logo ポール・ウェラー(ザ・ジャム、スタイル・カウンシル)




IN THE CITY
The Jam

Polydor
1977

■ Art School
■ I've Changed My Address
■ Slow Down
■ I Got By In Time
■ Away From The Numbers
■ Batman Theme
■ In The City
■ Sounds From The Street
■ Non-Stop Dancing
■ Time For Truth
■ Takin' My Love
■ Bricks And Mortar
僕たちはなぜロックンロールを求めるのか。考えてみればそれはドタバタした垢抜けないビートだ。洗練とか美しさとかいったものとはまったく相容れない、やかましくて耳障りなだけの単調な音楽だ。それにもかかわらず僕たちはなぜロックンロールを求めるのか。ロックンロールの何が僕たちを打つのか。その答えを説明することは難しい。やろうと思えばできないことはないだろうが、しかし、ロックンロールの本質を知るためのそれよりはるかに手っ取り早い方法がある。ザ・ジャムのファーストを聴くことだ。

ここにあるのはあまりにも単純で明快なロックンロールそのものだ。スリーピースのバンド構成で最初から最後までとにかく突っ走るだけの前のめりなビート。お世辞にも分厚いとは言えないアンサンブルで次から次へとたたき出される3分間の荒っぽいステートメント。だがそこには僕たちを捉えて離さない何かが確実にある。このアルバムを一度聴けばそのことが分かる。僕たちはいつでもその「何か」の話をしているのだし、僕たちはいつでもその「何か」を手に入れたくてカネと時間を浪費し続けているのだ。

それはきっと高尚なものではない。それはきっと立派なものではない。もっといい加減で、もっとダメで、もっと猥雑で、もっと不純で、もっと汚らしいものだ。だけどそれは何よりも僕たちにとって切実なものだ。ロックンロールが僕たちを打つのだとすれば、それはその完全さによってではなく、むしろその不完全さによってだと僕は思う。音楽的にはまったく荒削りだが、ポール・ウェラーというアーティストの初期衝動にこめられた熱量の確かさに感銘を受けずにはいられないファースト。これがザ・ジャム。




THIS IS THE MODERN WORLD
The Jam

Polydor
1977

■ The Modern World
■ London Traffic
■ Standards
■ Life From A Window
■ The Combine
■ Don't Tell Them You're Sane
■ In The Street Today
■ London Girl
■ I Need You
■ Here
■ Tonight At Noon
■ In The Midnight Hour
デビュー・アルバムからわずか半年後にリリースされたセカンド・アルバム。鮮烈なデビューを飾ったバンドのセカンドが難しいのは当時も今も同じことだろう。初期衝動をたたきつけ、そのラフさ、ラウドさを焼きつけたファーストの後、彼らがどれだけその初速を失わずに走り続けられるか、そして一方でそのファーストに何ものかを「上乗せ」できるか、イギリス中(「世界中」ではない、あくまで「イギリス中」だ)のプレスが見守る中、彼らはこの相反する二つのテーマを同時にクリアしなければならなかった。

結果として彼らがリリースしたセカンドはそのどちらの面から見ても中途半端なものだったと言わざるを得ない。端的に言ってこのアルバムはファーストの焼き直しに過ぎなかった。そこに付け加えるべきもの、バンドの成長を感じさせるモメントは簡単には見出し難いし、一方で生き急ぐような焦燥感もファーストに比べれば後退している。ポール・ウェラーの中でセカンド・アルバムの方向性が明確な像を結ぶ前に結論を急ぎ過ぎた印象が強いが、その「未完成さ」はファーストでの「不完全さ」とは異質なものだ。

とはいえ、今日の時点から改めてこのアルバムを聴くと、パンクの嵐が吹き荒れる中にあって、自らもパンク・バンドとしてカテゴライズされながら、R&Bをベースにザ・フーやスモール・フェイセズなどの影響を強く窺わせるビート・ナンバーにこだわったポール・ウェラーのソングライティングの特徴がよく分かる。また、「LIFE FROM A WINDOW」や「I NEED YOU」といった曲ではメロディメイカーとしての資質を垣間見ることもできる。ウィルソン・ピケットの「IN THE MIDNIGHT HOUR」のカバーがカッコよすぎ。




ALL MOD CONS
The Jam

Polydor
1978

■ All Mod Cons
■ To Be Someone
■ Mr. Clean
■ David Watts
■ English Rose
■ In The Crowd
■ Billy Hunt
■ It's Too Bad
■ Fly
■ The Place I Love
■ 'A' Bomb In Wardour Street
■ Down In The Tube Station At Midnight
ポール・ウェラーのソングライターとしての才能が最初に開花したサード・アルバム。ここではファーストで見せたパンキーな初速をいささかも落とさないまま、そこにセカンドとは比べものにならないくらい豊かな曲想の広がりを見せた。初めてのアコースティック・バラードである「ENGLISH ROSE」はもとより、「MR. CLEAN」や「IT'S TOO BAD」、「FLY」といったミドル・テンポの曲も効果的に使いながら、アルバム全体の起伏を明確に形作って行く。彼らが新しい扉を開いたことがはっきりと分かる。

一方で彼ららしいビート・ナンバーもそのメロディの豊かさ、仕上がりのポップさはセカンドまでとは隔絶したものがある。ここにおいてポール・ウェラーは、自らのソングライティング、声、バンド・アンサンブルといったものをある目的に向けて戦略的に組織するという方法論を初めて自覚的に行使したのだと言っていいと思う。このアルバムで彼らは音楽的な表現の幅を飛躍的に広げたが、一方で彼らが彼らであるべき理由、R&Bの伝統に根差したビート・ポップという軸はまったくブレていないのだ。

その意味で本作は、デビュー当初のストレートなロックンロールからポール・ウェラーがソングライティングに深化を見せ、やがてビート・バンドの枠を逸脱して行かざるを得なかったザ・ジャムの歴史の中で、彼らがドラム、ベース、ギター、そして肉声というギリギリの画材で描いて見せた、最も幸福な時期の最も幸福な作品なのだということができるかもしれない。シングル・ヒットとなった「DAVID WATTS」はキンクスのカバーだが、このアルバムでの彼らの達成は間違いなく彼ら自身のもの。傑作。




