logo 大滝詠一


恥ずかしながら僕は「A LONG VACATION」から大滝詠一を聴き始めた口である。大滝のラジオ番組のリスナーだった訳でもないし、コロンビア時代のナイアガラ・レーベルを知っている訳でもない。ごく普通の、当たり前のポップス・ファンとして当時売れていたロンバケを手に取った。時は1981年、僕は高校1年生だった。

その後、僕が佐野元春、伊藤銀次に傾倒し、そこからさらに洋楽を聴くようになって行った背景にはもちろん大滝詠一の影響もあったが、大滝がロンバケまでにたどった足跡には正直あまり興味が持てず、長い間真面目に聴くこともなかった。というか音源を持っていなかった。かろうじて「NIAGARA TRIANGLE VOL.1」を買ったくらいだ。

大滝の音楽に対する愛情と造詣の深さにはもちろん敬意を抱いていたが、「ロンバケ」以前の大滝が世に問うていた音頭モノとかコミック・ソング的なものは僕にはほぼ理解できなかったのだ。「ロンバケ」以降の洗練されたポップスと、それ以前の悪ふざけとしか思えないような雑多な作品群とのギャップは長い間僕にとってナゾだった。

その大滝が、2013年末に亡くなった。そのニュースを僕はどこでどんなふうに聞いたのだったか。その時に感じたのは、ショックというより、僕の過ごしてきた大事な時期に連なる何かがひとつ永久に失われたという喪失感だったように思う。ロンバケ、「EACH TIME」そして「NIAGARA TRIANGLE VOL.2」。あの大滝詠一が死んだ。

大滝について何かを書くなら今しかない、そう思い、一念発起してボックスセット「NIAGARA CD BOOK 1」を買った。はっぴいえんどのCDも揃えた。そしてそれらは意外なほどすんなり僕の耳に馴染んだ。ロンバケは一日にして成らず。美しい音楽は、そうであればあるほど、雑多で重層的な経験に裏づけられた豊かな集積の上にしか成り立ち得ないのだ。

とはいえ、僕には今でも大滝の独特のユーモアの感覚は違和感があるし、音頭モノやいわゆるノベルティ・タイプの曲にも深い思い入れは抱けない。だが、僕はそれでいいのだと思えるようになった。大滝詠一を愛するすべての人が大滝と同じように古今東西の音楽に精通し、蘊蓄を語らなければならない訳ではない。大滝のある種自己満足的な自己言及ゲームに律儀に付き合わねばならない訳ではない。僕は僕の好きな大滝詠一を聴けばいいのだ。

ここでは、そのようなロンバケ以降の、音頭モノに思い入れのないファンから見た大滝のディスコグラフィ・レビューを試みるつもりだ。それが僕の大滝への追悼だと思って。
(2014.6.6)




はっぴいえんど
はっぴいえんど

URC/Pony Canyon
PCCA-50021 (1970)

■ 春よ来い
■ かくれんぼ
■ しんしんしん
■ 飛べない空
■ 敵 タナトスを想起せよ!
■ あやか市の動物園
■ 12月の雨の日
■ いらいら
■ 朝
■ はっぴいえんど
■ 続はっぴーいいえーんど
はっぴいえんどのデビュー・アルバム。このうち大滝の作品は「春よ来い」「かくれんぼ」「12月の雨の日」「いらいら」「朝」の5曲。大滝の自作詞による「いらいら」以外は松本隆が作詞を手がけている。他の6曲は細野晴臣によるもの。音楽的にはバッファロー・スプリングフィールドを下敷きにしたと言われる良質で洗練されたドライなアメリカン・ロック。アングラ・フォークの文脈の中ではおそらく異色のバンドだったのではないか。

今日の目から見れば、特に松本の歌詞に時代性を感じさせる部分が多く、没入して聴くのはつらい曲もある。日本語のロックは成立するのかという、これまで何度も繰り返された議論が最初になされたのがこのときだと思うが、ここでの松本の詞は若気の至りとはいえ自意識が強く、また文学的であることも過剰に意識しており、2014年に聴くにはいささか気恥かしい。特に「続はっぴーいいえーんど」は語りの気持ち悪さも含め悶絶必至だ。

アルバム全体としては大滝が担当する抒情的な部分と細野の先鋭的な部分が拮抗し、上記のような時代的限界はともかくとして、洋楽だと思って音楽を中心に聴けば最後まで息もつかせずに聴かせるテンションの高い名作。大滝作品としてはアルバム冒頭の「春よ来い」とシングルになった「12月の雨の日」でロマンティックなソングライティングが既に顕著に結実している。「12月の雨の日」は別録音のシングル・バージョンも素晴らしい。




風街ろまん
はっぴいえんど

URC/Pony Canyon
PCCA-50022 (1971)

■ 抱きしめたい
■ 空いろのくれよん
■ 風をあつめて
■ 暗闇坂むささび変化
■ はいからはくち
■ はいから・びゅーちふる
■ 夏なんです
■ 花いちもんめ
■ あしたてんきになあれ
■ 颱風
■ 春らんまん
■ 愛餓を
はっぴいえんどのセカンド・アルバム。歌詞やアルバム全体のバランスという点では荒削りな部分も多かった前作に比べ、ひとつひとつの作品も、また全体の構成も格段に整理され、音楽的にも幅の広がった彼らの代表作というべきアルバム。大滝の作品は「抱きしめたい」「空いろのくれよん」「はいからはくち」「はいからびゅーちふる」「颱風」「春らんまん」「愛餓を」の7曲だ(ただし「はいからびゅーちふる」はインタールード)。

クールでハードなロック・チューンである「はいからはくち」やヘヴィなブルース・ロックの「颱風」などは大滝の音楽的なルーツを窺わせ今日でも魅力を失わない代表曲。特に「颱風」で日本語のシラブルを解体しながら強引にメロディに乗せて行く手法は、その後の大滝の作品を知る者として感慨深く、鈴木茂のギターも素晴らしい。アルバムの最後に置かれた「愛餓を」は単純なナンセンス・ソングだが童謡のような素朴な通用力がある。

「空いろのくれよん」の牧歌的なカントリーとヨーデルの組み合わせも面白いが、アルバム全体とすれば細野の「風をあつめて」、鈴木の「花いちもんめ」などの方が完成度が高く印象に残る。また細野の作品には大滝はコーラス以外ほぼ参加せず、バンドとしてはぎりぎりのテンションの中で迎えたピークだったのかもしれない。松本の詞には依然生硬な部分も多く残るが、ムダな肩の力は随分抜けた。それにしても「肺から吐く血」とは…。




大瀧詠一
大瀧詠一

Bellwood/King
KICS 2557 (1972)

■ おもい
■ それはぼくぢゃないよ
■ 指切り
■ びんぼう
■ 五月雨
■ ウララカ
■ あつさのせい
■ 朝寝坊
■ 水彩画の町
■ 乱れ髪
■ 恋の汽車ポッポ第二部
■ いかすぜ!この恋
大滝がはっぴいえんど在籍中に発表したファースト・ソロ・アルバム。とはいえ多くの曲に細野晴臣、松本隆、鈴木茂らはっぴいえんどのメンバーが参加している他、『それはぼくぢゃないよ』『指切り』『水彩画の町』『乱れ髪』は松本の作詞によるもの。全体としては大滝作品のみによるはっぴいえんどのアルバムと言っても差し支えのない作品。URCの系譜を引き継ぎながら新しく設立されたベルウッド・レーベルからのリリースである。

この作品には既に大滝のすべてがある。音楽的にはアメリカン・ロックをバック・ボーンにしたポップ・ミュージックであるが、それがアーシーなブルース・ロックにももっぱら情緒に依拠したフォークにもならず、異常なまでに乾いたアーバン・ポップに結実しているのは、すべてを知った上ですべてを相対化する大滝の透徹した視線と、その底流をなす誰よりも深いポップ・ミュージックの愛情ゆえに他ならない。原点というより基点だ。

