logo Nick Lowe




BRINSLEY SCHWARZ
Brinsley Schwarz

United Artists
1970

■ Hymn To Me
■ Shining Brightly
■ Rock And Roll Women
■ Lady Constant
■ What Do You Suggest?
■ Mayfly
■ Ballad Of A Has Been Beauty Queen
ブリンズリー・シュワルツは、リーダーでありギタリストであるブリンズリー・シュワルツを中心に、ドラムのビリー・ランキン、キーボードのボブ・アンドリュース、そしてベースにニック・ロウという4ピースのバンドである。リーダーの名前をそのままバンド名にしてしまうところが牧歌的というかのどかな風情。本作は彼らの記念すべきデビュー作だが、鳴り物入りで売り出された割りにセールスはさっぱりで、多難な船出となった。

今ではパブ・ロックの代表的バンドとして知られるが、本作ではパブの酔客に聴かせるようなシンプルなロックンロールやキャッチーなパワー・ポップなど、典型的なパブ・ロックとされる音楽よりは、バファロー・スプリングフィールドやザ・バンドなどアメリカのアーシーなルーツ・ミュージック、特にCS&Nから影響を受けたと思わせる3声のコーラス・ワークが印象的なフォーク・ナンバーが中心となっており彼らのルーツを窺わせる。

一方で一部の曲ではプログレッシブ・ロックを思わせるインプロビゼーションが延々と続くなど、当時の「ロック」というのはこういう感じだったのかと思わせる演奏もあり、ニック・ロウのその後の活動、とりわけソロになってからの作風からは想像しにくい時代性の強い仕上がりになっている。曲はメンバー全員の共作によるM1を除いてすべてニック・ロウが書いており才能の片鱗が垣間見えるものの歴史的な音源として聴くのが穏当か。




DESPITE IT ALL
Brinsley Schwarz

United Artists
1970

■ Country Girl
■ The Slow One
■ Funk Angel
■ Piece Of Home
■ Love Song
■ Starship
■ Ebury Down
■ Old Jarrow
短いインターバルでデビュー・アルバムと同じ年にリリースされたセカンド・アルバム。アメリカで華々しく打ち上げるはずのデビュー・プレミアムが失敗に終わり、多額の債務を負って雌伏の日々を送っていた時期の作品だ。ジム・フォードとのセッションを経てレコーディングされ、前作のCS&N風ハーモニーのフォークとプログレ風インプロビゼーションの折衷から、カントリーをベースとしたアプローチに大きく舵を切った仕上がりに。

ボブ・アンドリュースの作品であるM4を除いて全曲をニック・ロウが書いているが、焦点が定まらなかった前作からはソングライティングの面で長足の進歩を遂げているのが驚きだ。ボブ・アンドリュースのオルガンがブイブイ鳴ってるブルース・ロックもあるが、多くはカントリーをモチーフに、曲によってはフィドルをフィーチャーしたりして軽妙でコンパクトなポップ・ソングに仕上がっている。その後の活動との連続性が感じられる。

アナログでの両面のラストにあたるM4、M8はそれぞれ6分台、7分台の長尺でやや間延びする感もあるし、素朴なフォーク調の曲もあるが、アメリカン・ルーツを自らの音楽として消化し、起伏のあるメロディと分かりやすい構成、甘い声をフックに、タフでポップな音楽に仕立てて行く資質は確かなもの。それがパブやクラブでのライブ・サーキットを通じていわゆるパブ・ロックへと結実して行く訳だが、その萌芽は既にはっきり見られる。




SILVER PISTOL
Brinsley Schwarz

United Artists
1972

■ Dry Land
■ Merry Go Round
■ One More Day
■ Nightingale
■ Silver Pistol
■ The Last Time I Was Fooled
■ Unknown Number
■ Range War
■ Egypt
■ Niki Hoeke Speedway
■ Ju Ju Man
■ Rockin' Chair
前作から1年強のインターバルでリリースされた3枚目のアルバム。レコーディングは1971年の夏に終わっていたようだがリリースは半年後となった。このアルバムから、ギター、ボーカルとして、後に『Cruel To Be Kind』をニック・ロウと共作することになるイアン・ゴムがバンドに加わった。ニック・ロウの作品は全12曲のうち6曲、イアン・ゴムがインストを含む4曲を書き、かつてセッションしたジム・フォードのカバーを2曲収録した。

カントリー・ロックをベースにしながらも、大仰なインプロビゼーションや長尺のジャム・セッションに陥ることなく、あくまで3分前後のポップ・ソングにまとめきるアプローチは、前作の延長線上にあるものだが大きく進化している。その後のニック・ロウのソロとしての活躍を知る今日の視点から振り返っても納得できる曲が多く収められており、バンドとしてもニック・ロウ自身としても、方向性がはっきりしつつあることが窺われる。

この時期、ニック・ロウはLSDの深刻な影響から抜け出そうとしており、そんな中でもここに収録された『Merry Go Round』や『Nightingale』『Unknown Number』のような曲が書けていたのには感心せざるを得ない。一方で新たに加入したイアン・ゴムのソングライティングも確かなもので、『Range War』などポップ・ソングとして完成度の高い曲を提供している。パブ・サーキットに踏み出してバンドの足腰が強化されたことが分かる作品。




