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SONIC FLOWER GROOVE
Primal Scream

WEA
2292 42182-2 (1987)

■ Gentle Tuesday
■ Treasure Trip
■ May The Sun Shine Bright For You
■ Sonic Sister Love
■ Silent Spring
■ Imperial
■ Love You
■ Leaves
■ Aftermath
■ We Go Down Slowly Rising
バーズを思わせる12弦ギターがジャラジャラ鳴っている、ギター・ポップのお手本のような作品。ジャケットのボビー・ギレスピーは水玉のシャツのボタンを襟元まで止め、細身のレザーのパンツ、サラサラのショート・ボブ。80年代中盤の英インディ・ポップ・シーンを定義したNMEのカセット・コンピレーション「C86」に収められた『Velocity Girl』はここでは聴けないが、彼らがC86世代に属することを間違いなく印象づけるアルバムだ。

今となっては、スタイルをさまざまに変え、もはや何が音楽的実体なのか分からないのがバンドのアイデンティティになった感のあるプライマルズだが、最初にこのアルバムだけを聴けば、ああ、微笑ましいギター・ポップのバンドがまたひとつ出てきたのだなと素直に思うだろう。プロデュースはレッド・クレイオラのメイヨ・トンプソン。一説によればスティーヴン・ストリートのプロデュースを断ったとも。聴きやすい作品に仕上がった。

しかし、件のコンピレーションに曲を提供した同世代のバンドの多くがあっさりと時の流れの彼方に消え去ったのに、彼らがこうして残ったのは、意外にも曲がきちんと書けていることと、キラキラしたサイケデリックなギターの背後に、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド直系の虚無的な凄み(分かりやすく言えば絶望)があったから。ボビーと一緒にバンドを立ち上げたジム・ビーティが全曲を共作しているが、彼は本作でバンドを脱退。




PRIMAL SCREAM
Primal Scream

Creation
CRECD 054 (1989)

■ Ivy Ivy Ivy
■ You're Just Dead Skin For Me
■ She Power
■ You're Just Too Dark To Care
■ I'm Losing More Than I'll Ever Have
■ Gimme Gimme Teenage Head
■ Lone Star Girl
■ Kill The King
■ Sweet Pretty Thing
■ Jesus Can't Save Me
ファースト・アルバムですべての曲をボビーと共作しナイーヴなギターを鳴らしていたジム・ビーティーが脱退して制作した本作はストレート・アヘッドなガレージ・ロックに仕上がった。僕が初めて聴いた彼らのアルバムがこれで、手元にはオリジナルのクリエーション盤がある。当時のクリエーションとしてはむしろファーストの方がレーベルのカラーに沿っていて、僕の耳にこのアルバムはかなりアグレッシヴなロックに聞こえたものだ。

確かに、ファーストに比べればヘヴィでザックリとケバ立ったギターのテクスチャーは新しい試み。彼らにとってというかボビーにとって意匠はあくまでその時々の気まぐれな「マイ・ブーム」の記念写真みたいなものに過ぎないのだが、逆にその意匠のコレクションそのものがプライマル・スクリームだと言える。そんな意匠遍歴のスタート地点がここだが、ひとつひとつの曲そのものはむしろロマンティックというかセンチメンタルである。

ボビーの声はいつでも、泣きやんだけどまだ笑えない子供のように頼りなく、それだけが彼らの音楽を貫く通奏低音なので、でき上がった作品がベシャベシャにセンチメンタルなのもまた道理なのかもしれない。冒頭に置かれた『Ivy Ivy Ivy』の無反省なガレージぶりが痛快だが、一方でダメ人間丸出しの『I'm Losing More Than I'll Ever Have』がよく、この曲は次への重要な布石になる。何も考えずに聴くのがいちばん正しいアルバム。




SCREAMADELICA
Primal Scream

Creation
CRECD 076 (1991)

