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MY AIM IS TRUE
Elvis Costello

Stiff
1977

■ Welcom To The Working Week
■ Miracle Man
■ No Dancing
■ Blame It On Cain
■ Alison
■ Sneaky Feelings
■ (The Angels Wanna Wear My) Red Shoes
■ Less Than Zero
■ Mystery Dance
■ Pay It Back
■ I'm Not Angry
■ Waiting For The End Of The World
ニック・ロウをプロデューサーに迎えて製作されたデビュー・アルバム。バックはヒューイ・ルイスらが在籍したアメリカのバンド、ザ・クローヴァーだが、当時彼らはイギリスでパブ・サーキットをこなしていたということで、アルバム全体のトーンはオーソドックスなパブ・ロックよりの仕上がりになっている。パブ・ロックといえばパブでくだを巻いているオヤジに聴かせるための達者で世慣れたロックンロールであり、このアルバムのそうした意匠は、コステロ=パブ・ロックというパブリック・イメージの源ともなった。

しかし、このアルバムをよく聴いてみれば、コステロは決してパブで飲んだくれたオヤジを相手に懐メロのロックを何度も繰り返すだけのアーティストではないということがすぐに分かるはずだ。まず明らかなことはコステロのソング・ライティングの確かさだ。代表曲として長く歌い続けられることになるバラード「アリスン」からロックンロール・チューンの「ミステリー・ダンス」まで、表情豊かな物語を次々に紡ぎ出し、フックの利いたフレージングとメロディで一曲一曲を明確に印象づける力量は並みの新人ではない。

だが、それ以上にコステロの存在を単純なパブ・ロックから「はみ出した」ものにしているのは、その所期衝動や情動の質であり、熱量の豊かさだ。考えてみて欲しいのだが、77年といえばピストルズやクラッシュやジャムがデビュー・アルバムをリリースした年だ。コステロはロック音楽のルーツに忠実であり、ボーカルも含めて音楽的な才能があったために、パンクとは一線を画した形になっているが、ギターを手に歌い出したそのやむにやまれぬ気持ちはパンクスと同種のものではなかったか。パブ・ロックを超えた一枚。




THIS YEAR'S MODEL
Elvis Costello & The Attractions

Rader
1978

■ No Action
■ This Year's Girl
■ The Beat
■ Pump It Up
■ Little Triggers
■ You Belong To Me
■ Hand In Hand
■ (I Don't Want To Go To) Chelsea
■ Lip Service
■ Living In Paradise
■ Lipstick Vogue
■ Night Rally
初めて買ったコステロのアルバムは「KING OF AMERICA」だったが、その後、旧譜を遡ろうとレコード屋に出かけて手にしたのがこのアルバムだった。前作に続きニック・ロウをプロデューサーに迎えたが、異なるのは自らのバックバンド、ジ・アトラクションズを従えての製作だということだ。アルバムのクレジットもエルビス・コステロ&ジ・アトラクションズとなっている。変態キーボードのスティーブ・ナイーブ、ブルース・トーマスの歌うベース、そして何より切れまくるピート・トーマスのドラム、アトラクションズだ。

当時いたいけな大学生だった僕は一発でこのビートとスピードと闇雲なエネルギーにあふれたアルバムにやられてしまった。ライブでの定番となった「パンプ・イット・アップ」に特徴的に見られる、ロックンロールとリズム&ブルースの定型的なフォーマットを基礎にしながらコンテンポラリーなスピード感を盛りこむやり方はこのアルバムの最大の達成だろう。コステロの書く曲の本質的なクオリティは変わっていないが、アトラクションズの歯切れのいい演奏でアルバム全体の印象はよりシャープでソリッドなものとなった。

前作はいかにももったりしたパブ・ロック調のサウンド・プロダクションであったが、このアルバムでアトラクションズという後ろ盾を得て、コステロはようやく自分の中の感覚と同じスピードで走ってくれるバンドとともに演奏をすることができるようになったと言えるだろう。そのおかげでマージー・ビート、ブリティッシュ・ポップの最良の部分を受け継いだような軽妙なポップ・ソングである「リップ・サーヴィス」のような曲も違和感なく収まる場所を見つけることができた。聞き飽きることのない恐るべきセカンド。




ARMED FORCES
Elvis Costello & The Attractions

Rader
1979

■ Accidents Will Happen
■ Senior Service
■ Oliver's Army
■ Big Boys
■ Green Shirt
■ Party Girl
■ Goon Squad
■ Busy Bodies
■ Sunday's Best
■ Moods For Moderns
■ Chemistry Class
■ Two Little Hitlers
引き続きニック・ロウのプロデュースの下、アトラクションズとともに製作されたサード・アルバム。荒々しい象の群れが突進してくるジャケットと「武装勢力」というタイトル、このアルバムでは全体としてイギリス社会に対するシニカルなプロテストの姿勢が色濃いと言われる。とはいえ僕は英語がよく分からないので歌詞を子細に検討した訳でもなく(だいたいコステロの歌詞は分かりにくい)、ボーカルも音楽の一部として聴いているだけで、その限りでは本作も前作の流れを受け継いだ完成度の高いロック・アルバムだ。

変化した点を挙げるなら、まず、前作でのベーシックなロックンロール、リズム&ブルースのフォーマットに則った曲作りから大きな進歩を見せた曲想の豊かさだろう。軽妙なポップ・ソングでスマッシュ・ヒットとなった「オリヴァーズ・アーミー」からブギー調の「グーン・スクォッド」、ワルツの「サンデイズ・ベスト」まで、曲作りはより丹念になり表現の幅はさらに広がっている。コステロのアングリー・ヤング・マン的な側面はおそらく歌詞の面での深化に向かい、音楽的には随分ポップに整理された印象を与える。

このコステロの成長を支えているのがアトラクションズの演奏、中でもスティーブ・ナイーブのキーボードだろう。フォー・ピース、しかもギターはボーカルのコステロが弾いているというバンド構成で、正統的なピアノ・プレイからコミカルなオルガンまでをこなしてこれだけの広がりをバックアップするスティーブ・ナイーブは、長くコステロを支えるパートナーとなって行く。全体としては「オリヴァーズ〜」を中心として緩急を効かせた良質な作品だが、その分、前作の勢いは削がれ、ややおとなしいアルバムとなった。




GET HAPPY!!
Elvis Costello & The Attractions

F-Beat
1980

■ Love For Tender
■ Opportunity
■ The Imposter
■ Secondary Modern
■ King Horse
■ Possession
■ Man Called Uncle
■ Clowntime Is Over
■ New Amsterdam
■ High Fidelity
■ I Can't Stand Up For Falling Down
■ Black & White World
■ Five Gears In Reverse
■ B Movie
■ Motel Matches
■ Human Touch
■ Beaten To The Punch
■ Temptation
■ I Stand Accused
■ Riot Act
ニック・ロウのプロデュースによる4作目のアルバムである。曲作りに深化を見せた前作から一転、今作ではモータウンやスタックスのソウル、リズム&ブルースを下敷きにしたコンパクトなポップ・ソングを20曲も詰めこんだパーティ・アルバムとなった。サム&デイヴのカバーである「アイ・キャント・スタンド・アップ・フォー・フォーリング・ダウン」をはじめ、フックの利いた3分弱のビート・ポップがこれでもかと繰り出されるこのアルバムは、コステロの所期の作品の中でも傑出したできを誇る快作と言っていい。

