logo Orange Juice / Edwyn Collins




YOU CAN'T HIDE YOUR LOVE FOREVER
Orange Juice

Polydor
1982

■ Falling And Laughing
■ Untitled Melody
■ Wan Light
■ Tender Object
■ Dying Day
■ L.O.V.E. Love
■ Intuition Told Me, Pt.1
■ Upwards And Onwards
■ Satellite City
■ Three Cheers For Our Side
■ Consolation Prize
■ Felicity
■ In A Nutshell
アズテック・カメラ、ペイル・ファウンテンズと並ぶネオアコ御三家とウソを吹きこまれ、ほとんど情報もないままバンド名だけを頼りに中古屋を回ってCDを手に入れたのはいつごろのことだったか。ジャケットを見た時はあまりの爽やかさに「これこそネオアコの正道」と高まったが、実際聴いてみるとそこにあったのは何か思ってたのとは違うものだった。アコースティック・ギターの鮮烈なストロークを期待していたが完全に外された。

何だかよく分からないがベンベン鳴ってる調子っぱずれのギターにぬめぬめとした粘着質のボーカル。夜道で後ろから姿も見えず得体の知れない妖怪みたいな何かにひたひたと後をつけられているような不気味さ、怖さがこのバンドの第一印象だ。パンク的な態度とソウルのエッセンスをブッ込んだと言われればそうかもしれないが、それにしてもその統合の仕方が随分独特で、いわゆるブルー・アイド・ソウルのカッコよさとも違っている。

すくなくともネオ・アコースティックではないと今なら断言していいが、それなら何なのかと言われるとちょっと困る。ポスト・パンクの時期に花開いた、意気込みが先走った名前の付けようのない類の音楽のひとつなのは確かだが、これが時代のあだ花で終わらなかったのは、エドウィン・コリンズの確かなソングライティングの力以外の何者でもない。それにしてもジェイムズ・カークのギターが絶対チューニング狂ってて本当に最高だ。




RIP IT UP
Orange Juice

Polydor
1982

■ Rip It Up
■ A Million Pleading Faces
■ Mud In Your Eye
■ Turn Away
■ Breakfast Time
■ I Can't Help Myself
■ Flesh Of My Flesh
■ Louise Louise
■ Hokoyo
■ Tenterhook
オリジナル・メンバーでありファースト・アルバムで特徴的なギターを聴かせたジェイムズ・カークらがバンドを脱退、替わってマルコム・ロス(ギター、キーボード)とジーク・マニカ(ドラム)を加え制作されたセカンド・アルバム。マニカのドラムのおかげか、ファーストよりもソウルの影響がはっきりし、楽曲の構成やアレンジも整理されて、お洒落なブルー・アイド・ソウルだと誤解する人が出てきてもおかしくない出来になった。

冒頭に置かれたタイトル曲はいきなりシンセ・ベースで始まるなど大胆にキーボードを導入、曲によってはブラス・セクションをフィーチャーするなど、完成度は目に見えて上がっているし、タイトル曲は今ひとつ重たい感じのファンク・ポップだがどういう訳か全米トップ40に入るバンド最大のスマッシュ・ヒットになったという。他にも『A Million Pleading Face』『I Can't Help Myself』など耳に残るポップなナンバーも少なくない。

特にシングル・カットもされた『I Can't Help Myself』はモータウンへのオマージュとなる軽快なダンス・ナンバー。アルバム全体としてもエドウィン・コリンズのボーカルのクドさというかエグみみたいなものがおそらくは意図的に抑えられており、ポスト・パンク期にいろんなバンドが思い思いに繰り出した多彩な音楽的冒険の中でも記憶にとどめられるべき作品のひとつだと思う。まあ、それをネオアコと呼ぶかどうかは別にしても。




