logo Blood Moonのための暫定ノート


「これ以上待っていても無駄だろう」

僕たちは今までいったい何を待ち続けてきたのか。人口が減り、貿易収支が赤字になり、円の価値が下がり続けるこの世界で、待つことによって何かがよくなるという保証はもはやなくなってしまった。それなのに僕たちは今までいったい何を待ち続けてきたのか。

このアルバムで佐野は、これまでになく強い調子で、息苦しく、窮屈な世界を告発する。欲張りたちが牛耳る野蛮な世界についての異議は二度に亘って申し立てられ、不公平な世界、不確かな世界への違和感も一度ならず表明される。いったい何をいつまでも待っているのか、これ以上待っていても無駄だろう、と。

他の曲で佐野はこうも歌う。「もう振りむくことはないよ/人生は短い」。そう、僕たちにはもう悠長に何かを振り返り、待ち続けていられるような余裕はないのだ。僕たちは自分自身の生を自分自身の手でしっかりとグリップし、その核心にまっすぐ降り立って行けるだけの直接性が必要なのだ。

それは「生き延びること」をテーマにした「THE SUN」以来、佐野が歌い続けてきたことだ。その直接性への希求は、しかし、この作品において一層尖鋭化している。このアルバムではビートはより激しくなり、直接性と身体性が明確にリンクしている。音楽的なスタイルは曲ごとに様々だが、アルバム全体が求めているのは現実のステップであり具体的なコミットメントだ。

まずはこのアルバムのざっくりとした手ざわりをしっかり確かめたい。そして、このアルバムが僕の中でどんな化学反応を起こすのかをしばらく見極めたいと思う。



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