SETTING SONS
The Jam

Polydor
1979

■ Girl On The Phone
■ Thick As Thives
■ Private Hell
■ Little Boy Soldiers
■ Wasteland
■ Burning Sky
■ Smithers-Jones
■ Saturday's Kids
■ The Eton Rifles
■ Heat Wave
前作に続き傑作との評価が高い第4作。ポール・ウェラーのソングライティングは更に深化し、都市に生きるティーンエイジャーの生活を描いたコンセプト・アルバム的な色彩も帯びている。ブルース・フォクストンの「Smithers-Jones」ではオーケストラを導入し、その他にもリコーダーやピアノなどが効果的に使われている。シングルとなった「The Eton Rifles」は彼らのキャリアを通じても代表曲となる傑作の一つと言っていいだろう。これがこのアルバムに関する大方の一致した見方、評価である。

だが、実際のところ、僕はこのアルバムをそこまで高く買うことはできない。このアルバムはコンセプト・アルバムとして構想されたが曲が揃わず、タイトなスケジュールの中でなし崩し的にレコーディングされ当初のコンセプトは放棄されたと言われている。組曲風の「Little Boy Soldiers」にその名残をうかがうことができるが、おそらくは「トミー」や「四重人格」、キンクスのいくつかの組曲に触発されたと思われるこの試みも、十分に構想されたものとは言い難く、いかにも消化不良の印象を残す。

「The Eton Rifles」は間違いなく名曲だが、「Smithers-Jones」のオーケストラはとってつけたような印象が拭えず、ラストの「Heat Wave」は秀逸なカヴァーだがなぜこのアルバムのこの場所に置かれているのかまったく理解に苦しむ。全体としてリリースを急ぐあまりアルバムとしての熟成が足りず、散漫な仕上がりに終わっている。シリアスでシニカルなトーンがアルバムを覆っており、良くも悪くもポール・ウェラーの生真面目さがアルバムを決定づけている。これで曲が悪ければ駄作だっただろう。




SOUND AFFECTS
The Jam

Polydor
1980

■ Pretty Green
■ Monday
■ But I'm Different Now
■ Set The House Ablaze
■ Start!
■ That's Entertainment
■ Dream Time
■ Man In The Corner Shop
■ Music For The Last Couple
■ Boy About Town
■ Scrape Away
答えを急ぎすぎた感のあった前作に比べ、ひとつひとつの曲も、アルバム全体も完成度を高めた第5作。切れるような初期衝動の激しさを遠くまでドライブして行くためのエンジンとガソリンを彼らは、いや、ポール・ウェラーは「ALL MOD CONS」で確かに手に入れたが、前作ではエンジンの性能自体は変わらないものの整備状態が悪くガソリンは不足気味だった。今作ではエンジンは再びピカピカにチューンされ、ガソリンも十分タンクに入っているように思われる。あとはアクセルを踏み込むだけだ。

特にアナログでのA面に相当する部分の完成度は特筆するべきだ。「Set The House Ablaze」の劇的な盛り上がりを受けた後の「Start!」、そして間違いなくザ・ジャムの代表曲のひとつに数えられるべき「That's Entertainment」への流れ。このシークエンスは疑いなくこのアルバムの最大の山場だ。それ以外の曲も前作のように興を削ぐことはない。もちろんB面のインスト「Music For The Last Couple」はいただけないし、そこからラストに至る部分の失速感は否めないにせよ、致命的なものではない。

ザ・ジャムというバンドはパンク・ムーヴメントの中にあって、その音楽性の確かさとビート・ポップスの歴史への正統な眼差しのために、伝統への反抗や否定を旨とする一部のパンクスからは異端視されてもきた。しかし、このアルバムを聴いてみれば、パンクという音楽の根幹をなしていた権威への抵抗、日常との連続性というテーマを最も忠実に歌い続けているのはむしろ彼らの方であるということが分かるはずだ。それはスリー・コードのロックンロールの中だけでなく、あらゆるビートの中にあるのだ。




THE GIFT
The Jam

Polydor
1982

■ Happy Together
■ Ghosts
■ Precious
■ Just Who Is The 5 O'clock Hero?
■ Trans-Global Express
■ Running On The Spot
■ Circus
■ The Planner's Dream Goes Wrong
■ Carnation
■ Town Called Malice
■ The Gift
結果的に彼らのラスト・アルバムとなった第6作。その理由はこのアルバムを聴いてみればすぐに分かる。これはもはやザ・ジャムのアルバムではないからだ。今聴けばこれは紛れもなくスタイル・カウンシルのプロトタイプだ。ポール・ウェラーがブルース・フォクストンとリック・バックラーの力を少しばかり借りて制作したソロ・プロジェクトだ。ここではもうスリー・ピースのビート・バンドという形態は何の意味も持っていない。展開される曲の多くはブラスを大々的に導入したファンクなのだ。

もちろんポール・ウェラーらしいギターのカッティングは健在だ。「Happy Together」のようなビート・ポップスもある。「Town Called Malice」はモータウン直系のビートでポール・ウェラーのモッドとしての出自を思い起こさせる。しかし、彼は既に次に行こうとしている。コンテンポラリーなファンク、R&Bへの傾倒は明らかで、このアルバムはそうした音楽を何とかザ・ジャムというメディアを通じて表現しようとしたポール・ウェラーの悪戦苦闘の記録である。そして彼はその限界を見てしまった。

特に「Precious」から「Running On The Spot」に至る流れは彼がやりたかったことをどうにかこうにかこのバンドのビート感に乗せようとしたギリギリの試みだ。それはビート・パンクの可能性を示すとともにその限界をも明らかにした。これ以上をやるにはもうザ・ジャムのフォーマットでは無理だ。そのことをだれよりも実感したのはポール・ウェラーだったはずだろう。ザ・ジャムのアルバムとしては前作までと大きな断層があるが、ザ・ジャムの終わりであるよりは新しい何かの始まりを告げる作品。




