logo ザ・コレクターズ




ようこそお花畑と
マッシュルーム王国へ

ザ・コレクターズ

Mint Sound
COZP-663 (1987)

■ BoKuWa COLLECTOR
■ ROBOT FACTORY
■ NICK! NICK! NICK!
■ PRAMODEL
■ 1.2.3.4.5.6.7 DAYS A WEEK
■ ToBiRa O TaTaiTe
■ NiJiiRo CIRCUS
■ CHEWING GUM
■ YuMeMiRu KiMi To BoKu
■ 2065
テイチクからメジャー・デビューする前にインディペンデントのミント・サウンド・レーベルから発表した唯一のインディーズ盤アルバムである。内容的にはファーストからサードまでに収録された曲がほとんどで、ただ一曲だけオリジナル・アルバムに収録されなかった『NICK! NICK! NICK!』ものちにミニ・アルバム「愛ある世界」に収められたことから、このアルバムでしか聴けない曲はない。長く入手が難しかったが2006年にDVDボックスの特典として初めてCD化され、2012年にはようやく単独でCDとして再発されている。

上述の通りこのアルバムでしか聴けない曲はない。しかし、コレクターズのアルバムを何か一枚だけ聴きたいという人がいたら、僕は迷わずこのアルバムを勧める。もちろん低予算のインディーズ盤だから音のクオリティは高くない。つぶれ、歪み、バランスも悪い。しかしここにはコレクターズのすべてがある。メジャー・デビューを前にした若き加藤ひさしとその仲間たちの、気負い、過剰な自意識、むき出しの欲望、世間に対する冷笑と怒り、怖れ。ここには彼らの音楽を彩る若さの特権性が何もかもぶち込まれているのだ。

この時期の彼らはネオGSというカテゴリーでひとくくりにされていた訳だが、実際にはフー、キンクス、スモール・フェイセズといったバンド直系のビート・パンクであり、そうした音楽にはきれいにプロセスされた現代のスタジオ・サウンドよりもグシャっとつぶれた「汚い」音の方がしっくりくる。だが、このアルバムが素晴らしいのは、何よりザ・コレクターズというバンドが自らの頼りない足で圧倒的な世界の前に立ち、険しいまなじりでそれをじっと睨みつける美しい瞬間がそのまま切り取られているからに他ならない。




僕はコレクター
ザ・コレクターズ

テイチク
TECI-1431 (1987)

■ 僕はコレクター
■ TOO MUCH ROMANTIC
■ プ・ラ・モ・デ・ル
■ 1・2・3・4・5・6・7 DAYS A WEEK
■ GO! GO! GO!
■ 僕は恐竜
■ ロボット工場
■ おかしな顔(ファニー・フェイス)
■ 問題児
■ 恋のカレイドスコープ
■ 夢見る君と僕
■ 僕の時間機械
僕はなぜコレクターズが好きなのか。その答えはすべてこのアルバムに詰まっていると言っていい。もちろんそれはモッズ直系(当時はネオGSとか呼ばれていたが)の小気味よいギターのカッティングのせいもあった。それでいて親しみやすくポップなソングライティングのせいもあっただろう。しかし何より僕を引きつけたのは、加藤ひさしの、世の中への怨念、恨みつらみに歪み、ひねくれ、ねじくれて屈折した自意識、美意識であった。巨体を揺らし、本来の声域以上の声を張り上げるようとするこの男の業の深さであった。

バンド名の由来になった映画「コレクター」はテレンス・スタンプ演じる青年が宝くじを当てて勤めを辞め、以前から慕っていた女性を城に監禁して調教しようとする一種のカルト・ムービーである。少なくともこの頃の加藤ひさしにはそうした非社会的なモメント、サラリーマン的な社会への強い嫌悪や適応への拒絶があり、そうした過剰性がコレクターズというバンドの大きな動因になっていた。そして僕が大学生から就職して社会人になる時期に彼らのCDをむさぼるように聴いたのも、まさにそうした過剰性の故だったのだ。

「きらいな事いつまでも続けていたって 決して好きにはならないよ」なんていうラインを頭の中でリピートしながら通勤電車に揺られていた僕は、中途半端な自分の中の苛立ちやきしみのようなものを彼らの音楽の中に投影していたのだ。ロックが過剰と欠損、不整合の物語なら、このデビュー・アルバムは彼らのどのアルバムよりロック的だと言っていい。そして、そうした過剰や欠損、不整合が、独善的なパンクなどでなく、これだけポップで分かりやすい「歌」に結実したことが加藤の才能であるということなのだろう。




虹色サーカス団
ザ・コレクターズ

テイチク
TECI-1432 (1988)

■ カーニバルがやってくる
■ 虹色サーカス団
■ 10月のたそがれた海
■ 太陽はひとりぼっち
■ 魔法のランプ
■ 空想科学ロケット旅行
■ がんばれG・I・Joe!
■ 扉をたたいて
■ 青と黄色のピエロ
■ 作品22番
■ 2065
デビュー作がザ・フーやザ・ジャムからの直接の影響を受けたビート・ポップスだったのに比べると、セカンド・アルバムである本作ではサイケデリックな色合いが強くなっており、同時期に発表されたXTCの変名プロジェクト、デュークス・オブ・ストラトスフィアのアルバムとの相似性を感じさせる。また、「カーニバルがやって来る」といった曲のテーマや「10月のたそがれた海」といった曲名には、SF幻想文学作家であるレイ・ブラッドベリの影響も色濃く伺える。加藤ひさしの趣味性がさらに開花した作品だと言えよう。

みんなが当たり前だと思っている社会に上手くなじむことのできない自分と、そんな自分に対するアンビバレントな自意識というテーマはここでも維持されているが、作品はより物語的、寓話的に語られるようになり、音楽的にもよりポップに作りこまれるようになっている。加藤ひさしが宿命的に抱えた世界への違和感、歪んだルサンチマンは変わりようも解決のしようもないが、それが「虹色サーカス団」や「魔法のランプ」、「青と黄色のピエロ」といった道具立てを得ることで、より立体的にリスナーに届くようになった。

敢えて60〜70年代的に仕立てたサウンド・プロダクションや懐古調のアートワークからは中期ビートルズやその時代のサイケデリック・ロックへの深い造詣と愛情が感じられるが、ここで語られる物語自体は紛れもなく加藤ひさしのオリジナルだ。夜の間に大きくなる幻想や妄想、自分がどこにも属していないという寄る辺のない感覚、自分一人世界から浮き上がっているような頼りなさ、心細さと世界への敵意、膨れ上がった自意識を、加藤はどんな精密な論文よりも的確に物語の中で示すことに成功し、それが僕を打ったのだ。




僕を苦悩させるさまざまな怪物たち
ザ・コレクターズ

テイチク
TECI-1433 (1989)

