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僕が初めてゴメス・ザ・ヒットマンをきちんと聴いたのは2003年の夏だったと思う。新宿のタワレコで発売されたばかりのアルバム「omni」がPOP展開されていて、連れが「これ聴いてみて」と試聴を勧めてくれたのだ。そのとき選んでくれた曲が『Carolina』。今思えば導入としてツボを押さえた選曲だった。アルバムを買って帰った。

そのような訳なので、ここでレビューする作品のほとんどは後追いで聴いたものである。特にBMGファンハウス時代の音源は、今回ディスコグラフィをレビューするにあたって初めてきちんと聴き返したと言ってもいいくらいだ。その意味で、これからゴメス・ザ・ヒットマンの過去音源を初めて聴こうとする人に寄り添い、一緒に古いアルバムを聴き進めて行くようなレビューにしたいと思う。

ゴメス・ザ・ヒットマンの音源は、2016年2月現在、CDとしては入手が困難だが、幸いなことにiTunes Storeなどのオンライン・サービスで購入できるし、Apple Musicなどの定額音楽配信サービスでも聴くことができる。山田自身も「レアな中古盤に法外なカネを払うのではなくこうしたサービスを利用して欲しい」とコメントしている。新しく彼らの音楽を聴いてみたい人はiTunes StoreやApple Musicなどのオンライン・サービスを利用することをお勧めする。(2016.2.13)




in arpeggio
Gomes The Hitman

1997.12.17
Sony Music Direct
iTunes Store mora

■ 僕はネオアコで人生を語る
■ 朝の幸せ
■ レモンひときれ
■ tsubomi
■ オレンジ〜真実
■ 遅れてきた青春
■ 寒い夜だよ
インディペンデントからリリースされた7曲入りのミニ・アルバム。メジャー・デビュー後の2000年にメジャーから再発された。彼らの作品を時系列でたどろうとすれば最初に聴くことになるアルバムで、中でも冒頭に置かれた『僕はネオアコで人生を語る』は彼らのマニフェストとも宣戦布告とも言える初期の代表曲。タイトル通りブルースハープやタンバリンをフィーチャーした騒々しくネオアコ・ナンバーで若き彼らの意気込みが分かる。

というか何よりタイトルが気負い過ぎて微笑ましいが、山田特有の伸びやかでフックの効いたメロディを聴くことができるし、「人生は続くだろう カレンダーのように」という歌詞にも既に山田の世界観が表れており、曲としての完成度は高い。この曲に限らず、ボーカルとコーラスがやや不安定で、パステルズあたりを意識したものかあるいは当時の技術的な限界なのか分からないが、この時期にしか出せない疾走感の方を聴くべきだろう。

『レモンひときれ』や『寒い夜だよ』のデモなどまだ習作として微笑ましく見守るべき作品もあるが、『僕はネオアコで〜』の他にも『朝の幸せ』や『tsubomi』『オレンジ〜真実』などは山田の資質を明らかにするだけの十分な実体を具えている。ゴメス・ザ・ヒットマンのスタート地点、基準点となるアルバムであり、拙い部分も含めて愛すべきファースト・アルバム。「初期作品集」にとどまらずアルバムとして現在でも聴くに堪える。




down the river to the sea
Gome The Hitman

1998.4.12発売
Sony Music Direct
iTunes Store mora

■ intro
■ Believe in Magic in Summertime?
■ 平和なるサバ―ビア
■ 海があればよかった
■ 寒い夜だよ
■ 真夏のスキャット
■ センチメンタル・ジャーニー
■ 会えないかな
■ 溶けて死ぬのさ
■ coffee
これももとはインディペンデントからのリリースで後にメジャーから再発された。冒頭にオーバーチュアが置かれ、軽妙な弾き語りの小品で終わるなどアルバムとしての構成をより意識した作りになっており、彼らの意気込みを感じる作品。習作の感が強かった前作に比べれば、ひとつひとつの曲のポップ・ソングとしての完成度が上がり粒も揃った。アップテンポのナンバーから、ストリングスを導入したスロー・ソングまで、曲想も多彩だ。

