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SQUALL (1980)
SQUALL

★★
デビュー曲「裸足の季節」、出世作「青い珊瑚礁」をフィーチャーし、サマー・リゾートをモチーフに製作されたデビュー・アルバムである。収録曲はすべて三浦徳子作詞、小田裕一郎作曲で、アレンジは信田かずお、大村雅朗、松井忠重が担当している。内容的には良くも悪くもアイドル・ポップスであり、シングル曲とそれ以外の間には大きな落差がある。もちろん小田裕一郎のプロとしての仕事と信田、大村の手堅いアレンジで一応の水準はクリアしているものの、取り立てて評価すべきものは見当たらないと言えよう。

その中で光るのはシングルとなった2曲である。特に大ヒットしこの年の新人賞を総なめにする原動力になった「青い珊瑚礁」は今聴いても素晴らしい。予感を秘めたピアノのイントロからストリングスが駆け上がりいきなりサビからの歌い出しとなる導入部、ハネたリズムを背景に抑制を利かせて引っ張るAメロ、サビへと加速するBメロ、少ない音符で歌いきるサビのメロディの洗練と爽快感、「あの島へ」の手前での効果的なブレイク、どれもこれもポップスとして計算され尽くした完璧な構成でありアレンジと言う他ない。

しかし、この曲の本当のツボはBメロからサビに入る直前の「あなたが好き」だと思う。ややハスキーな声でつぶやくように歌われるこのワン・フレーズが生身の彼女の存在を際だたせているのだ。一本調子になりがちなこの時期の彼女のボーカルの中でこの箇所だけはまるで聞いてはいけないものを聞いてしまったような不用意さがあり、それがなまめかしさとなってこの曲を決定づけているのだと思う。張りのある若い声が初々しいが、アルバムとしての出来はアイドルのファースト・アルバム以上でも以下でもない。


North Wind (1980)
North Wind

★★☆
前作からわずか4ヶ月のインターバルでリリースされたセカンド・アルバム。前作がサマー・リゾートをモチーフにしていたのに対し本作はタイトルどおりウィンター・アルバム。これ以降松田聖子のアルバムは夏と冬に1枚ずつのペースを守ってリリースされて行くことになる。このアルバムでも前作に続き三浦徳子と小田裕一郎のコンビが作詞・作曲を手がけ(「Eighteen」のみ平尾昌晃作曲)、アレンジも前作同様信田かずおと大村雅朗が担当している。シングル曲は「風は秋色」とカップリングの「Eighteen」(両A面)。

「風は秋色」で初めて松田はシングル・チャートの1位を獲得した訳だが、この曲は聴いた方が恥ずかしくなるくらい「青い珊瑚礁」そのままの作り。もちろん「青い珊瑚礁」での成功を得た地歩を確実に固めたいという戦略の賜物に他ならない訳だが、当時この曲を聴いた僕は相当げっそりしたのを覚えている。中学3年生の冬のことだった。しかし、「青い珊瑚礁」の出来のよくない焼き直しに過ぎない「風は秋色」しか核となるシングル曲のないこの急造のアルバムを救ったのは大村雅朗のアレンジだったと言っていい。

特にオープニングに置かれた「白い恋人」のブレイクで挿入されるアコースティック・ギターのストロークは素晴らしい。大村独特の歯切れのよいアレンジが小田のメロディをしっかりと支えている。「ウィンター・ガーデン」も饒舌なストリングス・アレンジが躍動感を演出する完成度の高い出来。松田のボーカルでは「冬のアルバム」でのハスキーな発声が目新しい。この時期の松田は決して歌が上手いとはいえなかったと思うが、少しずつ表現の幅は広がりつつあった。アイドル・アルバムの枠は出ないが質は向上した。


Silhouette (1981)
Silhouette

★★☆
前作までのアイドル歌謡路線からアーティスト路線へ移行する過渡期となった第3作である。既に81年の1月には4枚目のシングルとしてチューリップの財津和夫を作曲に起用した「チェリーブラッサム」をリリースし、「青い珊瑚礁」から次のステップへの脱皮を指向していた訳だが、それに続く「夏の扉」も合わせ、このアルバムでは財津作曲のナンバーが5曲収められ、小田裕一郎が実質的にすべての作曲を手がけていた前作から一歩を踏み出そうという意図が一層はっきりと表れている(残り5曲は小田によるもの)。