今聴けば、9年後に発表されることになるロンバケの答え合わせをしているような気分になる。というかここからロンバケまでわずか9年ということが驚き。ここでは松本の詞も素晴らしく、特に『指切り』は松本の歌詞が余計な情緒やムダな自意識から切り離されたときにどれだけの凄みを持ち得るかを示した傑作。アル・グリーンの『Stay Together』を意識したアレンジも、大滝の細い声のボーカルも何もかもが奇跡のように素晴らしい。




HAPPY END
はっぴいえんど

Bellwood/King
KICS 2560 (1973)

■ 風来坊
■ 氷雨月のスケッチ
■ 明日あたりはきっと春
■ 無風状態
■ さよなら通り3番地
■ 相合傘
■ 田舎道
■ 外はいい天気
■ さよならアメリカ さよならニッポン
既に解散を決めていたはっぴいえんどがいわば「卒業制作」的に残したラスト・アルバム。レコーディングはアメリカ・ハリウッドで行われ、リトル・フィートのローウェル・ジョージが参加した他、ヴァン・ダイク・パークスがスタジオを訪れ「さよならアメリカ さよならニッポン」をバンドと共作している。バッファロー・スプリングフィールドを原点としてスタートしたバンドにふさわしいエンディング。ベルウッドからのリリース。

ブラスをフィーチャーするなどサウンドは整理されてアメリカ録音の効果ははっきり見られる。しかし、このアルバムでは、バンドの一体感はもはや希薄になる一方。収録9曲のうち3曲を提供した鈴木茂の成長が際立ち、細野が自作の歌詞で3曲を提供、独自のキャラクターを示して存在感を見せる一方で、大滝はソロ・アルバムの制作直後だったこともあって十分な楽曲が用意できず、収録は「田舎道」「外はいい天気」の2曲にとどまった。

「田舎道」は「カントリー・ロード」からの連想か。その名の通りカントリーに大滝独特のヨーデルを組み合わせた軽快なポップ・ナンバー。「外はいい天気」は大滝らしい抒情的な楽曲で、2曲とも松本隆の作詞によるもの。しかし、このアルバムの白眉は何といってもバンドでの作詞作曲名義(作曲はヴァン・ダイク・パークスが共作)による「さよならアメリカ〜」。この曲で彼らが別れを告げたものは何だったのか。名作という他ない。




Niagara Moon
大滝詠一

Niagara
SRCL 7501 (1975)

■ ナイアガラ・ムーン
■ 三文ソング
■ 論寒牛男
■ ロックン・ロール・マーチ
■ ハンド・クラッピング・ルンバ
■ 恋はメレンゲ
■ 福生ストラット(パートII)
■ シャックリママさん
■ 楽しい夜更し
■ 君に夢中
■ Cider '73 '74 '75
■ ナイアガラ・ムーンがまた輝けば
はっぴいえんどのラスト・アルバムから2年を経て、自ら設立したナイアガラ・レーベルからリリースされたソロ・アルバム。アルバム「大瀧詠一」がはっぴいえんどの番外編的な内容だったことからすれば、ソロ・アーティストとしての大滝詠一の実質的なファースト・アルバムと言っていいかもしれない。はっぴいえんどの抒情的な「歌」の世界とは異なり、アメリカン・ミュージックの多彩なリズム見本市のような作品に仕上がった。

膨大な元ネタからある時は大胆に、ある時は言われても分からないくらいひねりにひねって引用する方法論はその後の大滝作品の原型であり、音楽に対する深い造詣と愛情なしにはなし得ないもの。それをアナログ両面合わせても30分足らずの中に凝縮した本作は、ニュー・オリンズR&Bを核としてプレスリーやバディ・ホリーまでをカバーするアメリカ音楽への率直な憧憬が、極東の島国で突然変異のように高次で結実した傑作と言える。

ミュージシャンとしての一線から退いた松本隆を除いて、細野晴臣、鈴木茂がはっぴいえんどから参加。作詞は『論寒牛男』が中山泰、『Cider〜』が伊藤アキラなのを除いてすべて大滝自身。歌詞はほとんどが自己言及的、楽屋落ち的なナンセンス・ソング。この大滝の美意識とかユーモアのセンスに馴染めるかどうかはロンバケ以前の大滝の作品を聴く上では大きなポイント。最初はここが大きな関門だったが今は気にならなくなった。




Niagara Triangle Vol.1
山下達郎 伊藤銀次 大滝詠一

Niagara
SRCL 7502 (1976)

■ ドリーミング・デイ
■ パレード
■ 遅すぎた別れ
■ 日射病
■ ココナツ・ホリデイ'76
■ 幸せにさよなら
■ 新無頼横丁
■ フライング・キッド
■ FUSSA STRUT Part-1
■ 夜明け前の浜辺
■ ナイアガラ音頭
「ティーンエイジ・トライアングル」に着想を得て、ナイアガラ・レーベルに所属する3人のアーティストによるオムニバスとして企画されたアルバム。1〜3、8が山下達郎、4〜7が伊藤銀次、9〜11の3曲が大滝詠一によるもの。山下の楽曲がポップ・ソングとして最も完成度が高く、伊藤銀次はおもにココナツ・バンクのレパートリーをソロで収録したものだが、シングル『幸せにさよなら』はリリカルな名曲で銀次の代表作のひとつである。

大滝が提供した3曲のうち『FUSSA STRUT〜』は「ナイアガラ・ムーン」に収録の『福生ストラット』の続編となるインスト。ハワイアンの『夜明け前の浜辺』は同じく「ナイアガラ・ムーン」のアウトテイクとされているが取り立ててどうということのない出来。結局、このアルバムでの大滝の楽曲の中で聴くべきものは『ナイアガラ音頭』ということになる。ラジオ番組のリスナーからのリクエストに応えたという洋邦混淆の怪作新民謡だ。

ここから「音頭モノ」は大滝のひとつのトレードマークになって行く訳だが、この時点では大滝自身もまだひとつの実験、よりはっきり言えば遊びと心得ていたのではないか。ボーカルを布谷文夫に委ね、お囃子まで入れた本格的な音頭は、ポップ・ミュージックを待ち構えていた耳には正直違和感のあるものだが、そのことよりも「分かる人に分かればいい」という閉じた内輪意識みたいなものが鼻について好きになれないことに気づいた。


Go! Go! Niagara

GO! GO! NIAGARA
大滝詠一

Niagara
SRCL 7503 (1976)

■ GO! GO! Niagaraのテーマ
■ 趣味趣味音楽
■ あの娘に御用心
■ ジングル;ベースボール
■ こいの滝渡り
■ こんな時、あの娘がいてくれたらナァ
■ ジングル;月曜の夜の恋人に
■ 針切り男
■ ニコニコ笑って
■ ジングル;ナイアガラ・マーチ
■ Cobra Twist
■ 今宵こそ
■ 再びGO! GO! Niagaraのテーマ
大滝詠一が実際にパーソナリティを務めていた同名のラジオ番組からオープニング、エンディング、ジングルを流用、DJ形式で8曲のオリジナルを紹介するアルバム。内容的にはニュー・オリンズからツイスト、メロディのメロウなラブ・ソングまで、大滝らしくルーツに敬意を払いつつバラエティに富んだ楽曲が並んでいるが、オリジナル・アルバムとしてはわずか8曲をDJで水増しした感があって薄味な印象の作品。演奏時間も30分と短い。

DJアルバムというアイデア自体はあってしかるべきと思うが、CDを聴くたびに毎回同じトークを聴かされるのは正直つらい。この時期の大滝はナイアガラを個人レーベルにしたくないという思いからさまざまな企画をひねり出そうとしていたことが窺われ、楽曲自体は決して悪くないのにDJアルバムという構成のせいでむしろ企画盤的な散漫さが気になってしまう。DJ部分も閉じた自己言及性やいかにも時代性を感じさせるユーモアがしんどい。