CAFÉ BLEU
The Style Council

Polydor
1984

■ Mick's Blassings
■ The Whole Point Of No Return
■ Me Ship Came In!
■ Bleu Café
■ The Paris Match
■ My Ever Changing Moods
■ Dropping Bombs On The Whitehouse
■ A Gospel
■ Strength Of Your Nature
■ You're The Best Thing
■ Here's One That Got Away
■ Headstart For Happiness
■ Council Meetin'
ザ・ジャムを解散したポール・ウェラーがキーボード奏者のミック・タルボットと結成した新しいバンド、スタイル・カウンシルのファースト・アルバムである。ポール・ウェラーが直線的なビート・パンクから次第にファンク、R&Bに傾倒し、ザ・ジャムというバンドの資質から乖離し始めたのはザ・ジャムのラスト・アルバムとなった「ザ・ギフト」でも既に明らかだった。ここではそれを踏まえ、ポール・ウェラーがどんな形で次のステージに進もうとしているかを明確に示していると言えるだろう。

ここに収められている曲は13曲だが、そのうちポール・ウェラーのボーカルをフィーチャーしているのは半分にも満たない6曲だけ。ミック・タルボットの軽快なピアノ・インストに始まり、MG'sばりのR&Bインストに終わる、ジャズ、ファンクにまでレンジを広げた、「ロックでない」音楽のショウケース。モッズ、パンクとしての出自に背を向けるように、このアルバムからはエレキ・ギターの音はほとんど聞こえてこない。そしてそれを、ポール・ウェラーは「スタイル評議会」と名づけたのだ。

確かにここにあるのはお洒落でフレキシブルでスタイリッシュな、洗練されたポップ・ソングである。あのクソみたいな「カフェ系」だか何だかの元祖みたいに言われることもある。だが、このアルバムは、最もロックから遠いところにありながら、実際にはロックそのものだと僕は思う。すべての予定調和、すべての安定、すべての拡大再生産をあざ笑い、それらを飛び越え、その向こう側に着地しようとするポール・ウェラーの強い意志が、この非ロック的なロックを生み出した。歴史に残る名作だ。




OUR FAVOURITE SHOP
The Style Council

Polydor
1985

■ Homebreakers
■ All Gone Away
■ Come To Milton Keynes
■ Internationalists
■ A Stone's Throw Away
■ The Stand Up Comic's Instructions
■ Boy Who Cried Wolf
■ A Man Of Great Promise
■ Down In The Seine
■ The Lodgers (Or She Was Only A Shopkeeper's Daughter)
■ Luck
■ With Everything To Lose
■ Our Favourite Shop
■ Walls Come Tumbling Down
前作に続きR&Bをベースに幅広い音楽性を示し、スタイル評議会としての地位を不動のものにしたと言える第二作。とはいえポール・ウェラーのボーカルをフィーチャーした曲が全体の半分にも満たず、ジャズの影響もかなり色濃かった前作に比べれば、本作ではR&Bを基調にしながら全体に流麗でメロディアスなポップ・ソング然としたボーカル曲が主体で、洗練されたブルー・アイド・ソウルのアルバムとしてかなり取っつきやすい仕上がりになっている。このアルバムでスタカンを知った人も多いかもしれない。

何を隠そう僕もその一人で、当時大学生だった僕はザ・ジャムも知らずいきなりこのアルバムからポール・ウェラーを聴き始めたのだ。だから僕にとってこのアルバムは長い間、洋楽を聴くときの一つのスタンダードであり続けた。そしてこのアルバムと互角に渡り合える作品はそれほど多くはなかった。これは今日でも色あせることのない普遍的な音楽の力とでもいったものを封じ込めたアルバムであり、洋楽の聴き始めの頃にこのアルバムを聴けた僕は幸せだったのだろうと思う。アルバムとしての完成度は高い。

だが、固定化したバンドではなく開かれたユニットとして曲に合わせたゲストを招き多様なスタイルの音楽を聴かせる、ポール・ウェラーはそのフィクサーとして一連のプロジェクトをマネージするというスタイル評議会の当初のコンセプトは明らかに後退し、ポール・ウェラーのボーカルの存在感が前面に出ていることで、このスタイル・カウンシルもまた彼のバンドとしての意味合いが強くなり始めているのが分かる。その良し悪しの判断は難しいが、ともかくこの時期のポール・ウェラーが最も素直に出た名盤。




THE COST OF LOVING
The Style Council

Polydor
1987

■ It Didn't Matter
■ Right To Go
■ Heavens Above
■ Fairy Tales
■ Angel
■ Walking The Night
■ Waiting
■ The Cost Of Loving
■ A Woman's Song
ポール・ウェラーの音楽的なレンジの広さを示し、何よりもロック音楽のメイン・ストリームに周縁からの眼差しを持ちこんだという意味で画期的だったファースト、セカンドから、一気にコンテンポラリーなR&Bアルバムになってしまった第3作。既にして前作でもポール・ウェラーのボーカルを中心にフィーチャーし、「Walls Come Tumbling Down」のようなビート・ナンバーも盛りこんで、ブルー・アイド・ソウル路線への傾倒を示してはいたが、このアルバムはもはや明確に「ソウル・アルバム」と言っていい。

確かに白人によるコンテンポラリーなR&Bアルバムとして見れば、曲はどれもコンパクトにまとまっているし、D.C.リーのボーカルを巧みにフィーチャーした構成も手堅い。ウェラー、タルボット、リーにドラムのスティーブ・ホワイトを加えた4人組のバンドとしての一体感は彼らの新しい局面だということができるだろう。だが、それは同時に、敢えてザ・ジャムというバンドを解散し、フレキシブルなユニット形態でロック的な予定調和に背を向けたはずのスタイル・カウンシルというコンセプトの変質でもあった。

そしてこのアルバムでもうひとつ致命的なのは、どの曲も陰鬱だということ。君は僕の天使だと歌う「Angel」ですら、歌いきるという強いモメントに欠け、マイナー調の重たいアレンジだけが耳に残って行くようだ。このアルバムを発売当時それなりに聴きこんだはずなのに、前作に比べればまったく印象が悪いのは、おそらくそうした重たさ、風通しの悪さのせいなのだろうと思う。ポール・ウェラーらしい「冒険」が影をひそめ、あらかじめ揃った手札で勝負しているような箱庭感が拭えず、高くは買えない作品。