とはいえ、財津の感傷的で明快さを欠くメロディがこの年齢の女性の歌として、あるいは松田聖子のボーカルを生かしきる楽曲として必ずしも成功しているとは言い難い。「チェリーブラッサム」は意味もなくメロディが暗く、タイトルとは裏腹に冬から春への季節の胎動や明るく広がって行く希望のようなモメントを表現するのに失敗している。「夏の扉」も曲の構造に工夫がまったく見られず、「フレッシュ…」で駆け上がるサビもその後の展開がなくシングルとしては抜けが悪すぎて、「珊瑚礁」には遠く及ばない。

「白い貝のブローチ」や「Sailing」、「あ・な・たの手紙」といったアルバム曲ではそれなりのクォリティを見せる財津の楽曲がシングルでは致命的に暗く聞こえるのは、この人の持つ資質が所詮はミニマルな曲向けのフォーク的なものであることを示しており、「離陸期」にあった聖子に財津を起用したのは失敗だったと思う。本作では核となるシングル曲が今ひとつであるためにアルバム全体が意図のはっきりしない中途半端なものに終わっている。このアルバムで松本隆が初めて作詞に起用された(「白い貝のブローチ」)。


風立ちぬ (1981)
風立ちぬ

★★★☆
A面5曲を大瀧詠一に委ねた第4作。当時の大瀧は名作「ロング・バケーション」をリリースして半年、精力的に作曲家、プロデューサーとしての活動を行っている時期だった。独特のウォール・オブ・サウンド、大陸的で展開の大きなメロディ、ここで見られる大瀧のプロデュースは「ロング〜」から「ナイアガラ・トライアングルVol.2」を経て「イーチ・タイム」に至る彼自身のキャリアの中でも重要なものだと思うが、それは同時に松田聖子というシンガーの開花をも媒介した。ここでの松田は確実に成長をとげている。

本作に顕著なのは、もはや歌詞に意味がなくても、その声だけで楽曲をドライブできる圧倒的なボーカルの力である。前作までの一本調子な声の張り上げとはまったく違う「息」の存在感は際だっている。全曲の作詞を手がけている松本隆の貢献も大きい。三浦徳子のいかにもアイドル然とした甘い歌詞から、旧知の大瀧とタッグを組んだ松本のファンタジックな世界への移行はこの先の松田の路線を決定づけて行く。松本の歌詞には時として出来不出来の差が大きいが、本作では19歳という微妙な時期の松田にフィットしている。

もう一つ注目すべきなのはB面の4曲を編曲している鈴木茂の起用だろう(「黄昏はオレンジライム」では作曲も担当)。大瀧、松本、鈴木といえばはっぴいえんど。細野晴臣のベースこそないが、このアルバムで松田の音楽的な方向性ははっきりしたと言っていいだろう。もう一人作曲に起用された杉真理は後に大瀧と「ナイアガラ・トライアングルVol.2」を制作することになるポップ・メイカー。次作から大きな役割を果たす松任谷由実、正隆夫妻を含め、ここで松田は日本のポップスの王道に連なることになったのだ。


Pineapple (1982)
Pineapple

★★★★
大瀧詠一にプロデュースを委ねた前作に続き、松任谷由実(呉田軽穂)を起用したことでキャリアに残る第5作。シングルは「渚のバルコニー」と「赤いスイートピー」を収録しているが、いずれも松任谷由実の作品でアレンジは松任谷正隆。代表曲にあげられることも多い「赤い〜」は微妙な距離感の恋人たちのワンシーンを切り取る松本隆の歌詞に、せつなくても決してウェットにならない松任谷由実のメロディ、抑制の効いた松任谷正隆のアレンジと、これ以上はないくらい完成度の高いポップ・チューンに仕上がっている。