■ Movin' On Up
■ Slip Inside This House
■ Don't Fight It, Feel It
■ Higher Than The Sun
■ Inner Flight
■ Come Together
■ Loaded
■ Damaged
■ I'm Comin' Down
■ Higher Than The Sun
■ Shine Like Stars
前作のバラード『I'm Losing More Than I'll Ever Have』をアンディ・ウェザオールが換骨奪胎して『Loaded』に仕立て直したところからすべては始まった。1990年代初頭、Eという発明がダンスフロアとロックの幸福な婚姻を媒酌し、すべての「歌」は言葉とメロディを取り去られて反復するビートに還元された。パーティ・ピープルを24時間踊らせ続けるために尺を引き延ばしもはやボーカルすら要らない機能的なロックンロールがこれだ。

『Inner Flight』から『Loaded』に至る、ボーカルなんかまったく入っていない曲の連打はどうだ。正直当時の僕はこのアルバムの「意味」がさっぱり分からなかった。ダンスフロア、クラブ、レイヴと縁のない新米サラリーマンにとって、「歌モノ」の文脈を唐突に逸脱してチャカポコヤってるこれはいったい何だ、と。しかし、このアルバムがプライマル・スクリームの代表作であることは間違いない。ロックの意義を問い直した問題作だ。

しかし、このアルバムのすごいところはロックがダンスと結婚してチャカポコヤったことそれ自体ではない。チャカポコヤりながらも、そこに宿命的なロマンチシズム、いやセンチメンタリズムがどうしようもなく彫り込まれているのがすごいのだ。それこそがボビー・ギレスピーの資質であり、彼らの作品を貫く唯一の、生涯消えない刺青なのだ。どこまで解体し、微分して、0と1の集積に還元しても最後に残るものがロックだと示した作品。




GIVE OUT BUT DON'T GIVE UP
Primal Scream

Creation
CRECD 146 (1994)

■ Jailbird
■ Rocks
■ (I'm Gonna)Cry Myself Blind
■ Funky Jam
■ Big Jet Plane
■ Free
■ Call On Me
■ Struttin'
■ Sad And Blue
■ Give Out But Don't Give Up
■ I'll Be There For You
前作でロックの彼岸を見た彼らが満を持してその次にぶちかましてきたのは、ローリング・ストーンズかと聴き違えるような、アーシーでルーズな南部仕様のロックンロール。メンフィスでデニス・ジョンソンやジョージ・クリントンらをゲストに迎えて制作された本作は、レイブ・カルチャーにロックの未来を見た者からは酷評される一方、伝統的なロック・ファンからはその本格的な仕上がりが高く評価されるなど、毀誉褒貶が相半ばした。

特に冒頭からの『Jailbird』『Rocks』の流れは伝統的なロック・ファンでなくても自動的に腰が浮いてしまう普遍的なビートのマジックをこれでもかというくらい露骨に叩きつけて来る。前作と異なり、そこには「今何かスゴいことが起ころうとしている」みたいな切迫したヤバさは一切ないが、その代わりに「ここを責められたら誰でも絶対声出る」という秘孔を情け容赦なく突いてくる、ベタであるが故に寸分の狂いもない的確さがある。

前作まではバンドの「成長」として説明することが可能だったが、本作は彼らがそうした線形の成長神話みたいなものをあっさり捨て去り、スタイルの混沌の中で無邪気に転がりまわるような方法論をこそ基本装備として行く端緒であったと言っていいだろう。この、何のイノベーションもない反動的なアルバムが、その反動性によってロック表現を脱構築したことは記憶されるべき。というか何よりノリノリでカッチョええことが素晴らしい。




VANISHING POINT
Primal Scream

Creation
CRECD 178 (1997)

■ Burning Wheel
■ Get Duffy
■ Kowalski
■ Star
■ If They Move, Kill 'Em
■ Out Of The Void
■ Stuka
■ Medication
■ Motorhead
■ Tainspotting
■ Long Life
ダブへのアプローチが取り沙汰されるが、アルバム全体がそれで統一されている訳ではなく、ダブはもちろんだがサイケデリック、シンプルなロックンロール、エレクトロニックなどそれっぽいヤツが適当にぶちこまれている感じ。1971年に発表されたリチャード・C・サラフィアン監督の同名のロード・ムービーにインスパイアされたということで、映画からのセリフが使用されている。曲タイトル『Kowalski』は映画の主人公の名前である。