大滝のラジオ番組のリスナーでもなかった者としてはこの構成に特に感慨もなく、アナログでA面が終ったところで「あの〜、サイド1終ったんですけども…」などというつぶやきを聞かされても困惑するのみ。『こいの滝渡り』の小芝居も聴くのがつらく、僕は大滝のユーモアはやっぱりダメだと痛感。「ジャックトーンズ」と名づけられた大滝自身によるひとり多重録音によるコーラスが多用されるなど、音楽的には洗練されており聴かせる。


Niagara CM Special Vol.1

Niagara CM Special Vol.1
Niagara CM Stars

Niagara
SRCL 7504 (1977)

■ Cider'73 '74 '75 '77
■ Cider'73 B-Type〜C-Type
■ アシ・アシ〜サマー・ローション
■ 若返り〜丈夫な夫婦〜コメッコ〜ココナッツ・コーン
■ ジーガム英語〜A-Type〜B-Type
■ クリネックス・ティシュー〜どんな顔するかな〜ムーチュ
■ ドレッサーI 30"〜15"〜ドレッサーII
■ 土曜の夜の恋人に
■ Cider'73 '74 '75 '77(Vocal & Inst.)
■ Cider'73 '74 '75 '77
■ クリネックス
■ ドレッサーII〜ドレッサーIII
■ 土曜の夜の恋人に
はっぴいえんどが解散してからナイアガラ・レーベルがスタートするまでの間となる1973年から75年頃に、三ツ矢サイダー、クリネックス、資生堂、グリコなどのテレビ・コマーシャルに提供した楽曲を集めた編集盤。リリースは1977年だが、内容的にはプレ・ナイアガラとなる音源であり、その後の大滝の作品に結実して行くメロディやアレンジ、リズムなどの多彩なアイデアが、30秒という定型の枠の中にコンパクトに盛り込まれている。

いわば大滝の音楽のエッセンスだけを抽出し、その成立過程をたどるかのような企画であり、リスナーの耳に残るフックを意識したかのようなメリハリの利いたフレーズは、この後ややもすれば内輪受けに流れて行った大滝の作品に比べれば外部に開かれた風通しのいいもの。ナイアガラ前史でありながらロンバケ以降に直接つながって行くようなオープンなコミットメントが感じられる。CMという枠がむしろ大滝の才能を素直に引き出した。

とはいえ、3分間の所謂ポップ・ソングがまったく含まれないCMソングだけの企画盤はなかなか一般には受け入れられにくかったことだろう。この作品も、当時の大滝がナイアガラを単なる大滝の個人レーベルにしないために腐心した表れとみるべきなのかもしれない。1982年には本作以降のCM作品を収録した「Vol.2」がリリースされ、本作と統合された「Special Issue」、未発表音源を多数追加した30周年記念盤などもあるので要注意。


多羅尾伴内楽團 Vol.1

多羅尾伴内楽團 Vol.1
多羅尾伴内楽團

Niagara
SRCL 7506 (1977)

■ 霧の彼方へ
■ 悲しき北風
■ さすらいのギター
■ 霧のカレリア
■ 悲しき打明け
■ フォーエヴァー
■ 雪やコンコン
■ 雪の降る街を
■ 霧の中のロンリー・シティー
■ テルスター
■ アウト・オブ・リミッツ
■ ブルー・スター
多羅尾伴内は大滝のアレンジャーとしての別名。大滝はスリーブなどで多数の別名・変名を使い分けているが、その中でも登場の回数が多く最も知られている別名がこの多羅尾伴内だろう。もとはミステリに登場する探偵の名前で「七つの顔を持つ男」ということで、作詞・作曲からアレンジ、演奏、歌唱、エンジニアリングなど多彩な役割を務める自身になぞらえて使い始めたものらしい。本作はその多羅尾伴内が指揮する楽団のアルバムだ。

内容的にははちみつぱいの駒沢裕城によるペダル・スティールをメインにフィーチャーしたギター・インスト・アルバム。「哀愁」をテーマにしたということで、古今の名曲を物悲しいスティールの音色で奏でるメロウなインスト。とはいえ、勉強不足で僕には原曲がほとんど分からない上、このタイミングでギター・インストが出てくること自体意味不明。おそらくは契約枚数の関係でとにかくアルバムをリリースする必要があったのだろう。

ギター・インストといえばベンチャーズを思い浮かべる人も多いかもしれないが、それすらも知らない人が大半の今日にあっては、銀行やエレベータで流れてくるイージー・リスニング以上のものには聞こえまい。大滝はその後も「Vol.2」、ストリングスによる「SONGBOOK」などインストにも意欲的に取り組むが、ラウンジ・ミュージックの先駆けと評価すべきかどうかは迷うところ。後発のファンとしては軽く聴き流していい作品だと思う。


NIAGARA CALENDAR

NIAGARA CALENDAR '78
大滝詠一

Niagara
SRCL 7507 (1977)

■ Rockn' Roll お年玉
■ Blue Valentine's Day
■ お花見メレンゲ
■ Baseball-Crazy
■ 五月雨
■ 青空のように
■ 泳げ!カナヅチ君
■ 真夏の昼の夢
■ 実録、名月赤坂マンション
■ 座読書
■ 想い出は霧の中
■ クリスマス音頭
■ お正月
ソロ・アルバムとしては「GO! GO! NIAGARA」に続く作品。タイトルの通り1月から12月まで、各月にちなんだ曲が収められている。何であれ趣向を凝らして企画に乗せないと気が済まない大滝の意地のようなものか。ともあれきちんとしたポップ・ソングがきれいに並んだオリジナル・アルバムに違いはない。内容的には所謂「メロディ・タイプ」の『Blue Valentine's Day』や『青空にように』から、各種「ノベルティ・タイプ」まで多彩。

中でもラストに収められた『クリスマス音頭』はもはや音頭の枠すら飛び出したような大滝流の和製ソウル・ミュージックとでもいうべきもので、本邦における「音頭」概念の再構築を迫る異形の仕上がり。こうした「暴走」をポジティヴに受け入れることができるかどうかがロンバケ以前の大滝の評価の分水嶺。僕としてはプレイリストに入れない曲だが、ラスト・トラック『お正月』とひとつながりで否応なく耳に残るのが怖いところだ。

むしろ上記の2曲の他にも、ビートルズ以前のロックンロールに捧げたその名も『Rockn' Roll お年玉』やニュー・オリンズ系のセカンド・ライン『Baseball-Crazy』、ビーチ・ボーイズ・マナーの多重コーラスが楽しい『泳げ!カナヅチ君』、多羅尾伴内楽団直系の哀愁サウンド『想い出は霧の中』など、個々の楽曲にロンバケ以後につながる萌芽を見るのがロンバケ以降型ファンの正しい態度なのだろう。構造は円環だが空気はオープン。


多羅尾伴内楽團 Vol.2

多羅尾伴内楽團 Vol.2
多羅尾伴内楽團

Niagara
SRCL 7508 (1978)

■ 太陽の渚No.1
■ ビーチ・バウンド
■ ブラック・サンド・ビーチ
■ ムーン・ドーグ
■ クルエル・サーフ
■ サーフ・パーティー
■ 心のときめき
■ イン・ザ・スティル・オブ・ザ・ナイト
■ ザ・サーファー・ムーン
■ ジャワの夜は更けて
■ 魅惑の宵
■ パラダイス・ロスト
Vol.1は駒沢裕城によるペダル・スティールをフィーチャーしていたが、このVol.2では村松邦男のギターがメイン。前作が冬版であったとすれば、本作はビーチ・ボーイズを初めとするサーフ・ソングを中心にした夏版というべき内容。波音から始まりベンチャーズを思わせる軽快なエレキ・インストが展開される。1曲は概ね2分台で12曲通して聴いても30分強とコンパクトな仕上がり。何も考えずにBGM的に聴いていて問題のない作品だろう。