他にも天性のポップ・センスで秀逸な楽曲を聞かせる原田真二、手堅い曲想でオーソドックスな作風の来生たかおなど、はずれのない、しかしそれでいて職業作曲家とは違ったアーティスティックな作曲家を起用した結果、全体として非常に洗練された雰囲気のサマー・アルバムとなった。アレンジャーとして5曲を任された大村雅朗の仕事も見逃せない。特に島村英二のキレのいいドラムをフィーチャーした「P・R・E・S・E・N・T」やビートルズを意識した「ピンクのスクーター」などはシングルでもおかしくないポップな編曲だ。

しかし何よりも素晴らしいのは、こうした楽曲を完全に歌いこなす松田聖子の進境著しいボーカルだ。前作ではデビュー期の単調なボーカルからの成長を見せたが、本作での松田は個々の曲のニュアンスを絶妙の強弱で歌い分けている。声そのものの魅力と舌足らずな発音という、僕たちが松田聖子と聞いて思い浮かべるボーカルは、本作で最初の完成を見たと言っていいだろう。そうした松田自身の成長にぴったりと寄り添った松本隆の歌詞も相まって、本作はシンガーとしての松田聖子のデビュー・アルバムとなったのだ。


Candy (1982)
Candy

★★★☆
松田聖子はデビュー以来最初の結婚まで毎年夏と冬に1枚ずつオリジナル・アルバムをリリースするパターンを守ったが、本作はその意味では82年の「冬」編。作曲には既に実績のある財津和夫、大瀧詠一の他、このアルバムで初めて南佳孝と細野晴臣を起用している(アレンジャーの大村雅朗も1曲提供)。もっともこのアルバムには前作発売後にリリースされたシングル「小麦色のマーメイド」が収録されておらず、松任谷由実作品は1曲もない。季節感の問題かもしれないが、よくできたシングル曲だっただけに残念だ。

「小麦色の〜」をオミットしたためシングル曲は財津作曲の「野バラのエチュード」だけになった。アルバム全体が秋から冬に向かうイメージで制作されているため、全体にアレンジは落ち着いたトーンになっている。「ブルージュの鐘」は一人旅でブルージュを訪ねた女性の視点から歌われる曲だが、当時高校生だった僕はブルージュがどこにあるどんな街かも知らず、この妙に大仰でヨーロピアンな「お姉さま感」には松田のキャラクターからしても大きな異和感があった。舞台設定とアレンジの失敗と言わざるを得ない。

大瀧の手がけた「四月のラブレター」と「Rock'n'roll Good-bye」も、アルバム「風立ちぬ」収録の各曲と比べると明らかにパターン化が見られる。全般にこのアルバムでは大村のアレンジに本来の切れのよさがなく、事大主義に陥っている感があるのだが、それを救っているのは他ならぬ松田のボーカルで、大瀧、細野、南といったクセの強い作家の曲を自在に歌いこなす歌唱力は進境著しい。声質も前作辺りからややハスキーに変わりつつあり、「声」に明快なキャラクターが出てきた。アルバムの抜けが悪いのが惜しまれる。


ユートピア (1983)
ユートピア

★★★★☆
早くも円熟の境地に達しつつある第7作。作家にはこれまでの杉真理、来生たかお、財津和夫、細野晴臣、松任谷由実に加え、甲斐バンドの甲斐よしひろ、上田知華を新たに起用し幅を広げている。アレンジは大村雅朗が半分を手がけているが、細野が次作を、松任谷正隆が松任谷由実の作品を自らアレンジ、さらには瀬尾一三が3曲を担当している。「夏物」らしい開放的な空気をベースにしながら、「セイシェルの夕陽」や「赤い靴のバレリーナ」で緩急も自在なアルバム全体のドライブ感はひとつの頂点だと言っていい。

シングル曲としては細野の「天国のキッス」と松任谷の「秘密の花園」。「天国の〜」は実際のところかなり純粋なテクノ・ポップであるが(シングルでカップリングの「わがままな片想い」はそれ以上にテクノだが)、松田が歌うだけで強引にガール・ポップになってしまうところがこの時期の彼女のボーカルの吸引力だろう。「秘密の花園」の松任谷正隆による奥行きのあるアレンジも素晴らしい。ストリングスのピチカートで始まる上品なイントロからのめくるめく展開は、ポップスの新しいスタンダードを示すものだ。

