logo Silverboy Club Music Award 2018


1年間にレビューした新譜を評点の順に並べて振り返るというこの企画もついに第20回を迎えた。我ながらすごいと思うけど、もう2019年も2月に入ってしまって今さら感慨に浸っているヒマもないので、早速2018年に聴いたアルバムを振り返ろう。

2018年に最高の評価(★★★★☆)を付けたアルバムは2枚あって、1枚はダーティ・プロジェクターズ、もう1枚はザ・コーラルだった。ダーティ・プロジェクターズは昨年の大賞を受賞しているが、コーラルも2007年に大賞、2005年には2位を獲得しており、どちらに2018年の大賞を授与するかは悩んだところ。結局、永年に渡るマイペースの活動を評価してコーラルに授与することにした。

コーラルは2000年代に入って出てきたリバプールのバンドだが、その音楽は典型的なUKギター・ロックというよりは、60年代の音楽を下敷きにしたカントリー・フレイバーのフォーク・ロックがその根底にある。キャリアは相応に長いがメイン・ストリームとは距離を置き、グッド・メロディと特徴的なコーラス・ワークをフィーチャーした記名性の高い音楽を聴かせる。信頼のできるバンドだ。

次点はダーティ・プロジェクターズ。先に書いた通り、2017年に大賞を受賞しており、史上初の2年連続大賞もあり得た。昨年のアワードでは「基本的に実験色の濃いインテリ系の音楽だが、そこに抜き去り難い人間の生身感みたいなものが窺えて、それがチャームになっている」と書いたがその通りである。分かりやすいポップ・ミュージックではないのに聴きやすいと感じさせるのがスゴい。

3位には同評価(★★★★)でキャレキシコ、デヴィッド・バーン、アッシュ、マイルズ・ケイン、エルヴィス・コステロ、ザ・ヴァインズの6組が並んだが、失礼ながら意外にもよかったデヴィッド・バーンに授与することにした。時としてインテリ臭さが鼻につく人だが、本作はトーキング・ヘッズの方法論が21世紀の今でも、いや、今だからこそ有効であることを示した快作だと思う。

優秀賞は3位の選に漏れた5組のアーティスト。いずれも力のあるアーティストだったが、アッシュ、マイルズ・ケイン、コステロ、ヴァインズら、アワードでは常連の名前に混じって、タワレコでかかっていたのをShazamで見つけ、Spotifyで聴いた結果、CDを買うことにして最終的にアワードにノミネートしたキャレキシコみたいな存在があるのが示唆的だと思う。

デヴィッド・バーンも最初はSpotifyでいいかと思ってたのが、意外にいいのでCDを買ったもの。2018年は自分で買った新譜のCDは19枚と前年の24枚から減ったが、Spotifyで聴いてショート・レビューを書くという試みを始めて、7枚のアルバムを取り上げた。レビューしなかったものも含め、CDを買わずSpotifyだけで聴いた新譜は少なくなかった。

もう耳が制度化されてしまって本当に新しいものを聴く体力は年々失われているが、別に何か責任があって新譜を聴いている訳ではないので、面白そうなもの、僕自身の「固有の周波数」にヒットするものは、つまみ食い的で構わないから聴いて行こうと思う。そういう聴き方にはSpotifyなどのメディアの親和性が高いはずだ。

もともとこのアワードは、ロック音楽を網羅的に聴いた上で客観的に評価している訳ではもちろんなく、僕自身が好きで聴いている音楽に自分勝手な評点を付け、それを並べて1年分を整理しているだけのものであり、毎年書いている通り、その意味で「個人的なロック体験」である。そもそも、音楽を聴くということ自体がどこまで行っても個人的な体験でしかあり得ないのだから。

2月までアワードをサボってて、正直もうやめようかとも思ったけど、音楽を聴くという営為がますます個別化する中で、ただの個人のレビューとか、このアワードとかの意味はむしろ大きくなるのかもしれないと今思ったので、もうしばらく続けてみてもいいかもしれない。

という訳で、「個人的なロック体験」としての2018年Silverboy Club Music Awardはザ・コーラルの2度目の受賞となった。音楽は続いて行く。




選考結果

大賞
MOVE THROUGH THE DAWN The Coral
[選評] スゴいスピードであまりまともとは思えない方向に転がり続けている世界では、僕たちはいったい何を基準に自分の正気を確認すればいいのか。そんな世界では、当たり前のフォーク・ロックこそが最もラジカルで批評的な音楽であり得るのではないか。もちろん彼ら自身はそんなこと考えてもないだろう。しかし僕たちは、結果的にこの音楽が最もラジカルで批評的であり得る世界にいて、水準標になるべきメロディに耳を傾けているのだ。

[評点] ★★★★☆
 
2位
LAMP LIT PROSE Dirty Projectors
[選評] 本来個人的な文脈でしか解釈のしようのない頭の中のできごとを、そんなことは構わず音楽という空気の震えに変換し、録音した上、世界中に向けてバラ撒くという行為は一種の迷惑行為。にもかかわらずそれに意味があるとすれば、こうしたアルバムが世界中に散らばった特別な誰かの特別な何かと共振する可能性がわずかでもあるからだ。コミュニケーションの意志というのは結局のところそういうものだと改めて分からせてくれる作品。

[評点] ★★★★☆
 
3位
AMERICAN UTOPIA David Byrne
[選評] トーキング・ヘッズはあまりにも批評性が前面に出ているバンドだったので、好きな人は好きだが、理解できないとか体質的に合わないという人もおそらくたくさんいたはずだ。しかし、その批評性と肉体性というテーマはむしろポストトゥルースとか反知性主義で特徴づけられるこの2010年代終盤にこそ必要なものだったことを示すアルバム。アメリカがユートピアであり地獄でもあるように、世界もまたユートピアであり地獄であるのだ。

[評点] ★★★★
 
優秀賞 (順不同)
[評点] ★★★★
THE THREAD THAT KEEPS US Calexico
ISLANDS Ash
COUP DE GRACE Miles Kane
LOOK NOW Elvis Costello & The Imposters
IN MIRACLE LAND The Vines
 



Copyright Reserved
2019 Silverboy & Co.
e-Mail address : silverboy@silverboy.com