性の問題を瞑想で超克するという宗教書のタイトルからいただいたもの。しかしスチュアート・マードックはもちろん「人間性の問題」みたいな雑な問題設定そのものを嗤っているのだし、彼らの表現が平易に、オープンになるほど、その底意地の悪い視線は巧妙に、それとはわからないようなかたちでその奥底のどこかにしのばされているのだ。曲数多く長いのがタマにキズ。
  
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DAYS OF THE BAGNOLD SUMMER 
Belle and Sebastian 
 
Matador 
2019
  
■ Sister Buddha (Intro) 
■ I Know Where The Summer Goes 
■ Did The Day Go Just like You Wanted? 
■ Jill Pole 
■ I'll Keep It Inside 
■ Safety Valve 
■ The Colour's Gonna Run 
■ Another Day, Another Night 
■ Get Me Away From Here I'm Dying 
■ Wait And See What The Day Holds 
■ Sister Buddha 
■ This Letter 
■ We Never Glorious 
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サイモン・バード監督の同名の映画のサントラだが、既発曲の新録2曲、インスト4曲の他は新曲であり、実質新譜と言っていい内容。聞き覚えのある曲が要所に配されているせいもあってか、全体に初期のアマチュア臭いアコースティック・ポップへの回帰を感じさせる仕上がりになっている。映画の内容もリファーした結果そうなっているのだと思われ、彼らの方向性を示すものではないのかもしれないが、だからこそ見えてくるものもある。
  
既発の2曲をオリジナルと聴き比べると、よりリズムが強調され、音も整理されるなど20年近い時の流れを感じさせはするが、ここにあるのは間違いなく、聴くたびにハッと息を呑むような瞬間が訪れていたデビュー間もないころのベルセバの音楽の手ざわり。それが表象するものは音とかメロディとか歌詞とか、イメージとかスタイルをすら凌駕するひとつの「あり方」や可能性そのもの。僕らが経験するのはひとつの「生」それ自体である。
  
その意味で彼らはバンドではなくここにあるのは音楽ですらない。ロックというアートフォームを借りながら、彼らは僕たちの生そのものに直接手を触れてくる。ここにあるのは、その美しく、優しく、穏やかな表層とは裏腹な、猛々しく、禍々しく、容赦ない私的領域への浸食。それをまったく平穏裡に遂行するのがベルセバのヤバさであり、気づいたときにはもうベルセバを知らなかった地点には戻れない。サントラだからこそ作れた作品。
  
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A BIT OF PREVIOUS 
Belle and Sebastian 
 
Matador 
2022
  
■ Young And Stupid 
■ If They're Shooting At You 
■ Talk To Me Talk To Me 
■ Reclaim The Night 
■ Do It For Your Country 
■ Prophets On Hold 
■ Unnecessary Drama 
■ Come On Home 
■ A World Without You 
■ Deathbed Of My Dream 
■ Sea Of Sorrow 
■ Working Boy In New York City 
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オリジナル・アルバムとしては「GIRLS IN PEACETIME WANT TO DANCE」以来7年ぶり、10作目となる作品。3枚のEPのコンピレーションとしてリリースされた「HOW TO SOLVE OUR HUMAN PROBLEMS」からも5年の年月が流れた。プロデューサーは「HUMAN PROBLEMS」同様彼ら自身に加えブライアン・マクニールら。グラスゴーの練習施設をレコーディング・スタジオに改修してレコーディングされており、アルバムとしては久々の地元制作となった。
  
このアルバムのレコーディングの時期はCOVID-19のパンデミックと重なっており、リリースはロシアがウクライナに侵攻する直前となった。『If They're Shooting At You』は緊急シングル・カットされ、その収益は赤十字に寄付された。そういうざわついた状況のなかでこのアルバムは世界に産み落とされたのである。しかしその中身は、オーソドックスでポップな聴きやすい作品に仕上がった。抑制的ながらバラエティがあり素直に聴ける。
  
この作品がこの暗い世相とフックしているとすれば、それは彼らの音楽が通奏低音としてもともと濃密にたたえている死の予感に他ならない。スチュアート・マードックが音楽を通じて表現し続けてきたのは、乱暴にいえばなにもかもがいずれは消え去って行くという諦観と、だからこそあり得たひとつの可能性として歌われる生である。シニシズムのかたちで歌われる希望である。これは時代の方が彼らにすりよって獲得されたリアリズムだ。
  
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LATE DEVELOPERS 
Belle and Sebastian 
 
Matador 
2023
  
■ Juliet Naked 
■ Give A Little Time 
■ When We Were Very Young 
■ Will I Tell You A Secret 
■ So In The Moment 
■ The Evening Star 
■ When You're Not With Me 
■ I Don't Know What You See In Me 
■ Do You Follwow Me? 
■ When The Cynics Stare Back From The Wall 
■ Late Developers 
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ディスコグラフィ・レビューの進行中にリリースされた11作目のオリジナル・アルバム。前作から1年という短いインターバルとなったが、実際には前作と同時期にレコーディングされたが前作に収録されなかった作品を集めたもの。とはいえアルバムとしての完成度は高くアウト・トラックス感はない。プロデューサーは前作同様ブライアン・マクニールほか。カメラ・オブスキュラのトレイシーアン・キャンベルがコーラスで参加している。
  
先行シングルとしてリリースされた『I Don't Know What You See In Me』は新進のパフォーマンス・アーティストであるウー・オーことピート・ファーガソンの手によるもの。80年代ディスコを思わせるエレ・ポップであり流れ出したとたんに「マジかよ」と腹を抱えて大笑いできる。だいたい冒頭の『Juliet Naked』がエレキ・ギターのストロークとスキャットで始まった時点で、一筋縄でいかない作品なのはバレてしまっているのだから。
  
そういう仕かけを随所にちりばめながらもアルバム全体としてはリズム・オリエンテッドであり、ギターがしっかり聞こえてくるのと、先の『I Don't Know...』を含め黒っぽいというかソウルフル。特にブラスをフィーチャーした『The Evening Star』は新境地と言って差し支えないソウル・ナンバーである。メリハリのはっきりしたロック・アルバムの印象で、新しく買ったマーシャルのBluetoothスピーカで聴いたのもハマったかもしれん。
  
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