特に『平和なるサバ―ビア』や『溶けて死ぬのさ』は、山田の資質がよく表れた軽快な16ビートのポップ・チューンに仕上がっており、彼らのひとつの原型と考えてもいいだろう。『海があればよかった』『真夏のスキャット』『センチメンタル・ジャーニー』なども工夫の窺えるアレンジで前作からの進歩が窺える。前作ではデモが収められていた『寒い夜だよ』は、曲想はそのままだがアレンジは整理されミニマルなフォークに仕上がった。

もちろん、気負いの勝つ部分、自意識が過剰な部分、技術的に拙い部分などは散見されるし、前作同様、山田のボーカルが不安定で、その意味でのアマチュア臭さは払拭しきれない。そういう「洗練」以前の作品であることは割り引いて聴かなければならないが、仮に今、山田がギター1本で歌えば普通に今の「歌」として流通するだけの、明快な骨格を具えた曲ばかりなのは間違いない。若きゴメス・ザ・ヒットマンを知るための貴重な作品。




neon, strobe and flashlight
Gomes The Hitman

1999.1.21
Sony Music Direct
iTunes Store mora

■ overture
■ ストロボ
■ 夕暮れ田舎町
■ アップダイク追記
■ 新しい季節
■ interlude
■ tsubomi
メジャーからのデビュー作となる、実質5曲入りのミニ・アルバム。タイトル曲であり冒頭に置かれた『ストロボ』の鮮烈なポップさがまず印象的。インディペンデント作品に比べれば格段にしっかりとしたプロダクションで、ブラスがフィーチャーされるなどアレンジも曲想に合わせてしっかり作りこまれている。デビューにふさわしい陽性のバイブレーションがはっきり感じられ、バンドとメーカーの意気込みが率直に伝わってくる作品だ。

カップリングの『夕暮れ田舎町』『アップダイク追記』は僕が山田の特徴だと思っている16ビートのグルーヴィなグッド・ソング。内省的、抒情的でありながら情緒に逃げず、個的な領域に大事なものをそっと沈潜させる山田のソング・ライティングの手法が明確に表れている。それは『新しい季節』でも同様で、三連のロッカバラードに仕上げられたこの曲もまた山田のブルース的資質の一端を早くも感じさせ、アルバムに深みを与えている。

『tsubomi』は「in arpeggio」収録曲の新録。アレンジはほぼ踏襲されているが完成度は確実に高い。全体に山田のボーカルがまだ生硬で、表現力に限界があるのはしかたがないが、オーバーチュア、インタールードを配して全体の流れにも気を配り、何よりひとつひとつの曲が既にしっかりと完成していて、コンパクトながら鮮烈なファースト・アルバムだ。続いてリリースされたシングル『雨の夜と月の光』収録の3曲も合わせて聴きたい。




weekend
Gomes The Hitman

1999.6.5
Sony Music Direct
iTunes Store mora

■ 光と水の関係
■ 長期休暇の夜
■ ストロボ
■ 何もない人
■ 猫のいた暮らし
■ ready for lab
■ お別れの手紙
■ train song
■ 雨の夜と月の光
■ ready for love
■ 週末の太陽
メジャー・デビューして初めてのフル・アルバム。先行発売された2枚のシングル『ストロボ』『雨の夜と月の光』を収録。インスト『ready for lab』を幕間として中央に置き、組曲的な流れの『お別れの手紙』(ボーカルは堀越和子)と『train song』や、終盤に置かれインストのモチーフを繰り返す『ready for love』など、アルバムとしての流れを意識した構成になっている。全体に明るいトーンのポップな仕上がりで色彩豊かな作品。

冒頭の『光と水の関係』や『ストロボ』はアップテンポの8ビートで、アルバムのスピード感を担保している。しかし、このアルバムで耳を傾けたいのは、『長期休暇の夜』『猫のいた暮らし』『雨の夜と月の光』『ready for love』といったアップテンポなポップ・ソングが、ハネたベース・ラインがドライブする細かい16ビートに牽引されていること。山田のソング・ライティングにブルース的なモメントが潜在していることがよく分かる。