コステロはもともとロックンロール、リズム&ブルースからカントリー、ブルーグラスといったアメリカの音楽に深い影響を受けたアーティストである。この先コステロは何度もアメリカのルーツ・ミュージックにアプローチすることとなるが、本作はその最初の試みということもできるだろう。アルバム・ジャケットに刷り込まれた白い輪は、かつてのアナログ・レコードを何度もラックから出し入れする際にレーベル部分が擦過して生じる跡を意図的に模したものだが、ここにもコステロのルーツに対する愛情が現れている。

おそらく彼のレコード・ラックにはこんなふうにレーベル部分が白くこすれてしまったアルバムが何枚もあるのだろう。このアルバムは彼自身がそうして敬愛するルーツ音楽に対するオマージュであり、自分がそうした音楽の系譜に連なる者であることの明確なステートメントである。そしてそれを明快なポップ・アルバムとして結実させたところに、コステロというアーティストの資質と、彼がそうしたルーツ音楽から何を学び、何を自分の音楽として表現したいのかという意志を見る思いがするのである。代表作のひとつだ。




TRUST
Elvis Costello & The Attractions

F-Beat
1981

■ Clubland
■ Lovers Walk
■ You'll Never Be A Man
■ Pretty Words
■ Strict Time
■ Luxembourg
■ Watch Your Step
■ New Lace Sleeves
■ From A Whisper To A Scream
■ Different Finger
■ White Knuckles
■ Shot With His Own Gun
■ Fish'N'Chip Paper
■ Big Sister's Clothes
引き続きニック・ロウのプロデュースによる第5作。モータウン、スタックスなどのR&Bを下敷きにしたビート・ポップを20曲詰めこんだ前作から一転、ここではゆったりとしたミドル・テンポを基調にしてバラエティに富んだ曲をじっくり聞かせるシンガー・ソングライター的なスタイルのアルバムとなった。アトラクションズの演奏もスティーブ・ナイーヴのキーボード、中でもピアノを大きくフィーチャーしており、全体に大人っぽい、メロウな印象の作品に仕上がっている。ジャケットもまるで映画のサントラのようだ。

シックなミドル・テンポの「クラブランド」からセカンドライン的な作りの「ストリクト・タイム」、ロカビリーの「ルクセンブルグ」、スクイーズのグレン・ティルブルックをゲスト・ボーカルに迎えたアップ・テンポな「フロム・ア・ウィスパー・トゥ・ア・スクリーム」、カントリー調の「ディファレント・フィンガー」、ピアノだけをバックに歌い上げる「ショット・ウィズ・ヒズ・オウン・ガン」まで、曲調はまるでショウ・ケースのように千変万化であり、アトラクションズのシュアな演奏がそれを支えている。

だが、ここで最も注目されなければならないのはコステロのソングライティングの飛躍的な成長だろう。既に前々作でこうした多彩な曲想への広がりを垣間見せていたが、本作ではひとつひとつの曲の骨格がさらにしっかりと作られ、アルバム全体としての音楽的な底上げが行われている印象がある。コステロの書くメロディは実際にはかなりクセがあり、コードも意外な展開をしたりするが、それをフックにしつつボーカルの力も借りて全体として印象に残る曲にまとめ上げる力はここで最初の頂点に達したと言っていい。




ALMOST BLUE
Elvis Costello & The Attractions

F-Beat
1981

■ Why Don't You Love Me (Like You Used To Do)
■ Sweet Dreams
■ Success
■ I'm Your Toy
■ Tonight The Bottle Let Me Down
■ Brown To Blue
■ Good Year For The Roses
■ Sittin' And Thinkin'
■ Colour Of The Blues
■ Too Far Gone
■ Honey Hush
■ How Much I Lied
エルビス・コステロという人は時折こちらの想定外の音楽を作って誠実なロック・ファンを困らせる性癖のある人である。本作はナッシュビルに渡りビリー・シェリルのプロデュースで製作した全曲カントリーのカバー・アルバム。オリジナル・アルバムとしてカウントすれば6枚目の作品になる。正直言ってカントリーにさほど興味がある訳ではなく、特に造詣も深くない僕にとって、このアルバムをコンテンポラリーなカントリー音楽の中にうまく位置づけることはできないし本歌について本格的に解説することもできない。

だが、幸いなことにこのアルバムはそんなことを知らなくても、他ならぬエルビス・コステロの作品として十分楽しめる。大学生の頃の僕はカバー・アルバムだなんて知識もないままこのアルバムを他の作品とまったく同列に「コステロのアルバム」として聴いていたのだ。カントリー・アルバムだなんて意識もしなかった。もちろん今聴けばこれは紛れもないカントリーではあるが、それ以上にこれはアトラクションズが演奏しコステロが歌う、エルビス・コステロの作品だ。この声が流れ出した途端、僕たちはその事実を知る。

それはエルビス・コステロの中にこうしたカントリーがもはや彼の音楽の一部として息づいており、彼自身が作り出す曲との境目すら分からないくらい彼自身の血肉と化しているということだろう。前作でソングライティングにひとつの完成を見たコステロが、もう一枚同じようなアルバムを作らず、わざわざ渡米してカントリーのカバー・アルバムを製作したのは、ルーツに向かい合うことで自分の創作意欲の源を確認するためだったのだろうが、そんな背景情報も不要なほどむしろコステロの表現の強さが際立つアルバムだ。




IMPERIAL BEDROOM
Elvis Costello

F-Beat
1982

■ Beyond Belief
■ Tears Before Bedtime
■ Shabby Doll
■ The Long Honeymoon
■ Man Out Of Time
■ .....And In Every Home
■ The Loved Ones
■ Human Hands
■ Kid About It
■ Little Savage
■ Boy With A Problem
■ Pidgin English
■ You Little Fool
■ Town Cryer
カントリーのカバー・アルバムだった前作でデビュー以来初めてニック・ロウの元を離れたコステロが、今度はジェフ・エメリックをプロデューサーに迎えて製作した7枚目のオリジナル・アルバムである。ジェフ・エメリックといえば中期以降のビートルズを支えたエンジニアであり、自他共に認めるビートルズ・フリークのコステロがアメリカでのルーツ探訪から戻って、満を持してブリティッシュ・ポップの最良質の部分にまっすぐ切りこんだアルバムだということができるだろう。バンドは引き続きアトラクションズ。

コステロらしい特徴ある節回しを核にしたメロウなミドルの曲が中心で、アップ・テンポなジャンプ・ナンバーは一曲もなく、屈折した影のある曲調のナンバーが多い。「サージェント・ペパーズ」的なオーケストラを導入した「アンド・イン・エヴリー・ホーム」に顕著に見られるようなアレンジとプロデュースの妙でアルバム1枚をドライブして行く力量はさすがだし、もちろんどの曲も明確な構造と印象的なフックを持っているが、一点突破を図るようなキラー・チューンはなく、その分地味な印象の作品となった。

