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PSYCHOCANDY
The Jesus And Mary Chain

blanco y negro
9 25383-2 (1985)

■ Just Like Honey
■ The Living End
■ Taste The Floor
■ The Hardest Walk
■ Cut Dead
■ In A Hole
■ Taste Of Cindy
■ Never Understand
■ Inside Me
■ Sowing Seeds
■ My Little Underground
■ You Trip Me Up
■ Something's Wrong
■ It's So Hard
機材が壊れたかと思うようなピーとかプシューとかいうフィードバック・ノイズに埋もれながら、彼岸のかなたから聞こえてくるような甘いメロディ。深くくぐもったリヴァーヴの向こうで鳴る遠雷のようなスネア。クリエーションからリリースされたロック史に残るデビュー・シングル『Upside Down』はここには収録されていないが、スキャンダラスに登場した最初期の「何かヤバいヤツ出てきた」感の一端は十分に感じ取ることができる。

ライブでは20分しか演奏しないとか聴衆には背を向けているとかキャパ以上のチケットを捌いて暴動が起こったとか、ことさらに怖い系の売り出し方をされたのはアラン・マッギーの戦略だろうが、では結局のところこのアルバムの音楽的な価値がどこにあるのかといえば、ベルベット・アンダーグラウンドのノイズと、フィル・スペクターのウォール・オブ・サウンドの安易な剽窃以外の、画期的なイノベーションは見当たらないのである。

ここにあるのは音楽的な何かよりは、むしろ「オマエらなんか嫌いだ」と「だからオレを見てくれ」というアンビバレントな自意識がダラダラと流れ出すさまであり、そのどうしようもないダメさ加減こそが世界をビートしたのではあるまいか。それは、初期衝動と呼ぶにはあまりにプアでネガティヴな、しかしそれ故一切の配慮とか折り合いとかを拒絶する頑ななモティーフであり、それがロック史に残るデビュー・アルバムになったのだ。




DARKLANDS
The Jesus And Mary Chain

blanco y negro
9 25656-2 (1987)

■ Darklands
■ Deep One Perfect Morning
■ Happy When It Rains
■ Down On Me
■ Nine Million Rainy Days
■ April Skies
■ Fall
■ Cherry Came Too
■ On The Wall
■ About You
ノイズの霧が晴れたセカンド・アルバム。音楽的な話をすれば、ここにあるのはささくれだったギターを従えた甘ったるいポップ・ソング。ケバだっていてあまり素手で触りたくない感じの表面と、その奥にある柔らそうなコアの組み合わせは、彼らが内側に抱えこんだ自意識と、外界に対する過剰な敵意に呼応するものか。メロディにはフィル・スペクターやブライアン・ウィルソンの影響が指摘される。音楽的な目新しさは見当たらない。

彼らにとって世界との戦いはデビュー時に既に終わっており、その戦いに彼らは勝利した。デビュー・アルバムさえもその輝かしい勝利の事後的な記録に過ぎなかった。その戦いですべての敵を血祭りに上げ、殺しに殺しまくった彼らが、血塗れの両手で、だれも動く者のない、だれも聴く者のない荒地に立ち、奏でるのがこのアルバムだ。だからこそこのアルバムは徹底して甘ったるく、また硬質なものでなければならなかったのだと思う。

なぜならこれはすべてが終わった後の、最終戦争後のすべてが死に絶えた荒野に流れるための音楽であり、誰かに聴かれることを前提にしない音楽だからだ。このアルバムの通奏低音は静寂であり、このアルバムを聴き終わる時に世界は終わる。最初の始まりに生身の世界と対峙することを拒んだ彼らは、必然的に「終わり」と向かい合うしかなかった。シングルのカップリングになっている『Surfin' USA』のカバーが素晴らし過ぎて泣ける。




AUTOMATIC
The Jesus And Mary Chain

blanco y negro
9 26015-2 (1989)

■ Here Comes Alice
■ Coast To Coast
■ Blues From A Gun
■ Between Planets
■ UV Ray
■ Her Way Of Praying
■ Head On
■ Take It
■ Half Way To Crazy
■ Gimme Hell
■ Drop
■ Sunray
前作が静寂をバックグラウンドにしていたのだとすれば、本作は恐ろしく饒舌でにぎやかなアルバムである。これでもかというくらいポップな、いや、調子のいいモダン・ギター・ロックが、44分間に亘ってダラダラと垂れ流されるしまりのないアルバム。曲はほとんどどれもベースが八分音符を刻む単線的な構成であり、普通の神経のプロデューサーとかならそんなことはしないと思うのだが、そんなことには構わないのが彼らのいいところ。

僕が大学を卒業して就職した年のリリースであり、当時の勤務地であった神戸の輸入盤屋で買ったアルバム。最も切実にロックを欲した時期によく聴いた作品で、今でも聴き返すと明確に聴き覚えがあるのだが、それでもそれぞれの曲の区別がほぼつかないのはすごい。おそらく当時の僕にはアルバム全体がひとつの塊のように聞こえていたのだろう。ドラム・マシンに乗せてギターを鳴らすだけで音楽になる3分間クッキングのような作品だ。

もちろんそこに、彼ら独特のルサンチマンや聴くに足る衝動のようなものは間違いなくあるのだが(だからこそレビューしている)、それをこうした過剰に単調なサウンド・プロデュースとムダにメリハリの利いたメロディでしか表現できないところが彼らの特質であり、それこそがマイ・ブラディ・ヴァレンタインやその後のシューゲイザー達に継承されたもの。限りなく退屈で限りなくセンチメンタル、そして限りなくカッコいいアルバム。