NERVOUS ON THE ROAD
Brinsley Schwarz

United Artists
1972

■ It's Been So Long
■ Happy Doing What We're Doing
■ Surrender To The Rhythm
■ Don't Loose Your Grip On Love
■ Nervous On The Road (But Can't Stay At Home)
■ Feel A Little Funky
■ I Like It Like That
■ Brand New You, Brand New Me
■ Home In My Hand
■ Why, Why, Why, Why, Why
前作と同年にリリースされた4枚目のアルバム。2曲のカバー曲の他、ニック・ロウが7曲(1曲はボブ・アンドリュースとの共作)、イアン・ゴムが1曲を提供。前作に顕著だったカントリー・ロックの影響に加え、今作ではリズム&ブルースのエッセンスを大きく取り入れ、ボブ・アンドリュースがニューオリンズ風のピアノを聞かせる。カバー曲もクリス・ケナーがアラン・トゥーサンと共作した『I Like It Like That』を取り上げている。

前々作、前作と進化してきたニック・ロウのソングライティングはこの作品で完全に開花したと言っていいだろう。『Happy Doing What We're Doing』や『Surrender To The Rhythm』、タイトル・ソングの『Nervous On The Road』や『Feel A Little Funky』など、その後のソロ作に収録されていてもおかしくないポップな曲が惜しげもなく披露されており、ニック・ロウのストロング・スタイルがひとつ確かなものとして結実した感がある。

イアン・ゴムの『It's Been So Long』やカバー曲の『I Like It Like That』『Home In My Hand』も含め、パブ、クラブでのライブ・サーキットで酔客を「黙らせる」ために耳馴染みのあるオーソドックスなカントリーやリズム&ブルースのスタイルを借りながらも、そこにオリジナルでコンテンポラリーなポップ・センスを忍ばせるアプローチが奏功しており、それが即ちパブ・ロックというカテゴリーの方法論の確立でもあった。快作だ。




PLEASE DON'T EVER CHANGE
Brinsley Schwarz

United Artists
1973

■ Hooked On Love
■ Why Do We Hurt The One We Love?
■ I Worry ('Bout You Baby)
■ Don't Ever Change
■ Home In My Hand
■ Play That Fast Thing (One More Time)
■ I Won't Make It Without You
■ Down In Mexico
■ Speedoo
■ The Version (Hypocrite)
ディスコグラフィの類を見ると5枚目のオリジナル・アルバムということになっているが、実際にはライブ・ツアーに忙しくまとまったレコーディングを行う時間を取れなかった当時の彼らが、契約を履行するためシングル曲を寄せ集め、カバー曲やライブ・テイク、インストをブッこんで何とかアルバムの体裁にまとめたというのが本作の成り立ち。タイトル曲はクリケッツのカバーとなるゴフィン&キング作品。M5は前作収録曲のライブ。

その他にもキャデラックスなどのカバーを収め、ニック・ロウの作品は5曲、イアン・ゴムがオープニング・ナンバーを提供している。盛り合わせのアルバムなので当然統一感などはなく、レゲエ、スカからロッカバラード、ラテンまでバラエティに富んだ曲がガンガン詰めこまれている。しかし、それではこのアルバムのクオリティが低いかと言えば決してそんなことはなく、これがオリジナル・アルバムに数えられているのも理解できる。

単発のシングル曲中心なので煮詰まることなく短期決戦でレコーディングされたものか、曲それぞれのクオリティはおしなべて高い。イアン・ゴムの手になる『Hooked On Love』も軽快だが、ニック・ロウ作の『Why Do We Hurt The One We Love?』や『Play That Fast Thing』『Down In Mexico』も彼らしいフックの効いたポップ・ソング。適当に作っても曲がきちんと書けていれば聴かれ続けるアルバムになるという奥の深い作品である。




THE NEW FAVOURITES OF BRINSLEY SCHWARZ
Brinsley Schwarz

United Artists
1973

■ (What's So Funny 'Bout) Peace, Love And Understanding
■ Ever Since You're Gone
■ The Ugly Things
■ I Got The Real Thing
■ The Look That's In Your Eye Tonight
■ Now's The Time
■ Small Town, Big City
■ Trying o Live My Life Without You
■ I Like You, I Don't Love You
■ Down In The Dive
デイヴ・エドモンズのプロデュースで制作された6枚目かつ最後のアルバムとなった。ホリーズ、オーティス・クレーのカバーを除いて全曲をニック・ロウが作曲している(イアン・ゴムとの共作2曲、ブリンズリー・シュワルツとの共作1曲を含む)。デイヴ・エドモンズの仕業なのか、急にモダンなブルー・アイド・ソウルに目覚めた曲がいくつかあるが、全体としてはニック・ロウのソングライティングが光るポップな作品に仕上がった。

いくつかの曲(おもにブルー・アイド・ソウル調の曲)ではブラス・セクションが導入されていると思ってクレジットを見たらブリンズリー・シュワルツとボブ・アンドリュースがサックスを吹いているのだった。だが、このアルバムの聴きどころは何と言ってもニック・ロウの手になるポップ・チューンの数々であり、中でも彼らの代表曲に数えられるアルバム冒頭の『(What's So Funny 'Bout) Peace, Love And Understanding』が印象的。

