logo マイ・ブラディ・ヴァレンタイン


This Is Your Bloody Valentine

THIS IS YOUR BLOODY VALENTINE

Dossier
EFA 15751-09 (1985)

■ Forever And Again
■ Homelovin' Guy
■ Don't Cramp My Style
■ Tiger My Tank
■ The Love Gang
■ Inferno
■ The Last Supper
マイ・ブラディ・ヴァレンタインのデビュー・アルバムだが、音楽的には当時ボーカルを務めていたデイヴ・コンウェイの趣味がそのまま表れたと思われるダークでゴスなガレージ・パンク。サイコビリーと呼ばれるロカビリー・パンクの影響も強く窺われ、いずれにしても後に彼らがたどり着いた一連のノイズ・ポップとの連続性をここに見出すのは難しい。実際、ケヴィン・シールズがこのアルバムにどれだけコミットしたかも分からない。

マイ・ブラディ・ヴァレンタインとしてはあくまで前史に属すべきものだろうが、当時のインディ・シーンの動向を知る上では興味深い音源だし、内容的にもこれ自体で聴く限りそれほど悪くないインディ・ポップである。ちょっと大仰なところ、ことさらに挑発的なところは若気の至りとして許す他ない。まあ、「へえ、マイブラって最初はこんなことやってたんだ」というトリビア的な意味合いで気楽に聴いていいアルバムだろうと思う。

僕がこのアルバムのCDを手に入れたのは2003年10月。新宿のタワレコで結構大きめに展開されていた。当時の僕はこのアルバムが彼らのキャリアのどこに位置づけられるものかも知らず、ただ「こういうのは一期一会やからな」と思って取り敢えず「押さえた」だけで、長い間真面目に聴きもしなかった。1990年にCD化されたものらしいが、今探してもなかなか手には入らないかもしれない。まあ、そこまでして探すほどのアルバムでもないか。


Things Left Behind...

THINGS LEFT BEHIND...

Independent
IM 567 (2001)

■ No Place To Go
■ Moonlight
■ Love Machine
■ Sandman Never Sleeps
■ Lovelee Sweet Darlene
■ By Danger In Your Eyes
■ On Another Rainy Saturday
■ We're So Beautiful
■ Sunny Sundae Smile
■ Paint A Rainbow
■ Kiss The Eclipse
■ Sylvie's Head
■ Strawberry Wine
■ Never Say Goodbye
■ Can I Touch You
本作はデビュー・アルバム以降に発表された4枚のEPを発表順にコンパイルしたもの。1-4が85年の「Geek!」、5-8が86年の「The New Record by My Bloody Valentine」、9-12が86年の「Sunny Sundae Smile」、13-15が87年の「Strawberry Wine」。いずれもデビュー作と「Ecstasy」とをつなぐ重要なリンクである。この間にデイヴ・コンウェイはバンドを去り、デビー・グッギ、ビリンダ・ブッチャーが加入してバンドは現在の形になる。

前作のいかにもゴスなガレージ・パンクから、バンドは次第にジザメリやら一連のネオサイケやらとの同時代性を感じさせるノイジーなギター・ポップにシフトして行く。壊れたようなホワイト・ノイズが「プシュー」と鳴り続けているのを背景に演奏されるコンパクトなポップ・ソングはバーズなどの影響も感じさせ、プライマル・スクリームのファースト・アルバムをイメージすると分かりやすい。コルム・オコーサクのドラムが特徴的だ。

特にデイヴ・コンウェイ脱退後にあたる後半の2枚のEPは彼らのその後の作品を聴くときの大きな手がかりになる。ケヴィンのギターは徐々にキャラクターのはっきりしたものになって行き、鳴らされるノイズもまた確信に満ちて行く。「Strawberry Wine」ではビリンダとのツイン・ボーカルが確立、僕たちがイメージするMBVの原型が出来上がって行くさまはスリリングだ。2001年のコンピレーションだが何とかして探し出すべき価値あり。


Ecstasy & Wine

ECSTASY & WINE

Lazy
LAZY 12 CD (1987)

■ Strawberry Wine
■ Never Say Goodbye
■ Can I Touch You
■ She Loves You No Less
■ The Things I Miss
■ I Don't Need You
■ (You're) Safe In Your Sleep (From This Girl)
■ Clair
■ You've Got Nothing
■ (Please) Lose Yourself In Me
87年リリースのEP「Strawberry Wine」(1-3)と7曲入りアルバム「Ecstasy」(4-11)をコンパイルしたCD。アルバム「Isn't Anything」で彼らが注目され始めたタイミングで、前の所属レーベルであるレイジーが便乗的にリリースした企画もの。バンドは不快感を示してトラブルになったコンピレーション。確か卒業旅行に訪れたロンドンで「Isn't Anything」と一緒に買ったはず。EPは前項で既に見たのでここでは「Ecstasy」をレビューする。