TEXAS FEVER
Orange Juice

Polydor
1984

■ Bridge
■ Craziest Feeling
■ Punch Drunk
■ The Day I Went Down To Texas
■ A Place In My Heart
■ A Sad Lament
デニス・ボヴェルをプロデューサーに迎えて制作した6曲入りのミニ・アルバム。フル・アルバムを作るつもりでスタジオ入りしたが、レコーディングの途中でエドウィン・コリンズ、ジーク・マニカのグループとマルコム・ロス、デヴィッド・マクリモントのグループの対立が激しくなり、結局アルバム1枚分のマテリアルを録ることができなかったとされている。結局本作リリース後にロスとマクリモントがバンドを脱退することになった。

どの曲もエドウィン・コリンズの達者なソングライティングでそれぞれしっかりしたポップ・ソングに仕上がっているが、いかんせんそれぞれの曲の向かう方向がバラバラで全体として寄せ集め感が否めない。前作で見せた「軽み」みたいなものはどこかに消え去り、この人たちがガッツリと作品に取り組むとやっぱりこうなるという影のある暗めの曲想と、一片の爽やかさも感じさせないコリンズのクドいボーカルが耳にまとわりつく感じ。

もちろんそれこそがオレンジ・ジュースであり、そこに中毒性があるのは間違いがないのだが、バンドとしての方向性みたいなものは失われつつあり、結局のところエドウィン・コリンズがいればそれがオレンジ・ジュースみたいなソロ・プロジェクト的なものへの移行期であることを感じさせる。演奏はしっかりして特にリズムがコリンズのソウル志向を支えているが、ヨレたヘナチョコ・ポップからは遠いところに来てしまった感がある。




THE ORANGE JUICE
Orange Juice

Polydor
1984

■ Lean Period
■ I Guess I'm Just A Little Too Sensitive
■ Burning Desire
■ Scaremonger
■ The Artisans
■ What Presence?!
■ Out For The Count
■ Get While The Getting Good
■ All That Ever Mattered
■ Salmon Fishing In New York
マルコム・ロスとデヴィッド・マクリモントがバンドを脱退、エドウィン・コリンズとジーク・マニカの2人になって制作したバンドとして最後のアルバム。デニス・ボヴェルの他、ウィル・ゴスリング、フィル・ソーナリーらがプロデュースを手がけている。ギターとドラムの二人組ということでバンドというよりは限りなくエドウィン・コリンズのソロであり、実際、次作からのソロ・キャリアへの架橋となる作品として聴くべきだろう。

それでもまだデビュー作からのオレンジ・ジュースとしてのトライアルの連続性を感じさせるのは、我流ではあるもののソウル・ミュージックへのリスペクトをベースにしたコリンズのポップなソングライティングがあるからだろう。ちょっと他には類例のない特異なアプローチでポスト・パンクの余白に名前を書きこんだこのバンドが、曲がりなりにも今日まで記憶されているのは、曲が普通にいいということに尽きるというと話が終わる。

ここではよりベタなソウル、R&Bへの傾倒が強まり、コリンズのコクのあるボーカルもぬめぬめとナメクジが這った後のような不気味な湿り具合で気持ち悪いが、既にここまで2枚半のアルバムで耐性ができてしまった者にとっては美味しく感じられてしまうのが怖い。発酵食品はクセになるというがこの臭みがオレンジ・ジュースというバンドの本質で、新鮮なイカは塩辛にするとまた格別の味になる。猛者なら白メシ何杯でも行ける臭さだ。




HOPE AND DESPAIR
Edwyn Collins

Demon
1989

■ Coffee Table Song
■ 50 Shades Of Blue
■ You're Better Than You Know
■ Pushing It To The Back Of My Mind
■ If Ever You're Ready
■ Darling, They Want It All
■ The Wheels Of Love
■ The Beginning Of The End
■ The Measure Of The Man
■ Testing Time
■ Let Me Put My Arms Around You
■ The Wide Eyed Child In Me
■ Ghost Of A Chance
■ Hape And Despair
前作をもってオレンジ・ジュースは解散というか消滅し、それから5年を経てリリースされた最初のソロ・アルバムがこれだ。プロデューサーのクレジットはないが、前作を手がけたデニス・ボヴェル、フィル・ソーナリーがミュージシャンとして参加、旧友であるロディ・フレームも多くの曲でコーラスやギターを聴かせる。レコーディングはケルンで行われ、ヴェルクというドイツのレーベルからリリースされたようだが詳しいことは不明。