他にもマージー・ビート全開の『The Ugly Things』、ニューオリンズ調の『Small Town, Big City』など、ニック・ロウの引き出しの多さを物語るラインアップで一気に聴かせる。しかしこのアルバムもセールスには恵まれなかった。バンドはアイランド・レコードからのオファーを受けアメリカ進出に活路を見出そうとするが所属するユナイテッド・アーティストが彼らをリリースせず、1975年3月のロンドンでのライブを最後に解散した。




IT'S ALL OVER NOW
Brinsley Schwarz

Mega Dodo
1974

■ We Can Mess Around
■ Cruel To Be Kind
■ As Lovers Do
■ I'll Take Good Care Of You
■ Hey Baby (They're Playing Our Song)
■ Do The Cod
■ God Bless (Whoever Made You)
■ Everybody
■ Private Number
■ Give Me Back My Love
■ It's All Over Now
「New Favourites」に続いて1974年にスティーヴ・ヴェロッカのプロデュースでレコーディングされながらもリリースされなかった幻のラスト・アルバム。1980年代後半になってイアン・ゴムが廃棄寸前だったマスターをスタジオの倉庫からサルベージし、自らミックス・ダウンを行ってリリースしたが他のメンバーからのクレームに遭い市場からは姿を消した。その後ブートが出回っていたが、2017年にようやく公式にリリースされた経緯だ。

聴きどころは何と言ってもニック・ロウの出世作となった『Cruel To Be Kind』のブリンズリー・シュワルツによるオリジナル・バージョン。ソロ・バージョンよりはテンポの速いポップ・ロックになっており既に完成度は高い。他にも後に『Mess Around With Love』としてニック・ロウのアルバムに収められた『We Can Mess Around』、デイヴ・エドモンズに提供された『As Lovers Do』など、ポップで耳に残る曲が多く収められている。

ニック・ロウの曲はイアン・ゴムとの共作を含め6曲、その他にストーンズもカバーしたヴァレンチノズの曲をレゲエ・アレンジしたタイトル曲などカバーを5曲収録、全体としてメリハリが効いてテンポのいい、聴きやすいアルバムに仕上がった。貴重な音源がきちんとした形で世に出たのは意義深く、ニック・ロウの歴史を追う上では欠かせないアイテム。仮に当時リリースされていても大売れしたかは微妙だが、作品としての価値は高い。




JESUS OF COOL
Nick Lowe

Radar
1978

■ Music For Money
■ I Love The Sound Of Breaking Glass
■ Little Hitler
■ Shake And Pop
■ Tonight
■ So It Goes
■ No Reason
■ 36 Inches High
■ Marie Provost
■ Nutted By Reality
■ Heart Of The City
ソロ・デビュー・アルバム。1975年にブリンズリー・シュワルツを解散した後、ニック・ロウはスティッフ・レーベルのハウス・プロデューサーとしてザ・ダムドやドクター・フィールグッド、エルヴィス・コステロ、グレアム・パーカーらをプロデュースする一方、デイヴ・エドモンズとロックパイルを結成してツアーするなどの活動を行っていた。本作はその時期に少しずつ録りためた音源をアルバムとしてひとつにまとめたものである。

シングル・ヒットとなった『So It Goes』や『I Love The Sound Of Breaking Glass』、EP「Bowi」収録の『Marie Provost』など既発表の曲も収められ、統一感には今一つ欠けるものの、ニック・ロウが進むべき方向を模索しながらも彼の持ち味であるソングライターとしての高い能力をきちんと発揮した聴き易いアルバムになった。キャッチーなアレンジや耳に残るメロディといったポップ・ソングの定石をマメに押さえた曲作りが光る。

しかし聴くべきはそうした親しみやすい意匠の下に忍ばせたユーモアやアイロニー、遊びの方であり、変拍子を効果的に使った『I Love The Sound Of Breaking Glass』や重いリフで意表を突く冒頭の『Music For Money』など、どの曲も意外にクセが強く、一筋縄では行かないひねりが加えられている。ラストの『Heart Of The City』はシングルのカップリング曲であるがなぜかライブ・バージョンを収録。ソロ活動の出発点となった作品。




LABOUR OF LUST
Nick Lowe

Radar
1979

■ Cruel To Be Kind
■ Cracking Up
■ Big Kick, Plain Scrap!
■ Born Fighter
■ You Make Me
■ Skin Deep
■ Switch Board Susan
■ Endless Grey Ribbon
■ Without Love
■ Dose Of You
■ Love So Fine
前作から1年のインターバルでリリースされた2枚目のソロ・アルバム。前作に続いて自らプロデュースしており、ロンドンのエデン・スタジオを中心に、デイヴ・エドモンズ(ギター)、ビリー・ブレムナー(ギター)、テリー・ウィリアムス(ドラムス)というロックパイルのメンバーとレコーディングされた。同時期に同じメンバーでデイヴ・エドモンズのアルバム「Repeat When Necessary」も制作されており兄弟のような作品と言える。

冒頭に置かれた『Cruel To Be Kind』はブリンズリー・シュワルツの幻のラスト・アルバムに収録されながら陽の目を見なかった曲だが、満を持してリリースされニック・ロウのキャリア最大のヒット曲となった。ミッキー・ジャップの作品である『Switch Board Susan』以外はすべて自作曲で、『Cracking Up』『Born Fighter』『Without Love』など、クセはあるが聴きこむと耳から離れないポップさが徐々に効いてくる佳曲を多く収録。