CONFESSIONS OF A POP GROUP
The Style Council

Polydor
1988

■ It's A Very Deep Sea
■ The Story Of Someones Shoe
■ Changing Of The Guard
■ The Little Boy In A Castle: A Duve Flew down From The Elephant
■ The Gardener Of Eden: In The Beginning / The Gardener Of Eden / Mourning
■ The Passing Of Time
■ Life At A Top Peoples Health Farm
■ Why I Went Missing
■ How She Threw It All Away
■ Iwasadoledadstoyboy
■ Confessions 1, 2 & 3
■ Confessions Of A Pop Group
「あるポップ・グループの告白」。笑えないタイトルで結果としてラスト・アルバムになった第4作。アナログではA面が「ピアノ・ペインティングス」、B面が「あるポップ・グループの告白」と題された二部構成になっており、A面ではタイトル通りミック・タルボットのピアノをメインにフィーチャーしたゴージャスなジャズ、ラウンジ調の曲(一部は組曲)が並ぶ。B面はそれに比べビートのある「ポップ・ソング」が中心になってはいるが、終盤に行くに連れ流れは再びスロー・ダウンして行く。

このアルバムで彼らは、いや、ポール・ウェラーは完全に、自ら作り上げたスタイル・カウンシルというコンセプトの自家中毒に陥っている。ここでは残念ながらポール・ウェラーのソング・ライティングにもごく一部の曲を除いて才気が感じられない。大々的にストリングスやオーケストラを導入したA面はもちろん、ソウル、ファンクをベースにしたポップ・ソングを聴かせるB面ですら、耳に残るメロディラインはわずかで、風景画のように静まり返った、時間のない世界を見ている気がしてくる。

わずかに「How She Threw It All Away」だけが突出した躍動感を獲得しており、この曲だけで何とかアルバム全体が救われているが、退屈で長ったらしいムード音楽を聴かされているうんざり感は否めない。個々に聴きこめばそれぞれの曲にそれなりの特徴はあるものの、そこに至るまでに聴き手はすっかり嫌気がさしてしまうだろう。ポール・ウェラーがシーンともリスナーとも接点を失うきっかけになったアルバムであり、この静謐さ、うわべの美しさが逆にやるせない。端的に言って冗長だ。




MODERNISM:
A NEW DECADE

The Style Council

Polydor
(Unreleased)

■ A New Decade
■ Love Of The World
■ The World Must Come Together
■ Hope
■ Can You Still Love Me?
■ That Spiritual Feeling
■ Everybody's On The Run
■ Sure Is Sure
前作が商業的にコケたためレーベルとの関係が悪化、制作しプレスまでしたものの結局発売されなかった幻のアルバムである。その後、これらの曲は丸ごとボックス・セットに収録され、アルバム単体でもリリースされたので現在では比較的容易に聴くことができるが、当時は「スタカンが全編ハウスの新作をレコーディングしたがレーベルが発売させなかったらしい」的な情報だけが流れて「発売中止?!」とリスナーを動揺させたものだった。

このアルバムに先だってリリースされたシングル『Promised Land』では当時UKを席巻しつつあったハウス・ミュージックへの大胆なアプローチがなされており、彼ら自身としてはその路線に意欲を見せていたところだったが、レーベルは「こりゃ売れんわ」と判断したようだ。実際、本作は噂通りハウス・トラックで固められたアンビエントな仕上がりで、ポール・ウェラーの「歌モノ」が好きなファンにはとっつきにくい作品となっている。

1990年前後、ハッピー・マンデーズ、ストーン・ローゼズ、プライマル・スクリームなど、ロックとダンス・ミュージックのマッチングが進んだ時期の作品だが、今思えば、このアルバムも本来はそうした流れのひとつに位置づけられるべきものだったのかもしれない。とはいえ、僕も当時これを聴いて正当に評価できていたかは疑わしい。悪くはないし聴くべき曲もあるが、レーベルの判断は少なくとも商業的には正しかったのかもしれない。




PAUL WELLER
Paul Weller

Go! Discs
1992

■ Uh Huh Oh Yeh
■ I Didn't To Mean To Hurt You
■ Bull-Rush
■ Round And Round
■ Remember How We Started
■ Above The Clouds
■ Clues
■ Into Tomorrow
■ Amongst Butterflies
■ The Strange Museum
■ Bitterness Rising
■ Kosmos
尻すぼみになったスタイル・カウンシルが自然消滅に終わった後、ポール・ウェラーは契約のない状態となる。ソロとして新作をレコーディング、マスターを携えてレコード会社と交渉したがリリース契約は得られず、日本でのみキャニオン・インターナショナルからリリースされた。それがこのアルバムである。本国ではそれから半年遅れてようやくゴー・ディスクスと契約、日の目を見たが、当時のウェラーはそういう逆境下にあったのだ。

内容的には驚くほどオーソドックスなR&Bアルバムであり、ウェラーの音楽的な出自をストレートに示唆するもの。しかし、そこにはリズム、グルーヴをエンジンにしてグイグイと前に出るような楽天的な推進力は感じられず、先行シングルとしてシーンへの復帰のステートメントとなるべき『Into Tomorrow』ですら、どこか逡巡したような、あるいは敢えてキメのフレーズを留保するような、内省的で慎重なトーンが曲想を決定しているのだ。

すべてのギミックを取り去り、すべてのモードをひとまず脇に置いて、素の自分と謙虚に向き合った時、ウェラーから出てきた等身大の音楽がおそらくはこのアルバムの基本的なモチーフ。それゆえ地味でとっつきにくささえある作品に仕上がっているが、同時にこれ以降のウェラーのソロ・ワークがすべてここを直接の出発点にしているのは間違いのないところ。個人としてフロントに立つ決意と覚悟に立脚した、直接的で誠実なアルバムだ。




WILD WOOD
Paul Weller

Go! Discs
1993

■ Sunflower
■ Can You Heal Us
■ Wild Wood
■ Instrumental (Pt 1)
■ All The Pictures On The Wall
■ Has My Fire Really Gone Out?
■ Country
■ Hung Up
■ 5th Season
■ The Weaver
■ Instrumental (Pt 2)
■ Foot Of The Mountain
■ Shadow Of The Sun
■ Holy Man
■ Moon On Your Pyjamas
前作から1年半と短いインターバルでリリースされた2枚目のソロ・アルバム。基本的には前作の路線を継承した、ベーシックでオーソドックスなR&Bに仕上がっている。飾りのないストレートなバンドの演奏と、エモーショナルなウェラーのボーカル、そして何より彼らしいツボを押さえたソングライティング。内省的な色合いが濃く、最も大切なことを言い淀むようなもどかしささえあった前作に比べれば、確信に満ちた力強さが印象的だ。