ミドル・テンポで内省的な『何もない人』や『train song』、小品『お別れの手紙』にもそれは顕著だ。ひとつひとつ丁寧に選ばれた言葉は日常の情感にきちんと寄り添っていて、それ故聴く者にくっきりした情景を喚起して行く。珍奇な言葉を並べるのでなく、何気ない言葉の精度を高めることで獲得した文学性もまた山田には不可欠なもの。アーバン・ブルースの担い手としての山田稔明の存在を明確に示したという意味で重要なアルバム。




cobblestone
Gomes The Hitman

2000.4.21
Sony Music Direct
iTunes Store mora

■ 自転車で追い越した季節
■ 言葉は嘘つき
■ 北風オーケストラ
■ springtime scat
■ 春のスケッチ
■ 思うことはいつも
■ 7th avenue
■ nighty-night
■ 太陽オーケストラ
■ シネマ
■ keep on rockin'
■ プロポーズ大作戦
■ 6 bars interlude
■ 午後の窓から
■ epilogue
前後に発表された『new atlas ep』と『maybe someday ep』を合わせた「街づくり三部作」の本編となるフル・アルバム。プロデュースに杉真理、斉藤誠を迎えた。ひとつの舞台で展開する物語を追ったコンセプト・アルバムだが、そのような背景を知らなくても純粋に楽しめるポップ・アルバムであることは間違いない。『自転車で追い越した季節』の細やかで丁寧なギターの調べに耳を澄ました瞬間から、架空の街での物語が始まって行く。

『言葉は嘘つき』や『7th avenue』など、アレンジが大仰に流れオーバー・プロデュース気味になった曲もあるし、幕間的なインストを多用するなどやや芝居がかった部分もないではないが、どこかの街で始まり終わって行く静かな一日のなだらかな起伏を定点観測するカメラのように、ありふれた言葉をこそ注意深くメロディに乗せて行く山田のソングライティングは目覚ましい進歩を遂げ、華やかな見た目以上の奥行きを作品に与えている。

特に『思うことはいつも』や『午後の窓から』の、孤独を引き受けることを前提とした抒情性とでもいった独特の質感は、ソロも含めたその後の作品の直接の原型となる特徴的なもの。アコースティックな曲がフォークよりはブルースに聞こえるのは、情緒に寄りかかって個の領域を曖昧にすることで連帯するのを決して潔しとしない山田の矜持と関係しているはずだ。代表作であるのは間違いないが、間口の広さより奥行きの深さを聴きたい。




mono
Gomes The Hitman

2002.2.17
Quattro Disc
Quattro-045

■ 6PM intro
■ 別れの歌
■ 夜明けまで(情熱スタンダードvol.1)
■ 目に見えないもの
■ 言葉の海に声を沈めて
■ 情熱スタンダード
■ 笑う人
■ 忘れな草
■ 百年の孤独
■ 表通り
前作の後、勝負をかけたシングル『饒舌スタッカート』が想定ほど売れず、BMGとの契約が切れたためインディペンデントからリリースされたアルバム。スピッツを思わせるようなアップ・テンポのポップ・チューン『夜明けまで』はあるものの、アルバム全体のトーンは内省的。アルバム・タイトルは「独り言(モノローグ)」に由来している。ここではすべての答えは保留され、足を止めて小さな息をひとつ吐くようなひそやかさが顕著だ。

特に『目に見えないもの』から『言葉の海に声を沈めて』へのシークエンスは、端的に言って「暗い」と評するしかないくらい、深く自分の中に沈潜して行く自動筆記のような言葉の連なり。このアルバムは山田にとってどうしても必要な自己療養であり、深い眠りの中でだけ得られる意識の深奥との対話だったのかもしれない。しかし、その暗いトンネルを過ぎるとアルバムは少しずつ開かれて行く。山田はそこで確かに何かを希求し始める。

