logo Jリーグ サッカー監督 / 城福浩


城福浩はFC東京の多くのサポーターにとって特別な名前である。2008年に原博実からチームを引き継ぐと、この熱血指揮官はすぐさま「ムーヴィング・フットボール」というスローガンを掲げ、それまで中位に甘んじていたクラブをそのシーズンの終わりには6位に、翌2009年には5位に導く。ところが優勝を目標に掲げて臨んだ2010年、東京は不振に陥り、城福は志半ばにしてシーズン途中に解任、クラブは結局J2降格の憂き目を見る。

本書はその城福が東京を解任されてから現職であるヴァンフォーレ甲府の監督に就任するまでの間にプロサッカーの監督としての考えをまとめたものであり、そこには東京の監督をしていた頃のエピソードもふんだんに盛り込まれている。東京のサポーターとしては、例えば城福が最初に長友佑都を面談したときの話や半ば移籍を決めていた今野を残留させた話などを裏話的に読むだけでも十分楽しめる。

だが、この本をよく読めば、城福浩がどうして東京サポーターの間でもいまだに根強い人気を得ているのか、僕たちがなぜ城福東京にあれほど熱狂したのか、その理由の一端が分かるだろう。あるいは城福浩が東京にとって何だったのか、城福浩の魅力の本質は何なのかを理解する手助けになるだろう。そうした意味で東京サポーターにとっては重要で貴重なテキストである。

この本を読んでみれば、城福が極めて論理的なサッカー指導者であり、理詰めで自分のスタイルを構築し、チームを編成し、試合を指揮していたことが分かる。また、彼がなぜポゼッション・サッカー、パス・サッカーにこだわるのか、そのために何を重視しているのかということもよく分かる。城福浩を評価し、東京の監督として信頼してきた僕としても肯かされることが多い。

以前、僕は城福の魅力の本質は何か、考えたことがあった。まずひとつはここに書かれた通り論理的であること。言っていることの筋が通っていて、内容として理解でき納得できること。これがベースにある第一のポイントである。それはこの本の彼の語り口から十分理解できることだろう。城福は自分がどういうサッカーを目指し、そのために今何をするかを明確に説明のできる希有な指導者である。

だが、城福が東京サポーターからいまだに愛される理由はそれだけではない。第二のポイントは率直であること、あるいは誠実であること。もちろん勝負の世界なので思っていること、進行していることのすべてを明らかに、詳らかにできる訳ではない。言えないこと、言うべきでないこともたくさんあるだろう。だが、そうした制約の中でも城福はできる限り我々に平易に、素直に語りかける。少なくともそこに作為的な嘘はないと思わせる。それは僕たちがクラブを支持する上で大事なことである。

そして最後に、最も大事なのは情熱的であること。東京サポならば、白熱した試合の後、城福がガラガラの声で記者会見に臨んでいるのを何度も目にしただろう。ゴールの度にテクニカル・エリアに飛び出して上体を反らし、力強いガッツポーズを決めるのを見ただろう。我々の監督は熱い、本気でサッカーに取り組んでいると我々は感じていた。我々とともに進んでくれているという実感があった。だからこそ、我々は城福浩を愛した。

2010年の降格は城福の失敗というよりは強化の失敗だったと僕は思っている。カボレが、長友が抜けた穴をクラブはきちんと補強することができなかった。ケガ人も出て、東京は徳永をボランチ起用するなど苦しい人繰りを余儀なくされた。我々は降格ということのリアリティを最後まで実感できないままズルズルと後退戦を戦い、西京極で京都に完敗した。

僕が2011年のシーズンに大熊監督の更迭を何度となく主張したのは、城福のような論理的なビジョンの提示がまったくといっていいほどなされなかったからである。どうやって勝ち、どうやってJ1に復帰するのかという道筋が示されず、また、実際の戦いぶりからも一貫した戦略が窺えなかったからである。そこには疑いもなく城福の残影があった。

城福のサッカーは疑いなく魅力的であった。もちろんうまく行かないときもあったが、ポゼッションから敵のディフェンスを崩し、後ろから飛び出してくる選手たちがゴールを決めるというスタイルで何度もワクワクするような試合を見せてくれたし、そのおかげで東京のサポになった人を僕は何人も知っている。我々は、今もその夢を見続けている。

今、城福の作ったチームは、ポポヴィッチ監督の下で次の局面へと次へ進もうとしている。僕たちの夢をさらに遠くまで進めようとしている。いつか我々は城福と対戦することになるだろう。そのとき彼を迎えるのが拍手であれ、ブーイングであれ、我々にとって城福浩が特別な人物であることは変えようのない事実である。



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