ロックパイルの手慣れた演奏で統一感のあるカントリー・ロック的な色彩が濃いが、80年代前夜で既にエルビス・コステロらが出始めている時期でもあり、パンクからポスト・パンク、ニュー・ウェーブとの同時代性も窺われ、パブ・ロックの集大成であるとともにニック・ロウの代表作のひとつに数えるべきアルバム。その割りにジャケットはもうちょっと何とかならなかったのか。その後の活動にも直接つながるプロトタイプ的な作品だ。




SECONDS OF PLEASURE
Rockpile

Columbia
1980

■ Teacher Teacher
■ If Sugar Was As Sweet As You
■ Heart
■ Now And Always
■ A Knife And A Fork
■ Play That Fast Thing (One More Time)
■ Wrong Again (Let's Face It)
■ Pet You And Hold You
■ Oh What A Thrill
■ When I Write A Book
■ Fool Too Long
■ You Ain't Nothin' But Fine
ニック・ロウがブリンズリー・シュワルツ解散後その一員として活動を共にしたバンド、ロックパイルが唯一その名義で残したアルバム。ロックパイルはニック・ロウとデイヴ・エドモンズの二人をフロントに、ビリー・ブレムナー、テリー・ウィリアムスを加えた4ピースのロックンロール・バンドであり、パブ・ロック・シーンを代表する存在である。ロウ、エドモンズのソロ・アルバムを初め実質的に彼らの手になる作品は少なくない。

ニック・ロウは収録曲の半分にあたる6曲を作曲、残りの6曲はスクイーズのクリス・ディフォードとグレン・ティルブルックの提供曲やチェック・ベリーのカバーなど。ニック・ロウとデイヴ・エドモンズがエヴァリ・ブラザーズの曲を4曲デュエットするボーナスEPが付属しておりCDにはこれらの曲も収録されている。『Heart』や『When I Write A Book』などニック・ロウのソングライティングの巧さを感じさせる曲も多く軽快な仕上がり。

前座で回るツアーではメイン・アクトを食ってしまう常習犯と言われるほどライブ・サーキットでの実力は高く評価されていたが、本作がそれに見合うスタジオでのクオリティをパッケージできているかは確かに微妙な部分もある。だが、この後ロウとエドモンズに隙間が生まれソロに戻って行くことを考えれば、二人の才能が拮抗した瞬間を記録したこの作品は貴重なもの。続いていればどんなバンドになったのか見てみたかった感はある。




NICK THE KNIFE
Nick Lowe

F-Beat
1982

■ Burning
■ Heart
■ Stick it Where The Sun Don't Shine
■ Queen Of Sheba
■ My Heart Hurts
■ Couldn't Love You (Any More Than I Do)
■ Let Me Kiss Ya
■ Too May Teardrops
■ Ba Doom
■ Raining Raining
■ One's To Many (And A Hundred Ain't Enough)
■ Zulu Kiss
ソロ名義としては3枚目になるアルバム。ロックパイルが結局ニック・ロウとデイヴ・エドモンズの確執によって解散状態となった後、ロウがセルフ・プロデュースによって制作した。エドモンズは当然参加していないが、ロックパイルの他のメンバー、ビリー・ブレムナーとテリー・ウィリアムスは一部の曲でクレジットされている。またクレジットにはないがところどころで聞こえる女声コーラスは当時の妻であったカーリン・カーターか。

アルバムは冒頭から『Burning』『Heart』『Stick it Where The Sun Don't Shine』とキャッチーなナンバーで順調にドライブして行く。『Heart』はロックパイルのアルバムにも収録した曲をレゲエ調にリアレンジしてスローに演奏したもの。その他にもモータウン調の『Let Me Kiss Ya』やポリス調の『Too May Teardrops』、ソウル・バラードの『Raining Raining』など、ロウの作曲力を見せつける粒ぞろいのポップ・ソングを聴かせる。

カーリン・カーターらとの共作はあるがカバーはなく全曲がオリジナル。中にはロックパイルでやればステージ映えしただろうと思われる曲もあるが、全体にソロとしてふっ切れた感が清々しい。ニュー・ウェーブ全盛のシーンにあって、こうしたロックンロール、ソウル、カントリーなどのルーツへの敬意をベースにしながらも、ひねりの入った独特のシニカルなセンスや今日的なオリジナリティをしのばせるロウの手法をがよく分かる作品。




THE ABOMINABLE SHOWMAN
Nick Lowe

F-Beat
1983

■ We Want Action
■ Ragin' Eyes
■ Cool Reaction
■ Time Wounds All Heels
■ Man Of A Fool
■ Tanque-Rae
■ Wish You Were Here
■ Chicken And Feathers
■ Paid The Price
■ Mess Around With Love
■ Saint Beneath The Paint
■ How Do You Talk To An Angel
前作から1年のインターバルでリリースされた4枚目のソロ・アルバム。プロデューサーにロジャー・ベキリアンを迎えて制作された。アルバム・タイトルは「雪男(abominable snowman)」をもじったもの。当時行動を共にしていたジェイムズ・エラー(ベース)、ボビー・アーウィン(ドラムス)、マーティン・ベルモント(ギター)、ポール・キャラック(キーボード)らノイズ・トゥ・ゴーのメンバーとともにレコーディングされている。