このアルバムからストーン・ローゼズのマニ(ゲイリー・モウンフィールド)がベースで加入、『Motorhead』はモーターヘッドのレミー・キルミスターの提供。ダブ色の濃い『Star』ではオーガスタス・パブロのメロディカをフィーチャーするなどゲストは多彩。次作につながって行くハード・エッジなエレクトリック・チューンもあるが、アルバム全体のトーンは弛緩したダウナー系のトリップであり、疾走感よりは酩酊感メインの作品だ。

ダンスフロアに行ききった後、反動的なロックンロールですべてのコミットメントを無効にし、そこからダブの酩酊感を起点にして一気にスロー・ダウン。よく聴けばアンビエントなインストルメンタルも多く、「SCREAMADELICA」と表裏をなす作品と言えるかもしれない。エイドリアン・シャーウッドによるダブ・アルバム「ECHO DEK」も制作された。ダンスフロアよりは自宅でヘンな汗かきながら聴きたいアルバム。『Medication』がいい。




XTRMNTR
Primal Scream

Creation
496525 2 (2000)

■ Kill All Hippies
■ Accelerator
■ Exterminator
■ Swastika Eyes
■ Pills
■ Blood Money
■ Keep Your Dreams
■ Insect Royalty
■ MBV Arkestra
■ Swastika Eyes
■ Shoot Speed / Kill Light
僕が子供のころに「超合金」というロボット玩具があった。実際にはダイカスト合金でできているのだが、単なるプラスティックのモデルとは異なるずしりとした重みが手に心地よく、何かスゴいものを持っているような気になる玩具で大ヒットした。このアルバムを聴いて思い出すのはその超合金。所詮は張りぼてなのだが、ムダな重しが効いているのでスゴくカッコいい。張りぼての見せ方という点ではボビーは相変わらず天才的だと思う。

もちろん、ブレンダン・リンチ、ケミカル・ブラザーズ、マイ・ブラディ・ヴァレンタインのケヴィン・シールズらを迎えて制作された本作で聴ける音楽そのものは、語義本来の意味での重金属的な容赦のなさとか蹂躙する感じとかが全編に出ていて簡単には作り出せないもの。しかしボビーにすればこれもまた彼のビジョンを表現するメディアに過ぎないのであり、その意味でまさに超合金の玩具、あるいは中二病の神殿とでもいうべきもの。

内容的には前作で踏み出したコワモテ路線をさらに推し進め、インダストリアルなテクノをコアにしたハードなもの。『Exterminator』から『Swastika Eyes』への流れは、張りぼてと分かっていても血が勝手に沸騰する不穏さ、芝居がかった大仰さでこのためにカネを出してアルバムを買う価値あり。こうした硬質で高純度、高機能で鋭利な音楽が、何の思想性もなく、ただ一介のジャンキーの妄想のために鳴らされていることが素晴らしい。




EVIL HEAT
Primal Scream

Columbia
508923 2 (2002)

■ Deep Hit Of Morning Sun
■ Miss Lucifer
■ Autobahn 66
■ Detroit
■ Rise
■ The Lord Is My Shotgun
■ City
■ Some Velvet Morning
■ Skull X
■ A Scanner Darkly
■ Space Blues #2
これはもう重症の中二病だ。ガシガシのハウス、テクノ、インダストリアルをもっぱらハッタリとして使い倒す潔さはボビー・ギレスピーにしかなし得ないもの。プロデューサーにマイ・ブラディ・ヴァレンタインのケヴィン・シールズを迎え、もはやコワモテの域を凌駕して笑うしかない音楽的自大主義。大仰な音像がこれでもかと空間を塗りつぶし、強迫的なまでに隙間を埋め尽くそうとする過剰さがこのアルバムの最大のジェネレータだ。