アーティスト・エゴの表出は前作で思う存分果たしたということなのだろうか、ここではウェル・プロデュースされたブリティッシュ・ポップに仕上がっており、その限りでジェフ・エメリックの起用は正しかったといえるのかもしれない。しかしアルバム全体としては良くも悪くも80年代中葉的な混沌に飲みこまれつつあるように思われる。表現に向かう衝動の直接性が見出し難いアルバムであり、ロックと呼ぶにはあまりにもすっきりしない作品だといわざるを得ない。残念ながら僕としてはあまり高く買うことができない。




PUNCH THE CLOCK
Elvis Costello & The Attractions

F-Beat
1983

■ Let Them All Talk
■ Everyday I Write The Book
■ The Greatest Thing
■ The Element Within Her
■ Love Went Mad
■ Shipbuilding
■ TKO (Boxing Day)
■ Charm School
■ The Invisible Man
■ Mouth Almighty
■ King Of Thieves
■ Pills And Soap
■ The World And His Wife
クライヴ・ランガーとアラン・ウィンスタンレーのチームをプロデューサーに迎え、ブラス・セクションを全面的にフィーチャーしてリリースされた通算8枚目のオリジナル・アルバム。バッキングはアトラクションズ。華々しいブラスの響きが意表を突く「レット・ゼム・オール・トーク」で幕を開けるこのアルバムは、コステロ起死回生の一打だと言っていいだろう。全般にアップ・テンポで歯切れのいい曲が多いが、アレンジにはメリハリが効いており、沈みがちだった前作のトーンからは想像もできない華やかさである。

また、シングル・ヒットとなった「エブリデイ・アイ・ライト・ザ・ブック」や、ロバート・ワイアットに提供して話題になった「シップビルディング」(チェット・ベイカーがトランペットで参加)など、ミドルの曲やバラードも絶妙に配しており、アルバム全体の構成にも手抜かりはない。ランガー&ウィンスタンレーの面目躍如である。前々作から曇りがちだったコステロ本来の情動性のようなものをストレートに出しながらも、アレンジは洗練されトータルに高い完成度を誇るこの時期の代表作と言っていいだろう。

本作は、ベーシックなロックンロールからキャリアをスタートしたコステロが、曲折や試行錯誤を経ながらたどり着いた新しいステージであり、現在のコステロの作品にも直接つながる広がりと深みを持った作品だということができる。全体としてはソウル、リズム&ブルースの影響を強く感じさせるが、アルバム「ゲット・ハッピー」とは異なりそうした影響も自身のアップ・トゥ・デイトな音楽表現の中に昇華されている。この後発表されて行くコステロの作品のひとつのプロトタイプでありベンチマークとなった作品。




GOODBYE CRUEL WORLD
Elvis Costello & The Attractions

F-Beat
1984

■ The Only Flame In Town
■ Home Truth
■ Room With No Number
■ Inch By Inch
■ Worthless Thing
■ Love Field
■ I Wanna Be Loved
■ The Comedians
■ Joe Porterhouse
■ Sour Milk-Cow Blues
■ The Great Unknown
■ The Deportees Club
■ Peace In Our Time
前作に続きランガー&ウィンスタンレーをプロデュースに起用した9枚目のオリジナル・アルバム。本作自体は前作の流れをそのまま引き継いだ秀逸なポップ作品であり、コステロのアルバムの中でも最もソリッドで切れ味のいい音を誇る。ダリル・ホールをゲストに迎えた「オンリー・フレイム・イン・タウン」や、スクリッティ・ポリッティのグリーンをフィーチャーした「アイ・ワナ・ビー・ラブド」などの話題作もあり、また「アイ・ワナ・ビー〜」のビデオ・クリップはMTVの勃興期にあって一部で高い評価も得た。

しかしながらブラス・セクションをフィーチャーしてリズム&ブルースをベースにしたコンテンポラリーなポップを小気味よくたたき出す前作に比べれば、曲調は再び全体にメロウになり、アップ・テンポの「サワー・ミルク・カウ・ブルース」や「ディポーティーズ・クラブ」などもどこか薄い膜の向こうでコステロが歌っているようなもどかしさ、そこにあるものに直接手が触れないじれったさの残る作品となった。80年代的にウェル・プロデュースされている分、コステロの最大の持ち味である直接性が削がれている。

後知恵的にいえば、このアルバムはコステロの第一期の最後の作品となった。アルバム「ディス・イヤーズ・モデル」から続いたアトラクションズとのコラボレーションはここでいったん終わりを告げ、この後2年近くアルバムのリリースも途絶えることになる。デビューから走り続けてきたコステロはいくつかの紆余曲折、試行錯誤を経ながら、前作、今作と時代にフィットしたポップ・アルバムを作り出したが、それは必ずしも彼自身を幸福にしなかったのかもしれない。よくできてはいるがどこか逡巡の伺える作品だ。




KING OF AMERICA
The Costello Show

F-Beat
1986

■ Brilliant Mistake
■ Loveble
■ Our Little Angel
■ Don't Let Me Be Misunderstood
■ Glitter Gulch
■ Indoor Fireworks
■ Litte Palaces
■ I'll Wear It Proudly
■ American Without Tears
■ Eisenhower Blue
■ Poisoned Rose
■ The Big Light
■ Jack Of All Parades
■ Suit Of Lights
■ Sleep Of The Just
前作から2年近いインターバルを経て発表された10作目のオリジナル・アルバム。コステロはアトラクションズと別れて渡米、ジェームス・バートンらプレスリーのバックを務めたミュージシャンにジム・ケルトナー、ミチェル・フルームらを加えたコンフェデレイツの演奏でレコーディングされた本作は、これまでのポップなブリティッシュ・ロックとはまったく異なった、アーシーなアメリカン・ルーツ・ロックとなった。プロデュースはTボーン・バーネット、生音を中心にした深みのあるサウンド・プロダクションだ。

こうして音の手触りも曲調も前作までとはまったく異なったアルバムであるが、僕としては初めて買ったコステロのアルバムであり、正直全然異和感もなかった。このアルバムのいちばんの特徴はとにかくコステロの声が近いことである。前作で皮膜のように音楽の表面を覆っていた見えないバリアはここではきれいに雲散している。コステロはここでは「エルビス・コステロ」の名前を使わず、アルバムは「ザ・コステロ・ショウ」名義でリリースされた。作曲のクレジットも本名のデクラン・マクマナスなのが興味深い。

コステロはおそらく「エルビス・コステロ」というペルソナとの訣別を試みたのではないかと思う。ポップ・アーティストとしての活動が自分を運んできた場所に前作で思いをめぐらし、その先はデッド・エンドであると彼は気づいたのかもしれない。80年代的な狂騒、MTVの時代の音楽に嫌気がさしたのかもしれない。その結果、一切の前提を取っ払って歌いたいことを歌った結果がこのアルバムでのコステロの「近さ」なのだ。キャリアの中でも異色のアルバムだが重要な転換点にある作品であり、端的に言って素晴らしい。