オレンジ・ジュースの名前でやっていたころには、レーベルがメジャーだったこともあってかよくも悪くもパッケージとしての完成度を高める圧力が働いていて、それが逆にバランスの悪さに聞こえることもあったが、本作ではソロになってコリンズのやりたかったことが素直に出たのだろうと感じられる。コリンズの持つソングライターとしての資質が、シンプルなバンド・サウンドのバッキングによって、率直で端正な「歌」に仕上がった。

モータウンの文法を援用した『50 Shades Of Blue』やベースが八分音符を刻むポップ・チューン『Testing Time』など、意外とオレンジ・ジュースの頃には聴かれなかったような歯切れのいいストレートなナンバーが印象に残る。コリンズのぬめっとしたテノールのボーカルも嫌味のない存在感があり、シンガー・ソングライターとしての実力を過不足なく発揮した好感の持てるアルバムだが、いかんせん華がなくセールスは振るわなかった。




HELLBENT ON COMPROMISE
Edwyn Collins

Demon
1990

■ Means To An End
■ You Poor Deluded Fool
■ It Might As Well Be You
■ Take Care Of Yourself
■ Graciously
■ Someone Else Besides
■ My Girl Has Gone
■ Now That It's Love
■ Everything And More
■ What's The Big Idea?
■ Time Of The Preacher / Long Time Gone
ヤング・マーブル・ジャイアンツで知られるデイヴィッド・アンダーソンを共同プロデューサーに迎えて制作された2作目のソロ・アルバム。前作から1年と短いインターバルでリリースされた。スモーキー・ロビンソン&ミラクルズの『My Girl Has Gone』とウィリー・ネルソンの『Time Of The Preacher』のカバーを収録している。ソロ名義になって身軽に好きな音楽をやってみた的な感じの前作を基本的に引き継いだ楽曲本位の仕上がりだ。

曲によってはドラムを使わずシンセサイザーとパーカッションだけでリズムを組み上げてしまうなど、アンダーソンの仕業と思われるような時代を感じさせるサウンド・プロダクションもあるが、基本的にはオーソドックスなバンド・サウンドで、コリンズのボーカルも気持ちよく歌い上げていて潔い。バンドを背負う必要がなくなり、アイドルとしてのパブリック・イメージに関係なく自由に歌ったことを感じさせる伸びやかな表現力がある。

『It Might As Well Be You』のようなビートの効いた曲もあるものの、カバーも含めて曲調はおしなべて内省的であり、メロディをしっかり聴かせる職人然としたシンガー・ソングライターとしてのコリンズのキャラクターが次第にはっきりしてきた感もある。突き抜けたキラー・チューンがあればよかったが、曲のできはおしなべて高水準であり、誠実なポップ・アルバム。前作とともにソロ・キャリアの助走から離陸に至る時期の作品だ。




GORGEOUS GEORGE
Edwyn Collins

Setanta
1994

■ The Campaign For Real Rock
■ A Girl Like You
■ Low Expectations
■ Out Of This World
■ If You Could Love Me
■ North Of Heaven
■ Gorgeous George
■ It's Right In Front Of You
■ Make Me Feel Again
■ I've Got It Bad
■ Subsidence
前作から4年のインターバルでセタンタ・レーベルからリリースされた3枚目のソロ・アルバム。このアルバムからは『A Girl Like You』が95年公開のリブ・タイラー主演のアメリカ映画「エンパイア・レコード」に使用されたことから、シングルは同年のビルボード・ホット100で32位(全英では4位)を記録するスマッシュ・ヒットとなり、アルバムも全英9位までチャートを上昇、おそらくは最も知られたコリンズのソロ・アルバムだと思う。