スタイル・カウンシルがいわば自然消滅し、ソロ活動の立ち上げも思うに任せなかった前作に対し、ようやくアルバム契約を得てシーンでも相応の評価を受けたことで、ウェラーの中でソロ活動のコアのようなものがしっかりと形成され、自信を深めてきたことが窺える。前作に続きブレンダン・リンチがプロデュース、ほぼ3ピースだけで繰り出されるソウル・ナンバーは、ウェラーがようやく前線に戻ってきたことを感じさせて感慨深い。

曲折を経て再起を図る彼が立ち帰った場所がやはりこうした重心の低いR&Bでありソウルであったということは、彼の音楽の深層にあるものを窺わせて興味深い。しかし、それが単なる懐旧に終わらず、きちんと同時代性や批評性を具えたロック表現として機能しているのはウェラーのアーティストとしての真摯さ、誠実さの表れに他ならない。自分のブルースにはもはやスタイル評議会のような仕掛けは不要だという明確なステートメント。




STANLEY ROAD
Paul Weller

Go! Discs
1995

■ The Changingman
■ Porcelain Gods
■ I Walk On Glided Splinters
■ You Do Something To Me
■ Woodcutter's Son
■ Time Passes
■ Stanley Road
■ Broken Stones
■ Out Of The Sinking
■ Pink On White Walls
■ Whirlpools' End
■ Wings Of Speed
2年弱のインターバルでリリースされた3枚目のソロ・アルバム。生まれ育ったロンドン郊外の街ウォキングの住所をタイトルに冠し、「オレがやりたかったのはこれだよ」とでもいうような迷いのない、重心が低くタメの効いたソウルフルなロックを聴かせる。その確信の強さは自信をつけつつあった前作よりもさらに自覚的なもので、それは押しの強いリズム・ナンバーよりもむしろ、ピアノ・バラードの方に表れていると言っていいだろう。

代表作のひとつであり大ヒットしたアルバムだが、改めて聴き返すとノリノリのジャンプ・ナンバーやスピード勝負のビート・ナンバーなどはほとんどなく、ウェラーの音楽的なルーツを感じさせる、ハネたリズムの、平たくいえばシブい曲がほぼすべて。それにも拘わらずアルバムを聴いたときにガツンという確かな手ごたえが残る感があり、それはこのアルバムが、ウェラーのギミックのない素のままのステートメントだからに他ならない。

その意味でこれはウェラーのブルース・アルバム。意匠だけを見ればレイド・バックしたオールド・スクールのようでもあるが、ここにあるのは21世紀の世界にこの音楽で関与して行くという強い意志であり、ロック表現が成長、成熟というモメントとどう向かい合うかという難問にひとつの解答例を示したもの。それはどこかためらいがちだったソロ・デビューから、少しずつ自信を回復したウェラーの自己解放の試みだったのかもしれない。




HEAVY SOUL
Paul Weller

Island
1997

■ Heavy Soul (Pt 1)
■ Peacock Suit
■ Up In Suzes' Room
■ Brushed
■ Driving Nowhere
■ I Should Have Been There To Inspire You
■ Heavy Soul (Pt 2)
■ Friday Street
■ Science
■ Golden Sands
■ As You Lean Into The Light
■ Mermaids
前作から2年のインターバルでリリースされた4枚目のソロ・アルバム。身も蓋もないタイトルで、まさに名は体を表すとでもいうようなゴリゴリのソウル・アルバムのイメージだったし、まあ、実際その通りではあるのだが、意外にポップだったりメロウだったりする曲もきちんと織り込んでくるのは経験のなせる業か。全体の印象としては前作よりも更にぶっきらぼうになっているが、それが表現として作品を高みに導いているのは興味深い。

もはや何かを取りつくろったり見栄えを整えたりする必要もなく、ただやりたいこと、やるべきことをできるだけ直接、できるだけ速くぶつけること。それが作品としての熱量を高めるのだとウェラーは看破したのだろう。手にとって触れることのできる具体的な実体を具えたアルバムに仕上がったのは偶然ではない。ブレンダン・リンチのプロデュースによるバンド・サウンドだが、SEを効果的にかませるなど、メリハリもしっかりしている。

特に先行してシングル・リリースされた『Peacock Suit』は、ソロになってからのウェラーの楽曲のひとつの頂点を示すモッド・ナンバー。ある意味ベタな曲なのだが、自らの出自を示すようなリズム&ブルースを今日的なポップ・ソングの文脈に強引に落としこんでしまう力量は、ザ・ジャムからスタイル・カウンシルを経てソロまで変わらない確かなもの。ルーツの正統性と基礎になるソングライターとしての素養を改めて見る思いがする。




HELIOCENTRIC
Paul Weller

Island
2000

■ He's The Keeper
■ Frightened
■ Sweet Pea, My Sweet Pea
■ A Whale's Tale
■ Back In The Fire
■ Dust And Rocks
■ There's No Drinking, After You're Dead
■ With Time & Temperance
■ Picking Up Sticks
■ Love-Less
タイトル通り粗い手触りのソウル・アルバムだった前作から3年のインターバルでリリースされた5枚目のソロ・アルバム。引き続きブレンダン・リンチがプロデュース、スティーブ・クラドック、スティーブ・ホワイトら気心の知れたバンドとともに制作されており、基本的にはこれまでの路線を継承したストレートなバンド・サウンドであることは変わらないが、前作とは大きく異なり、全体にシックで落ち着いたトーンに仕上がっている。

ノリのいいロック・ナンバー、ソウル・ナンバーはほぼなく、フォーク・ロック調のミドル・チューンやピアノ・バラード中心の構成。アルバムによって濃淡はあるものの、ソロになってから一貫してソウルフルなビートを基調とした力強い音楽を聴かせてきたことを思えば、このアルバムでウェラーは初めて内省的な一面を大きくフィーチャーしたと言ってもいいだろう。一部の曲ではストリングスを大胆に導入するなどの工夫も見られる。