■ まぼろしのパレード
■ ご機嫌いかが? おしゃべりオウム君
■ 僕はプリズナー345号
■ あの娘は電気磁石
■ 太陽が昇るまえに
■ 恋の3Dメガネ
■ スーパー・ソニック・マン
■ 占い師
■ CHEWING GUM
■ アーリー・イン・ザ・モーニング
■ ぼくを苦悩させる
 さまざまな怪物たちのオペラ
■ CHARY GORDONのうた
 (ダニエル・キイスと白ネズミ
 "アルジャーノン"にありったけのぼくの愛を)
このアルバムでは前作の幻想的で寓話的な世界から再び現代的で等身大の世界に視点が転回しているように思われる。鳴らされる音はより直接で力強いフォー・ピースのロックが中心になり、僕たちが日常の中で遭遇し、打ちのめされるリアルな世界、つまり「ぼくを悩ませるさまざまな怪物たち」のことがそのまま歌われているのだ。冒頭の「まぼろしのパレード」や60年代イギリスのテレビ・シリーズ「プリズナーNo.6」を下敷きにした「ぼくはプリズナー345号」がこの世界への強烈な違和感を明確に示している。

音楽的にはキーボードを効果的に挿入したストレートなギター・サウンドであり、ファーストに比べてもグッと奥行きのある音に仕上がっている。ソングライティングもシンプルでありながらこれ以上ないくらいポップでキャッチーな名曲揃いである。加藤ひさしという人は、そのいびつに歪んだ世界観を先鋭化させればさせるほど、それをポップな「歌」としてまとめ上げずにいられない業を背負っているのであり、分かりやすいポップ・ソングの背景にルサンチマンを忍ばせることでこそ彼の復讐は果たされるのだ。

アルバム・タイトルを冠した「ぼくを苦悩させるさまざまな怪物たちのオペラ」は4つの曲を一つにまとめ上げたロック・オペラであり、10分以上に渡る大作であるが、ここには「トミー」や「四重人格」の頃のザ・フーの影響が確実に見られる。ロック・オペラという試みがどこまで消化されているかは別としても、この時期の加藤の創作意欲が充実していたことを感じさせる作品に仕上がっている。また、ライブでリグレイのガムが舞うテーマソング「CHEWING GUM」もこのアルバムに収録。就職した直後に聴きまくった名盤。




PICURESQUE
COLLCTORS' LAND
〜幻想王国のコレクターズ〜

ザ・コレクターズ

テイチク
TECI-1434 (1990)

■ マーブル・フラワー・ギャング団現わる!
■ 僕のプロペラ
■ 時計発明家
■ 地球の小さなギア
■ …30…
■ ちびっこアドルフ
■ 気狂いアップル
■ 彼女はワンダーガール
■ Dearトリケラトプス
■ 消えろ! けむり野郎
■ ダイスをころがして
■ チョークでしるされた手紙
■ あの娘は僕の太陽なのさ
■ S・P・Y
■ ロケットマン
世界に対する違和感、オートマチックな社会への嫌悪、夜の間に肥大する自意識といった、加藤ひさしの表現への初期衝動は相変わらず通奏低音としてアルバムを貫いているものの、楽曲はよりポップに、キャッチーになり、部分的には「サージェント・ペパーズ」すら想起させる彩り豊かな仕上がりとなった4枚目のアルバム。ジャケット・イラストには奥平イラを起用、初回盤は箱入りパッケージで、このアルバムに賭ける彼らの自信が感じられる。過去のイディオムに依拠しない、開かれたアルバムになったと言っていい。

ストリングスを大胆に導入した「地球の小さなギア」、50年代ふうの「…30…」、センチメンタルなバラードの「チョークでしるされた手紙」など曲想の幅も広がり、次作の小西康陽プロデュースを予感させる「S・P・Y」のようにブラスをフィーチャーしたポップ・ソングも収録されている。しかし、こうしたバラエティに富んだ曲を15曲も収めながら、アルバムとして統一性を失っていないのは、エンジニアの飯尾芳史による特徴あるミキシングに負うところが大きい。特に小気味よいスネアの音色はこの人独特のものだ。

この頃からコレクターズは「ブレイク寸前」と呼ばれ始めたように思うが、確かにこのアルバムでの彼らはデビューから順調に続いたドライブの一つの頂点にあったと言えよう。だが、この作品での出来上がり感は同時に一つの行き詰まりでもあったのかもしれない。さまざまな意匠の曲をコレクターズ印で一つにまとめ上げる実力は新人バンドとしては驚くべきものだが、それは同時にこのバンドをある種の箱庭的な予定調和に導くリスクをも孕んでいたのだ。彼らの実力とその限界を同時に示したアルバムだが、曲は粒揃い。




COLLECTOR NUMBER 5
ザ・コレクターズ

コロムビア
COCP-50804 (1991)

■ おねがいホーキング博士
■ SEE-SAW
■ 王様がいっぱい
■ ロバになる前に
■ 暗闇の男
■ カメレオン・ダイナマイト
■ ゴルフはいかが?
■ きみの素敵な金時計
■ 二人
■ ハレツするボク
■ 太陽幻夢
■ あてのない船
■ 1991
■ ジェットパイロットの夢
ドラムとベースをメンバーチェンジ、レコード会社もテイチクからコロンビアに移籍して発表した第5作。プロデュースはレーベル・メイトとなったピチカート・ファイヴの小西康陽。コレクターズとピチカート・ファイヴはミスマッチのように思うかもしれないが、ファーストからアレンジは「もう一人のピチカート・ファイヴ」高浪敬太郎が手がけていたし、一時期ピチカート・ファイヴに在籍した田島貴男はオリジナル・ラヴでコレクターズと同じネオGSのコンピレーションに参加したりもしていた。伏線はあったのだ。

このアルバムでも加藤のポップな曲作りは健在である。シングル・カットされた「SEE-SAW」や「暗闇の男」、「ハレツするボク」などの典型的なビート・ポップスはもちろん、広川太一郎のナレーションをフィーチャーした「ゴルフはいかが?」や語りの「二人」、泣きの入ったバラード「あてのない船」、マンチェスターふうの「太陽幻夢」など、曲想はバラエティに富んでおり、全部で14曲収録、1時間を超える長尺ではあってもリスナーを飽きさせずに最後までドライブして行くソングライティングはさすがだと言える。

しかし、このアルバムではザ・コレクターズにとって最も大切なものが足りないような気がする。それはひとことで言ってしまえば直接性だ。どんな理論も計算も指し示すことのできない生の本質に、たった一つのギターのストロークだけで、たった一つの言葉にならないシャウトだけでまっすぐにたどり着くことのできるロックの特権性がこのアルバムには欠けている。それはおそらく小西康陽のプロデュースによるところも大きいのかもしれない。新しいスタートを切ったはずが、結局は縮小均衡に陥ってしまった作品。




UFO CLUV
ザ・コレクターズ

コロムビア
COCP-50805 (1993)