エドウィン・コリンズ自らプロデュースを手がけ、一部の曲にヴィク・ゴダードをコーラスで迎えたり、デニス・ボヴェルがベースを弾いたりしているが、大半はベースのクレア・ケニーとドラムのポール・クック(セックス・ピストルズ)とのバンドで制作している。『A Girl Like You』は1960年代のソウル・シンガー、レン・バリーの『1-2-3』のサンプリング・ループをベースにした洗練されたアレンジだがアルバムの中では異色である。

アルバム全体としては、ノーザン・ソウルやロックンロールなど自らのルーツとなった音楽への愛着や憧憬を縦糸に、スコットランド人らしい詩情やアイロニーを横糸に織り上げた、正統派のブリティッシュ・ポップ。冒頭の『The Campaign For Real Rock』が6分を超える長尺の暗いフォーク・バラッドであるところに彼の覚悟を見る思い。これまでにも増して焦点が「歌」に合わされている感がある。『Make Me Feel Again』が潔くていい。




I'M NOT FOLLOWING YOU
Edwyn Collins

Setanta
1997

■ It's A Steal
■ The Magic Piper
■ Seventies Night
■ No One Waved Goodbye
■ Downer
■ Who Is it?
■ Running Away With Myself
■ Country Rock
■ For The Rest Of My Life
■ Superficial Cat
■ Adidas World
■ I'm Not Following You
前作から3年のインターバルでリリースされた4枚めのソロ・アルバム。レーベルは引き続きセタンタ、エドウィン・コリンズによるセルフ・プロデュースとなっている。ブックレットにはのちにコリンズが設立するレーベルAEDのロゴが記載されているが詳細は不明だ。『Seventies Night』ではザ・フォールのマーク・E・スミスが楽曲を共作、ボーカルを担当している。前作からヒット・シングルが出て注目度も上がる中での新作となった。

アルバムはコリンズがひとりでほぼすべてのサウンド・プロデュースを手がけた。バンド形式の曲は数曲のみで、アルバムの大半はヒット曲となった『A Girl Like You』の方法論を推し進め、サンプリングやシーケンサーを駆使しての打ちこみが中心。特に冒頭の『It's A Steal』から『The Magic Piper』の流れはサンプリング・ループが効果的に使われ、そこにチェロやフルートといった楽器を乗せるなど音作りに工夫がなされている。

もちろん時代性を感じさせる部分もなくはないが、サンプリング系の曲と、数は多くないがバンド系の曲のミックスがよく考えられており、またソングライティングもしっかりしているので、20年以上前の作品だが意外と古びた感なく聴くことができる。ただ、印象に残るのがバンド系のビート・ナンバーなのは仕方ないか。フィル・ソーナリーをベースに迎えた『Adidas World』が素晴らしく、やっぱり進むべき道はこっちだと思わされる。




DOCTOR SYNTAX
Edwyn Collins

Setanta
2001

■ Never Felt Like This
■ Sould've Done That
■ Mine Is At
■ No Idea
■ The Beatles
■ Back To The Back Room
■ Splitting Up
■ Johnny Teardrop
■ 20 Years Too Late
■ It's A Funny Thing
■ Calling On You
前作から5年のインターバルでリリースされた5枚目のソロ・アルバム。進むべき道は当然バンド路線、ギター路線だと誰もが思っていたにも関わらず、そっちちゃうという方に進んでしまった。21世紀になって最初の作品だが、セルフ・プロデュースでほぼ全編打ちこみとサンプリングでできている。『A Girl Like You』が売れてしまったから仕方ないのかもしれないが、やってるうちに本人もレコーディングが楽しくなっちゃったんだろう。