おそらく大滝にすれば選曲の一つ一つにいろいろと細かい理由があり蘊蓄があり洒落があるのだろうが、申し訳ないことにその辺がさっぱり分からないので「ふ〜ん」と言って聴くしかないのが宝の持ち腐れで残念。ロンバケ以降のファンにとっては、音頭みたいな違和感はない代わりに必然性も有難味も分からない位置づけの難しい作品であることに間違いない。契約枚数とかレーベルとしてのバラエティも意識してのリリースとは思うが。

敢えて言うなら、のちの「SONG BOOK」とか「B-EACH TIME LONG」とか「SNOW TIME」とかのインストものにつながって行く系譜。改めてクレジットを見ると、白井良明、岡田徹、鈴木慶一、樫渕哲郎らムーンライダースのメンバーが顔を揃えているのが興味深い。大滝の「作品」ではあるが、大滝自身のボーカルが入っている訳でもなく、ロンバケ以降のファンとして大滝の音源をさかのぼる場合でも敢えて入手してまで聴く必要はないだろう。


大滝詠一デビュー

大滝詠一デビュー
大滝詠一

Niagara
SRCL 7509 (1978)

■ ナイアガラ・ムーン
■ 楽しい夜更し
■ 福生ストラット PartII
■ 恋はメレンゲ
■ あの娘に御用心'78
■ ウララカ'78
■ 趣味趣味音楽
■ ニコニコ笑って
■ 空飛ぶくじら
■ 水彩画の街'78
■ 乱れ髪'78
■ 外はいい天気だよ'78
ベスト盤であるがそこはそれ、大滝詠一の作品なので、代表曲を単に並べただけの年末対策的なものでは当然ない。まず、タイトルが「デビュー」というのは、ヒット曲がある訳でもなく、これから大滝を知る人が最初に手に取るアルバムであればいいということらしい。M1はモノからステレオへのリミックス。M2〜4は逆にステレオからモノへのリミックス。M5〜6、M10〜12は新録で、M7〜9はライブ音源。オリジナルのままの収録は1曲もない。

発売に当たって収録曲を決めるためのファン投票が行われたらしいが、実際その結果通りに選曲されたのかは分からない。ここで聴くべきはやはり新録の5曲か。M5〜6はリズムで遊んだ感のある大滝ならではのノベルティ・ソングだが、M10〜11はファースト・ソロ・アルバムから、M12ははっぴいえんどのラスト・アルバムから収録された松本隆作詞による抒情的な作品で、大滝の魅力はやはりここにあると実感させるシリアスな仕上がり。

これらの3曲はスタジオ・ライブに近いレコーディングだったのではないかと思われるライブ感のある音像で、ストリングス・アレンジは山下達郎。はっぴいえんど時代とロンバケ以降をつなぐミッシング・リングのようなトラックと言いたいところ。M7〜9のライブは1977年6月20日渋谷公会堂での収録とクレジットされており、大滝が普通にライブを行っていた時代もあるのだと思うと感慨深い。今となっては案外普通に楽しめる良作だ。


Let's Ondo Again

Let's Ondo Again
ナイアガラ・フォーリング・スターズ

Niagara
SRCL 7510 (1978)

■ 峠の早駕籠
■ 337秒間世界一周
■ 空飛ぶカナヅチ君
■ 烏賊酢是!是乃鯉
■ アン・アン小唄
■ ピンク・レディー
■ ハンド・クラッピン音頭
■ 禁煙音頭
■ 呆阿津怒哀声音頭
■ Let's Ondo Again
■ 河原の石川五右衛門
あ〜、これは。何というか。諸般の事情からレーベルをいったん閉めることが決まっており、コロンビアとの契約枚数を消化するために半ばやけくそで制作したと伝えられるナゾのアルバム。もとは多羅尾伴内楽団の第3弾としてコミック・ソングを特集しようと企画されたものとも言われ、実際M1、M2はVol.1の時のレコーディングらしい。そこから『泳げ!カナヅチ君』の宇宙編、ファーストの『いかすぜ!この恋』の再録へと展開する。

さらには演歌、当時人気絶頂だったピンク・レディーへのオマージュと自在。その上、アナログB面は全曲を音頭で固めるという蛮勇。『ハンド・クラッピン・ルンバ』の音頭版、ダウン・タウン・ブギウギ・バンドの『スモーキン・ブギ』へのアンサー・ソング、果てはレイ・チャールズの『What'd I Say』の音頭版ともう無茶苦茶。ラストはピンク・レディーの『渚のシンドバッド』のパロディながら収録が許可されず歌詞のみの掲載と。

ここまで来るとこれはこれで楽しめるし、ピーター・バラカンだって絶賛している。今にして思えばピチカート・ファイヴのラスト・アルバム「さ・え・ら ジャポン」はこれだったのではないか。そこからぐるっと回ってこのアルバムにたどり着くのが正しい道筋かも。レーベルを畳まざるを得なかった大滝のルサンチマンが暴発した採算度外視の怪作。ロンバケ以降のファンには理解し難い作品だが、別物として聴けば中毒性が高く危険。




A LONG VACATION
大滝詠一

Niagara
SRCL 8000 (1981)

■ 君は天然色
■ Velvet Motel
■ カナリア諸島にて
■ Pap-Pi-Doo-Bi-Doo-Ba物語
■ 我が心のピンボール
■ 雨のウェンズデイ
■ スピーチ・バルーン
■ 恋するカレン
■ FUN×4
■ さらばシベリア鉄道
福生のスタジオを閉鎖、日本コロムビアとの契約が切れ、新たにCBSソニーにレーベルごと移籍してリリースしたアルバム。大滝詠一と聞けばおそらくほとんどの人が思い浮かべる代表作であり、オリコン最高位2位。作詞は『Pap-Pi-Doo-Bi-Doo-Ba物語』を除いて松本隆が担当した。前作のヤケクソとも言える無軌道さから一転、メロディ重視のポップ・ソングを中心に、整理された音作りで全体をまとめた日本を代表するリゾート・アルバム。

今にして思えば前作から本作までたった3年しか経っていないことに愕然とする。日本コロンビア時代の作品との断絶を感じない訳には行かず、大滝らしい諧謔的な要素は影を潜めているが、これは奔放な試行錯誤が結局商業的な成功に結びつかなかったことへの大滝の意趣返しだと解するべきだろう。実際、洗練された本作の中でも、『Pap-Pi-Doo-Bi-Doo-Ba物語』他に見られる独特の譜割りなどに大滝の手クセが拭い難く刻印されている。

フィル・スペクターのウォール・オブ・サウンドとの関係も指摘されるが、典型的に見られるのは『君は天然色』など数曲。その他、古今のグッド・ミュージックへのオマージュ、言及も多く、インタープリターとしての大滝の資質はむしろよりラジカルに結実しているとも言える。とはいえ、アルバムを支えるのは結局のところ楽曲の質であり、松本の詞との相性も含めアルバムの基礎体力が高い。2003年に書いたレビューが我ながら名文。


Sing ALONG VACATION

Sing ALONG VACATION
大滝詠一

Niagara
SRCL 5000 (1981)

■ 君は天然色
■ Velvet Motel
■ カナリア諸島にて
■ Pap-Pi-Doo-Bi-Doo-Ba物語
■ 我が心のピンボール
■ 雨のウェンズデイ
■ スピーチ・バルーン
■ 恋するカレン
■ FUN×4
アルバム「A LONG VACATION」からボーカル・トラックを抜き、シンセサイザー、ギター、ピアノなどによるガイド・メロディをダビングしたインストルメンタル盤。クリア・ビニールのカラーLP盤を透明のビニル・パッケージに入れ、オリジナル・アルバムのジャケットを縮小したステッカーを貼った形で発売された。1万枚の限定で発売されたレア・アイテムで、通番のナンバリングがあったらしい。『さらばシベリア鉄道』は収録されず。