これは、大の大人が、というかケヴィン・シールズほどの天才が、ジャンキーの誇大妄想につきあって中二病をできる限り真面目に、誠実に音楽としてムリやり昇華しようとするとこうなるというスゴい実験である。燃焼効率の高い曲がこれでもかと繰り出されてくるのでさすがに神経がくたびれて来て頭の芯がジーンと痺れたような感じになるのだが、構うことなくジャブジャブと焼夷弾を投下してくるサディスティックなところがたまらん。

唯一ストレートなエイト・ビートの『City』の異様なまでのポップさも含めて、攻めて攻めて攻めまくる訳だが、個々の曲を見れば前作からの「発展性」は皆無。まあ、もともと発展とか進歩とは無縁なバンドだからそれはそれでいいのだが、彼らの本質的な契機であるはずの「変化」までもがここでは停滞したようにも見え、自ら進んで袋小路に突進するような方向感覚のブッ壊れ感が印象に残る作品。神経が傷んだ時に聴くと却って優しい。




RIOT CITY BLUES
Primal Scream

Columbia
82876831652 (2006)

■ Country Girl
■ Nitty Gritty
■ Suicide Sally & Johnny Guitar
■ When The Bomb Drops
■ Little Death
■ The 99th Floor
■ We're Gonna Boogie
■ Dolls (Sweet Rock And Roll)
■ Hell's Comin' Down
■ Sometimes I Feel So Lonely
前作から4年のインターバルでリリースされた8枚めのオリジナル・アルバム。キリング・ジョークのユースがプロデュースを担当、前作まで3作続いたエレクトロニック中二病が完治して、何か急に「Give Out But Don't Give Up」の頃に戻ったようなストーンズ・マナーの重心の低いロックンロールをガシガシ展開するアルバムになった。この辺の振幅というかデタラメ具合が実にプライマルズ的で素敵。いやもうこれはこれで全然いいのだ。

「Give Out〜」のときはわざわざメンフィスに渡ってサザン・ロックの系譜に敬意を払うみたいな演出もあったが、このアルバムではより彼らの頭の中だけにある桃源郷としてのロックンロールみたいなものがモチーフになっていてヤバい。マンドリンやバンジョーを効果的に導入したシングル曲『Country Girl』はヒット、やりたいことをやりたいようにやる感が強まって、もはや何でもない、何物でもないことが旗印になってるのが最強だ。

エコバニのウィル・サージェントやキルズのアリソン・モシャートなどのゲストも多彩で、完成されたロックンロール・アルバムではあるが、ボビーの音楽的徘徊癖はむしろ進行して重症化しており、ボケ老人のように「まだテクノをやってないぞ」「おじいちゃん、それは前のアルバムでやったでしょ」くらいの感じになってきてる。そろそろ音楽的に真面目に評論するのがバカらしくなる頃合いの、それ故素晴らしいセルフ無茶振りが絶頂。




BEAUTIFUL FUTURE
Primal Scream

B-Unique
5051442923728 (2008)

■ Beautiful Future
■ Can't Go Back
■ Uptown
■ The Glory Of Love
■ Suicide Bomb
■ Zombie Man
■ Beautiful Summer
■ I Love To Hurt (You Love To Be Hurt)
■ Over & Over
■ Necro Hex Blues
■ The Glory Of Love
いきなりファンシーでハッピーなチャイムが鳴り響くポップ・チューン、その名も『美しき未来』に導かれて始まるアルバム。プロデュースは一部を除いてビョルン・イトリングが担当、クイーンズ・オブ・ストーン・エイジのジョシュ・オムがゲストで参加し一部の曲を共作している。リリース直後のレビューでは「間に合わせ感が濃厚で、アルバム全体が何かを志向しているという確信はなかなかつかめない」と書いたがその通りの作品。

前作までは曲がりなりにも「このアルバムはこういう作風」という一応の説明が可能だったように思うが、本作では基本的に分かりやすいポップ・チューンが中心とはいうものの、そうしたテーマというか路線という意味ではかなり適当というか散漫。ひとつひとつの曲は確かにプライマル・スクリームだが、このアルバムでどんな像を結ぼうとしているのかはかなりええ加減で、というよりそんなことはどうでもいいということなんだろう。