次作以降を見れば、この作品がエドウィン・コリンズの作品の系譜の中では袋小路に入りこんでしまった盲腸のような位置にあることも分かるし、時代的なものに持って行かれた部分が大きいことも理解できる。僕自身このアルバムの存在は数年前まで見落としていたくらい「忘れられた」アルバムなのだが、聴いてみると意外に悪くないというのが率直な感想なのである。手法はともかくきちんとこなれており仕上がりそのものは水準以上だ。

もちろんそれもコリンズのソングライティングがあってこその話なのだが、劇的な盛り上がりや激情よりは、静かで慈しむような視線が印象的。アルバム全体としては内省的で、感情を深い自我の底に沈潜させて行くコリンズの足取りに、このミニマルでクールな音作りがマッチしているということでもあるのだろう。ギターがジャカジャ〜ンと鳴るポップ・ソングはないが、ソングライティングの深化を感じさせる佳作になったのではと思う。




HOME AGAIN
Edwyn Collins

Heavenly
2007

■ One Is A Lonely Number
■ Home Again
■ You'll Never Know (My Love)
■ 7th Son
■ Leviathan
■ It's In Your Heart
■ Superstar Talking Blues
■ Liberteenage Rag
■ A Heavy Sigh
■ Written In Stone
■ One Track Mind
■ Then I Cried
前作から6年のインターバルでリリースされた6枚目のソロ・アルバム。コリンズは2005年、このアルバムのレコーディングを終えたところで脳内出血に倒れ、手術を受けた。本作はリハビリを経て現場復帰を果たしたのちに、制作途中だったマスターをミックス・ダウンしてリリースされたものである。プロデュースはコリンズ本人と、のちにロディ・フレームのソロも手がけるセバスチャン・ルーズリー。ヘヴンリーからのリリースとなった。

打ちこみ、サンプリングに傾倒して行った前作までの傾向からは一転、コリンズ自身によるアコースティック・ギターを前面にフィーチャーした、穏やかなポップ・アルバムとなった。打ちこみも使われているもののバンド・サウンドを意識した控えめな仕上がりになっており、基本的には「歌」にフォーカスしたバランスのよさが印象的。曲調は概ね内省的だが元気のいいポップ・ソングもあり、彼の中で何かがふっきれたことを感じさせる。

タイトル曲では「いろいろなところをさまよったがオレは家に帰ってきた」と歌う。レコーディング自体は病に倒れる前ではあるが、その後の闘病の経緯を思えば古くからのファンには感慨深いだろう。結果としてコリンズ自身にとっても大きな転機となるアルバムになったはず。人が歌を作り、歌を歌うという営みが生そのものと直接結びついていることを感じずにはいられない深みのある作品であり、その後の活動のスタート地点になった。




LOSING SLEEP
Edwyn Collins

Heavenly
2010

■ Loosing Sleep
■ What Is My Role?
■ Do It Again
■ Humble
■ Come Tomorrow, Come Today
■ Bored
■ In Your Eyes
■ I Still Believe In You
■ Over The Hill
■ It Dawns On Me
■ All My Days
■ Searching For The Truth
前作から3年のインターバルでリリースされた7枚目のソロ・アルバム。前作に続いてエドウィン・コリンズ本人とセバスチャン・ルーズリーの共同プロデュースとなっている。脳内出血から復帰し、後遺症と戦いながら制作したアルバムで、クリブスのライアン・ジャーマン、ジョニー・マー、ロディ・フレームらの他、フランツ・ファーディナンドやザ・ドラムズのメンバーら多彩なゲストが参加しコリンズの現場復帰をサポートしている。

そうした支えを得て制作された本作は、驚くほどはっきりしたビート・オリエンテッドなロック・アルバムになった。ここまでポップに振りきった鮮烈なアルバムはこれまでなかったし、コリンズのボーカルもいつになく思いきりがいい。ここでは、後を引くぬめりのようないつもの艶っぽさよりは、言葉をまっすぐに聞かせたいというコミュニケーションへの意志の方が印象に残る。古くからのファンにはまさに福音というべきカムバック。

