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ピチカート・ファイヴといえば小西康陽と野宮真貴という最終形態からすればもはや「前史」に属してしまいそうな小西(b)、高浪慶太郎(g、vo)、鴨宮諒(kb)、そしてボーカル佐々木麻美子という4人組時代の唯一のフル・アルバムでありデビュー・アルバム。ノンスタンダード時代の12インチ・シングルで既にメジャー・デビューを果たしていたが、かっちりと構成した3分から4分のオリジナルの歌ものをフィーチャー(1曲のみインスト)した本作は、小西の、世界に対する宣戦布告であったと言っていいかもしれない。
音楽的にはバート・バカラックの大きな影響を受け、ブラスやストリングスを大々的にフィーチャーしたソフトなポップスであり、佐々木麻美子の舌足らずで甘いボーカルも相まって、非常にソフィスティケートされたラウンジ・ミュージックである。その音楽形態からはロックとは呼び難く、実際当時のロック・ジャーナリズムにはほとんど黙殺されたが、音楽としての完成度は新人アーティストとしては破格の高さであり、ここにこめられた小西のルサンチマンの根深さ、後退不能さは初めから異常なまでに歪んでいた。
ここにあるのは格好だけワイルドな自称ロックへの深い失望と軽蔑であり、最も良質な音楽が省みられないことへの怒りと憤りであった。それを何よりも甘い音楽、流麗なアレンジにくるんで、よく読めばゾッとするほど冷淡でシニカルな歌詞とともにそっとリリースした小西のやり口は、他のどんなロックンロールよりもロック的だったと思う。残念ながらそのことはだれにも理解されず、このアルバムもほとんど売れなかったという。小西の音楽的な出自が最も率直に表現された、完璧な音楽至上主義的デビュー・アルバム。
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