乾いたドラム、軽いギターのカッティング、そしてポール・キャラックの手によると思われるシンセサイザーの音色など1980年代のニュー・ウェーブを特徴づけるサウンド・プロダクションが印象的で、今となってはそれ以前のシンプルなカントリー・アルバムやソウル・アルバムよりもむしろ時代性を感じさせてしまうのは皮肉。全体としてはポップに仕上がっているが曲の出来にバラつきがあり、キャリアの中でも忘れられがちなアルバム。

それでも軽快なシングル曲『Ragin' Eyes』や着想とボーカルの遊びで聴かせるカーリン・カーターとの夫婦共作『We Want Action』、ジャズ・バラードに仕上がった『How Do You Talk To An Angel』など聴くべき曲はある。何よりブリンズリー・シュワルツ時代の作品『Mess Around With Love』(アルバム「It's All Over Now」に収録)がポップで、ピアノの低音を使った間奏はアイデアが秀逸。地力だけで何とかもたせた感のある作品。




NICK LOWE AND HIS COWBOY OUTFIT
Nick Lowe

F-Beat
1984

■ Half A Boy And Half A Man
■ You'll Never Get Me Up In One Of Those
■ Maureen
■ God's Gift To Women
■ The Gee And The Rick And The Three Card Trick
■ (Hey Big Mouth) Stand Up And Say That
■ Awesome
■ Breakaway
■ Love Like A Glove
■ Live Fasr, Love Hard, Die Young
■ L.A.F.S.
前作から1年のインターバルでリリースされた5枚目のソロ・アルバム。コリン・フェアリーとポール・バスをプロデューサーに迎え、ポール・キャラック、マーティン・ベルモント、ボビー・アーウィンらと制作されている。ラストに収められた『L.A.F.S.』のみエルヴィス・コステロがプロデュース。7曲のオリジナルの他、スプリングフィールズの『Breakaway』、ファロン・ヤングの『Live Fasr, Love Hard, Die Young』などをカバー。

ニック・ロウの評伝である「恋するふたり ニック・ロウの人生と音楽」(ウィル・バーチ)では本作は「アップビートで楽観的で緩慢な楽曲と、手をかけすぎた隙間を埋めるためだけの楽曲が、押しこめられた分裂気味の1枚」と酷評されているが、一般の評価は悪くはない。カウボーイ・アウトフィットという仕立ての通り、カントリーをベースにしたルーツ音楽の影響が濃いアルバムになった。ポール・キャラックのオルガンがうなる。

『L.A.F.S.』(「Love At First Sight」=一目ぼれ)はストリングスやT.K.O.ホーンズのブラスをフィーチャーしたゴージャスな仕上がりで、アルバムの中ではややタッチが異なるが、冒頭の『Half A Boy And Half A Man』とともに耳に残るポップなナンバー。コステロのコーラスもがっつり入っていてこの二人の共演は胸が熱い。僕自身は当時の恋人にLPレコードを借りて初めてきちんと聴いたニック・ロウの作品であり忘れ難い一枚。




ROSE OF ENGLAND
Nick Lowe & His Cowboy Outfit

F-Beat
1985

■ Darlin' Angel Eyes
■ She Don't Love Nobody
■ 7 Night To Rock
■ Long Walk Back
■ The Rose Of England
■ Lucky Dog
■ I Knew The Bride (When She Used To Rock'n'Roll)
■ Indoor Fireworks
■ (Hope To God) I'm Right
■ I Can Be The One You Love
■ Everyone
■ Bo Bo Skediddle
前作から1年のインターバルでリリースされた6枚目のソロ・アルバム。前作から引き続きコリン・フェアリーにプロデュースを任せ、ポール・キャラック、マーティン・ベルモント、ボビー・アーウィンという「彼のカウボーイ装束」とともに制作された。ロウはバンドとの共作によるインストを含め12曲中7曲を書き、エルヴィス・コステロの作品『Indoor Fireworks』やジョン・ハイアットの『She Don't Love Nobody』などを取り上げた。

このアルバムのハイライトは何と言っても旧知のヒューイ・ルイスがプロデュースした『I Knew The Bride』だろう。ルイスとロウはザ・ニューズがクローバーと名乗ってイギリスを活動の拠点にしていた頃からの同志。ロウがプロデュースを手掛けたコステロのデビュー・アルバムのバッキングを務めたのもザ・ニューズだった。この曲自体はかつてデイヴ・エドモンズに提供したものだが、エバー・グリーンなロックンロールに仕上がった。

この曲のみLAレコーディングで音の感触が異なるが、当時ヒットを出して勢いに乗っていたヒューイ・ルイスのプロデュースということもあってスマッシュ・ヒットになった。日本ではコパトーンのCMソングになっていたのを覚えている。アルバム全体は前作に続いてカントリーをベースにしたもので、メリハリはつけながらも軽快なテンポで一気に聴かせる。ポップメイカーとしてのロウの資質が高いレベルで結実したひとつの到達点だろう。




PINKER AND PROUDER THAN PREVIOUS
Nick Lowe

Demon
1988

■ (You're My) Wildest Dream
■ Crying In My Sleep
■ Big Hair
■ Love Gets Strange
■ I Got The Love
■ Black Lincoln Continental
■ Cry It Out
■ Lovers Jamboree
■ Geisha Girl
■ Wishing Well
■ Big Big Love
前作から3年のインターバルでリリースされた7枚目のソロ・アルバム。レコーディングは1986年から1987年の秋まで、断続的にロンドン、テキサス、ウェールズなどで行われた。プロデューサーは前作に続きコリン・フェアリーだが、『Lovers Jamboree』のみデイヴ・エドモンズが担当。エドモンズとはロックパイルの解散以降不仲だったが久しぶりの共演に。ポール・キャラックやジェイク・リヴィエラとの共作を含め7曲を書きおろした。