とはいえ、スタイル・カウンシルの『ポップ・グループの告白』ほど無反省なラウンジ・ミュージックに堕している訳ではもちろんなく、ひとつひとつの曲にはきちんと地に足の着いた出自が感じられて、それがこのアルバムを聴くに足るものにしている。「ガツンと一発お願いしますよ」的な感じで聴くと肩すかしを食らわされるし、印象に残りにくいアルバムのひとつだが、改めて聴くと時間をかけて浸みこむような味わいの作品と分かる。




ILLUMINATION
Paul Weller

Indipendiente
2002

■ Going Places
■ A Bullet For Everyone
■ Leafy Mysteries
■ It's Written In The Stars
■ Who Brings Joy
■ Now The Night Is Here
■ Spring (At Least)
■ One X One
■ Bag Man
■ All Good Books
■ Call Me No.5
■ Standing Out In The Universe
■ Illumination
前作から2年半のインターバルでインディペンディエンテ・レーベルからリリースされた6枚目のソロ・アルバム。このアルバムでは、ソロになってからずっとプロデュースを任せていたブレンダン・リンチの手を離れ、初めてのセルフ・プロデュースに挑戦している。落ち着いたトーンでミドル・チューンを中心に聴かせた前作から引き続き、このアルバムでも曲調は全体に抑え気味。アコースティック・ナンバーがアルバムの柱になっている。

しかし、それでこのアルバムが地味な作品になっているかといえばそんなことはない。アコースティック・ギターの音がよく聞こえる音作りが「近さ」や「親密さ」を演出し、ウェラーのソングライティングの巧みさを引き立て、この作品を飽きのこないポップ・アルバムにしている。ウェラーのソロ活動が、ゴリゴリのソウル期からより普遍的な「歌」や「音楽」に重心を移しつつあることが窺える、率直で聴きやすいアルバムに仕上がった。

面白いのは、その中にステレオフォニックスのケリー・ジョーンズとのデュエットであるゴリゴリのソウル・ナンバー『Call Me No.5』をブッ込んでくるところ(曲も共作)。それがこのアルバムとこれまでの活動を架橋し、連続性を保障する役割を果たしているのは興味深い。というかやはり1曲くらいはこういうのをやらないと落ち着きが悪いんだろうな。この曲によってアルバムにダイナミズムが生まれ、全体としての完成度が上がった。




STUDIO 150
Paul Weller

V2
2004

■ If I Could Only Be Sure
■ Wishing On A Star
■ Don't Make Promises
■ The Bottle
■ Black Is The Colour
■ Close To You
■ Early Morning Rain
■ One Way Road
■ Hercules
■ Thinking Of You
■ All Along The Watchtower
■ Birds
全曲他のアーティストの曲のカバーで構成されたアルバム。思えば、ザ・ジャムの頃からザ・キンクスの『Davis Watts』を初めとしてザ・フー、スモール・フェイセズ、ウィルソン・ピケット、JB、マーサ&ザ・ヴァンデラスなどのカバーをシングルB面などブッ込みまくってきたポール・ウェラーなので、こうしたアルバムを制作することも十分納得できる。ソロになってからも同じようにカップリングでリリースされたカバー曲は数多い。

そうしたカップリングのカバー曲はこのアルバムの前年にリリースされたレア・トラックスのコンピレーション「FLY ON THE WALL」の3枚目にまとめられていたが、このアルバムでは新たに12曲のカバー曲を演奏、収録している。内容的にはボブ・ディラン、ニール・ヤングなどいかにもいうアーティストの他、オアシスのカップリング曲、トラディショナルなど幅広く選曲、どちらかといえばソウルよりはロック色の強い構成になっている。

当たり前かもしれないが、どんな曲をやっても違和感なくウェラー印にしてしまう力量がはっきりと分かる。それはボーカルの力なのか、アレンジなのか。もちろん声の存在はデカいのだが、それだけではなく、パフォーマンスそのものからポール・ウェラーとしかいいようのない存在感が押し出されてくるところが実力ということか。国内盤にはスライの『Family Affair』がボートラで入ってたということをたった今知ってアマゾンで注文。




AS IS NOW
Paul Weller

V2
2005

■ Blink And You'll Miss It
■ Paper Smile
■ Come On / Let's Go
■ Here's The Good News
■ The Start Of Forever
■ Pan
■ All On A Misty Morning
■ From The Floorboards Up
■ I Wanna Make It Alright
■ Savages
■ Fly Little Bird
■ Roll Along Summer
■ Bring Back The Funk
■ The Pebble And The Boy
カバー・アルバムをはさみ。オリジナルとしては3年ぶりにリリースされたソロ第7作。V2レーベルからリリースされ、プロデュースには「STUDIO 150」同様ジャン・カイバートを起用した。「今ありのまま」というタイトルの通り、ストレートでシンプルなブリティッシュ・ポップ・アルバムに仕上がった。このアルバムにいつになくビートルズの濃密な影を見るのは僕だけか。ウェラーのソングライターとしての魅力が率直に表現されている。

もちろんシングル・ヒットとなった『Come On / Let's Go』や『From The Floorboards Up』などのロック・ナンバーもあり、ザ・ジャムの頃を思い出させるような性急で突っかかるようなモメントが新鮮であったりもするが、一方でアコースティック・ギターの鳴りを生かした繊細な手触りの「歌」が印象に残るのも間違いなく、全体としては、そうした硬軟のバランスがポップという一点で取れた作品であり、この時期の充実ぶりが窺える。

もともとウェラーはパンク・バンドを出自としながらも、その背景にはロック・ヒストリーへの正統的な愛情やメロディ・ラインへの率直な信頼がある。ザ・ジャムにおいてすら、それが凡百のパンク・バンドと一線を画していたのはウェラーのソングライティング故だったと言っていい。2、3分台のコンパクトな曲でグイグイとアルバムを引っ張って行く構成もいい。ラストの大仰なピアノ・バラードがしんどいが全体としては締まった出来。