杉の「ピーチ・シャーベット」、来生の「マイアミ午前5時」、甲斐の「ハートをRock」もそれぞれポップスの定石を踏まえながら松田のボーカルの陽性な面を引き出しており高く評価されるべき曲。「マイアミ〜」のクラシック並みに厳しく上下するサビの旋律を軽々と歌いこなす松田の歌唱力は特筆に値するし、「メディテーション」でのAメロでは既に余裕や貫禄すら感じさせる。年齢不相応に落ち着いた世界を演出しようとした前作の失敗に比べ、本作は松田の自然な魅力を優れた楽曲の力で開花させた名作である。


Canary (1983)
Canary

★★★☆
1983年冬編となる第8作。新たに林哲司、井上鑑を作曲家の布陣に加えた他、松田聖子自身の作曲によるタイトル曲を収録。それ以外の作家は大村雅朗、松任谷由実、来生たかお。アレンジは大村が5曲、井上が3曲を手がけ、松任谷由実の手になるシングル2曲は松任谷正隆が担当している。シングル曲は両A面でリリースされた「瞳はダイアモンド」と「蒼いフォトグラフ」の2曲で、同年8月にリリースされた「ガラスの林檎」とそのカップリング(CMで話題になり後に両A面に変更)「SWEET MEMORIES」は収録されていない。

作曲家もアレンジャーもそれぞれの仕事を手堅くこなしている。松田のボーカルもニュアンスの難しい曲まで的確に歌いこなしている。それなのにこのアルバムにどこか漂うとりつく島のなさ、冷たい表情はいったい何なのだろう。隙のない、敷居の高い印象はどこから来るのだろう。ひとつには申し合わせたようにそれぞれのアレンジャーがブラス(一部シンセ)を導入した派手めの編曲のせいもあるだろう。一方で「Misty」や「Wing」、「Silvery Moonlight」のような大仰な曲がアルバムの流れを阻害したこともあるだろう。

しかし、いちばんの問題は、逆説的ではあるが各曲の作り込みの深度、完成度の高さではないだろうか。象徴的なのは、松田自身の作曲による「Canary」の、いかにも財津和夫的で無防備なメロディが最もストレートに耳に入ってくることだ。逆に言えばそれ以外の曲のプロっぽさが松田のボーカルの最良の部分を殺してしまっているように思えてならないのだ。考えてみれば林、来生、井上らはアーティストというよりプロの作曲家。「蒼いフォトグラフ」も巷間の人気は高いが僕には正直入れ込めなかった。困難なアルバムだ。


Tinker Bell (1984)
Tinker Bell

★★★★☆
「真っ赤なロードスター」のエンジン音から始まる1984年リリースの第9作(僕が後年ロードスターを買ったときに赤にしたのはこの曲のせいだ)。作曲は林哲司、南佳孝、松任谷由実、大村雅朗といった顔ぶれに加え、このアルバムで初めて尾崎亜美を起用。またアレンジは大村、松任谷正隆の他、船山基紀が手がけている。シングル曲としてはいずれも松任谷由実作品となる「時間の国のアリス」と「Rock'n Rouge」の2曲を収録。印象としてはオーソドックスで分かりやすいアイドル・ポップスに回帰したアルバムである。

タイトル通りファンタジックな夢の世界をモチーフにしており、サマー・リゾートをイメージしていたそれまでの「夏もの」アルバムとは少しばかり趣を異にする。楽曲はそれぞれ完成度が高く、曲毎のキャラクターもはっきりしていて、アルバム全体として明快な流れを持っている。「いそしぎの島」をはさんだLP盤A面、SFポップスの「AQUERIUS」からワルツの「不思議な少年」でクールダウンし、シングル曲「Rock'n Rouge」、バラードの「Sleeping Beauty」まで一気に聴かせるB面とも、これ以外にはない展開だろう。