僕もこの盤は持っていないが、大学生の頃、近所のレンタル・レコード屋にあったのでカセットにダビングして大事に聴いていた。このアルバムは長い間入手困難なコレクターズ・アイテムで、今思えば、あの時「失くした」とか何とか言って買い取ればよかった。2001年、「A LONG VACATION 20th Anniversary Edition」が発売された際、ボーナス・トラックとしてM11〜19に本作が全曲収録されたことで、音源として手に入るようになった。

純粋なオフ・ボーカル・アルバムだと思っていたが、聴いてみたら安っぽいシンセのガイド・メロディがダビングされていてがっかりした記憶がある。レーベル記号には大滝がアレンジャーとして使う名義である「多羅尾伴内」を示す「TB」が使用されており、大滝は「多羅尾伴内楽団」の系譜を継ぐインストルメンタル企画盤だと考えていたようだ。なお、純粋なオフ・ボーカルは2011年発売の「30th Anniversary Edition」に収録された。


NIAGARA TRIANGLE VOL.2

NIAGARA TRIANGLE VOL.2
佐野元春 杉真理 大滝詠一

Niagara
SRCL 8002 (1982)

■ A面で恋をして
■ 彼女はデリケート
■ Bye Bye C-Boy
■ マンハッタンブリッヂにたたずんで
■ NOBODY
■ ガールフレンド
■ 夢みる渚
■ Love Her
■ 週末の恋人たち
■ オリーブの午后
■ 白い港
■ Water Color
■ ハートじかけのオレンジ
「Vol.1」から6年を経て、佐野元春、杉真理とともに制作した「トライアングル」の2作目。大滝がそれまでも「目をつけていた」佐野と杉に「『Vol.2』をやらないか」とオファー、快諾を得て実現したものらしい。『A面で恋をして』は大滝の楽曲であるが3人が順にボーカルを取るスタイルで、「ナイアガラ・トライアングル」名義でシングル・カットもされている。その他はM2〜4、9が佐野元春、M5〜8が杉真理、M9〜13の4曲が大滝の曲。

3人の共通点はビートルズ、リバプール・サウンドか。佐野の『Bye Bye C-Boy』、杉の『Love Her』などにはビートルズの影響が色濃い。一方、大滝の楽曲はアルバム「A LONG VACATION」の延長線上にあるもので、『オリーブの午后』は『カナリア諸島にて』、『白い港』は『恋するカレン』、『Water Color』は『雨のウェンズデイ』、『ハートじかけのオレンジ』は『FUN×4』などとの、それぞれ相似性や音楽的なつながりを感じさせる。

「A LONG VACATION」には試行錯誤的なモメントも多く見られ、「ロンバケは一日にして成らず」と思わせる重層性を具えていたが、本作での大滝の作品はロンバケで得られたニュー・モードの方法論がより純化され、洗練された形でポップ・ソングとして結晶しており、その意味で「臭み」はロンバケ以上に希薄。ロンバケ直後のこのタイミングで、オリジナル・アルバムではなく企画盤を世に問うたところが「プロデューサー大瀧」の矜持。




NIAGARA SONG BOOK
Niagara Fall of Sound Orchestral

Niagara
SRCL 8004 (1982)

■ オリーブの午后
■ Summer Breeze
■ 恋するカレン
■ Water Color
■ カナリア諸島にて
■ 雨のウエンズデイ
■ 青空のように
■ FUN×4
■ 君は天然色
■ 夢で逢えたら
アルバム「A LONG VACATION」と「NIAGARA TRIANGLE VOL.2」の収録曲を中心に、『青空のように』と『夢で逢えたら』を加えた、大滝の楽曲のストリングスを中心としたインストルメンタル・アルバム。プロデューサーは大瀧詠一、編曲は井上鑑とクレジットされている。大滝は、井上の編曲による『白い港』のストリングスだけをプレイ・バックしてみたら、それだけで音楽として成立していると感激し、本作の着想を得たと語っている。

レーベル面のアーティスト記号は「TB」であり、アレンジャーとしての大滝の変名である多羅尾伴内の作品であることが示唆されており、系譜としては「多羅尾伴内楽団」「Sing ALONG VACATION」などのインストものに連なるもの。本作では歌もののオリジナルをストリングス用にリアレンジしており、流麗な弦の音色はデパートや銀行で流れているイージー・リスニングを思わせる。おそらくはそれが最も正しい聴かれ方ではないかと思う。

大滝はかねて日本の音楽市場では「歌もの」に対してインストへの評価が低いと批判しており、こうしたインスト作品のリリースはひとつの主張だったのだろう。しかしながらロンバケで大滝を聴き始めた僕のようなリスナーには今ひとつピンと来ないアルバムで、僕もこのレビューのために買うまで持っていなかった。LPレコードが2,800円だった時代に2,000円の廉価盤で発売された。なお、『Summer Breeze』は『Velvet Motel』である。


NIAGARA CM SPECIAL VOL.2


NIAGARA CM Special Vol.2
Niagara CM Stars

Niagara
SRCL 8704 (1982)

■ A面で恋をして〜風立ちぬ
■ Lemon Shower
■ 大きいのが好き〜UFO
■ ハウス・プリン〜レモンのキッス
■ Big John A, B
■ 冷たく愛して
■ Good Day Nissui〜MG5
■ オシャレさん〜大関〜出前一丁
■ Hankyu Summer Gift
■ 悲しきWalkman '81
■ Marui Sports '81
■ CM Special Vol.2
■ Spot Special
■ Instrumental Special
■ A面で恋をして(Narration)
■ A面で恋をして(A Cappella)
■ A面で恋をして(Tracks Only)
45回転LPとして1,500円の廉価盤でリリースされた作品。後に「Vol.1」とともに「Special Issue」にまとめられたため、単独では2015年の「NIAGARA CD BOOK II」までCD化されなかった。CMソングを集めた作品としては第2集にあたるもので、収録されたのは1978年から1981年の『A面で恋をして』まで、アルバム「A LONG VACATION」をはさんで「TRIANGLE VOL.2」までの時期のもの。「ロンバケ」収録曲の断片と思われるフレーズも頻出。

とはいえ、「Vol.1」の頃のように作品の発表の場としてCMを重視し、いろいろな試行錯誤を詰め込んでいた訳ではなく、アルバム制作の合間に、注文に応じて制作していたものがほとんど。音源としての面白味や意外性には欠ける上、収録曲も明らかにネタ不足で、アナログB面は自らのシングルなどのラジオ・スポットや『A面で恋をして』のバリエーションなど、埋め草的な色彩が濃く、アーカイヴとしてはともかく、通して聴くと退屈。

収録曲は大滝自身がボーカルを取ったものの他に、松田聖子の『風立ちぬ』を初め、EPO、シャネルズ、大場久美子、佐藤奈々子、そして今は亡き須藤薫ら豪華な顔触れ。『CM Special Vol.2』はこのアルバムのラジオ・スポット用に制作されたオリジナルであり、ここまで来るともはや自家撞着だが、大滝の音楽がひとつひとつきちんとポップ音楽の系譜に連なっており、それがまた後の作品にも繋がって行くことがよく分かるコレクション。




EACH TIME
大滝詠一

Niagara
SRCL 8005 (1984)