ニック・ロウは同時期に本作でもセッションしたジョン・ハイアットのレコーディングに参加してライ・クーダーと共演したり、エルヴィス・コステロのアルバム「Blood & Chocolate」をプロデュースしたりしており、その影響もあってか本作は粗い手ざわりでルーツ色の濃いロックンロールが中心になっている。音作りはアコースティック中心でまるでライブ録音のように近い。ウェル・プロデュースされた前作までとは異なったタッチだ。

僕としては初めて自分でリアル・タイムで買ったニック・ロウのアルバムであり思い出深いし、他のアルバムを聴くときにも常に比較の基準になっている原点。ここでの、敢えて面取りや塗装を避けてニスだけでザクっと仕上げたような率直さは、ショウ・ビジネスとしてのロックから自分のための音楽に興味の中心が移って行こうとするロウの変化を表したものだったのかもしれない。ひとつの「変わり目」であったことは間違いない作品だ。




PARTY OF ONE
Nick Lowe

Reprise
1990

■ You Got The Look I Like
■ (I Want To Build A) Jumbo Ark
■ Gai-Jin Man
■ Who Was That Man?
■ What's Shakin' On The Hill
■ Shting-Shtang
■ All Man Are Liars
■ Rocky Road
■ Refrigerator White
■ I Don't Know Why You Keep Me On
■ Honey Gun
前作から2年のインターバルでリリースされた8作目のソロ・アルバム。前作で久しぶりの共演を果たしたデイヴ・エドモンズがプロデュースを担当、1988年の春から1989年の秋まで、足かけ1年半に亘って西海岸でレコーディングされた。ジョン・ハイアットのレコーディングで共演したライ・クーダーをギターに、ジム・ケルトナーをドラムに迎え、ポール・キャラックがキーボードを担当、豪華なメンバーが盤石のバッキングを務めた。

音楽的にはカントリーをベースにした軽快なポップ・ソングが中心で、前作よりはウェル・プロデュースされた印象を受ける。サイモン・カークとの共作『Rocky Road』を除き全曲をロウが手がけており、その『Rocky Road』を初め『I Don't Know Why You Keep Me On』『All Man Are Liars』などニック・ロウのポップ・センスが過不足なくまとまった水準の高い楽曲が多い。ボーナス・トラックの『You Stabbed Me In The Front』もいい。

このアルバムではライ・クーダーのギターも聴きどころだ。この作品が単なるつるんとした「良作」に収まらない引っかかりを持っているとしたらそれはクーダーのスムーズでありながらギザギザしたスライド・ギターの音色に負うところが大きいはず。このギターと好みは別れるがケルトナーの引きずるような粘りのあるドラムのおかげでアルバム全体の重心がグッと低くなり、しっかり地面をグリップしている感がある。異色だが面白い。




LITTLE VILLAGE
Little Village

Reprise
1992

■ Solar Sex Panel
■ The Action
■ Inside Job
■ Big Love
■ Take Another Look
■ Do You Want My Job
■ Don't Go Away Mad
■ Fool Who Knows
■ She Runs Hot
■ Don't Think About Her When You're Trying To Drive
■ Don't Bug Me When I'm Working
リトル・ヴィレッジはジョン・ハイアットをメイン・ボーカルに、ギターにライ・クーダー、ベースにニック・ロウという各々ソロ・ミュージシャンとしてキャリアのあるメンバーを揃え、名うてのミュージシャンであるジム・ケルトナーをドラマーとするプレミアム・ユニット。4人は1987年のハイアットのアルバム「Bring The Family」で共演していたが、レコード会社の企画でグループとしての名を冠しアルバムを制作することになった。

レコーディングは1991年にLAで行われ、ロウはイギリスから度々出張して参加した。全曲が4人の共作名義となっており、ボーカルはハイアットが担当しているが、『Take Another Look』と『Fool Who Knows』の2曲のみロウが担当。バンドはアルバム発表後プロモーションのためのワールド・ツアーを行った。アルバムはハイアットの特徴ある声とクーダーのあのスライド・ギターが印象的なアーシーなカントリー・ロックに仕上がっている。

全体によくできたアルバムだが、ロウ自身が「時間があり過ぎた」という通り、能力の高いアーティストたちが作りこんだことによって完成度が上がる一方で才能のぶつかり合い的なダイナミズムが薄れたことと、フロントマンがはっきりしないことで作品のキャラクターが曖昧になったことなどもあって、突出したフックになる曲がなく淡々と聴けてしまうクールな印象が強い。バンドはこのアルバム一作で解散、活動が続くことはなかった。




THE IMPOSSIBLE BIRD
Nick Lowe

Demon
1994

■ Soulful Wind
■ The Beast In Me
■ True Love Travels On A Gravel Road
■ Trail Of Tears
■ Shelley My Love
■ Where's My Everything?
■ 12-Step Program (To Quit You Babe)
■ Lover Don't Go
■ Drive-Thru Man
■ Withered On The Vine
■ I Live On A Battlefield
■ 14 Days
■ I'll Be There
リトル・ヴィレッジでの活動を挟んで4年ぶりとなる9枚目のソロ・アルバム。ニール・ブロックバンクとの共同プロデュースで、スタジオとしてスリーブにクレジットされた「タークス・ヘッド」はロウの家の近くのパブのバンケット・ルームだという。リトル・ヴィレッジでスターダムを垣間見たロウは、地元に帰り、具体的に手に取ることのできるもののある親密な場所から改めて彼の音楽を始めようとした。これは彼の再生のアルバムだ。