それはおそらく、自分がここにいて細い声で歌っていることの「存在確認」だ。一日の長さを測ることのできる確かな物差しだ。山田はそれを切実に希求しながら自分の内なる世界への旅を続ける。それは本質的に孤独な営みだが、そこにはそれを支える日常という手ごたえがあるはずだ。山田の表現が次のステップに進むために間違いなく必要であった「内省の時代」の作品であり、現在に続く重要なリンクとして何度も聴き返すアルバムだ。




omni
Gomes The Hitman

2003.7.24
Vap
iTunes Store

■ sound of science
■ 愛すべき日々
■ 20世紀の夏の終わり
■ day after day
■ そばにあるすべて
■ california
■ carolina
■ それを運命と受け止められるかな
■ 千年の響き
■ happy ending of the day
僕たちの日常は毎秒過ぎ去り、僕たちは不可逆的に年をとって行く。どのようなものもそのままそこにとどまることはできず、ましてやどこかに戻ることはできない。とどまったように、戻ったように見えても、それはもう一瞬前のそれではないのだから、僕たちの生は瞬間ごとに更新されているのだから。そして、そのような生の瞬間においては、音楽すら必要ではない。言葉すら必要ではない。生において本質的なのは生きることだけだ。

これはそういうアルバムだ。そのような、生の本質に関する省察、本当のところ余裕のない時には音楽すら、言葉すら失われ得るのだという一種の諦念とでも呼ぶべきものを、基準として常に参照しながら、それでも、そのようにすべてがゼロ・リセットされた地平にこそ響くべき音楽や言葉をひとつずつ確かめながら積み上げたアルバムだ。当然のことだが、それは恐ろしく孤独な営みであり、そしてまたこのアルバムも極めて個的なものだ。

流行りの表現で言えばここにあるのはゴメス・ザ・ヒットマン2.0。おそらくは1.5であった前作を経て、徹底して個の認識の奥深くまで降り立ったところから再び見つけた表現は、これまでの作品とは隔絶した覚醒感を強く印象づける。アバンギャルドな『california』、ポップ・チューンの『carolina』も含め、すべては自分が今ここにあって音楽と言葉を手にしていることの奇跡を歌うアーバン・ブルース。ソロへと続く起点となった作品。




ripple
Gomes The Hitman

2005.3.16
Vap
iTunes Store

■ 東京午前三時
■ ドライブ
■ 手と手、影と影
■ 星に輪ゴムを
■ RGB
■ bluebird
■ サテライト
■ 夜の科学
■ 明日は今日と同じ未来
■ Death Valley '05(A Sort of Homecoming)
ジャックスカードのCMソングに採用された『手と手、影と影』、シングル『明日は今日と同じ未来』を収録した、前作から2年ぶりのオリジナル・アルバム。CDは9曲入りだったが、iTunes Storeでのリリースに際して『Death Valley '05』が追加収録された。全体としては「mono」「omni」の延長線上にある内省的でアコースティックな作品。バンドのアルバムであるが山田のシンガー・ソングライター的資質がはっきりと表れた作品になった。

ここでも山田が歌うのは日常のなだらかな起伏とその中にある僕たちのささやかな感情の動き。ここにあるのは、タイトルどおり、まるで水面に小石を投げた時に広がる波紋のように、風が起こす穏やかなさざ波のように、注意深く毎日をやり繰りしている者だけが気づくことのできる小さな変化の物語である。山田はそれを丹念に拾い上げて歌うことで、自分が今ここにいることを確かめ、それを肯定する手がかりをそこに見つけようとする。

『明日は〜』の最後に小さな水音がSEとして挿入されているのは、まるで静寂そのもののようなそのひそやかな一瞬に耳をそばだてる営みを示唆するもの。前作よりはかなり地味な作品になった上、『明日は〜』をラストに置いたことでアルバム全体としての輪郭がぼやけた感はあったが、『Death Valley〜』を追加したことでバランスが整った。『サテライト』はポップさと内省の新しい均衡点を示すナンバー。バンドとしての最新アルバム。



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