■ 魔法の瞳
■ 夏のペーパーバック
■ 木の葉のスケッチ
■ 恋のナックルボール
■ 銀色のジェット
■ 1969年のドラッグレース
■ ガラス壜の中の船
■ ペパーミント・ブルー
■ レイクサイドストーリー
ロンバケのメガ・ヒットから3年、満を持してリリースしたソロ名義のアルバムであり、結果として最後のオリジナル・アルバムとなった。ロンバケ、トライアングルに続いて作詞は盟友・松本隆が担当、発売延期を経てようやく発表された当初は一種のブーム的な盛り上がりとなり、チャートでも1位を獲得した。僕自身としても発売日に買った最初で最後の大滝のアルバム。大学入学直前の3月リリースで、とりわけ印象深い作品である。

内容はトライアングルを踏襲し、ロンバケでの音楽的成果をより純化、敷衍したものと言っていいだろう。音楽的な面での完成度は高く、ナイアガラ・サウンドとでもいうべきものの最終形。しかし、松本の詞が饒舌に語るセンチメンタルな物語がアルバムの湿度を上げているのがどうにも鼻につき、特に『木の葉のスケッチ』『銀色のジェット』『ガラス壜の中の船』などの情緒過多の歌詞がアルバム全体の潔癖さを致命的に損なっている。

それでもこのアルバムを聴くべき理由は、『ペパーミント・ブルー』ただ一曲にある。一人多重コーラスに乗せて歌われる情景が、ハードボイルドにも似たぎりぎりのロマンチシズムを切り取って行く名曲であり、松本−大滝コンビの到達点を示すもの。「話し忘れていた大事なこと」とはいったい何だったのか、もう大滝に訊くことはできない。CD再発の度に曲目、曲順が入れ替えられる不遇なアルバムだが、ここには当初の曲順を記載した。


NIAGARA TRIANGLE VOL.2

NIAGARA SONGBOOK 2
Niagara Fall of Sound Orchestral

Niagara
CSCL 1665 (1984)

■ 夏のペーパーバック
■ 恋のナックル・ボール
■ ペパーミント・ブルー
■ 木の葉のスケッチ
■ 真夏の昼の夢
■ 魔法の瞳
■ ガラス壜の中の船
■ 銀色のジェット
■ レイクサイド ストーリー
■ 夏のペーパーバック(Reprise)
ストリングス・インストルメンタル集の第2作で、アルバム「EACH TIME」の収録曲を中心にしているが、『1969年のドラッグレース』は収録されず、「ナイアガラ・カレンダー」収録の『真夏の昼の夢』がインスト化された。この作品もレーベルのアーティスト記号はシリーズ前作同様やはり多羅尾伴内を示す「TB」。スリーブのプロデューサー表記は「Eiichi Ohtaki」だが、多羅尾伴内楽団の系譜に連なるインストもの。廉価盤で発売された。

内容的には1982年の「SONGBOOK」同様、井上鑑のアレンジによる流れるようなストリングスの調べが美しいイージー・リスニング系のインストルメンタル。原曲を尊重したアレンジで、「EACH TIME」収録曲の端正さがよく分かる。デパートや銀行で流れていてもおかしくない作品だが、実際、シリーズ前作ともどもテレビなどのBGMとしても時折使われているようだ。意匠がはっきりしているので、企画に合わせて使いやすいのかもしれない。

とはいえ、これもロンバケから入った歌ものリスナーにとっては敢えて揃えるまでもない作品。大滝はインストの地位向上をことあるごとに主張していたが、一緒に歌うことで感情移入ができるという点で、歌ものはポップ・ミュージックとして明らかに優位性があり、リスナーが歌ものを好むこと自体は自然なようにも思う。しかし、まあ、この作品を押さえておくことで、次の「B-EACH TIME L-ONG」や「SNOW TIME」が理解しやすくはなる。


B-EACH TIME L-ONG

B-EACH TIME L-ONG
大滝詠一

Niagara
CSCL 1666 (1985)

■ カナリア諸島にて
■ オリーブの午后
■ 夏のペーパーバック
■ 恋するカレン
■ 白い港
■ ペパーミント・ブルー
■ 雨のウェンズデイ
■ Water Color
■ 銀色のジェット
■ Velvet Motel
■ Bachelor Girl
■ 夢で逢えたら
アルバム「A LONG VACATION」「NIAGARA TRIANGLE VOL.2」「EACH TIME」からの10曲に、新曲『Bachelor Girl』と「NIAGARA SONGBOOK」から『夢で逢えたら』のインストを加えた全12曲のベスト・アルバム。『Bachelor Girl』は「EACH TIME」のセッションでレコーディングされたがアウト・テイクとなっていたもの。本作から半年後に、やはり同セッションのアウト・テイク『フィヨルドの少女』とカップリングでシングル・カットされた。

各曲の冒頭には「NIAGARA SONGBOOK」「NIAGARA SONGBOOK 2」からのインスト版が1分ほど付け加えられ、それからおもむろに本来のイントロに入るという企画で60分超の長時間収録。『Bachelor Girl』の冒頭のインストは本作のために新たにレコーディングされたもの。大滝はCDのみでのリリースを目論んだが、メーカーからのダメ出しに遭い泣く泣くカセットでもリリースされたとか。アナログをリリースしないのは当時では異例だった。

収録曲はM1からM9まで3曲ずつが3部作のセットになっており、同系統の曲が3枚のアルバムに展開されていることの種明かしに。タイトル通り夏向きの曲のコレクションということになっていて、選曲にも納得性はあるが、今聴けばやはり曲の冒頭のインスト部分が冗長で、ラックから取り出して聴く機会は多くない。インストとのミックスは、前年に非売品として配布されたプロモ用カセット「Summertime, Each Time '84」からのアイデア。


SNOW TIME

SNOW TIME
大滝詠一 / Fiord 7

Niagara
SRCL 3503 (1996)

■ フィヨルドの少女
■ さらばシベリア鉄道
■ レイクサイドストーリー
■ スピーチ・バルーン
■ 木の葉のスケッチ
■ 夏のリビエラ
■ FIORD
■ SIBERIA
■ RIAS
■ AURORA
■ TUNDRA
■ YOKAN
1985年に「B-EACH TIME L-ONG」と対になるウィンター・ソングのベストとして企画されたが、諸般の事情でリリースが見送られ、業界向けのサンプルとしてのみ配布された「幻の作品」。それから10年以上経った1996年に至ってようやく市販されたもので、その間の事情は封入された大滝自身によるライナーノーツに詳しいが、要は「冬もの」の曲が少なかったこと、アルバム後半を占めるインストが6曲揃わなかったことなどが理由のようだ。

アルバム前半は、「ロンバケ」「イーチ・タイム」からの4曲に、85年の時点ではシングルしかリリースされていなかった『フィヨルドの少女』、森進一に提供した『冬のリビエラ』を改題して英詞で歌った『夏のリビエラ』を加えた歌もの。特に『夏のリビエラ』は長らくここでしか聴けないプレミアム音源だった。後半はフィヨルド7名義のインストだが、サンプル盤では新録が揃わずラストが『レイクサイドストーリー』だったようだ。

インストのうち『FIORD』は『フィヨルドの少女』、『SIBERIA』は『さらばシベリア鉄道』、『YOKAN』は渡辺満里奈に提供した『うれしい予感』のそれぞれバック・トラックにガイド・メロディをダビングした「Sing ALONG」型の作品と思われる。既発表曲と未発表曲を微妙にミックス、アルバム後半はインストということで、中途半端な感は免れない。大滝はこの後2枚のシングルを発表したが、アルバムとしては事実上最後となった作品。




Best Always
大滝詠一

Niagara
SRCL 8010-2 (2014)