EP「Strawberry Wine」で萌芽の窺えた、遠くから聞こえてくるような女性ボーカルをアクセントにしたインディ・ギター・ポップ。沈み込むようなノイズや彼岸まで行っちゃったような「溶け落ちる」感覚はまだなく、80年代半ばから後半にかけてポピュラーだったネオアコ、ネオサイケからアノラックなどの影響を素直に感じさせる。そうした類の音楽が好きな僕のようなリスナーからすればこれはこれで愛聴に値するギタポの佳作である。

もちろん、ここにはマイ・ブラディ・ヴァレンタインという存在を特別なものとして認めさせる圧倒的、超越的なモメントまでは感じられないが、ケヴィンのギターの鳴りやビリンダのボーカルなどには次作以降につながる彼らの特徴的な要素が既に窺えて興味深い。ワン・アンド・オンリーのように見られがちな彼らの音楽が、実際には80年代後半のブリティッシュ・インディーズから派生したものであることがはっきりと確認できる作品。


EP's 1988-1991

EP'S 1988-1991

Sony
88691941692 (2012)

[Disc1]
■ You Made Me Realise
■ Slow
■ Thorn
■ Cigarette In Your Bed
■ Drive It All Over Me
■ Feed Me With Your Kiss
■ I Believe
■ Emptiness Inside
■ I Need No Trust
■ Soon
■ Glider
■ Don't Ask Why
■ Off Your Face
2012年に「Isn't Anything」「Loveless」がリマスターされた際、クリエーション時代のEPをコンパイルしてリリースされたアルバム。2枚組だが、ここで取り上げるのは1枚目に収められた88年の2枚のEP「You Made Me Realise」(1-5)と「Feed Me With Your Kiss」(6-9)。「Isn't Anything」と前後してクリエーション・レーベルからリリースされたEPだが、アルバムとの重複は「Feed Me With Your Kiss」のみで他はアルバム未収録である。

だが、これをここでことさら取り上げるのは、アルバム1枚分の未収録音源だからというだけの理由からではない。クリエーションに移籍してリリースした最初の音源であるEP「You Made Me Realise」にこそ、彼らの覚醒の瞬間がはっきりと焼きつけられているからだ。僕もこのEPの収録曲は今回のコンピレーションで初めて聴いたのだが、ここにあるのは、紛れもなく僕たちがよく知っているあのマイ・ブラディ・ヴァレンタインである。

ケヴィンのギターは既に空間を塗り込めることへの明快な意志を示しているし、8ビートへの楽観的な信頼を思わせる曲もまだあるものの、定型的なインディ・ポップの文脈から逸脱して行く不穏な空気は満ちている。そしてビリンダのこの世のものならぬ特徴的なボーカル。さなぎの殻を破って成虫が出てくる瞬間を見ているようで、何かが起ころうとしていることを予感させる。「Isn't Anything」へ進む前に聴いておかねばならない。


Isn't Anything

Isn't Anything

Creation
CRELP 040 CD (1988)

■ Soft As Snow (But Warm Inside)
■ Lose My Breath
■ Cupid Come
■ (When You Wake) You're Still In Dream
■ No More Sorry
■ All I Need
■ Feed Me WIth Your Kiss
■ Sueisfine
■ Several Girls Galore
■ You Never Should
■ Nothing Much To Loose
■ I Can See It (But I Can't Feel It)
クリエーションに移籍して最初のフル・アルバム。これまでは7曲入りのミニ・アルバムとEPしかリリースしていないので、ファースト・アルバムと言ってもいいかもしれない。EP「You Made Me Realise」と「Feed Me With Your Kiss」で示唆されていたノイズとビートの新たな位相の提示がアルバム単位で定着された記念碑的な作品であり、紛れもなく彼らの出世作である。僕もこのアルバムで彼らを知った。レーベル買いしたCDだった。

このアルバムでは、ギターは明らかに通常のギター・ポップの文脈から逸脱し、楽器としての新しい可能性を付与されたようだ。まるで何かの獣の鳴き声のようにも聞こえるうなりを上げ、歪んで波打った壁のような空間性を表現する。津波のようにすべてを押し流す攻撃性や暴力性と、時間がどろりと溶解した世界の扉を開くようなトリップ感が、ギターというひとつの楽器から生み出される。それは新しい玩具を与えられた子供のようだ。

一方でここにはまだ8ビートのロックというフォーマットへの信頼のようなものが窺える。そして、それゆえにケヴィン・シールズがもくろむイノベーションは、そうしたポップの残滓とのギリギリの交渉を経てまさに臨界に達しようとしているのだ。このアルバムに単なる「Loveless」の前駆体として以上の価値があるのは、まさにこの変態を遂げようとするバンドの臨界点を捉えたからに他ならない。ある意味「Loveless」より必聴かも。


EP's 1988-1991

EP'S 1988-1991

Sony
88691941692 (2012)