22 DREAMS
Paul Weller

Island
2008

■ Light Nights
■ 22 Dreams
■ All I Wanna Do (Is Be With You)
■ Have You Made Up Your Mind
■ Empty Ring
■ Invisible
■ Song For Alice
■ Cold Moments
■ The Dark Pages of September Lead To The New Leaves Of Spring
■ Black River
■ Why Walk When You Can Run
■ Push it Along
■ A Dream Reprise
■ Echoes Round The Sun
■ One Bright Star
■ Lullaby Für Kinder
■ Where'er Ye Go
■ God
■ 111
■ Sea Spray
■ Night Lights
前作から3年のインターバルでリリースされた8作目のオリジナル・ソロ・アルバム。プロデューサーはアルバム「ILLUMINATION」でコ・プロデューサーとしてクレジットされていたサイモン・ダイン。幕間的な作品も含め21タイトルをぶち込んだ、1時間10分に及ぶ大作だが、散漫な感じは一切なく、高いテンションとめまぐるしく変わる曲調のおかげで、最後まで一気に聴くことができる。構成にも工夫がこらされ、メリハリの効いた力作だ。

ビートルズのホワイト・アルバムを引き合いに出す論評もあるが、一人のアーティストがさまざまな曲想の掌編を次々に繰り出して来る印象は、むしろトッド・ラングレンの「A WIZARD A TRUE STAR」を思わせる。ほとんどの曲が2分から3分台で、ひとつひとつの曲をじっくり書き上げ、重厚に丁寧に仕上げるよりも、それぞれの曲が持つコアというか「芯」の部分で直接ぶん殴りに来る感じ。アルバム全体に具体的な手ごたえがあるのがいい。

調子のいいロック・チューンからポエトリー・リーディングまで、ジャズからアコースティック・バラードまで、さまざまな曲をごった煮のごとく詰め込みながら、そこにきちんと方向感とか統一感というものが感じられるのは、コンセプチュアルな構成の妙だけではなく、何よりひとつひとつの曲がきちんと出来上がっているからだろう。22番目の夢は演奏されず、その余白がこのアルバムの風通しをよくした。後は聴き手に委ねられたのだ。




WAKE UP THE NATION
Paul Weller

Island
2010

■ Moonshine
■ Wake Up The Nation
■ No Tears To Cry
■ Fast Car / Slow Traffic
■ Andromeda
■ In Amsterdam
■ She Speaks
■ Find The Torch, Burn The Plans
■ Aim High
■ Trees
■ Grasp & Still Connect
■ Whatever Next
■ 7&3 Is The Strikers Name
■ Up The Dosage
■ Pieces Of Dream
■ Two Fat Ladies
前作に続き再びサイモン・ダインをプロデューサーに迎えて制作された、2年ぶり9作目のソロ・アルバム。前作では幕間的な曲も含め21曲をぶち込んできたが、本作では16曲を次から次へと繰り出してくるという初期のビートルズもびっくりの構成。3分を超えるのはわずか4曲のみという潔さで、お、ええ曲やんと思ってる間に終わってしまうほど目まぐるしい。イントロや間奏、ブリッジやアウトロを作りこむ時間も惜しむくらいの性急さだ。

そういう構成のせいもあってか、全体にストレートなロックンロール・アルバムのようにも感じられるが、聴きこめばそれぞれの曲には明確なキャラクターがあり、いつものごとくウェラーの巧みなソングライティングや音楽的引き出しの奥深さを感じさせる。特にサイケデリックなアレンジが効いている『Find The Torch, Burn The Plans』は印象に残る。全体の折り返し点にこの曲を置き、40分という短期決戦を圧倒的に押しまくって行く。

この作品の発表時にウェラーは51歳。50歳を超え、もうのんびりと「それらしい」曲を丁寧に作っているような時間の余裕はないと悟ったのか。あるいは21世紀に入って加速する一方の情報の流通に拮抗するためには音楽もこれくらいの「固有の速度」を具えている必要があると考えたのか。凝縮された熱量もすごいが、むしろ情報の圧縮具合の方がヤバい。この時のウェラーの目には何が見えていたのか。ケヴィン・シールズがギターで参加。




SONIK KICKS
Paul Weller

Island
2012

■ Green
■ The Attic
■ Kling I Klang
■ Sleep Of The Serene
■ By The Waters
■ That Dangerous Age
■ Study In Blue
■ Dragonfly
■ When Your Garden's Overgrown
■ Around The Lake
■ Twilight
■ Drifters
■ Paperchase
■ Be Happy Children
2年のインターバルでリリースされた10作目のオリジナル・アルバム。ノイ!、カン、タンジェリン・ドリーム、クラフトワークなど、1960年代から70年代にかけて活動した一連のドイツのバンドの音楽をクラウトロックと総称するらしいが、本作はその影響を感じさせる作品と評されている。僕自身はクラウトロックなるものをほぼ聴いたことがないのでそれが当たっているのか分からないが、アルバムを貫く独特のトーンがあるのは確かだ。

曲は概ね3分台程度とおしなべて短く、曲構成もシンプルで、リフの反復で流れを作って行くタイプの曲が中心。分かりやすいポップ・ソングは少なく、一聴しての印象はとっつきにくいビート・ナンバーが多い。時間をかけて説得するよりも、言いたいことをできる限り少ない言葉で端的に言い切り、それが分からない者はついてこなくてもいいとでも言うような、硬質でシャープなアルバム。50歳を超えたウェラーの焦燥感の表れなのか。

初めからスタイルとしてのクラウトロックを目指したというよりは、この時のウェラーの問題意識がロジカルで機能本位な一時期のジャーマン・ロックと結果的にシンクロし、ウェラーの中で結びついたというのが実際のところではないのかと思う。アルバムの色調は全体にモノトーンで生真面目、内省的だ(この辺もドイツぽい)。曲そのものの出来は決して悪くはなく、繰り返し聴くに足るソリッドな実質は具えている。異色だが面白い。




SATURNS PATTERN
Paul Weller

Parlophone
2015

■ White Sky
■ Saturns Pattern
■ Going My Way
■ Long Time
■ Pick It Up
■ I'm Where I Should Be
■ Phoenix
■ In The Car...
■ These City Streets
前作から3年のインターバルでリリースされた11枚目のオリジナル・アルバム。サイモン・ダインのプロデュースから離れ、「STUDIO 150」「AS IS NOW」を手掛けたジャン・スタン・カイバートを起用。全部で9曲44分のコンパクトなアルバムだが、収録曲ひとつひとつの強度が高く、ガツンというインパクトがあり、聴き終えた時に確かな手ごたえが残る。ここへ来て、この硬質でストレートな作品が出てくるのはアーティストとしてスゴい。