BLOOD & CHOCOLATE
Elvis Costello & The Attractions

IMP
1986

■ Uncomplicated
■ I Hope You're Happy Now
■ Tokyo Storm Warning
■ Home Is Anywhere You Hang Your Head
■ I Want You
■ Honey Are You Straight Or Are You Blind?
■ Blue Chair
■ Battered Old Bird
■ Crimes Of Paris
■ Poor Napoleon
■ Next Time Round
前作からわずか半年のインターバルで届けられた11枚目のオリジナル・アルバム。クレジットは再びエルビス・コステロ&ジ・アトラクションズに戻り、プロデュースはニック・ロウとコリン・フェアリーが担当している。しかしもちろん、だからといってコステロが前作の路線からそれ以前のポップ・ロック路線に回帰したということではない。いや、むしろその正反対で、コステロは前作で踏み出した後退不能の一歩をここでさらにラジカルに進めたのだと僕は思っている。何かを一気に吐き出したかのようなアルバムだ。

コステロはこれをアトラクションズとのラスト・アルバムにするつもりだったらしい。しかし、ここで聴ける音はまるでデモテープのようにラフなロックンロールであり、否応なく僕たちの肌の内側に入りこんでくる生々しいバラードだ。僕は前作と本作を何度も繰り返し聴いた。そしてこのオヤジの持つ情動の業の深さを感じずにはいられなかった。このアルバムでコステロはメジャー・レーベルから契約を切られ、ワーナーから次作を発表するまで実に3年の歳月を要した。これはひとつの旅の終わりであり次の旅の始まりだ。

前作に引き続いてここでもコステロの声は近い。アメリカン・ルーツに接近した前作とアトラクションズをバックにした本作では路線は異なるのだが、にもかかわらずミニマムな構成でむき出しの感情をぶちまける手法の点では前作と本作とは表裏一体である。このコステロの声の近さこそが20歳そこそこの僕に「ただごとじゃない」と思わせた大きな要因のひとつであることは間違いがない。僕にとってのコステロの原体験、原風景はこのアルバムにあるし、そのことを僕はラッキーだったと思う。好き嫌いはあれ必聴の1枚だ。




SPIKE
Elvis Costello

Warner Bros
1989

■ ...This Town...
■ Let Him Dangle
■ Deep Dark Truthful Mirror
■ Veronica
■ God's Comic
■ Chewing Gum
■ Tramp The Dirt Down
■ Stalin Malone
■ Satellite
■ Pads, Paws And Claws
■ Baby Plays Around
■ Miss Macbeth
■ Any King's Shilling
■ Coal-Train Robberies
■ Last Boat Leaving
前作から3年のブランクを経て、再びメジャーのワーナーと契約してリリースされたいわばコステロのリスタート盤。この時僕はちょうど大学の卒業旅行と称してロンドンにいたのだが、街のあちらこちらにこのジャケットのポスターが貼ってあって、コマーシャルな面でも随分プッシュされていたようだ。ポール・マッカートニーとの共作曲として話題になった『ヴェロニカ』はアップテンポのポップな曲でスマッシュ・ヒットを記録した。

荒々しく感情をぶつけるように制作されたインディペンデント・リリースの前作に比べれば、パッケージとしても随分ウェル・プロデュースされており、パブリシティの華やかさとも相まって僕としてはポップな印象の強いアルバムだが、改めて聴いてみればシングル曲以外は前々作にも通じるアメリカン・ルーツの影響が色濃い作品。一部の曲ではダーティ・ダズン・ブラス・バンドをフィーチャーし、腹の底に響くような鳴りを聴かせる。

プロデューサーは前々作と同じTボーン・バーネットと、この後コステロの多くのアルバムを手がけることになるケヴィン・キレン。ひとつ間違えば泥臭くなり過ぎるタイプの音楽だが、ひとつひとつ丁寧に音の面取りをしていて、メジャー・リリースのポップ・アルバムとして違和感なく聴ける「渋さ」の域に着地させている。良くも悪くもこの後のコステロの音楽はこのアメリカン・ルーツ路線が下敷きになって行く。水準を示した作品。




MIGHTY LIKE A ROSE
Elvis Costello

Warner Bros
1991

■ The Other Side Of Summer
■ Hurry Down Doomsday (The Bugs Are Taking Over)
■ How To Be Dumb
■ All Grown Up
■ Invasion Hit Parade
■ Harpies Bizarre
■ After The Fall
■ Georgie And Her Rival
■ So Like Candy
■ Interlude: Couldn't Call It Unexpected No.2
■ Playboy To A Man
■ Sweet Pear
■ Broken
■ Couldn't Call It Unexpected No.4
ケヴィン・キレンに加えミチェル・フルームをプロデューサーに迎えて制作(コステロ自身もプロデューサーとして名を連ねている)。シングルとなったアップテンポでポップな『ジ・アザー・サイド・オブ・サマー』で幕を開ける。基本的な路線としてはアメリカン・ルーツを基調とした前作を踏襲しており、引き続きジム・ケルトナー、マーク・リボー、ダーティ・ダズン・ブラス・バンドらを起用してハリウッドでレコーディングされた。

しかし、シングル曲以外はアーシーな色合いが濃かった前作に比べれば、本作では『オール・グロウン・アップ』『ハーピース・ビザール』などオーケストラを効果的に導入したゴージャスな曲や、『ハウ・トゥ・ビー・ダム』『ジョージー・アンド・ハー・ライバル』のようなポップなメロディと展開を持った曲も多く、アルバムとしてのカラフルさやメリハリという意味では前作以上にこなれたコマーシャルな作品に仕上がったと言えよう。

アメリカン・ルーツを基調としながら、そこにアーティスト独自の特徴あるソング・ライティングを展開し、結果としてポップなアルバムにまとめて行くという、ロックとしていわば王道の手法でひとつの高みに達した作品。僕自身としても社会人になって間もない時期に何度も繰り返し聴いたアルバムで、音楽的にコステロの素養の幅広さ、奥深さを感じさせて印象深い。この音楽的な広がりが次作の弦楽四重奏につながって行ったのか…。




THE JULIET LETTERS
Elvis Costello & The Brodsky Quartet

Warner Bros
1993

■ Deliver Us
■ For Other Eyes
■ Swine
■ Expert Rites
■ Dead Letter
■ I Almost Had A Weakness
■ Why?
■ Who Do You Think You Are?
■ Taking My Life In Your Hands
■ This Offer Is Unrepeatable
■ Dear Sweet Filthy World
■ The Letter Home
■ Jacksons, Monk And Rowe
■ This Sad Burlesque
■ Romeo's Seance
■ I Thought I'd Write To Juliet
■ Last Post
■ The First To Leave
■ Damnation's Cellar
■ The Birds Will Still Be Singing
「イギリスの室内楽シーンを代表する弦楽四重奏団」、ブロドスキー・カルテットともに制作したアルバム。プロデューサーはケヴィン・キレン。当然といえば当然だが最初から最後まで弦楽四重奏とコステロの声以外の音は聞こえない。一部にインストを含むが基本的には弦楽四重奏をバックにコステロが歌うというスタイル。何曲かはブロードスキー・カルテットのメンバーが作曲している。正直ロック方面の人間にはよく分からない作品。

いや、僕も買ってはみたし、聴いてもみたのだ。今回、このレビューを書くにあたってCDを引っ張り出し、何回も聴き直してみた。どんなアレンジを施されていても、きちんと耳を傾ければ楽曲の持つ本来のメロディの力は伝わってくるはずだと思って懸命に聴いてみた。だが、ダメだ。決定的に退屈。曲の区別がつかない。どんな材料も同じ味にしてしまう濃い味のタレのように、どこまで行っても同じ音しか聞こえてこない。20曲は苦痛だ。