冒頭に置かれたタイトル曲のスネアの四つ打ちが流れ出した瞬間に、このアルバムが並々ならぬ決意と意志に裏打ちされており、コリンズにとって勝負をかけた作品だということがわかる。曲ひとつひとつの出来もよく、ビートを受け止めるだけの骨格を具えている。どちらかといえばソウルをルーツとしている人だが、ここでは意外なほどロックへのイノセントな信頼が聴き手に迫ってきて、それが胸の深いところを動かす。必聴の名作だ。




UNDERSTATED
Edwyn Collins

AED
2013

■ Dilemna
■ Baby Jean
■ Carry On, Carry On
■ 31 Years
■ It's A Reason
■ Too Bad (That's Sad)
■ Down The Line
■ Forsooth
■ In The Now
■ Understated
■ Lve's Been Good To Me
前作から3年のインターバルでリリースされた8枚目のソロ・アルバム。前作同様エドウィン・コリンズとセバスチャン・ローズリーの共同プロデュース。ポール・クック、ショーン・リード、バリー・カドガン、デイヴ・ラフィら、前作でもコリンズを支えたメンバーのサポートを得て、コンパクトにまとまったバンド・サウンド。基本的には前作の延長線上にあるロック・アルバムであり、脳内出血からの復調を印象づける作品に仕上がった。

ストレート・アヘッドなロックンロールが率直な生還の喜びを感じさせた前作に比べると、本作は、どちらかといえばソウル、リズム&ブルースのグルーヴをエンジンにドライブして行く。オレンジ・ジュース時代も実際はネオアコというよりブルー・アイド・ソウルに近かったことを思えば、本作はコリンズがノーザン・ソウルへの憧憬をもはや留保なくぶちまけたオレンジ・ジュース・リヴィジテッドとでも呼ぶべきアルバムではないのか。

もはやスカしたりカッコつけたりしているような余裕はない、やりたいことはできるときにやっておかなければならないとでもいうような、余計な配慮とかもったいぶりを一切排除した直接性は、やはり大きな病気を経験し、またそこそこいい歳になってきたのもあってのことだろうが、ロックというのは歌い手がジジイになってもこうして常に覚醒や更新を繰り返して行くのだという動かぬ証拠。歳食ってどんどんよくなっているのがすごい。




BADBEA
Edwyn Collins

AED
2019

■ It's All About You
■ In The Morning
■ I Guess We Were Young
■ It All Makes Sense To Me
■ Out Side
■ Glasgow To London
■ Tensions Rising
■ Beauty
■ I Want You
■ I'm OK Jack
■ Sparks The Spark
■ Badbea
前作から6年のインターバルでリリースされた9枚めのソロ・アルバム。エドウィン・コリンズとショーン・リードとの共同プロデュースとなっている。この間にコリンズはロンドンからスコットランドのハイランドに移り住み、祖父が使っていた家屋にスタジオを作ったのだという。プロデューサーのショーン・リードがキーボード、サックスで参加している他、旧知の友人らがバッキングを担当、ドラマーは息子のバンドからのレンタルだ。

こう書くとなにか一線をしりぞいてレイドバックしたオヤジの懐古的でイージーな作品のように思えてしまうかもしれないが、ここにブチこまれている表現衝動はまぎれもなく現在進行中のもの。脳内出血からの復帰後3作めにあたり、基本的に前2作の路線を引き継いだものになっているが、ノーザン・ソウルをベースにしつつも曲想やアレンジの幅は広がり、なによりロックへの率直な憧憬がアルバムを通じて感じられるのが特徴的である。

タイトルのバッドベイは自宅スタジオの近くにある古い廃村。ハイランドの荒れた土地は、しかし、コリンズの原風景であるだろう。一時は病に倒れ、生きることの意味をいやおうなく考えずにいられない体験を経て、それでも音楽を奏でること、歌うことに価値を見出したおっさんが、もはやなりふり構わず今の自分にとって最も切実なことを歌う。そしてその音楽が、そんなこととはまったく関係のないだれかを動かす。これがロックだ。



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