■ 月は無慈悲な夜の女王
■ 愛ある世界
■ リラ
■ Dog Race
■ Monday
■ 世界を止めて
■ 土曜日の子供たち
■ 5・4・3・2ワンダフル
■ THE HAMMER AND SICKLE
■ U・F・O
プロデューサーにサロン・ミュージックの吉田仁を迎えて製作した6枚目のアルバム。彼らにとっては確実に一つの転機となった作品だろう。ネオGSとかモッズとか、ザ・ジャムとかザ・フーとか、キンクスとかスモール・フェイセズとか、とにかく何らかの前置きとか文脈とかにおいて語られることが当たり前になっていたザ・コレクターズが、そんなストーリーに依存することなく、バンドそれ自体の力、曲そのものの説得力だけを武器に、ひたすらその表現の密度を上げることで中央突破を図ろうとしたアルバムである。

その目的は相当のところまで達せられたと言えよう。特に「愛ある世界」、「Monday」そしてスマッシュ・ヒットとなった「世界を止めて」などはグルーヴィなリズムと加藤ひさし渾身のリリック、メロディで、まさに曲それ自体がどんな背景情報や前提にも寄りかかることなく聴き手をドライブして行く名曲であり、アレンジ、プロデュースも一体となって、ザ・コレクターズの「次のフェイズ」を見せてくれる。リズム隊の腰の強さも特筆するべきであり、メンバー・チェンジして加藤がやりたかったのはこれだと実感できる。

しかし、このアルバムのいちばんの問題点は、これら3曲とそれ以外の曲とのばらつきがあまりに大きいことだ。古市コータローが初めてボーカルを取った「Dog Race」を含め、これら以外の曲の強度は残念ながらこの3曲からは大きく見劣りするし、それがアルバム全体をとても間延びしたものにしている。「世界を止めて」レベルの曲を10曲揃えるのは実際には難しいのかもしれないし、仮にできてもすごく暑苦しいアルバムになったかもしれないが、やはり残念である。まあ、この3曲だけでも3,000円の価値はあるのだが。




CANDYMAN
ザ・コレクターズ

コロムビア
COCP-50806 (1994)

■ キャンディマン
■ MOON LOVE CHILD
■ 真夜中の太陽
■ プリティ・ガール
■ 雨のうた
■ 愛ゆえに
■ レイニーデイマン
■ ザ・バラッド・オブ・ロンサム・ジョージ
■ 恋をしようよ
■ ハッピー! ハッピーバースディパーティ
■ Rock'n Roll Star
■ ネイビーブルー
前作に続いて吉田仁をプロデューサーに起用、パワー・ポップ路線を推し進めた7枚目のアルバム。モッズ的な文脈に寄りかからず、バンドとしての力、楽曲の質の高さで勝負しようとする正面突破戦略はこのアルバムでも健在だ。確かにこのアルバムでも冒頭に置かれたタイトル・ソング「キャンディマン」、シングルとなった「MOON LOVE CHILD」、ソウルフルな「真夜中の太陽」、ベースの小里誠が初めて作曲した「レイニーデイマン」、ポップな「恋をしようよ」など、収録曲はどれもコンパクトにまとまっている。

しかし、同時にこのアルバムはコレクターズが前作以降抱えこむことになった宿命的な問題の所在をも示している。それは、シンプルな4ピースのロックンロール、ビート・ポップス、あるいはモッズ、60年代から70年代のブリティッシュ・ポップという「出自」に一応のケリをつけた彼らが、そこでバンドのアイデンティティとして提示するべきものは何かということである。良質でポップな曲を書き、手堅い演奏で聴かせるブレイク寸前の中堅バンドは他にいくらもいる。それがザ・コレクターズである必要はどこにもない。

このアルバムを聴くと、ティーンエイジフッドにおける世界への違和感という大きなテーマから、バンドとしてもひとりの人間としても一段の成長を求められたとき、加藤ひさしはひとつひとつの曲の完成度を高めることでそれに答えを出そうとしたように僕には思える。そしてそれを誇示するかのように歌詞カードにはコードが付記されるようになった。しかしそれは同時にコレクターズにとって最も大切なモメントであったはずの直接性を複雑なコード進行や計算されたアレンジの背後に隠してしまう結果にもなったのだ。




Free
ザ・コレクターズ

コロムビア
COCP-50807 (1995)

■ Dreamin'
■ Good-bye
■ フライング・チャーチ
■ マイアミビーチ
■ ベイビーハリケーン
■ テレビジョンスターズ
■ ファニー・ストレンジ・タウン
■ ゴースト
■ あなたを求めて
■ フリーダムチルドレン
■ スィート・シンディ
引き続き吉田仁をプロデューサーに迎え、ロンドンで制作された8枚目のアルバム。「世界を止めて」型のパワー・ポップで押しまくる展開で、ひとつひとつの楽曲はますますガチガチに構築され、ある意味メタリック(ヘヴィ・メタルじゃなくて)にすら聞こえる作りこみ度の高さを誇る作品だと思う。もちろん歌詞カードはコードネーム付で、どうだ、こんなテンション使ってるぞ、とか、このコード進行はちょっとすごいだろ、とか、いちいち加藤ひさしがあの口調で語りかけてくるような暑苦しさが微笑ましいアルバム。

だが、このアルバムでは肝心のソングライティングが弱い。冒頭の2曲、「Dreamin'」と「Good-bye」、それからマイナーのスロー・ソングである「ファニー・ストレンジ・タウン」、小里誠作曲の「ゴースト」が辛うじて水準をクリアしているものの、それ以外の曲はどれもスタンダードとしてライブで歌い継がれるには未成熟。そのためいくら分厚い音圧のアレンジをしても、異様に重量感のあるリズム隊の演奏の上にコータローのヘヴィなリフを重ねても、それを支えるべき曲そのものの骨組みが弱すぎる印象を受ける。

そして何よりつらいのは、このアルバムでもザ・コレクターズは何者なのか、結局のところ何を歌いたいのか、何を聴かせたいのかという肝心の問いに答えが見出せないことだ。初期のアルバムでは明確だったバンドの存在意義が、キャリアを重ね、バンドとしての成長、成熟を模索する中で、タフになり筋肉質になった身体と引き換えに見失われてしまったのではないかと思ってしまう。もちろん加藤ひさしが抱えた異形のルサンチマンが雲散霧消した訳ではないはずだが、その在処が本人にも見えなくなっていたのでは。




MIGHTY BLOW
ザ・コレクターズ

コロムビア
COCP-50808 (1996)

■ クルーソー
■ 涙のレインボーアイズ
■ GLORY DAYS
■ パーティ・クィーン
■ LOVE SICK!
■ The Game of Life
■ 愛の種
■ スペース・エイリアン
■ 恋はLet's Go
■ カラス
プロデュースに伊藤銀次を迎えた9枚目のオリジナル・アルバム。前作までの大作主義、重厚長大主義から再びシンプルなロックンロール、コータローのギターの「鳴り」をアレンジの中心に据え、短めのポップ・ソングでアルバムをドライブして行くという作りになっている。特にアナログ・アルバムでいえばA面に当たる「クルーソー」から「LOVE SICK!」までの流れは、吉田仁のプロデュース作品ではガッチリと構築された曲構成、サウンド・プロダクションの背後に隠れていた直接性を再び取り戻していると言っていい。