もちろん、こういうのが好きな人もいるのだろう。きっと音楽的には何か見るべきものがあるのだろう。クラシックにまったく造詣のない僕の耳の方が貧しいのだろう。コステロという人は時折こういうことをやってリスナーを困らせる人なのだから仕方がない。だが、そういうふうに何らかの修練とか資質がなければよさが分からない音楽は閉じた音楽であり、少なくともロックの名には値しないと僕は思う。おそらくもう聴き返さない作品。




BRUTAL YOUTH
Elvis Costello

Warner Bros
1994

■ Pony St.
■ Kinder Murder
■ 13 Steps Lead Down
■ This Is Hell
■ Clown Strike
■ You Tripped At Every Step
■ Still Too Soon To Know
■ 20% Amnesia
■ Sulky Girl
■ London's Brilliant Parade
■ My Science Fiction Twin
■ Rocking Horse Road
■ Just About Glad
■ All The Rage
■ Favourite Hour
ミチェル・フルームのプロデュースによる作品。前作の反動か、初期の作品を思わせる荒々しくエッジの効いたロックンロールを聴かせる。それもそのはずで、ここでの演奏はドラムがピート・トーマス、キーボードがスティーヴ・ナイーヴ、そしてベースにブルース・トーマスというアトラクションズの面々が担当。もっとも、ブルース・トーマスは5曲のみの参加にとどまっており、残りの曲ではあのニック・ロウがベースを担当している。

サウンド・プロダクションはミチェル・フルームのテイストなのか、基本的にはざらついたライブ感のある仕上がりになっており、アメリカン・ルーツをたどる旅を経験した後の作品であることを印象づける。何曲かは耳に残るキャッチーなフックを持っているが、コマーシャルなファイナライズ処理はおそらく意図的に排除され、コステロのボーカルも含めた「近さ」重視のコンセプトか。アルバム全体としては必ずしもポップとは言い難い。

特に後半に行くに従って曲想が地味になって失速感は免れないと感じてしまうのは、僕がいつも最初から聴き始めて途中で集中力が切れるからか。このアルバム・リリース後のツアーでコステロはアトラクションズを率いて来日、僕は当時住んでいた大阪から名古屋まで出かけてライブを見たが、あのときアトラクションズを見ておいてよかったと思う。コステロとの不仲が取り沙汰されたブルース・トーマスはこの後事実上バンドを脱退する。




KOJAK VARIETY
Elvis Costello

Warner Bros
1995

■ Strange
■ Hidden Charms
■ Remove This Doubt
■ I Threw It All Away
■ Leave My Kitten Alone
■ Everybody's Crying Mercy
■ I've Been Wrong Before
■ Bama Lama Bama Loo
■ Must You Throw Dirt In My Face
■ Pouring Water On A Drowning Man
■ The Every Thought Of You
■ Payday
■ Please Stay
■ Running Out Of Fools
■ Days
1981年のカントリー・カバー・アルバム「Almost Blue」以来14年ぶりになる全編カバーのアルバム。プロデューサーはケヴィン・キレン、ミュージシャンはジェームス・バートン、マーク・リボー、ジム・ケルトナーら、アルバム「King Of America」を製作したコンフェデレイツの面々(但しアトラクションズのピート・トーマスが数曲でドラムを担当)。このメンバーから想像される通りオーソドックスなロックンロールが堪能できる。

カバーされている曲はボブ・ディラン、ランディ・ニューマンからモータウン、リトル・リチャード、アレサ・フランクリン、レイ・デイヴィスらの作品であるが、有名なアーティストの曲であってもほとんどは一般に知られていないもので、コステロの音楽ファン、レコード・コレクターぶりが遺憾なく発揮されている。そのことは単に選曲だけでなく、コステロ自身の手による詳細なライナー・ノーツからも、十分窺い知ることができる。

コステロのキャリアを語る上では次作とともに抜け落ちがちな作品であり、今回のレビューも僕自身こうした作品を「再発見」するために手をつけた面があるのだが、レビューのために繰り返し聴けば聴くほどこのアルバムの深みにはまって行く。オリジナルはほぼどれも聴いたことがないが、おそらくそれには関係なく、どの曲も恐ろしいほどコステロのものになっている。ライナーで予告した「Volume Two」もいつか出して欲しいと思う。




ALL THIS USELESS BEAUTY
Elvis Costello & The Attractions

Warner Bros
1996

■ The Other End Of The Telescope
■ Little Atoms
■ All This Useless Beauty
■ Complicated Shadows
■ Why Can't A Man Stand Alone?
■ Distorted Angel
■ Shallow Grave
■ Poor Fractured Atlad
■ Starting To Come To Me
■ You Bowed Down
■ It's Time
■ I Want To Vanish
エルヴィス・コステロ&ジ・アトラクションズの名義で発表された現在のところ最後のアルバム。前作と対をなすべくコステロが他のアーティストに提供した曲を自らカバーした作品だと喧伝されたため、僕の頭の中では完全に企画盤だが、実際にはオリジナルの方が多く純然たるオリジナル・アルバムと考えた方がいい。プロデューサーはジョン・ジェイコブスとかつてアルバム「Imperial Bedroom」をプロデュースしたジェフ・エメリック。

確かに、「Imperial Bedroom」の頃のようなメロウでポップな曲も多いようにも思われる。ワーナー移籍後のメイン路線であったアメリカン・ルーツをベースにしたダウン・トゥ・ジ・アースなトラディショナル・ロックとも、直情一発のロックンロールとも異なる、いかにもブリティッシュ・ポップ的な、やや湿り気を帯びてひねりを効かせた曲調の作品が多いのが特徴だろう。「シャロウ・グレイヴ」はポール・マッカートニーとの共作だ。

このアルバムでは終盤、フォーク・ロック調の佳曲「ユー・バウド・ダウン」から、コステロには珍しくドラム・ループを使った「イッツ・タイム」、そしてブロドスキー・カルテットを起用したバラード「アイ・ウォント・トゥ・ヴァニッシュ」への流れが素晴らしい。驚くようなイノベーションが何かある訳ではなく、忘れられがちなアルバムだが、コステロ独特のアイロニカルなポップ・センスが久々に発揮された軽妙な作品と言えよう。




PAINTED FROM MEMORIES
Elvis Costello with Burt Bacharach

Mercury
1998

■ In The Darkest Place
■ Toledo
■ I Still Have That Other Girl
■ This House Is Empty Now
■ Tears At The Birthday Party
■ Such Unlikely Lovers
■ My Thief
■ The Long Division
■ Painted From Memories
■ The Sweetest Punch
■ What's Her Name Today?
■ God Give Me Strength
バート・バカラックとの共作。正直言ってバカラックという人のことはよく知らない。いや、もちろん有名な作曲家だから名前くらいは知っているし、たぶん彼が手がけた作品もどこかで知らずに聴いているはずだと思うのだが、これまで意識して彼の音楽をきちんと聴いたことはない。ただ、印象とか風評とかからすれば、どちらかといえばお洒落で軽妙なAOR的音楽が身上の作曲家であり、コステロのスタイルと合うかどうかは懸念された。