HONEY'S DEAD
The Jesus And Mary Chain

blanco y negro
9031-76554-2 (1992)

■ Reverence
■ Teenage Lust
■ Far Gone And Out
■ Almost Gold
■ Sugar Ray
■ Tumbledown
■ Catchfire
■ Good For My Soul
■ Rollercoaster
■ I Can't Get Enough
■ Sundown
■ Frequency
1992年、僕はドイツで一人暮らしをしていて、マンハイムのレコード屋でこのアルバムを買った。「ジーザス・クライストのように死にたい」「JFKのように死にたい」と始まる4枚目のオリジナル・アルバム。何かのレビューで錆びた弦をひっかくようだと評されていたが、その通りのささくれたギターと当時シーンを席巻していたマンチェスター的モメントを導入したダンス・ロック、こういう組み合わせがあったかと思わせる意欲作である。

一人の部屋で幾度となく聴いたこのアルバムは、彼らの作品の中でも最も印象に残っているもののはずだが、改めて聴き返すと当時の印象ほどハード・エッジでもなく、今となっては意外にメロウでロマンチック。考えてみれば、「ジーザス・クライストのように死にたい」という物言いそのものが初めからナイーヴだったのかも。前作のオートマティズムを敷衍したかのようなビートも、今聴くとクールというより微笑ましいが完成度は高い。

ベシャベシャに甘い限りなく無反省なメロディを、どれだけハッタリを効かせ殺伐と聴かせるかというのが彼らの表現の宿命的なテーゼであるとすれば、その中二病的オブセッションを最もバランスよくとりまとめたのがこのアルバムだということ。メロディが甘ければ甘いほど、「そこには何もない」ことを際立たせて行く、音楽以後の音楽。彼らの本質が無であること、だからこそ彼らが世界を憎悪していることがよく分かるアルバムだ。




STONED & DETHRONED
The Jesus And Mary Chain

blanco y negro
4509-96717-2 (1994)

■ Dirty Water
■ Bullet Lovers
■ Sometimes Always
■ Come On
■ Between Us
■ Hole
■ Never Saw It Coming
■ She
■ Wish I Could
■ Save Me
■ Till It Shines
■ God Help Me
■ Girlfriend
■ Everybody I Know
■ You've Been A Friend
■ These Days
■ Feeling Lucky
憑き物が落ちたように普通のアコースティック・ロックを奏でる5枚めのオリジナル・アルバムである。いったいどういう心境の変化なのか分からないが、彼らのアルバムの中では最も中二病的要素が少ないストレートでストイックな作品。これを聴けば彼らの音楽的才能の実際のサイズみたいなものがよく分かる。オブセッションのレイヤーをひとつひとつ剥ぎ取って行けば、そこに残ったのはあまりに無邪気な音楽への信頼、依存であった。

3分前後のシンプルな曲が17曲も入って49分。お買い得だが正直曲の区別もつきにくい。おそらくはもうわざとらしいノイズをガリガリと曲にかぶせるのも面倒くさくなったというか飽きたというかバカらしくなったというか、そういうことなのだろう。そういう人たちなのだ。極めてとっつきやすい、ポップで耳馴染みのいいシンプルなギター・ロックだが、鳴らすことで完全に自足し、もはや聴かせることを意図していないようにも見える。

だが、だからこそこのアルバムは彼らの音楽に向かう動因のようなものが分かる気もする。彼らにとって音楽はもともと自分たちのためにあるものであり、リスナーの存在は二の次だったのかもしれない。無人の荒野にまっすぐ延びる道路をテレビ画面から切り取ったジャケットが、ディスコミュニケーションのツールとしての音楽を象徴しているかのようだ。凡庸と厭世と無関心と。ある意味彼らの表現の本質が露わになった作品なのかも。




MUNKI
The Jesus And Mary Chain

Creation
SCR 489854 2 (1998)

■ I Love Rock'n'roll
■ Birthday
■ Stardust Remedy
■ Fizzy
■ Moe Tucker
■ Perfume
■ Virtually Unreal
■ Degeherate
■ Cracking Up
■ Commercial
■ Supertramp
■ Never Understood
■ I Can't Find The Time For Times
■ Man On The Moon
■ Black
■ Dream Lover
■ I Hate Rock'n'roll
前作から4年を経て、忘れられた頃に突然リリースされたラスト・アルバム。古巣のクリエーション・レーベルからのリリースだが、クリエーションからアルバムをリリースするのは初めて。前作に続き17曲入り、トータル70分のインフレ状態。アコースティックで森閑としていた前作に比べれば、再びギターがうるさく鳴り、そこに投げやりなボーカルが乗っかって、ジザメリらしいノイジーなギター・ポップがお腹いっぱいまで堪能できる。

『I Love Rock'n'roll』に始まり『I Hate Rock'n'roll』に終わる円環構造は、花びらを1枚ずつちぎっては「好き」「嫌い」と占う乙女のように無意味でどっちつかず。要は好きでも嫌いでもどちらでもいい、どちらでも成り立つ音楽を彼らは鳴らし続けてきた訳で、このアルバムはそうした彼ら自身のパブリック・イメージの徹底したリサイクル。もはや魂もオリジナリティもイノベーションもないが、だからこそ価値のある凡庸なロック。

というか彼らの音楽には初めから魂もオリジナリティもイノベーションもなかったのだ。中二病という言葉が生まれるはるか以前から真性の中二病だった、どうしようもない兄弟のどうしようもない音楽が世界中でこれだけの支持を得たのは、世界が中二病的なるものをその本質として内包しているからに他ならない。すべてのオブセッション、すべての自己愛、すべての露悪趣味に祝福された音楽。凡庸が特権であることを彼らは示したのだ。



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