THE BARN DELUXE EDITION
1997年にリリースされたアルバム「THE BARN」の20周年記念盤。とはいえこれまでの他の周年記念盤とは趣が異なり、アナログ・レコードとブルーレイ・ディスク、DVDという3枚組に、エリオット・ランディ、宮本敬文による156ページ写真集という構成になっている。 アナログ盤は内容的にはオリジナルと同じ。テッド・ジェンセンによる2016年のマスターを使用し、バーニー・グランドマンがカッティングしたもの。このアルバムに関してはオリジナル・リリース時にもアナログが限定発売されているが、今回はマスターとカッティングが異なる盤ということになる。 ブルーレイ・ディスクとDVDについては別稿を参照して欲しいが、ブルーレイの方は1998年3月28日大阪フェスティバルホールでのツアー最終日の様子を収録し、同年7月にリリースされた「THE BARN TOUR '98-LIVE IN OSAKA」に『マナサス』を追加したもの。 DVDの方はレコーディング・ドキュメントで、1997年12月21日にNHK-BSで「佐野元春 in Woodstock The Hobo King Band Recording」として放送されたもの。 アルバムそのものについてはオリジナル・リリースのレビューに書いた通りだが、このアルバムはホーボー・キング・バンドのメンバーとともに、彼らの共通のルーツであるウッドストックに渡ってジョン・サイモンのプロデュースの下で制作されたもの。佐野元春の作品の流れの中でもやや異質な手触りを持ったワン・アンド・オンリーの作品であると言っていいし、位置づけとしてはその意味で「VISITORS」に近い。 今、改めて聴き返すと、アーシーでざっくりした風合いの音作りの中に、意外なほど繊細なひとつひとつの楽器のニュアンスが聴き取れるし(特に佐橋佳幸のギターのタッチの表情の豊かさには感服するしかない)、彼らのルーツとなったカントリー・ロック的なアプローチがメンバーの演奏力を的確に引き出して完成度の高い作品に結実しているのが分かる。 ホーボー・キング・バンドの演奏はややもすると個々のプレイヤビリティが触発し合ったジャム・ロック的なセッションに発展することがあり、ポップ表現として佐野元春を聴く者には時として冗長に感じられたりもするが、ここではアメリカン・ルーツを正当に継承しながらもそれがコンテンポラリーなポップ表現としてコンパクトにまとまっており、彼らの特質が最も素直に表れたアルバムと言うことができる。 今回の記念盤についてはメディアはアナログのみであり、レア・トラックやアウト・テイクの収録もないことからアイテムとしては微妙な位置づけとなった。オールド・スクール流のレコーディングとなった本作をアナログでリイシューすることには納得性はあるものの、実際には多くのリスナーはふだんCDやダウンロード、ストリーミングで音楽を聴いていると思われ、場合によっては一度も聴かれることのないコレクターやマニア向けのアイテムとなったことは否めないし付加価値も限定的。 純粋に未発表音源として新規性があるのはライブ・ビデオに追加収録された『マナサス』の演奏だけで、それをゴツい箱に収め14,000円(税抜)という価格で販売することには、まあ、それでも買う人がそこそこいるとはいえ商売としてどうなんだという気もする。コレクターズ・アイテムとしてどれだけの価値を見出すか、個人の判断の世界だ。パッケージのどこにもM's Factoryのロゴが見当たらないのが寂しい。 2018 Silverboy & Co. e-Mail address : silverboy@silverboy.com |