『True Love Travels On A Gravel Road』『Trail Of Tears』『I'll Be There』の3曲を除いてニック・ロウのオリジナル(『I Live On A Battlefield』はポール・キャラックとの共作)。曲調は軽快なロックンロールからスロー・バラードまで多彩だが、全体としてはカントリー色が濃く、商業的な要求や制約を取り払って自由に作ればこういう作品になるんだなあというロウの原点を見る思い。その後の作品のプロトタイプと言っていい。

プレスリーのカバーである『True Love Travels On A Gravel Road』、当時交際していたトレイシー・マクラウドのことを歌った『Shelley My Love』、キャラックとの共作『I Live On A Battlefield』など印象に残る曲も多く、レイドバックしたように感じられる部分もあるが、これがニック・ロウの選択だったということだろう。とりわけバラードに聴くべきものがあり、40代半ばで人生を考える時期にあったロウの力量が素直に出た良作。




DIG MY MOOD
Nick Lowe

Demon
1998

■ Faithless Lover
■ Lonesome Reverie
■ You Inspire Me
■ What Lack Of Love Has Done
■ Time I Took A Holiday
■ Failed Christian
■ Man That I've Become
■ Freezing
■ High On A Hilltop
■ Lead Me Not
■ I Must Be Getting Over You
■ Cold Grey Light Of Dawn
前作から4年のインターバルでリリースされた10枚目のソロ・アルバム。前作に引き続きニール・ブロックバンクがプロデュースを担当、パブ・ロック界隈では名を知られたゲラント・ワトキンスのピアノがこのアルバムのキー・ノートを奏でている。同時期にほぼ同じメンバーでワトキンスのアルバムのレコーディングも行われていたようだ。全体に前作を継承した落ち着いたトーンのアルバムで、リラックスして制作されたことが窺われる。

不安を誘うようなギターのマイナー・コードから始まる『Faithless Lover』を冒頭に置き、シリアスな『Failed Christian』を経て大人の失恋の痛みを歌う『I Must Be Getting Over You』まで、ポップ・ソング、ジャンプ・ナンバーといえるような曲はほぼなく、むしろロックンロール以前のポピュラー音楽やカントリーなどを思わせる穏やかでゆったりとしたクラシックな曲が大半を占め、ロックのマチズモを敢えて避けたようでもある。

このアルバムで顕著なのはニック・ロウのボーカルの存在感だ。巧みなソングライターとしての手腕はもちろん健在だが、ここでは様々なニュアンスを歌い分けるロウのボーカリストとしての力量を改めて認識させられる。抑制的でオーソドックスな演奏のサポートもあり、ロウの声が生々しいほどグッと近くで聞こえてくるのはおそらく意図されたもの。前作よりはさらに地味ではあるが、その分ロウの素顔が垣間見えるように思える作品だ。




THE CONVINCER
Nick Lowe

Proper
2001

■ Homewrecker
■ Only A Fool Breaks His Own Heart
■ Lately I've Let Things Slide
■ She's Got Soul
■ Cupid Must Be Angry
■ Indian Queens
■ Poor Side Of Town
■ I'm A Mess
■ Between Dark And Dawn
■ Bybones (Won't Go)
■ Has She Got A Friend?
■ Let's Stay In And Make Love
3年のインターバルでリリースされた11枚目のソロ・アルバム。前2作に続きニール・ブロックバンクがプロデュースを担当、ゲラント・ワトキンス他レコーディング・メンバーも同じで、この3枚は一連の作品だと考えてもいいだろう。まず目を引くのはジャケットの見事に銀髪になったニック・ロウの写真だ。この時のロウは52歳でまだまだ若いが、リリース当時は随分おじいちゃんに見えた。ジョニー・リヴァースなどのカバー2曲を収録。

前作は「ロック以前」のスタンダードを意識したような曲やカントリーの影響が強い曲が中心で、ニック・ロウのボーカル・アルバムという趣を感じさせたが、本作ではどの曲もこのアレンジしかないというようなシンプルな演奏で、バランスの取れたスタイルに仕上がった。やかましいジャンプ・ナンバーがある訳ではないが、余計な修飾や説明を差しはさむ必要のない完成度の高い曲が揃い、ロウのソングライターとしての実力が分かる。

タイトルは「確信する者」。その名の通り、気心の知れたバンドと納得できる曲だけをひとつひとつレコーディングして行ったことが窺われる。率直であることが最終的には何よりも強く聴き手の心に響くことをよく分かったパフォーマンスは、このアルバムでひとつの到達点を示していると言っていいだろう。手管だけで作ったのではないから、地味ではあっても「上がり」感のない同時代の音楽として聴くことができる。21世紀最初の作品。