このアルバムでも歌詞カードにはコード・ネームが付記されているが、それを見てみると特に「A面」の曲にはテンションや分数コードがほとんど使われていないことが分かる。加藤ひさしのソング・ライティングは、華麗なコード・ワークを駆使するというよりも、単純なメジャーやマイナーのコードの響きの中にどれだけ僕たちの心のどこかにフックするメロディを乗せることができるか、それをプリミティブなロックンロールに乗せて直接届けられるかというところに特質があるのだということがこのアルバムでは分かる。

それを的確に看破した伊藤銀次の本作でのプロデュース、アレンジは高く評価されてしかるべきである。だが、そのアレンジを支えるのは結局のところひとつひとつの曲の力、メロディに他ならない。その意味ではアルバム後半、「The Game of Life」、「スペース・エイリアン」、「恋はLet's Go」といった曲の完成度が見劣りするのは残念だ。「愛の種」と「カラス」で救われているものの、後半の失速感のせいで、初期の作品を自ら模倣しているかのようなもどかしさが残ってしまった。それだけがもったいない作品だ。




HERE TODAY
ザ・コレクターズ

コロムビア
COCP-50809 (1997)

■ OVERTURE
■ 嘆きのロミオ
■ TOUGH -all the boys gotta be tough-
■ TEENAGE FRANKENSTEIN
■ NEW LOVE STORY
■ JET HOLIDAY
■ Giulietta
■ 真実は隠せない
■ ELEPHANT RIDE
■ GIFT
■ 20世紀が終わっても
コロンビアへの移籍後初めてとなるセルフ・プロデュースによる10枚めのオリジナル・アルバム。伊藤銀次のプロデュースでコンパクトなロックンロールを鳴らした前作を継承しつつも、冒頭にストリングスによる「OVERTURE」を置き、2曲目とラストにストリングスを導入して6分を超す「嘆きのロミオ」と「20世紀が終わっても」を配置して、ポップ・アルバムとしてのトータルな仕上がりにも意識している。もっとも全体としてガチガチに構築したイメージはなく、より自由に組み上げられた彼らなりのポップが聴ける。

しかしこのアルバムでは「TOUGH」と「TEENAGE FRANKENSTEIN」という肝心のロックンロール・チューンが全体を牽引する役割を果たしきれていない。「TOUGH」では「好きなこと 好きなだけ 好きならずっと好きにやれ」と歌われるが、それはかつて「きらいな事いつまでも続けていたって 決して好きにはならないよ」と歌った世界への歪んだルサンチマンからは遠く離れた、ありふれた青春応援歌にしか聞こえない。「二度と戻らない 夏の真ん中さ」という認識は、大人の目から見た懐旧以外の何者でもないだろう。

「TEENAGE〜」、「真実はかくせない」、「ELEPHANT RIDE」といった曲のメロディ・ラインは生硬で、このアルバムの中では何とか聴くに値する「GIULIETTA」でさえアレンジのアイデアは「TOUGH」と同様にありきたりで凡庸だ。セルフ・プロデュースとなったせいか、アルバム全体に焦点の絞りきれない散漫さがあり、加藤も自分の中の何を訴えかけたいのか対象化できていない印象を受ける。ラスト前に置かれ、中域を強調した特殊なミックスの奥からひっそり歌いかける「GIFT」が実際のところこのアルバムの成果だ。




BEAT SYMPHONIC
ザ・コレクターズ

コロムビア
COCP-50810 (1999)

■ World
 -theme from teenage gangster-
■ 百億のキッスと千億の誓い
■ Brand☆New☆Heaven
■ 夜の向こう側
■ センチメンタル・スウィート・ハートエイク
■ 6 or 9
■ Cash & Model Gun
■ Butterfly Kiss
■ Psychedelic Heartbreak
■ SNOWMAN
■ Stay Cool! Stay Hip! Stay Young!
■ Quiet Happy...
■ 螺旋のラウンドアバウト
前作に続きセルフ・プロデュースとなった第11作。冒頭に5分以上に及ぶ「World -theme from teenage gangsters-」が置かれ、重厚長大路線への復帰かと暗い気持ちにさせるが、聴き始めてみるとアルバム全体の展開を示唆するポップな仕上がりで決して重くない。そこから「百億のキッスと千億の誓い」、「Brand☆New☆Heaven」とつながって行く流れで一気にリスナーをコレクターズ・ワールドに引きずり込み、「夜の向こう側」で聴かせる構成もうまくはまって、アルバムとしてのバランスは悪くない。

中盤にはシングル「Cash & Model Gun」を配し、単調になりがちなコータローのボーカルも「SNOWMAN」では曲の良さに救われている。モータウン・ビートの「Stay Cool! Stay Hip! Stay Young!」はその意図通り景気のいいビート・ポップに仕上がった。フリー・スタイルのポップ・アルバムだが、ひとつひとつの楽曲がきちんとしたメロディを持っており、それぞれに明快な表情をしていることがアルバム全体としてのメリハリにつながったのだと思う。60分の大作だがそれを意識することなく聴くことができる。

また、このアルバムで特筆すべきなのはピアノのバッキングで加藤が歌う「Quiet Happy...」だろう。加藤らしいドラマティックなメロディを切々と歌い上げるこの曲は、確実にひとつのハイライトになっている。サビの節回しのカタルシスは、加藤のソングライティングの特徴がよく表れたものだと言っていいだろう。コレクターズとしてはオーソドックスな曲ばかりだが、変にひねったり凝ったりすることなく、素直にビート・ポップの基本から作り起こしたアルバム。代表作という訳には行かないが佳作なのは間違いない。




SUPERSONIC SUNRISE
ザ・コレクターズ

コロムビア
COCP-50465 (2001)

■ A TASTE OF YOUTH
■ SHINE ON! STARDUST CHILDREN
■ MILLION CROSSROADS ROCK
■ 恋のしわざ
■ LUNA
■ PUPPET MASTER
■ A WAY OF LIFE
■ 遠距離通話サービス
■ ジェリーに相談
■ 沈みゆく船
95年の「Free」以来6年ぶりに吉田仁をプロデューサーに起用。収録曲数は10曲に抑えられ、比較的コンパクトに構成されている。吉田仁特有の、行儀よくプロセスされたようなギターの音色は相変わらずだが、このアルバムでは音のワイドレンジが広がり風通しがグッとよくなった印象がある。「UFO CLUV」から「Free」に至る吉田仁プロデュースに見られた構築主義、重厚長大指向は影をひそめ、それぞれの曲に合わせた抜けのよいアレンジでアルバム1枚を一気に聴かせるだけのリズムを作り出している。