アメリカン・ルーツ指向を強めるコステロのエモーショナルで泥臭いボーカルと、バカラックの流麗なメロディ、アレンジの食い合わせはどうよ、と思った訳だが、やってみるとコステロのボーカルの特徴を生かしながらバカラック的な洒脱さ、品のよさが際立つ上質のポップスに仕上がっており、単なる共演以上の化学反応が起こって新しい付加価値が生まれていると言っていい。コラボレーションとしては成功していると評価できるだろう。

コステロのボーカルのこの存在感を自在に操ってスイスイとドライブして行くバカラックのメロディ、アレンジの妙はさすが。そういう意味ではバカラックの「支配率」の方が高いアルバムで、逆にコステロもそれを楽しんでいるように思える。きれいな水の中で気持ちよさそうに泳ぐ元気な金魚のようなものかもしれない。ロックは足りないがロックでなくてもいいと思わせる作品。今回レビューのために聴き返して素晴らしさを再認識した。




WHEN I WAS CRUEL
Elvis Costello

Island
2002

■ 45
■ Spooky Girlfriend
■ Tear Off Your Own Head (It's A Doll Revolution)
■ When I Was Cruel No.2
■ Soul For Hire
■ 15 Petals
■ Tart
■ Dust 2...
■ Dissolve
■ Alibi
■ ...Dust
■ Daddy Can I Turn This?
■ My Little Blue Window
■ Episode Of Blonde
■ Radio Silence
前作から4年のインターバルを経てリリースされた21世紀最初の作品。前作のレビューで書き忘れたが、コステロは前々作を最後にワーナーを離れ、ユニバーサルと新たに契約を結んだ。本作はユニバーサル傘下のアイランド・レーベルからリリースされている。コステロを中心とする4人のチーム、ジ・インポスター名義でのプロデュース。演奏はピート・トーマス、スティーブ・ナイーヴの他、ベースはデイヴィ・ファラハーが担当している。

要はブルース・トーマス抜きのアトラクションズであり、アルバム全体としては直情径行型。音像も敢えて荒れてザラついた感触のまま放り出された感があり、大半はコステロ自身によるものと思われる騒々しいギター、デイヴィ・ファラハーのブンブンうなるベースがこの4年間にため込んだコステロのエネルギーを一気に放出しているように思える。1986年のアルバム「ブラッド&チョコレート」を思わせるようなストレートな作品になった。

曲そのものの作りとしてはポップなものも少なくはないが、どの曲も荒々しくたたきつけるように演奏され、歌われる。しかしアルバムそのものは周到にプロデュースされており、コステロの気力が充実していたことを物語るようだ。アルバム未収録でシングル・ヒットした「スマイル」を中心にこのアルバムのアウト・テイクを集めたコンピレーション「クルーエル・スマイル」も同年にリリースされており、本作とセットで聴いておくべき。




NORTH
Elvis Costello

Grammophon
2003

■ You Left Me In The Dark
■ Someone Took The Words Away
■ When Did I Stop Dreaming?
■ You Turned To Me
■ Fallen
■ When It Sings
■ Still
■ Let Me Tell You About Her
■ Can You Be True?
■ When Green Eyes Turn Blue
■ I'm In The Mood Again
あ〜、これは何というか、ジャズですね。というか、僕は了見が狭いのでジャズは聴かないのだが、たぶんこういうのがジャズなんだろう。CDをスタートするなり流れ出す流麗なストリングス。悪い予感がする。案の定、最初から最後までドラムはブラシをゴシゴシやり、スティーヴ・ナイーヴも得意の変態キーボードを封印して終始ロマンティックなピアノを弾いている。そこに乗っかるコステロの情感たっぷりのボーカル。実に暑苦しい…。

プロデューサーはあのブロドスキー・カルテットとの共作アルバムも手がけたケヴィン・キレン。おそらくコステロの中にあるさまざまな表現衝動のバランスを取る意味では必要な作品だったのだろう。コステロは2001年にはオペラ歌手アンネ・ゾフィ・フォン・オッターのアルバムもプロデュースしており、音楽的に精緻に構築された世界への興味、傾倒がこうした作品として結実したということかもしれない。そういうサイクルなんだろう。

買ったときに聴いたきり長い間CDラックから取り出したこともなかったが、今回、このレビューのために出してみて、まあ、思ってたほど悪くはなかった。少なくとも弦楽四重奏よりはまだ聴ける。というか、何かいい雰囲気の音楽を小さい音で流しておきたいときなどには使えると思った。何しろ他にそんなCDはほとんど持っていないので。コステロのファンとしてはつきあいの一環として一応持っているがふだんは聴かないというアルバム。




THE DELIVERY MAN
Elvis Costello & The Imposters

Lost Highway
2004

■ Button My Lip
■ Country Darkness
■ There's A Story In Your Face
■ Either Side Of The Same Town
■ Bedlam
■ The Delivery Man
■ Monkey To Man
■ Nothing Clings Like Ivy
■ The Name Of This Thing Is Not Love
■ Heart Shaped Bruise
■ Needle Time
■ The Judgement
■ The Scarlet Tide
アルバムの名義はエルヴィス・コステロ&ジ・インポスターズ。インポスターズはアトラクションズのメンバーのうちベースのブルース・トーマスの代わりにデイヴィ・ファラハーを加えたバンドで、要は前々作のレコーディング・メンバーである。プロデュースはコステロ自身と、モデスト・マウス、ハイヴスなどのプロデュースで知られるデニス・ヘリング。路線的には前々作を継承した荒々しいロック・オリエンテッドな作品と言えよう。

シンプルなバンド・サウンドを生かし、曲そのものに内在するエネルギーを効率よく推進力に変えて行くことができるのは、コステロのソング・ライティング、バンド・メンバーのプレイヤビリティ、プロフェッショナルなサウンド・プロダクションのいずれもが高いレベルで拮抗しているからに他ならず、並のアーティストではこういう血の滴るようなレアなアレンジメントは不可能だ。コステロの確かな音楽的地力がこれを可能にした訳だ。

アメリカのシンガー・ソングライターであるルシンダ・ウィリアムス、エミルー・ハリスを3曲でゲストに迎えているが、特にウィリアムスとデュエットする「ゼアズ・ア・ストーリー・イン・ユア・ヴォイス」はウィリアムスのボーカルの存在感が半端なく出色の仕上がり。後半に行くに従って曲調が重くなって行くのはいつものことで仕方ない部分もあるが、アメリカン・ルーツのロック的展開という意味ではひとつのエポックになる作品。




THE RIVER IN REVERSE
Elvis Costello & Allen Toussaint

Verve Forecast
2006

■ On Your Way Down
■ Nearer To You
■ Tears, Tears And More Tears
■ The Sharpest Thorn
■ Who's Gonna Help Brother Get Further?
■ The River In Reverse
■ Freedom For The Stallion
■ Broken Promise Land
■ Ascension Day
■ International Echo
■ All These Things
■ Wonder Woman
■ Six-Fingered Man
ニューオリンズR&Bの大物、アラン・トゥーサンとの共作アルバム。ニューオリンズは2005年のハリケーンで大きな被害を受けたが、そのベネフィット・コンサートで意気投合したとウィキには書かれている。プロデューサーはジョー・ヘンリー。バンドは前作に続きジ・インポスターズをメインに、クレセント・シティ・ホーンズをブラス・セクションとして迎えている。実際、ブラス・セクション抜きにこの作品のサウンドは考えられない。