■ ナイアガラ・ムーン
■ 12月の雨の日
■ 恋の汽車ポッポ
■ 空飛ぶくじら
■ 指切り
■ Cider '73 '74 '75
■ 楽しい夜更し
■ 夜明け前の浜辺
■ 幸せにさよなら
■ ニコニコ笑って
■ Cider '77
■ The Very Thought Of You
■ 青空のように
■ 真夏の昼の夢
■ ブルー・ヴァレンタイン・デイ
■ 外はいい天気だよ'78
■ 烏賊酢是!此乃鯉
■ 夢で逢えたら

■ 君は天然色
■ 恋するカレン
■ A面で恋をして
■ さらばシベリア鉄道
■ オリーブの午后
■ ハートじかけのオレンジ
■ ROCK'N'ROLL退屈男
■ CM Special Vol.2
■ Cider '83
■ ペパーミント・ブルー
■ バチェラー・ガール
■ フィヨルドの少女
■ 夏のリビエラ
■ 幸せな結末
■ Happy Endで始めよう
■ 恋するふたり
■ 恋のひとこと
過去に「デビュー」や「B-EACH TIME L-ONG」などはあったものの、キャリア全体を通した形では初めてのベスト・アルバム。ある意味では大滝が亡くなったことで可能になった企画かもしれない。はっぴいえんどのトラックからコロンビア、ソニー時代まで、レア音源を含めおもにシングル曲を中心に35曲を収録している。CD2枚組に加え、初回限定版には収録曲から10曲を選んでオフ・ボーカルのトラックを収めたボーナス・ディスクが付属。

シングル中心というコンセプトからか音頭ものは収録されず、いわゆるメロディ・タイプが大半。その意味では大滝の最も分かりやすい一面を跡づけたものだが、入門編として適当かどうかはまた別の問題。いずれにしても大滝が初期から一貫してグッド・メロディを書き続けてきたことは間違いなく、またその音楽活動がポップ・ミュージックの歴史への極めて深甚な造詣と愛情に裏打ちされたものであることがよく分かるコンピレーション。

聴きどころは本邦初公開になる『夢で逢えたら』と、竹内まりやとのデュエット『恋のひとこと』。どちらも音域の関係か、声を張って歌い上げるのではなく、ややリラックスした話し声に近いボーカルで、ハッとするほどリアルな大滝の息遣いを感じる。特に『恋のひとこと』では、ふだん博識と諧謔のベールの裏に隠された、シャイで誠実な大滝の素顔のようなものが落ち着いた声から垣間見え、改めてその不在を思わずにいられない。RIP




DEBUT AGAIN
大滝詠一

Niagara
SRCL 8714-5 (2016)

■ 熱き心に
■ うれしい予感
■ 怪盗ルビィ
■ 星空のサーカス
■ Tシャツに口紅
■ 探偵物語
■ すこしだけ やさしく
■ 夏のリビエラ
■ 風立ちぬ
■ 夢で逢えたら
他のアーティストへの提供曲を大滝が自ら歌った、所謂セルフ・カバーのトラックを集めた企画盤。『夏のリビエラ』は「SNOW TIME」で既発表、『夢で逢えたら』も先の「Best Always」で発表されたトラックの別ミックス、さらに『怪盗ルビィ』も既知のバージョン、『風立ちぬ』は1981年のライブだが、残りの6曲はこれまで存在が知られていなかった大滝ボーカルの音源で、大滝の死後、スタジオの整理の際に発見されたという貴重なもの。

バック・トラックから新たにレコーディングされた曲もあるが、アーティストに提供したバック・トラックを使い、ガイド・ボーカルや仮歌的にレコーディングしたものも少なくない。女性用のバック・トラックを使用しているために声域が合わない曲もあるなど、発掘音源の寄せ集め的な不揃い感は払拭できない。大滝が存命であればもちろん発表されない類の作品だが、だからこそ我々はここで聴くことのできる大滝の声に耳を傾けるのだ。

「Best Always」での『恋のひとこと』もそうだったが、一人多重コーラスで完成度の高い『星空のサーカス』などよりも、声域の合わない『うれしい予感』などラフなボーカルの「近さ」にむしろハッとする。「ナイアガラ・サウンド」が語られることは多いが、大滝のボーカルもまた彼の音楽を語る上で不可欠の要素。その魅力を改めて感じる機会を没後に提供してくれるのも大滝らしいか。節度ある哀惜の意と敬意のあふれた好企画盤だ。




NIAGARA CONCERT '83
大滝詠一

Niagara
SRCL 11103 (2019)

■ 夢で逢えたら
■ Summer Breeze
■ Wator Color
■ 青空のように
■ カナリア諸島にて
■ オリーブの午后
■ ハートじかけのオレンジ
■ 白い港
■ 雨のウエンズデイ
■ 探偵物語
■ すこしだけやさしく
■ 夏のリビエラ
■ 恋するカレン
■ FUNx4
■ Cider '83〜君は天然色
■ 夢で逢えたら、もう一度
1983年7月24日、所沢の西武ライオンズ球場で行われたライブの様子を収録。このライブは「ALL NIGHT NIPPON SUPER FES. '83 LIVE JAM」と題され、ニッポン放送の主催で行われたもの。大滝の他にラッツ&スター、サザン・オールスターズが出演し、大滝は2番目にパフォーマンスを披露した。島村英二、長岡道夫、石川鷹彦、吉川忠英、中西康晴、難波弘之、松武秀樹ら、大滝のレコーディングでは常連のミュージシャンがバックを固めた。

さらに山本直親の指揮による30人以上の編成の新日フィルをフィーチャー、屋外フェスとは思えないストリングス演奏を聴かせた。冒頭の5曲及びラストは大滝のボーカルが入らないストリングス・インストで、NIAGARA FALL OF SOUND ORCHESTRAL名義での演奏。この日の様子は添付のブックレット収録の能地祐子のライナーノートに詳しいが、写真・映像収録を一切許可しなかったことなども含め、異例ずくめのライブだったことを窺わせる。

大滝のボーカルは、声量は決して豊かという訳ではないものの意外に安定しており、ライブにしては異常にかっちりした演奏とも相まってスタジオ録音並みのクオリティ。アルバム「EACH TIME」リリース前の時期だがセルフ・カバーも含めた選曲はバランスが取れている。大滝のライブ・パフォーマンスはこれが最後となった。これだけの音源が残されていたのは資料としてもちろん貴重だが、何より純粋に大滝のライブが楽しめるアルバム。




Happy Ending
大滝詠一

Niagara
SRCL 11430 (2020)

■ Niagara Dreaming
■ 幸せな結末 (Album Ver.)
■ ナイアガラ慕情
■ 恋するふたり (Album Ver.)
■ イスタンブール・マンボ
■ Happy Endで始めよう (バカラックVer.)
■ ガラスの入り江
■ Dream Boy
■ ダンスが終わる前に
■ So Long
■ Happy Ending
1984年のアルバム「EACH TIME」以降、オリジナル・アルバムのリリースがなかった大滝だが、1997年にはフジテレビのドラマ「ラブジェネレーション」の主題歌・挿入歌として『幸せな結末』『Happy Endで始めよう』をカップリングしたシングルを、また2003年には同じくドラマ「東京ラブ・シネマ」の主題歌として『恋するふたり』をリリースしている。このアルバムはこれら90年代以降の音源を核に、大滝の死後構成された編集盤である。

上記3曲はいずれもリミックスが行われ別バージョンでの収録。そのほかにボーカルの入った完パケ曲は『ダンスが終わる前に』『So Long』の2曲のみで、それ以外はインストやカバーなどの音源を引っぱり出してきたマニアのためのレア・トラックスの色合いが濃い。通して聴いても統一感はなく単独の「作品」としての評価は正直難しい。なお、初回限定盤には「Niagara TV Special Vol.1」がボーナス・ディスクとして付属(次項で詳述)。