曲そのものも端整に作りこまれており、特に「PUPPET MASTER」は「虹色サーカス団」の頃を思わせる出色の出来。GSふうに聴かせる「恋のしわざ」やファーストを彷彿させる「MILLION CROSSROADS ROCK」なども丁寧に作られている。しかし、これは前作にも言えることだが、ザ・コレクターズと聞くだけでワクワクしてしまうような、曲そのものに内在するチャームが足りない。例えば「夢見る君と僕」や「TOO MUCH ROMANTIC!」にあったような、いかにも痛いところを突く節回しのあざとさがないのだ。

ただの音符の並びがコータローのギターと前のめりのビートに乗せて加藤のボーカルで歌われた瞬間、そこに有機的なマジックが起こって僕たちの胸の出っ張ったところや引っ込んだところにぴったり寄り添うような、直線的でありながらとてもロマンチックに僕たちの逡巡や躊躇にもきちんと答えてくれるような、そんな甘さや酸っぱさがこのアルバムには足りないように思う。そのために、よくできたはずの曲の印象がどうしても平板なものになってしまう。よくできている。でも最後の何かが足りない。




GLITTER TUNE
ザ・コレクターズ

コロムビア
COCP-50700 (2002)

■ THE ROVER
■ ANY DREAM WILL DO
■ POWER OF LOVE
■ CRAZY LOVE FOR YOU
■ Mr. GENTLE (for John Entwistle)
■ GLITTER MINT
■ 虚っぽの世界
■ MISTAKE
■ ポールとアンディ
■ PEACEFUL SUNDAY
■ WINTER ROSE
■ PUNK OF HEARTS
前作に続いて吉田仁がプロデュースした第13作。インスト2曲を含む12曲収録で、最後の「PUNK OF HEARTS」はボーナス・トラックとクレジットされている。インストを除けば大半の曲が5分以上もしくはそれに近いサイズで、コンパクトなロックンロールというよりは重量級のパワー・ポップというイメージ。「POWER OF LOVE」や「CRAZY LOVE FOR YOU」、「虚っぽの世界」などいくつかのよくできたポップ・ソングを収録しており、全体としては手堅くかっちりとまとまったアルバムという印象を受ける。

しかし、このアルバムでは曲によって出来にばらつきがあり、いくつかの曲ではメロディラインやアレンジが単調に流れてしまっている。何より既にこの時点で40歳を超えている加藤がいったいどんな曲を歌うのか、どうやって僕たちにリアルな景色を見せてくれるのかということに対する明快な答えが示されない。初期の頃のようなティーンエイジフッドのルサンチマンを白目をむきながら歌い続けることが、趣味の悪い自分自身のパロディに陥らないよう、そこにはいったいどんな付加価値があり得るのか。

もちろんそれは加藤自身が抱えた宿命的な歪みとかいびつさに他ならない。40過ぎにもなってモッズだの何だのと言いながらこんなロックをやっていることのリアリティは、どこまで行ってもそれしかない、それしかできないのだという加藤自身の切羽詰まり方の中にこそあるのだし、ザ・コレクターズは加藤のそうしたいびつな自意識なしには存在し得ないバンドだ。その意味でこのアルバムはまだまだそうした性癖の「さらけ出し」が足りない。佳作ではあってもどこか思い切りが悪く、煮え切らない作品。




夜明けと未来と未来のカタチ
ザ・コレクターズ

コロムビア
COCP-50829 (2005)

■ 恋することのすべて
■ 未来のカタチ
■ マイチェルシーブーツ
■ 冬の観覧車
■ グレートアメリカ
■ 愛してると言うより気にってる
■ バックトゥトゥモロ―
■ 恋のけむり
■ ハッピー&ラッキー
■ ファーザーアウェイ
■ ファイナルラウンドボクサー
前作から3年のブランクをおいて発表された14枚めのオリジナル・アルバム。プロデュースは吉田仁。この間、所属する事務所の閉鎖、加藤のパニック障害発症など、必ずしも順調ではない状況で制作された作品だが、コレクターズはこのアルバムで何かを吹っ切ったのではないかと僕は思う。リリー・フランキーによるジャケット画、日本語の曲タイトル、肩の力の抜けた歌詞。カッコつけてもどこかおかしいコレクターズの帰還を印象づける。

「UFO CLUV」以降のコレクターズは、意図的なものかどうかはともかく、どんどん「本格的」に、シリアスになり、表現の密度を上げる方向でブレイク・スルーを図ろうとしていた。しかし、この作品では敢えて単位あたりの情報量を抑え、風通しをよくすることで音楽としての自由度を奪還している。コレクターズはカッコいいバンドである以前に面白いバンドであったのであり、その面白さこそがカッコよかったのだ。我に返った感がある。

このアルバムを決定づけるのは何よりタイトル・ソング『未来のカタチ』である。うまく行かない人生の理由をどこかに探して、それを修正しても、未来は結局意地悪にカタチを変えてしまう。この曲の現実認識は重要なものであり代表曲のひとつだ。ここをベースにすることでコレクターズは開き直りとも言える表現上の「脱皮」を成し遂げた。苦しい時期に生み出されたエポック・メイキングな名作であり、その後の活動の水準点となった。




BIFF BANG POW
ザ・コレクターズ

コロムビア
COCP-50866 (2005)

■ TIME FOR ACTION
■ HERE IS MY NUMBER
■ PICTURES OF LILY
■ MY MIND'S EYE
■ BIFF BANG POW
■ I'LL KEEP HOLDING ON
■ MAYBE TOMORROW
■ PLUG ME IN
■ (If Paradise is)HALF AS NICE
■ HANGING AROUND
■ PRETTY GREEN
■ GIVE IT TO ME NOW
■ SHA LA LA
■ LOVE INOCULATION
■ MIKE HER MINE
結成20周年を翌年に控えて発表された企画盤。彼らの音楽のルーツになっているモッズ、ネオ・モッズのバンドのカバー集である。翌年リリースされた、彼らの盟友というべきアーティストの提供曲を集めた「ロック教室」と対をなす作品だと言っていい。15曲のモッズ・クラシックがブチこまれているが3分内外の曲が大半で演奏時間は全部で48分。次から次へと繰り出される小気味いいビート・ナンバーはコレクターズの出自を示している。

ザ・フー、スモール・フェイセズ、クリエイション、エイメン・コーナー、ザ・ジャム、マンフレッド・マンなど、外すことのできない顔ぶれから、ネオ・モッズの渋いところまで、さすがにこの辺を語らせたら終わらないマニアックぶりで、きっと選曲とか楽しかっただろうなと思わせるライナー・ノーツ付き。特筆すべきは、加藤ひさしが全曲を日本語詞に訳して歌っていること。この日本語詞のクオリティがすさまじく高く才能を感じる。

さらに、コレクターズ自身がマジェスティック・フォーという変名で2000年にリリースしたミニ・アルバムから『PLUG ME IN』を日本語詞で収録、またコレクターズの前身であるザ・バイクのレパートリー『LOVE INOCULATION』も収められているが、この並びの中に入っていても違和感がないのは、彼らがこうした音楽の系譜を極東の島国で、日本語詞で、しかし極めて正統に継受してきたことの証左だろう。オリジナルに準じて聴くべき作品。