伝統的なロック表現のフォーマットは尊重されており、聴きやすさ、入りやすさという意味では敷居は低いし、ポップ性も高いので楽しめるのも間違いないが、聴き終わった後に何も残らないというか、どんなアルバムだったかということが説明できないつかみどころのなさ。いよいよロック表現そのものの解体に向かったターニング・ポイントかも。「自らの死に気づかず流され続けるロックゾンビ」と看破した2008年の自分に惚れ直した。




MORE LIGHT
Primal Scream

First International
SCRMCD003X (2013)

■ 2013
■ River Of Pain
■ Culturecide
■ Hit Void
■ Tenement Kid
■ Invisible City
■ Goodbye Johnny
■ Sideman
■ Elimination Blues
■ Turn Each Other Inside Out
■ Relativity
■ Walking With the Beast
■ It's Alright, It's OK
前作から5年のインターバルで発表された第10作。もはや「この作品は〜」とひとことで総括できないごった煮感というか音楽的ラザニア感は前作よりさらに亢進しているが、前作ではまだロック表現の通用力みたいなものに対する漠然とした楽観性が窺えたのが、この作品ではひとつひとつの曲がすごくとっつきにくく硬質で、もう、ついてこれるヤツだけ勝手にしろ的な、達観した境地に行き着いたのかとさえ思わせる無愛想なアルバムだ。

ヘヴィとかメタリックとかいう表現はおもに重く金属的なギターの音色について使われる言葉だが、このアルバムはそれとは違った意味でヘヴィでありメタリック。ここには有機的な、土に種をまいて水をやったら芽が出る的な、生身の柔らかさを思わせるモメントは希薄で、曲想はさまざまであるが結局のところコミュニケーションの有効性を信じていないヤりっぱなし感が満載。予め聴き手というものを前提にしない音楽ということなのか。

ある種の厭世観とすら思えるような、半ば投げ出されるように提示される曲のひとつひとつ。それぞれの曲はロックなのにアルバム全体はロックでないような、いや、それぞれの曲はロックと呼べないのにアルバムはロックでしかあり得ないような、そんな両義的な成り立ちは、前作のレビューとの対比で言えば「自分たちがもう死んでいることに気づいたが構わず奏でられるロック」。不親切で聴きにくいが、強烈な記名性があるのがすごい。




CHAOSMOSIS
Primal Scream

First International
SCRMCD008 (2016)

■ Trippin' On Your Love
■ (Feeling Like A)Demon Again
■ I Can Change
■ 100% Or Nothing
■ Private Wars
■ Where the Light Gets In
■ When The Blackout Meets The Fallout
■ Carnival Of Fools
■ Golden Rope
■ Autumn In Paradise
3年のインターバルでリリースされた第11作。ボビー・ギレスピーとアンドリュー・イネスによるセルフ・プロデュースだが、一部の曲では前々作を手がけたビョルン・イトリングが参加、前作に比べるとポップで聴きやすいアルバムに仕上がった。音楽的な振幅は大きく、センチメンタルなバラード、ストレート・アヘッドなロック・チューン、エレクトロニックなヤツなど、これまでのショー・ケース的にうまくまとまった感のある作品だ。

結局のところ、プライマル・スクリームというのはバンドではなく、プロジェクトとかユニットとかいうのとも違って、例えば小山田圭吾がコーネリアスであるような意味でボビー・ギレスピーがプライマル・スクリームだということでもない。彼らはメディアであると考えれば分かりやすいのではないか。プライマル・スクリームという存在自体が、その実体以前にひとつのメッセージであるというマクルーハン的な意味でのメディアなのだ。

それはつまり、表現の内容よりプライマル・スクリームという「ガワ」こそがメッセージだということ、そしてまた、ボビーという「霊体」の彼岸からの声を伝える霊媒という意味でのメディアでもあるということである。プライマル・スクリームはそれ自体空虚な媒介であり、ドラッグの売人のごとく右のモノを左に流して鞘を抜く、一種の流通業者なのだ。そして、彼らが流通させるのはもしかしたらもはや音楽ですらないのかもしれない。



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