logo ザ・ソングライターズ


ザ・ソングライターズ
佐野元春

スイッチ・パブリッシング
2022

「ザ・ソングライターズ」は佐野元春がホストとなり、2009年7月から2012年12月まで、4シーズンに亘って断続的にNHK教育テレビで放送された番組である。佐野の母校である立教大学での公開講座の収録の形をとり、放送回数は48回にのぼった。

この番組では毎回ポップ音楽の領域でのソングライターをゲストに迎え、佐野が創作の方法論や考え方についてインタビューするという形式で制作された。30分番組だがひとりのゲストには2週にわたって合計1時間が割り当てられ、その中で佐野はゲストの作品の朗読、定型質問、収録に参加している学生らを交えたワークショップを交えながらゲストの創作論を聞き出して行く。

番組のゲストは、松本隆、なかにし礼など作詞家として社会的にも認められた大御所から、サンボマスターの山口隆やウルフルズのトータス松本など個性的なミュージシャン、星野源やMr.Childrenの桜井和寿などの人気アーティスト、矢野顕子、鈴木慶一など独特の創作を続けるアーティスティックな人たちなど多岐にわたる23人。本書では番組には登場しなかった大瀧詠一が別のラジオ番組に出演したときのやりとりを併せて収録、佐野の24人とのやりとりをこの本で読むことができる。

僕はこの番組の各回のレビューを別にサイト内に掲載しており、その底本となるテキストがこうして公刊されたことはまずもって喜ばしい。ただ、細かく放送とこの本の記載を突き比べたわけではないが、放送内容を忠実に書き起こしたというよりは、佐野とゲストのやりとりを番組とは別に新たに取捨選択して構成したものと考えた方がよさそうだ。特に学生との質疑応答のセッションやワークショップでのやりとりはほぼまるごとオミットされているようである。

個々のセッションの内容とそれについて僕が思ったことについては上記のレビューを参照してほしいが、あらためてこの本を読んで感じたのは、佐野が事前によく勉強し、しっかりとゲストの作品をリスペクトしながら仮説を立て、それを検証するようにゲストと向かい合っているということで、そうした佐野の真摯な態度がゲストからときとして重要なコメントを引き出しているのだと思った。

もちろんゲストによっては会話がうまく流れに乗れず、ゲストの「ご高説を拝聴」するだけに終わった回もあるし、ゲスト自身が佐野の投げかけに対して自分を対象化することができず表層的で浅薄な認識の披瀝にとどまった回もある。しかし一方で佐野の仮説とゲストの自己認識が火花を散らして交錯し、そこから思いがけない議論が展開されることもあり、それはゲスト自身がいかにオープンマインドであるか、また自分の表現というものにいかに自覚的に向かい合っているかをはっきり示しているようで興味深い。

そしてまたそれは、佐野自身が彼なりの創作論、表現論を対象化したうえで内面化しているからこそでき得たことであり、そこに「オレの場合はこうなんだが」という軸があってこそ、ゲストのそれとの共感や共振、あるいは異化が発生し得るのだろうとも思った。巻末には番組でも最終回としてゲストを迎えずに佐野自身がソングライティング論を語った回が、かなり端折った形ではあるが収められており、佐野のファンとしても重要なテキストとなっている。

この番組での佐野のホストとしての仕事は、インテリジェントであると同時にアーティスティックでもあり、そして何よりジャーナリスティックであったという点で、高く評価されるべきだ。分厚い本であり正直僕もまだ全部を読みきったわけではないが、ゲストひとり分はちょっと読みきるのにちょうどいい分量でもあり、この機会に手に入れて少しずつ読みつぶして行くのもまたいい。

(2022.4.7)



Copyright Reserved
2022 Silverboy & Co.
e-Mail address : silverboy@silverboy.com