ロック教室
〜THE ROCK'N ROLL CULTURE SCHOOL〜

ザ・コレクターズ

コロムビア
COCP-50934 (2006)

■ 悪い月
■ スタールースター
■ ぼくは花
■ 愛まで20マイル
■ 19
■ LAST DANCE
■ SET 0 SET ME FREE
■ トークバック
■ 特別さジニー
■ MY TRUE COLORS
■ Thank U
バンド結成20周年の記念企画ということで、本邦のアーティストから提供された楽曲をコレクターズが演奏した企画盤のアルバム。洋楽カバーだった前作と対をなすものだろう。プロデュースは吉田仁。ジャケットには、高校の制服を模したジャケットを着たバンドのメンバーとともに、長年の盟友であるクロマニヨンズの真島昌利が同じ衣装を着て写っている。真島は『スタールースター』を提供。『Thank U』はコレクターズのオリジナル。

その他に楽曲を提供したのは、奥田民生、曽我部恵一(サニーデイ・サービス)、山口隆(サンボマスター)、松本素生(GOING UNDERGROUND)、BEAT CRUSADERS、會田茂一、渡辺健二(スネオヘアー)、堂島孝平、山中さわお(ザ・ピロウズ)ら。コレクターズ、加藤ひさしが、いわばミュージシャンズ・ミュージシャンとして、同世代や後輩らから大きなリスペクトを受けていることが分かる。「ロックンロール互助会」の源流はここか。

興味深いのは、どの曲も作者の特徴がきちんと刻印されているにもかかわらず、紛れもないコレクターズのアルバムとして成り立っていること。それは、提供者が、ある意味コレクターズ自身よりもコレクターズを理解し、敬愛しているからだと思う。また、吉田仁のプロデュースも含めたバンドとしてのキャラクターがはっきりしていること、何より加藤のボーカルの通用力の高さも大きい。松本の『19』と堂島の『特別さジニー』がいい。




東京虫BUGS
ザ・コレクターズ

コロムビア
COCP-51057 (2007)

■ たよれる男
■ 東京虫バグズ
■ ザ モールズ オン ザ ヒル
■ スターズ オブ バルコニー
■ ミッドナイト ボートピープル
■ 青春ノークレーム ノーリターン
■ パーソナリティ インベントリー
■ 25歳のヘンリエッタへ
■ スペース パイロット
■ ブレイキング グラス
■ ロックンロールバンド人生
■ ツイスター
前作「ロック教室」を15枚めとカウントすれば16枚めにあたるオリジナル・アルバム。プロデュースは吉田仁。「未来のカタチ」「ビフ・バン」「ロック教室」と合わせ3年間で4枚の新作アルバムとなるハイペースでのリリースになった。ジャケットのイラストを「未来のカタチ」に続いてリリー・フランキーが手がけている通り、作品としては「未来のカタチ」で萌芽を見せたコレクターズのニュー・モードが全開になった作品だと言える。

スピード感のあるギターでグイグイとドライブしながら歌詞に「甲本ヒロト」を織りこむぶっちゃけネタの『たよれる男』を冒頭に置くことで、これまでモッド的な意匠をまとってスマしていたコレクターズが、いつものままでガツンとやることでそのカッコよさのモードを更新するのだという意志が明確になった。歌詞はグッと卑近に、率直になり、メッセージがストレートに伝わる。素の面白さで勝負したことが、大きな突破口になった。

グルーヴィな『東京虫バグス』、コータローがボーカルを取る『青春ノークレーム ノーリターン』、自己言及的な『ロックンロールバンド人生』など、これまでの語彙からは出てこなかったような勢いのある曲が揃う。『ミッドナイト ボートピープル』や『25歳のヘンリエッタへ』などでメリハリもついており、一気に最後まで聞かせる流れがしっかりできている。企画盤でいったんバンドを対象化できたのも大きかったか。重要な作品。




青春ミラー(キミを想う長い午後)
ザ・コレクターズ

コロムビア
COCP-36086 (2010)

■ 青春ミラー(キミを想う長い午後)
■ 明るい未来を
■ エコロジー
■ トランポリン
■ Cold Sleeper
■ ラブ・アタック
■ ライ麦畑の迷路の中で
■ twitter
■ 孤独な素数たち
■ forever and ever
■ 今が最高!
■ イメージ・トレーニング
17枚めのオリジナル・アルバム。プロデュースは吉田仁。前作から2年半弱のインターバルでリリースされた。このアルバムでは「未来のカタチ」「東京虫」で手に入れた開き直りの力が、より確信を持って鳴らされている。今ここにある言葉をそのままぶつけるだけでそれが何よりもコレクターズらしい表現になるという当たり前の事実を知って、それがひとつの自信に転化して行くプロセスを目の当たりにするようだ。確信に満ちた作品。

『エコロジー』は、以前ならムダにシリアスになって逆にメッセージの射程距離を自ら狭めてしまいそうなテーマを、軽快なロックンロールに乗せて諧謔的に歌う。コータローがボーカルを取る『twitter』もシンプルなポップ・ソングだが、思わず笑ってしまうぶっちゃけた辛辣なユーモアが痛快。コータローのギターもモッドぽくてカッコいい。『孤独な素数たち』は加藤のソング・ライターとしてのアイデアが秀逸でコンパクトな一曲。

しかし、気になるのは冒頭を飾るタイトル・ソングが7分を越える大作であること。サリンジャーの訃報に接して書かれた『ライ麦畑の迷路の中で』も8分近くあり、アルバム全体では1時間を越える。どちらも曲としてよくできているし力が入っているのは分かるが、一時期の重厚長大主義を思い起こさせる暑苦しさが顔を出す。全体としては風通しのいい曲に救われて何とかバランスを保っているが、やや自家中毒的な力みがもったいない。




地球の歩き方
ザ・コレクターズ

コロムビア
COCP-36887 (2011)

■ 地球の歩き方
■ GROOVE GLOBE
■ 英雄と怪物
■ サマー☆ビーチ☆パラソル
■ マナーモード
■ キミノカケラ
■ マネー
■ ハッピーカメラ
■ フリー ハンド
■ ドミノ トップリング
■ 遥かなるスタートライン
■ 春鳥の羽ばたく空
18作目のオリジナル・アルバム。プロデュースは吉田仁。1年半に満たないインターバルでリリースされており、彼らの新しいサイクルが軌道に乗ってきたことを思わせる。このアルバムがリリースされた2011年は東日本大震災のあった年。本作もそれをまたいで制作されており、『英雄と怪物』『遥かなるスタートライン』など明らかに震災を意識したと思われる曲も収録されていて、加藤がそこから大きなインパクトを受けたことが窺われる。

表現者として、もともとは軽妙でストレートなビート・ポップ、ロックンロールを主戦場とする加藤が、現実のあまりに大きな衝撃を前に、何とかそれを自分のフィールドに取りこもうとするその誠実さ、危機感がこのアルバムの核になっている。当たり前にそこにあると思っていた日常があまりにもあっさりと壊滅してしまう震災の経験は、僕たちの知の枠組そのものを大きく揺さぶったが、加藤はそのことを懸命に音楽に定着しようとした。