『ダンスが終わる前に』は大滝がプロデュースした渡辺満里奈のアルバム「Ring-a-Bell」(1996年)に収録のナンバーで佐野元春作詞・作曲によるもの。井上鑑アレンジによるストリングスの伴奏のみをバック大滝が歌うが、この曲はオリジナルのアレンジで聴きたかった。『So Long』は未発表曲だがメロディは『恋するふたり』とほぼ同じでその原型となった曲と見られる。蔵出し音源もそろそろ底をついてきたかと思わせる寄せ集め感。




NIAGARA TV Special Vol.1
大滝詠一

Niagara
SRCL 11431 (2020)

■ 君は天然色 (かくしごと Ver.)
■ 恋するカレン (一番大切なデート Ver.)
■ 恋するふたり (15sec Ver.)
■ 恋するふたり (東京ラブ・シネマ Ver.)
■ イスタンブール・マンボ (Inst Ver.)
■ 恋するふたり (Strings Fever Ver.)
■ 幸せな結末 (CM Ver.)
■ 幸せな結末 (ラブジェネレーション Ver.)
■ ナイアガラ慕情 (Inst Ver.)
■ Happy Endで始めよう (Harmonica Ver.)
■ マルチスコープのテーマ
■ 恋のナックルボール (前田幸長 Ver.)
コンピレーション「Happy Ending」の初回限定盤に付属したボーナス・ディスク。テレビ・ドラマの挿入歌やスポットCMの音源として使われたバージョンを集めたレア・トラックス集である。全部で12曲を収録しているが、中にはCMに使われた15秒や30秒のトラックもあり、全体でも30分と短く、同じ曲の別バージョンが何度も収録されたりしているので、通して聴くよりもある種の「資料集」としてマニアが大事に手許に置くべき音源だろう。

『君は天然色』は2020年に放映されたテレビ・アニメ「かくしごと」のエンディング・テーマとして、『恋するカレン』も同様に2004年のテレビ・ドラマ「一番大切なデート(東京の空・上海の夢)」のエンディング・テーマとして使われたバージョンのようだ。『マルチスコープのテーマ』は1984年にNHK総合で放映された子供番組「マルチ・スコープ」の主題歌。これまで『マルチスコープ』『ゆらりろ』のタイトルで発表されたものの再録。

『恋のナックルボール』は2003年に読売の前田行長投手の登板時のテーマ曲としてリミックスした別バージョン。原曲が「打たれる」結末になっているため投手としてはゲンが悪いということになり、これを聞いた大滝が打球音をオミットするなど「打たれないバージョン」を制作したという、野球好きの大滝らしいエピソードが残されている。まあ「Happy Ending」を買うくらいのファンならこのボーナス・ディスクもきっと楽しめるだろう。




NOVELTY SONG BOOK
大滝詠一

Niagara
SRCL 12450-1 (2023)

■ NIAGARA ROCK'N'ROLL ONDO
■ ゆうがたフレンド (USEFUL SONG)
■ ポップスター
■ うなずきマーチ
■ いちご畑でつかまえて
■ 暑さのせい
■ ピンク・レディー
■ 消防署の火事
■ ホルモン小唄〜元気でチャチャチャ
■ あの娘に御用心
■ 針切じいさんのロケン・ロール
コミック・ソングや音頭モノなどのノヴェルティ・タイプ(対置されるのはメロディ・タイプ)の楽曲を集めたコンピレーション・アルバム。2枚組となっており、DISC 1は大滝の歌唱によるアウト・テイクを収録、DISC 2は他のアーティストが発表したテイクのコレクションとなっている(本稿表示の曲目はDISC 1のみ)。他のアーティストへの提供曲が多く、音源としてはデモテープまたは楽曲提供時に制作した仮歌ではないかと思われる。

『ゆうがたフレンド』は「大滝詠一と鈴木慶一(冗談ぢゃねーやーず)」、『うなずきマーチ』は「大滝詠一トリオ」、『ピンク・レディー』は「大滝詠一とモンスター」名義となっている。市川実和子に提供した『ポップスター』や松田聖子が歌った『いちご畑でつかまえて』、沢田研二に書いた『あの娘に御用心』などは必ずしもノヴェルティ・タイプの曲でもなく、音源化可能な状態で残っているアウトテイクを寄せ集めた感は拭えない。

アルバム「大瀧詠一」収録の『あつさのせい』のリアレンジで1分に満たない『暑さのせい』、「Let's Ondo Again」収録の『ピンク・レディー』の再録など数合わせ的なトラックもあり、また『消防署の火事』のいかにもデモテープ然とした音像など完成度にもバラつきが大きい。DISC 2には現在では入手の困難なトラックも多いと思われるが、全体としてコレクター向けの企画であり、大滝詠一ビギナーがここから入るのはお勧めできない。


【補遺】

Niagara Memory, Melody, Medley
"Summertime, Each Time '84"
大滝詠一

Niagara
XDKH 93058(1984)

■ オリーブ諸島のペーパーバックSummer Motelのスケッチ×4のナックルボールの昼の夢
■ 雨のジェットColorの中の恋するペパーミントの夢で逢えたら



1984年に配布された非売品のプロモーション用カセットテープ。大滝関連のアイテムの中でも入手が難しいと言われているものである。内容的は以下に詳述するが、「SONG BOOK」からのインストとオリジナル・トラックをつないだメドレー形式のベスト盤であり、1年後に発売される「B-EACH TIME L-ONG」のアイデアの先駆けとなった企画と言われる。

巷間「ノン・ストップでつないだメドレー」と説明されているケースもあるが、2曲をミックスした2つのトラック(A-4、B-1)はあるものの、実際には以下のように各トラックの間は完全にセパレートである。貴重なデータだと思うので、ディスコグラフィの補遺として記録しておく。

A-1 オリーブの午后 インスト(2コーラス+間奏)→「オリーブの木にもたれたら〜」からオリジナル
A-2 カナリア諸島にて インスト(2コーラス)→「あの焦げだした夏に〜」からオリジナル→アウトロでスローダウンしてピアノ・ソロに変わる手前からインスト
A-3 夏のペーパーバック インスト(2コーラス+間奏)→「ありふれた終わり方なら〜」からオリジナル
A-4 Summer Breeze〜Velvet Motel〜木の葉のスケッチ 『Summer Breeze』(2コーラス途中まで)→「一度は愛し合えた二人が石のように」の部分のみ『Velvet Motel』→『Summer Breeze』(2コーラス終わりまで)→『木の葉のスケッチ』のインスト→「時が刻む深い溝を〜」から「〜途切れたまま」まで『木の葉のスケッチ』オリジナル→『Summer Breeze』
A-5 Fun x4 インスト(1コーラス+間奏)→「踊りながらカレッジの〜」の手前の「Four times fun」からオリジナル→アウトロの「Fun, fun, fun, now that〜」の手前からインスト
A-6 恋のナックルボール インスト(1コーラス+間奏)→「ヒット打つたび〜」の手前の337拍子からオリジナル→アウトロ数秒のみインスト
A-7 真夏の昼の夢 全編インスト

B-1 雨のウエンズデイ〜銀色のジェット 『雨のウエンズデイ』インスト(2コーラス)→『銀色のジェット』インスト→間奏ギター・ソロから『雨のウエンズデイ』オリジナル→アウトロ『雨のウエンズデイ』インスト
B-2 Water Color インスト(2コーラス)→間奏ギター・ソロからオリジナル
B-3 ガラス壜の中の船 オリジナル(2コーラス+間奏)→3コーラスからインスト
B-4 恋するカレン インスト(Aメロ)→「Oh カレン、浜辺の濡れた砂の〜」から「〜この胸を責めるよ」までオリジナル→「ふと目が合う度〜」からインスト→「Oh カレン、誰より君を愛していた〜」からオリジナル
B-5 ペパーミント・ブルー インスト(2コーラス+間奏+ブリッジ)→「そんなふうに僕たちも〜」からオリジナル
B-6 夢で逢えたら 全編インスト



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