AT MY AGE
Nick Lowe

Sound Circus
2007

■ A Better Man
■ Long Limbed Girl
■ I Trained Her To Love Me
■ The Club
■ Hope For Us All
■ People Change
■ The Man In Love
■ Lve's Got a Lot To Answer For
■ Rome Wasn't Built In A Day
■ Not Too Long Ago
■ The Other Side Of The Coin
■ Feel Again
前作から6年のインターバルでリリースされたソロとしては12枚目のオリジナル・アルバム。前作同様ニール・ブロックバンクがプロデュース、ギターにゲラント・ワトキンス他をフィーチャーした点は前作と同様だが、比較的短い間隔で続けざまにリリースされた前作までの3枚のアルバムに比べるとややテイストの異なった作品に仕上がった。3管のブラス・セクションを導入、プリテンダーズのクリッシー・ハインドがコーラスで参加した。

テイストが異なったと言っても、ロウの書く表情のくっきりしたメロディがカントリーやR&Bといったアメリカン・ルーツに根差したアレンジで軽妙に展開されて行くのは「The Impossible Bird」以降の基本的なマナー。しかし、より時間をかけて積み上げられた曲はどれも完成度が高く、派手ではないもののアレンジにも手がかかっており、ハインドが参加した『People Change』などポップな曲も少なくない。丁寧かつ意欲的な仕上がりだ。

「この年で」という自虐的なタイトルに象徴される通り、これが2007年の音楽シーンでメイン・ストリームを張る音楽かと言えばもはやそういう世界の話ではないが、かといってディナーショウ的な内輪受けに終始する惰性だけの音楽でももちろんなく、そこにあるのは長くこの世界に関わり続けてきたロウの現場感覚に他ならない。音楽を通して自己の生を確かめ続けてきた男が現在位置を刻む歌はいつも切実だ。ニック・ロウ、58歳の作品。




THE OLD MAGIC
Nick Lowe

Proper
2011

■ Stoplight Roses
■ Checkout Time
■ House For Sale
■ Sensitive Man
■ I Read A Lot
■ Shame On The Rain
■ Restless Feeling
■ The Poisoned Rose
■ Somebody Cares For Me
■ You Don't Know Me At All
■ 'Til The Real Thing Comes Along
前作から4年のインターバルでリリースされたソロとしては13枚目、本稿を書いている2021年現在最も新しいオリジナル・アルバムである。プロデュースは1994年のアルバム「The Impossible Bird」以来のパートナーであるニック・ブロックバンクに加え、本作ではバンドのドラム担当でありカウボーイ・アウトフィット時代からのつきあいであるロバート・トレハーン(ボビー・アーウィン)もニック・ロウとともにクレジットされている。

バンドの顔ぶれもトレハーンやゲラント・ワトキンスを初めとして変わっておらず、ブロックバンクのプロデュースによる一連のアルバムと同様、落ち着いたトーンのカントリー・ロックやバラードを聴かせる。歌詞はシニカルで辛辣なものも多いとされるが、それをグイグイと喉元に突きつけて悲哀を嘆くよりは、敢えて口にして笑い飛ばしてしまおうというような楽観主義を感じる。60歳を超え、自分に残されたものを棚卸した男の音楽。

エルヴィス・コステロの『The Posoned Roses』などカバー曲もあるが例によってアルバムの流れの中にしっかり引き込んでいるし、ポール・キャラック、ロン・セクスミス、ケイト・セント・ジョンらのゲストも家族のように作品の中に溶け込んでいる。トレハーンとブロックバンクは2010年代に相次いで亡くなり、このメンバーでのプロダクションは本作が最後になった。区切りとなった作品だが、その佇まいはあまりに淡々としている。




QUALITY STREET
Nick Lowe

Yep Roc
2013

■ Children Go Where I Send Thee
■ Christmas Can't Be Far Away
■ Christmas At The Airport
■ Old Toy Trains
■ The North Pole Express
■ Hooves On The Roof
■ I Was Born In Bethlehem
■ Just To Be With You (This Christmas)
■ Rise Up Shepherd
■ Silent Night
■ A Dollar Short Of Happy
■ I Wish It Could Be Christmas Every Day
ニール・ブロックバンク、ロバート・トレハーン(ボビー・アーウィン)とともにプロデュースしたフル・サイズのクリスマス・アルバム。『Silent Night』などのトラディショナルやスタンダード、カバーが大半であるが、オリジナルの『Christmans At The Airport』『I Was Born In Bethlehem』に加え、ロン・セクスミスの書下ろし『Hooves On The Roof』、ライ・クーダーとの共作『A Dollar Short Of Happy』などを収録している。

企画盤ではあるが、その分、リラックスした雰囲気で次から次へと繰り出しくるさまざまなクリスマス・ソングは、ニック・ロウの音楽的な引き出しの豊富さに加えて、彼がポピュラー音楽の成り立ちに対して抱いている正統な敬意と愛情を思わせる。トラディショナルもコンテンポラリーにアレンジし直して軽快に聴かせるが、クリスマス・ソングだけあってどの曲も基本的にポジティブであり最初から最後まで楽しく聴けるのが何よりいい。

前作のレビューにも書いた通り、ニール・ブロックバンク、ボビー・アーウィンが相次いで亡くなったこともあってか、本作を最後にアルバムのリリースはないが、2010年代後半から、ナッシュヴィルの覆面インスト・ロック・バンドであるロス・ストレイトジャケッツと活動を共にしており、「Tokyo Bay」(2018年)、「Love Starvation」(2019年)、「Lay It On Me」(2020年)とEPを発表している。ライブ活動も行っているようだ。



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