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とあるマンションの一室で、明け方に突然電話のベルが鳴り出す。



S:もしもし。

N:もしもし、僕だよ、元気かい?

S:おいおい、元気だけど、どうしたって言うんだい、こんな時間に。まだ4時半だぜ。

N:ああ、そうか、それは悪かった、こっちは夜の9時半なんだ。会社から帰ってネットを見たら、ソニー・ミュージックのページに佐野元春の新譜告知が出ていて、ちょっとだけど音も聞けるんだよ。それで嬉しくなってさ、是非君に話がしたくなったんだよ。

S:OK、その話なら24時間大丈夫だ。



N:「フルーツ」はいいアルバムだった。

S:うん、もちろんだ。

N:でもそこには何かしら、新しく始めるという気負いのようなものとか、試行錯誤とか、そういう部分もあった。僕はそれも好きだったけれども。

S:そうだね、その通りかもしれない。

N:でも今度のアルバムでは、本当に好きな音楽を、あこがれのプロデューサーのもとで、気の合ったバンドとレコーディングしたというてらいのなさ、情況から制約されるもののなさがストレートに立ち現れてくるんじゃないかと思う。ほんのさわりを聴いただけだけど、何だかそんなふうな気がしたんだ。

S:なるほど。君の言うことはいつもちょっと小難しいけど、何となく分かるような気がするよ。要は早く聴きたいってことだね。

N:もちろん。

S:答えはいつだって君のすぐそばにある。

N:その通り。

S:かつて、佐野元春はこう言った。「人生、勝ってるときはだれもが愛してくれる。でも負けてるときはどうだ、いつだって、いつだってひとりぼっちだ。」ってね。

N:でもそれと新しいアルバムとの関係は?

S:まあ、深くは気にしないことだよ。



N:ともかく、変な時間に起こしてしまって悪かったね。

S:いや、楽しかったよ。でも、こんどいつ会えるんだい?

N:1月には一時帰国の予定なんだ。佐野元春のライブにも行くからそのときにでも。

S:OK、僕もチケットを取っておくよ。じゃあまた。

N:うん、元気で。



再び静まりかえった部屋に、コンピューターを立ち上げる音が響く。秋の一日はまだ明け始めていない。




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