収録曲の過半はトゥーサンの既発表曲らしいが、知らずに聴くとあまりの完成度の高さに圧倒される。サウンドとしては低音の効いたブラス・セクションをフィーチャーしたオーソドックスなR&Bであるが、曲というのはこうして書くのだと言わんばかりのタメとドラマティックな展開、下腹に響くうねりのようなベース、トゥーサン自身によると思われる緩急自在のピアノ。それらが音楽として渾然一体になっているところがもはや感動的だ。

コステロ単独の作曲は1曲だけであり、純粋なコステロのオリジナル・アルバムとは言い難いかもしれないが、ボーカルは君に任せるよとでも言われたのか、トゥーサンの名曲を好きなように歌いまくるコステロはもはや高級カラオケ状態。カバーをやっても結局のところ自分の音楽として流通させてしまうコステロだが、この作品ではコステロとトゥーサンの存在感がガッチリ噛み合っている。とにかくカッコいい。もう最高点つけちゃうぞ。




MOMOFUKU
Elvis Costello & The Imposters

Lost Highway
2008

■ No Hiding Place
■ American Gangster Time
■ Turpentine
■ Harry Worth
■ Drum & Bone
■ Flutter & Wow
■ Stella Hurt
■ Mr. Feathers
■ My Three Sons
■ Song With Rose
■ Pardon Me, Madam, My Name Is Eve
■ Go Away
再びエルヴィス・コステロ&ジ・インポスターズの名義で発表されたオリジナル・アルバム。タイトルはチキンラーメンの開発者でインスタント・ラーメンの祖と言われる日本の安藤百福にちなんだもので、コステロによれば「インスタント・ラーメンのようにお湯をかけたら出来上がりの即席アルバム」ということらしい。言われてみればなるほど、手数をかけずスピードとノリ、勢いで仕上げてしまったようなダイナミックな臨場感がある。

僕のようにロックンロール直情オヤジとしてのコステロを最も評価する立場からすれば、本作のナマっぽい手触りは何より嬉しい。だが、このアルバムを支えているのはもちろんコステロのソングライティングの確かさだ。プロデュースはコステロと、マーズ・ヴォルタなどを手がけたジェイソン・レイダー。ガレージっぽい荒れたサウンド・プロダクションや歪んだギターでワイルドさを見せながらも、要所ではポイントを押さえた音作りだ。

スティーヴ・ナイーヴのヘロヘロのオルガンなんかを聴いていると、まるで初期から中期のアトラクションズそのまま。だが、全体としての曲想の豊かさ、展開力の力強さを見れば、このバンドが(ベーシストは代わったが)何十年かの間にしっかり成長しているのだということが分かる。聴き流すもよし、聴き込むもよし、即席ではあってもリスナーを音楽の中へと引きずり込む力は当然規格外。A2の始まり方だけで理性はどこかに吹っ飛ぶ。




SECRET, PROFANE & SUGARCANE
Elvis Costello

Hear
2009

■ Down Among The Wines And Spirits
■ Complicated Shadows
■ I Felt The Chill
■ My All Time Doll
■ Hidden Shame
■ She handed Me A Mirror
■ I Dreamed Of My Old Lover
■ How Deep Is The Red?
■ She Was No Good
■ Sulphur To Sugarcane
■ Red Cotton
■ The Crooked Line
■ Changing Partners
前作から短いインターバルでリリースされた作品。プロデュースは1989年のアルバム「Spike」以来となるTボーン・バーネットで、レコーディングはナッシュビルで行われた。音楽的にはフィドル、マンドリン、バンジョーなどをフィーチャーしたカントリー、ブルー・グラスなどのアメリカン・ルーツ・ミュージックであり、1986年に同じくTボーン・バーネットのプロデュースでリリースした「King Of America」の続編ともいうべき作品だ。

だが、「King Of America」がそれまでのポップ・ロック路線に決別しバンドも入れ替えて制作された、当時のコステロとしては異色の作品であり、そのためにアルバム全体にある種の「勝負感」ともいうべきテンションがみなぎっていたのに比べると、この作品ではコステロ自身がリラックスして、自分の好きな音楽を好きなように作っている印象を受ける。音楽的にはよくこなれており、カントリーに造詣がなくても楽しんで聴けるだろう。

コステロのカントリーに対する愛情がベースにあるので、制作意図が上滑りすることなく、作品としての評価もおしなべて高いようだ。問題はこのアルバムがロックの「現在」にどうコミットするかということであり、その点ではレイド・バックした感は免れない部分もある。かろうじてこの作品をロックの現在地とつないでいるのは、コステロの確かなソング・ライティングと、この聞き違いようのない声の力だろう。嫌いじゃない作品だが。




NATIONAL RANSOM
Elvis Costello

Hear
2010

■ National Ransom
■ Jimmie Standing In The Rain
■ Stations Of The Cross
■ A Slow Drag With Josephine
■ Five Small Words
■ Church Underground
■ You Hung The Moon
■ Bullets For The New-Born King
■ I Lost You
■ Dr. Watson, I Presume
■ One Bell Ringing
■ The Spell That You Cast
■ That's Not The Part Of Him You're Leaving
■ My Lovely Jezebel
■ All These Strangers
■ A Voice In The Dark
再び前作から短いインターバルでリリースされた作品。プロデューサーは前作と同じTボーン・バーネット、またレコーディングもナッシュビルで行われるなど、基本的に前作の路線を継承したアルバムと言うことができるだろう。だが、この作品では、前作に携わったミュージシャンに加え、曲によってはピート・トーマス、スティーヴ・ナイーヴ、デイヴィ・ファラハーといったジ・インポスターズのメンバーが参加しているのが目を引く。

その結果、このアルバムは前作と同様にカントリーをベースとしつつ、ビートを強調したロック色の強い曲や、フォーク調のギター弾き語りまで、ややレンジの広い仕上がりとなった。コステロ自身が自分の最もやりたい音楽を気心の知れた仲間と好きなように演奏していることが感じられる一方、商品として流通することも当然意識したプロダクションで、作品としての完成度も備えており、前作よりバランスの整った大人の作品と言えよう。

とはいえ全体にレイド・バックした感があるのもまた前作と同様で、現役感の源はもはや音楽性そのものであるよりコステロの自由さであり、半ばジャンキーの域に達しているようにも思える「とにかくどんな形であれ音楽をやっていないと死んでしまう」みたいなアーティストの姿勢そのものとしての切迫性にあるのは明らか。まあ、だからこそ彼の出すアルバムは取り敢えず何でも買ってみるというファンがたくさんいるのかもしれないが。