しかし、それがポップ・ミュージックとしてしっかり消化され、震災と関係なく聴いても成立し得る質を獲得しているかというと微妙な感は免れない。結局このアルバムでも耳に残るのは『マナーモード』『マネー』などのロックンロールであり、意欲的にマイナーな曲調に取り組んだ『ドミノ トップリング』だったりする。特に歌詞が生硬なものにとどまったのは残念だ。アルバム全体としては今ひとつ焦点が絞りきれず散漫に終わった感。




99匹目のサル
ザ・コレクターズ

コロムビア
COCP-37694 (2013)

■ 喜びの惑星
■ 未来地図
■ プロポーズソング
■ 99匹目のサル
■ 誰にも負けない愛の歌
■ オスカーは誰だ!
■ ドーナツ
■ ごめんよリサ
■ 残像恋人
■ 雨と虹
■ 電気を作ろう!
■ COME ON LET'S GO!
19作目のオリジナル・アルバム。プロデュースは吉田仁。先行発売されたシングル『誰にも負けない愛の歌』『未来地図』を収録。この作品はリリース時にもちろん買ったし聴いたのだが、当時の僕には全然ピンと来なくて、新譜レビューにもタイトルだけ書いたまま結局レビューはしていない。だが、今回このレビューを書くために集中して何度か聴くうちに随分印象が変わった。改めて聴き直せばすごく質の高いポップ・アルバムである。

当時何がよくなかったかといえば、おそらくはタイトル・チューンである『99匹めのサル』があまりに説明的で曲のメッセージも牽強付会、それがチャームとして消化されてなかったということなのではないかと思う。しかし、ポップなシングル曲を筆頭に、疾走感のある『残像恋人』、照れくさいほど率直なラブソング『プロポーズソング』、歌詞とメロディの相性抜群の『オスカーは誰だ!』などソングライティングの水準は圧倒的に高い。

『ごめんよリサ』もコータローの朴訥なボーカルがハマって秀逸だし、『ドーナツ』はアルバムの幅をグッと広げるアコースティック・バラード。だが、何より聴くべきは『ブラウン・シュガー』ばりのリフに乗せてストレートなメッセージが歌われる『電気を作ろう!』。明らかに震災以降の問題意識に立脚したこの曲で、加藤は明快に歌いきることの力を再認識したはず。このアルバムの真価に気づけなかった自分の不明を恥じるばかり。




鳴り止まないラブソング
ザ・コレクターズ

コロムビア
COCP-38591 (2014)

■ Da!Da!!Da!!!
■ ミノホドシラズ
■ 鳴り止まないラブソング
■ 青春ロック
■ 勘違い転じて恋となす
■ 飛び込む男
■ スルー
■ カラカラベイビー
■ 君が思うより
■ 踊る運命線
■ 夜明けのフェリー
■ ボクらの未来を信じる理由
20作目のオリジナル・アルバム。プロデュースは吉田仁。このアルバムの制作前にベーシストの小里誠がバンドを脱退、レコーディングにはその後正式にバンド・メンバーとなる山森正之をサポート・ベーシストに迎えて行われた。『Da!Da!!Da!!!』はNHKのアニメ「おじゃる丸」のタイアップ・ソングとなった(子供受けを意識して歌詞が尻取りになっている)。全体にコータローのギターを前面に出したロック色が強いアルバムになった。

僕がコレクターズを再発見したのは、このアルバムの初回盤に付属しているDVDだ。そのことは当時のレビューに書いているが、まだきちんとした歌詞がつく前のレコーディングでコータローが鳴らすギターのラウドな響きを聴いて、コレクターズの魅力は結局のところこのギターのシンプルな「ジャカジャ〜ン」にあるのだと一瞬で蒙が啓かれた思いだった。僕の第二次自分内コレクターズ・ブームはここから始まったと言っていいくらい。

『Da!Da!!Da!!!』や『スルー』のような疾走感のあるロックンロール、GS調のチープなオルガンが印象的な『カラカラベイビー』、重心の低いブルース・ロックの『ミノホドシラズ』など、どの曲もギターが効いている。特筆すべきは『恋するフォーチュンクッキー』を下敷きにしたと思われる『勘違い転じて恋となす』。ソウル調のグルーヴに乗せたポップな名曲で加藤のソングライターとしての資質を再認識する。充実を感じさせる作品。




言いたいこと 言えないこと
言いそびれたこと

ザ・コレクターズ

コロムビア
COCP-39234 (2015)

■ ガリレオ・ガリレイ
■ 自分探しのうた
■ Tシャツレボリューション
■ 深海魚
■ ガーデニング
■ 家具を選ぼう!
■ 永遠ロマンス
■ 始まりの終わり
■ 劇的妄想恋愛物語
■ SONG FOR FATHER
■ 自分メダル
21作目のオリジナル・アルバム。吉田仁がプロデュースしており、前作ではサポート・メンバーの位置づけだった山森が正式にバンドに加入して初めてのアルバムとなる。また『家具を選ぼう!』ではピチカート・ファイヴの野宮真貴がデュエット・ボーカルで参加している。「サル」以降毎年1枚のペースで新譜を発表し続けており、メンバー・チェンジを経ながらもバンドのコアである加藤と古市のコンビが充実していることを窺わせる。

このアルバムでもコータローのギターを核にしたシンプルでストレートなロックンロールに加藤の気負いのない歌詞がスッと乗って行くスタイルを踏襲、『ガーデニング』『家具を選ぼう!』などもはや何でも歌にできるのではないかと思えるほどだ。『ガーデニング』では初期ビートルズを意識したギター・ソロなどの小技も効き、自然体でやりたいようにやることが、結局いちばんスタイリッシュでカッコいいという境地に近づいている。

アルバムの中心になるのは何といってもポップでありながら硬質なメッセージを含んだ『Tシャツレボリューション』だが、他にも『ガリレオ・ガリレイ』『自分探しのうた』『劇的妄想恋愛物語』などのポップ・ソングから、内省的な『深海魚』、亡くなった父親への思いをストリングスに乗せて歌ったスロー・ナンバー『SONG FOR FATHER』など曲想のレンジは広く、どの曲も完成度は高い。武道館に向けていよいよ離陸したアルバムだ。




Roll Up The Collectors
ザ・コレクターズ

コロムビア
COCP-39781 (2016)

■ 悪の天使と正義の悪魔
■ ロマンチック・プラネット
■ That's Great Future〜近未来の景色〜
■ 希望の舟
■ 東京ダンジョン
■ 恋はテトリアシトリス
■ ノビシロマックス
■ バニシング
■ 舌を結んで
■ Kevin
22作目のオリジナル・アルバム。これまで通り吉田仁がプロデュース。このアルバム制作前にドラムの阿部耕作がバンドを脱退、このアルバムでは古沢岳之がサポート・メンバーとしてレコーディングに参加した(古沢はその後正式メンバーとなった)。翌年3月に武道館を控え、「サル」以降のペースを守り前作から約1年のインターバルでのリリースとなった。また『悪の天使と正義の悪魔』がアニメ「ドラゴンボール超」とのタイアップに。