前作でクラウト・ロックに寄せた影響というか痕跡は確実に今作にも見られる気がして、それは音楽的な意匠がそうだというよりは、機能本位的な、音楽がいちばん先に来るとでもいった、愛想のなさみたいなものがすごく際立っている部分がそう感じられるのだろう。そんなに難しい曲もない、奇をてらったサイケデリックな作品もない、しかし一方で分かりやすいポップ・チューンやジャンプ・ナンバーもない、玄人好みのアルバムである。

おそらくウェラーはもう分かりやすいヒット・チューンを書くつもりもないのかもしれない。それはキャッチーでチャーミングでありながらもロックとしての本質的なカッコよさを兼ね備えた彼のシングルの数々を聴いてきた者として寂しくはあるが、もはやプロトコルの部分に必要以上の労力をかける必要を感じないということなのだろう。それでもきちんと印象に残る曲を繰り出してくるのはもう天分としかいいようがない。いいアルバム。




A KIND REVOLUTION
Paul Weller

Parlophone
2017

■ Woo Sé Mama
■ Nova
■ Long Long Road
■ She Moves With The Fayre
■ The Cranes Are Back
■ Hopper
■ New York
■ One Tear
■ Satellite Kid
■ The Impossible Idea
前作から2年のインターバルでリリースされた12枚目のオリジナル・アルバム。ジャン・スタン・カイバートをプロデューサーに迎えて制作された。ゲストにボーイ・ジョージ、ロバート・ワイアットらが参加している。10曲入り43分、通勤の片道で聴けるくらいのボリュームのオーソドックスな構成。収録曲も特別なコンセプトがあるというよりは、武骨な手触りのロック・チューンを揃えたという感じの、ある意味地味な仕上がりになった。

この感じは、ソロになったばかりの、とにかくオレの一番好きなヤツをやらせてもらうわくらいの勢いで、彼のおそらくは最も根底にあるソウル、ファンクをベースにした重心の低いロックをやり始めた時に近い気がする。ただ、スタイル・カウンシルが尻すぼみに終わって作品のリリースすらままならなかったところからの反撃で力の入っていた当時に比べると、曲はこなれ、緩急のつけ方などにも余裕が感じられる。あれから時間は流れた。

冒頭の『Woo Se Mama』がビート・チューンなので聴く側としてはちょっと身を乗り出してしまうのだが、その後はバラエティを見せながらも、どちらかというと玄人好みのハネた感じのブルー・アイド・ソウルや、湿っぽくも大仰にもならないスロー・ソングなど、安定感のある組み立て。ただ、それは狙ったものというよりも、自由に作っても軸がはっきりしているのでコアは固いという意味あいのもの。還暦を前に手にした無碍の境地だ。




TRUE MEANINGS
Paul Weller

Parlophone
2018

■ The Soul Searchers
■ Glide
■ Mayfly
■ Gravity
■ Old Castles
■ What Would He Say?
■ Aspects
■ Bowie
■ Wishing Well
■ Come Along
■ Books
■ Movin On
■ May Love Travel With You
■ White Horses
前作から1年半ほどのインターバルでリリースされた13作目のソロ・アルバム。久しぶりに顔出ししたジャケット写真を見ると「ああ、ポール・ウェラーも年食ったなあ」と思わせるたたずまい。還暦を迎え貫録と余裕をブチかましているようにも見えるスゴみのあるショットである。節目を意識したのかどうかは分からないが、このアルバムではプロデューサーを立てず、自らアコースティックな手ざわりの落ち着いた作品に仕上げてきた。

多くの曲ではドラムやベースを入れず、アコースティック・ギターの響きを軸に、ピアノ、ストリングス、一部の曲ではブラスを導入して、ゆったりしたテンポのフォーク・ソングを中心に聴かせる。こうした曲がアルバムに入っていることはあっても、アルバム1枚を丸ごとこうしたタッチでまとめたことはこれまでになく、ウェラー自身何か思うところ、感じることがあってのことだろう。15曲入りだが当然曲がいいので退屈せず聴ける。

とはいえ、このアルバムが牧歌的でリラックスした作品かといえばそんなことはまったくない。むしろ、ビートを剥ぎ取られ露わになった曲の骨格とウェラーの声からは、それぞれの曲のメッセージがより直接的に伝わってくるし、苦渋や悔恨、焦燥を感じさせる曲も多く、ウェラーがどこまでも旅の途中であり続けていることを改めて感じさせる。地味な作品だが、ウェラーにとってはこのタイミングでリリースする必要があったのだろう。




ON SUNSET
Paul Weller

Polydor
2020

■ Mirror Ball
■ Baptiste
■ Old Father Tyme
■ Village
■ More
■ On Sunset
■ Equanimity
■ Walkin'
■ Earth Beat
■ Rockets
前作から2年のインターバルでリリースされた通算14作目のソロ・アルバム。前作はセルフ・プロデュースだったが、今作では最近の作品でタッグを組んでいるジャン・スタン・カイバートがプロデューサーに復帰、フォーク・アルバムとなった前作から再びビートのある音楽の世界に回帰した作品となった。ミック・タルボットやザ・ジャムの初期のメンバーであるスティーヴ・ブルックスらが参加、他のゲストは知らない人なので省略する。

ビートのある世界に回帰したとはいえ、前作同様ハンナ・ピールのアレンジによるストリングスを再びフィーチャーし、全体に渋めというか何というか、ソウル、ブルース、その他のダウン・トゥ・ジ・アースな感じの曲で地味にロールして行く感じの仕上がりになっている。音楽的なレンジは広がっているようでもあるし、ここにきてウェラーが音楽の奥行みたいなものに改めて対峙し、そこから今の自分に合った表現を模索したようである。

ここには様々な音楽の要素とかスタイルとかがブッ込まれてて、曲そのものはよくできているし、ウェラーの声は間違いようのない存在感を放っているが、ただひとつここにないのはロックであり、ジャカジャ〜ンと鳴るやかましいギターの音だ。ビートに背を向けたという点では前作の延長線上にある作品だが、そこから何を手がかりにリアルな2020年とフックするのかは今ひとつ明らかでない。還暦のオヤジにそれを要求するのが酷なのか。



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