WISE UP GHOST
Elvis Costello & The Roots

Blue Note
2013

■ Walk Us Uptown
■ Sugar Won't Work
■ Refuse To Be Saved
■ Wake Me Up
■ Tripwire
■ Stick Out Your Tongue
■ Come The Meantime
■ (She Might Be A) Grenade
■ Cinco Minutos Con Vos
■ Viceroy's Row
■ Wise Up Ghost
■ If I Could Believe
クエストラブ率いるヒップホップ・バンド、ザ・ルーツとエルヴィス・コステロのコラボレーション・アルバム。ザ・ルーツがハウス・バンドを務めるテレビ番組にコステロが出演したのが縁で共演に至ったらしい。ザ・ルーツという人たちについては僕は何も知らないが、どうもバンド形式でヒップホップをやる人たちらしく、言われてみれば確かにヒップホップってスクラッチとかサンプルをループしたバック・トラックが普通なんだよな。

で、そのザ・ルーツとコステロのコラボなのだが、だからといってヒップホップ、ラップになっているかといえば決してそんなことはない。ここにあるのは広義のファンクとでもいうか、重心の低いビートに乗せてコステロの多弁なボーカルが機関銃のように掃射される極めてオリジナルなミクスチャー・ロックである。確かによく聴けばラップと言えそうな曲もあるが、むしろトーキング・ブルース。ライムというよりはポエトリーって感じ。

もともと語数が多く詰め込み型のコステロのボーカルにはこのスタイルは相性がいい。しかし何より達者なソング・ライティングと聴き違えようもない無二の声のせいで、結局のところこれもまたコステロ印としかいいようのないアルバムになっている。90年頃のアルバムのダーティ・ダズン・ブラス・バンドをフィーチャーした一連の曲に近い感触かもしれない。いささかシリアスに過ぎるきらいはあるものの質の高い作品なのは間違いない。




LOOK NOW
Elvis Costello & The Imposters

Concord
2018

■ Under Lime
■ Don't Look Now
■ Burnt Sugar Is So Bitter
■ Stripping Paper
■ Unwanted Number
■ I Let The Sun Go Down
■ Mr. And Mrs. Hush
■ Photographs Can Lie
■ Dishonor The Stars
■ Suspect My Tears
■ Why Won't Heaven Help Me?
■ He's Given Me Things
すごく久しぶりな感じのするエルヴィス・コステロの新作。2013年にヒップホップ・バンドであるザ・ルーツとの共作アルバムをリリースして以来の作品で、ソロとしては2010年、インポスターズとの共演としては2008年以来の作品となる。コステロももう64歳、今年の夏にはガンの治療のためにツアーを一部キャンセルしたというニュースもあったが、このアルバムでは変わりのない元気な歌声を聴かせていて、老いてますます盛んの境地か。

バート・バカラックやキャロル・キングとの共作も盛りこまれ、曲調は多彩だが全体にオーソドックスで落ち着いた仕上がり。かつての「Delivery Man」や「Momofuku」のようなルーツ・ロック寄りのザラっとした質感ではなく、メロディ重視、歌重視のブリティッシュ・ポップ的な聴きやすいアルバムになった。コステロ自身がかつてのアルバム「Imperial Bedroom」やバカラックとの共作アルバムを引き合いに出しているのも頷けるところ。

僕としてはどちらかといえば勢い一発のロック・チューンが好きなのだが、この人の音楽的なレンジの広さと、それが拡散に向かわず音楽の中心に向かって収斂するかのような、どんなに多彩でも最終的にはすべてがコステロ印に回収されてしまうような磁場の強さはここでも健在で、このアルバムを快作と評価するのはそのような「だってコステロなんだもん」という期待を裏切らない品質の高さゆえ。やや内省的なのはさすがに年のせいか。




HEY CLOCKFACE
Elvis Costello

Concord
2020

■ Revolution #49
■ No Flag
■ They're Not Laughing At Me Now
■ Newspaper Pane
■ I Do (Zula's Song)
■ We Are All Cowards Now
■ Hey Clockface/How Can You Face Me?
■ The Whirlwind
■ Hetty O'Hara Confidential
■ The Last Confession Of Vivian Whip
■ What Is It That I Need That I Don't Already Have?
■ Radio Is Everything
■ I Can't Say Her Name
■ Byline
前作から2年という比較的短いスパンで発表された新作。「誰も自分を知らない場所で」とヘルシンキのスタジオで地元のスタッフを起用したセッションでのテイクに加え、その後パリでのスティーヴ・ニーヴを中心にしたセッションでレコーディングした曲、さらにニューヨークで追加のセッションでの曲を合わせて完成させたアルバムで、こうした経緯の通り多彩なイメージの曲が混在する意欲的で広がりを持った作品に仕上がっている。

ヘルシンキ・セッションからの3曲がいずれも荒々しくゴリっとした質感のロック・チューンであるのに対し、ニューヨーク・セッションからの2曲はオルタナティブなトーキング・ブルース、残りのパリ・セッションからの曲はコステロのソング・ライティングが光るバラードが中心。まるでロード・ムービーみたいに世界を移動し、曲の振幅の大きさで今のコステロの世界観、世界の輪郭のようなものを表現しようとした意欲作ではある。

全体的にはキャリアを感じさせる落ち着いたトーンの作品であるが、そこにキャラクターの違う曲を織りこんで行くことで、今ここにある現実とコミットする意識、音楽を媒介に世界と向かい合う意識がはっきりと感じられる。感染症のおかげで世界が遠くなりつつある中で、1年遅かったら作ることのできなかったアルバム。この声がある限りコステロは現役だと思わせる記名性は天与のもの。ベタなポップ・チューンもあってよかったか。




THE BOY NAMED IF
Elvis Costello & The Imposters

EMI
2022

■ Farewell, OK
■ The Boy Named If
■ Penelope Halfpenny
■ The Difference
■ What If I Can't GIve You Anything But Love?
■ Paint The Red Rose Blue
■ Mistook Me For A Friend
■ My Most Beautiful Mistake
■ Magnificent Hurt
■ The Man You Love To Hate
■ The Death Of Magic Thinking
■ Trick Out The Truth
■ Mr. Crescent
■ Truth Drug
前作から1年強の短いインターバルでリリースされた新作。ジ・インポスターズ名義では2018年の「Look Now」以来の作品となる。このアルバムのキャラクターは冒頭に置かれた『Farewell, OK』を数秒聴くだけで分かる通り、あのやかましい、無反省で直情径行、いくつになっても変わらないロックンロールオヤジとしてのエルヴィス・コステロである。オレたちが待っていたコステロの帰還だ。これだよ。こういうのが聴きたかったんだ。

「If」という名前を与えられた自分のなかのもうひとりの自分、生きられなかったもうひとつの生をひとりの少年に見立てて、彼に関する13個のスケッチをアルバムにしたものだという。まあ、そういうコンセプトみたいなものは正直どうでもよく、『Farewell, OK』や『Magnificent Hurt』のようなギターのうるさいビート・ナンバーが出てくるだけですべて許す勢いなんだが、その他の曲もシンプルかつ直接的で、演奏もボーカルもいい。

コステロは67歳、還暦どころか古稀に近いジジイであり、5年ほど前にはガンの手術も受けているが、それでもこのクオリティの曲を書き、なにより初期の曲と混ぜてもわからないくらいの声で歌う。ロックが老いとどうつきあうかはストーンズなどを筆頭に毎年社会実験を更新しているわけだが、切迫した衝動を持ち続ける限りロックと呼び得る音楽はイヤでも生れ落ちて行くのだと実感させるアルバム。信じるに足るアーティストの快作。



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