このアルバムでは歯切れのよいロック・チューンがまず印象的。冒頭の『悪の天使と〜』を初め『ロマンチック・プラネット』『恋はテトリアシトリス』『ノビシロマックス』などステージ映えのしそうなアップ・テンポなナンバーがアルバムの流れを作る一方、『Come Together』を思わせる『That's Great Future』、歌詞が秀逸過ぎる『東京ダンジョン』、さらには『バニシング』『舌を結んで』などのミドル・チューンまで曲調も多彩だ。

全体にコンパクトな曲が多く、最も長いものでも『希望の舟』の5分半。10曲46分はやや物足りない感もあるものの、圧倒的なスピードとソングライティングの巧みさ、そして何よりメンバーの脱退を感じさせないまとまりのあるバンド・サウンドでぐいぐい押してくるところがコレクターズらしい。30周年、そして武道館へと彼らがいい状態を維持していることがよく分かる充実したアルバム。これまでの達成と「ノビシロ」を併せ示した力作。




YOUNG MAN ROCK
ザ・コレクターズ

コロムビア
COCP-40539 (2018)

■ クライム サスペンス
■ ひとりぼっちのアイラブユー
■ サブマリン
■ 限界ライン
■ セントラルステーション
■ ニューヨーク気分
■ 永遠の14歳
■ 泣かないで火星人
■ 恋のホットサマーレシピ
■ 振り返る夜
前作「Roll Up The Collectors」から2年のインターバルでリリースされた、「武道館後」第一作となるオリジナル・アルバム。前作ではサポート・メンバーとして参加していた古沢岳之が正式にバンド・メンバーとして参加した初めてのアルバムとなる。プロデューサーは吉田仁で、一部の曲でキーボードとストリングスを導入しているが、基本的にはギターの鳴りを中心にしたバンド・サウンドのシンプルなプロダクションとなっている。

一聴した印象はやや内省的でおとなしく、アルバムのコアとして中央突破を図って行くような勢いのあるキラー・チューンが見当たらない感は否めない。しかし、何度か聴きこむうちに、16ビートの『クライム・サスペンス』からスロー・バラードの『振り返る夜』まで、GS調の『恋のホットサマーレシピ』からロックンロールの『ひとりぼっちのアイラブユー』まで、多彩な曲をちりばめ丁寧に作られたアルバムであることが分かるだろう。

テーマを探してひねり出した感のある、座りの悪い歌詞が一部の曲に見られるのは気になるし、特に『ニューヨーク気分』みたいに意図が今イチ意味不明で歌詞と曲調が合っていない曲もあるが、全体としては加藤ひさしの汲めど尽きせぬ泉のような作曲能力とツボを抑えた古市コータローのギターのバランスで成り立ったコレクターズ・ワールドが永遠に不滅であることを改めて印象づける。彼ららしい音楽本位、作品本位の誠実な作品だ。




別世界旅行
-A Trip in Any Other World

ザ・コレクターズ

コロムビア
COCP-41339 (2020)

■ お願いマーシー
■ 全部やれ!
■ ダ・ヴィンチ・オペラ
■ 人間は想い出で出来ている
■ さよならソーロング
■ 夢見る回転木馬
■ オートバイ
■ 香港の雨傘
■ 旅立ちの賛歌
■ チェンジ
前作から2年のインターバルでリリースされた通算24作目(当社算定)となるアルバム。長年の盟友であるザ・クロマニヨンズの真島昌利をゲストに迎えた『お願いマーシー』をリード・シングルに、ギターの鳴りがグイグイ引っ張るビート・ポップを燃料にしたポップなアルバムに仕上がった。閉演した遊園地「としまえん」をテーマにした『夢見る回転木馬』や香港の雨傘革命を取り上げた『香港の雨傘』など話題への目配りも抜かりない。

しかしこのアルバムの核になるのはやはり何より先述の『お願いマーシー』だろう。「世界中の街から突然音楽が消えて/踊りたいのにどこへも行けない」というラインは、COVID-19の影響でヴェニューが軒並み閉鎖され、ライブが行えなくなったことを指している。「ぼくの部屋をライブハウスに変えて」とマーシーにお願いする仕立ての曲だが、ここでは音楽をめぐる過酷な状況が加藤ひさしの独特なイディオムでロックに昇華されている。

深刻に沈みこんだり誰かを指さしてつるし上げたりすることなく、ただ平易な歌詞をビートに乗せて歌うだけで僕たちが直面する大きな問題をはっきりと描き出し、それに立ち向かう力が僕たちにあることを改めて思い起こさせる。世界と僕たちの不整合の仲立ちをするというロックンロールの最も基本的な機能を、この曲、このアルバムは果たしているのだ。ザ・コレクターズが信頼できるバンドだということを再確認できる作品。聴くべし。




Juicy Marmalade
ザ・コレクターズ

コロムビア
COCP-41913 (2022)

■ 黄昏スランバー
■ ジューシーマーマレード
■ GOD SPOIL
■ パレードを追いかけて
■ 裸のランチ
■ もっともらえる
■ サンセットピア
■ イエスノーソング
■ 負け犬なんていない
■ 長い影の男
■ アサギマダラ
■ ヒマラヤ
前作からきっちり2年のインターバルでリリースされた通算25枚目のスタジオ・アルバム。この間、コレクターズはデビュー35周年を迎え、2022年3月には二度目となる武道館公演を経てのアルバム・リリースとなった。還暦越えて2年ごとにオリジナル・アルバムを作り続けるのがどれだけすごいことかは彼らに近い年齢の人ならば多かれ少なかれ実感として理解できるはずだと思うが、それをあたりまえのような顔をしてやってるのがエモい。

前作の遠景にあったものがCOVID-19のパンデミックやそれによる音楽の危機であったのだとすれば、本作では『GOD SPOIL』に見られるとおりロシアのウクライナ侵攻が下敷きになっている。しかしアルバム自体のトーンは重苦しくはなく、先行シングルである『裸のランチ』『ヒマラヤ』も含め、バランスの取れたポップなビート・ロック志向の作品に仕上がった。ブライトンのパレス・ピアをモチーフにした『サンセットピア』が泣かせる。

ここには目を見張るような音楽的イノベーションはない。時代の最先端といえるような機材も使われてはいない。ここにあるのはコータローのギターの鳴り一発、加藤のカツカツのシャウトで構成されたオレたちの日常の臨界点であり、それは彼らが1980年代半ばに活動を始めてからいささかも変わっていない。彼らが幻のパレードを追いかけて長い旅を始めてから。そしてパレードはどこまでも続いて行く。オレたちはそれを追いかけて行く。



Copyright Reserved
2005-2022 Silverboy & Co.
e-Mail address : silverboy@silverboy.com