尾崎の「いそしぎ〜」での曲想や、ブレスまで曲の一部として聴かせてしまう「時間の国〜」での松田のボーカルも素晴らしいが、このアルバムの最大のヤマはやはりラストの「Sleeping〜」だろう。ビーチで眠ったふりをしている自分にそっと口づける恋人との一瞬と、過去の恋の痛手で臆病になっていた自分の心情を「眠れる美女」のモチーフを借りながら写し絵のように描き切り、それをこの時期の松田の女性としての成長にも重ね合わせた松本隆の詞が圧巻。通常より少ない9曲収録だが捨て曲がなく傑作と言っていい。


Windy Shadow (1984)
Windy Shadow

★★★★
シングル「ハートのイアリング」と「ピンクのモーツァルト」の2曲をフィーチャーした10枚目のオリジナル・アルバム。作家には大村雅朗、杉真理、林哲司、細野晴臣に加えて佐野元春、矢野顕子、NOBODYを新たに起用。また松田聖子自身も「Canary」に続いて自作を披露している。アレンジは引き続き大村を中心にしながら、一部を戸塚修、船山基紀が担当、細野作曲の「ピンクの〜」は細野自身と松任谷正隆が編曲している。これまで数多くのシングルを手がけてきた松任谷由実からはこのアルバムでは提供曲はない。

全体としてはエレクトリックなアレンジが印象に残る。「冬もの」ではあるが曲想は明るいアップテンポのポップスが中心で軽快なアルバムに仕上がっている。「ハートの〜」は佐野の作品として必ずしも会心の出来という訳ではなく、大村によって「SOMEDAY」を意識したアレンジにされてしまっている感もあるが、佐野らしい素直なメロディで人気は高いようだ。細野の「ピンクの〜」は松本の詞がほとんどナンセンスで曲調も野心的な問題作だが、この頃の松田にはもはや何でも歌ってヒットさせてしまう力があった。

プロポーズをモチーフにした「そよ風のフェイント」は矢野の手になる曲でメロディラインは複雑で微妙な起伏を繰り返すが、それを松田は涼しげに歌いきる。朝起きると見知らぬ男性がベッドで眠っていたと歌う「マンハッタンでブレックファスト」もアイドルとしてはかなり大胆な曲だが、それすらチャーミングに歌いこなしてしまうところに松田のキャラクターの自然な成長が表れているようだ。ラストに置かれた「Star」は少しばかり大仰で共感しにくいが、優秀な作家によるポップスが詰まったよくできたアルバム。


The 9th Wave (1985)
The 9th Wave

★★★☆
神田正輝との結婚前に発表した通算11枚目となる最後のオリジナル・アルバム。作曲には原田真二、大村雅朗、尾崎亜美、矢野顕子、甲斐よしひろ、杉真理、大貫妙子を起用しているが、特筆しなければならないのは作詞から松本隆が外れ、銀色夏生、吉田美奈子、尾崎亜美、矢野顕子、来生えつこといった女性が担当していること。結婚を間近に控え、松田聖子の「女性」としての一面を強調するための「仕掛け」に他ならないが、松本の描く松田聖子像になじんだファンには大きなショックだった。編曲は全曲大村である。

シングル曲としてはともに尾崎作の「ボーイの季節」と「天使のウィンク」を収録。他にも原田の「Vacancy」、甲斐による「す・ず・し・い・あ・な・た」や杉の「さざなみウェディングロード」など軽快なナンバーはあるものの、矢野の「両手のなかの海」や大貫の「ティーン・エイジ」は楽曲としても難易度の高いやや内省的な出来で、ポップスとして素直に楽しみにくいのが残念である。また、松武秀樹によるシンセサイザーがいかにも時代を感じさせる部分もあり、今日の耳にはやや聴きづらい仕上がりとなっている。

詞の面では「す・ず・し・い〜」での銀色の仕事が素晴らしい。しゃくり上げるようなブレスまでを聴かせるボーカルも効果的で、このアルバムでのベスト・トラックに挙げられる。アルバム全体としてはアーティスティックに流れたために、アイドル・ポップスとして最も重要な「分かりやすさ」が損なわれてしまった印象が強い。本人やスタッフたちはもはやアイドルでない松田聖子の歌を聴かせたかったのだと思うが、日本のポップスの歴史を踏まえながらエンターテイメントに収束する前作までの手法は失われてしまった。




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