[Disc2]
■ To Here Knows When
■ Swallow
■ Honey Power
■ Moon Song
■ Instrumental No.2
■ Instrumental No.1
■ Glider (Full Length Version)
■ Sugar
■ Angel
■ Good For You
■ How Do You Do It
リリース順から言えば、ここで聴くべきなのは先に紹介したDisc1に収められた90年のEP「Glider」(10-13)とここに挙げたDisc2収録の91年のEP「Tremolo」(1-4)である。いずれもアルバム「Loveless」からの先行シングルだが、この時点ではレコーディングは延々と進行しておりアルバムがいつ出るかはアラン・マッギーにも分からない状況だったので、これらのEPはいったいスタジオで何が起こっているかを知る貴重なマテリアルだった。

「Loveless」を聴いた今となってはこれらのEPは紛れもなくその前兆であり、そこに収斂して行くべきトライアルである。だが、アルバムとの重複は「Soon」と「To Here Knows When」の2曲のみであり、カップリングにはアルバムに入ってもおかしくないクオリティのエクスペリメンタルな曲が並んでいて、この2枚のEPをワンセットとしていわば「裏Loveless」的に聴いてみることも十分可能だ。ここでは既に「Loveless」が示唆されている。

むしろアルバムとして整頓されていない分、ケヴィン・シールズの才気走った挑戦がよりリアルに、尖鋭的に表現されていると言ってもいいかもしれない。これらの曲を聴けば彼らの音楽が、その意匠にも関わらず本質的にリアルなものであるということがよく分かる。このコンピレーションは他にも「Isn't Anything」初回盤付属の7インチに収録されていたインストなどレア・トラックスを収録しており、店頭にあるうちに買うべき盤だ。


Loveless

LOVELESS

Creation
CRECD060 (1991)

■ Only Shallow
■ Loomer
■ Touched
■ To Here Knows When
■ When You Sleep
■ I Only Said
■ Come In Alone
■ Sometimes
■ Blown A Wish
■ What You Want
■ Soon
音楽というものがいったい何であるかを知るためには、一度音楽が音楽でなくなる手前のギリギリの地点まで行ってみるしかなかった。ロックというものがいったい何であるかを知るためには、一度ロックがロックでなくなる手前のギリギリの地点まで行ってみるしかなかった。ここにあるのは(曲にもよるが)もはや音楽とかロックとかいうよりは、水中マイクで録音した珍しいクジラの鳴き声とかに近いもの。ロックの最果ての風景である。

自由自在に作り出される音の壁、完全にロックの文脈を逸脱した異様なバランスのミックス。ここではギターの「鳴り」とボーカルとリズムがどれも等価に響いていて、互いに干渉し合い、打ち消し合ってもはや「歌」というモノが無効になってしまったことを示唆している。ロックをいったんバラバラに解体し「鳴り」とか「響き」というものを鍵にして組み立て直した新しい方法論。この音楽はもはや12音階を超越する意志すら持っている。

この音楽は間違いなく革命だったが、正確な意味での革命の継承者は現れなかった。シューゲイザーの始祖と持ち上げられ、あまたのフォロワーを生み出したかのように言われたりもするが、ここまで音楽の抜本的な洗い替えを行ったバンドは現れていない。彼らが残したものは音響という概念のロック表現への受容という意味で継承されたが、ここで聴ける「音楽」は唯一無二のものであり、それ故に普遍的な価値のあるもの。歴史的名盤だ。


mbv

MBV

mbv
mbv cd 01 (2013)

■ She Found Now
■ Only Tomorrow
■ Who Sees You
■ Is This And Yes
■ If I Am
■ New You
■ In Another Way
■ Nothing Is
■ Wonder 2
20年以上を経てマイ・ブラディ・ヴァレンタインの新譜が届けられるとか、いったいだれが想像しただろう。だが、それはまぎれもなくここにある。夢の続きを見るために目を閉じたら本当にそのまま夢の続きが見られたような気さえするアルバム。ここでは時間というパラメータは意味を持たないかのようだ。僕たちがそれぞれに過ごした20年という年月をまるで無効化するようなこのアルバムの切迫感は、凄みさえ感じさせるほど強力だ。

ここではケヴィン・シールズの方法論はより自覚的、意識的になり、その分、前作のような「何だかよく分からないけどエラいものができてしまった」感は希薄だが、逆によりインダストリアルでヴァイオレントな、組織された暴力性とでもいったものが前面に押し出されている。前作をそのまま引き継いだような序盤から、ややスロー・ダウンしてチル・アウトする中盤を経て、最後にたどり着く地点は明らかに新たな地平を示唆している。

特に最後の3曲はもはや桃源郷でもなければ白日夢でもない。前作では徹底して排除されていたリズムがここではエンジンとしてアルバム全体をドライブし、霧が晴れて行くようにケヴィン・シールズが実際にはどこを見ていたのかを明らかにして行く。そのプロセスは徹底してリアルでソリッドなものであり、アルバム全体のテクスチャーは前作と異なっている。エポックとしての驚きは前作に及ばないが、リアルさを求めるなら聴くべし。



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