logo Silverboy Club Music Award 2016


今年もやって参りました、Silverboy Club Music Award、年間の新譜レビューの中から評点の高かったものを順に発表するという単純な企画ですが、今回でなんと第18回を迎えました。20世紀から続く権威あるアワードです。例によって今年も越年してもう1月も中旬ですが仕方ありません。急いで発表することにしましょう。

2016年、輝く Silverboy Club Music Award、大賞はボン・イヴェールの「22, A Million」です。パチパチ。ジャスティン・ヴァーノンさん、もしこれをご覧でしたら是非喜びのコメントをお願いします。

この作品はただひとつ今年最高のスコアである「★★★★★(旧スコア8松)」を獲得、文句なしのアワード獲得となりました。孤高としかいいようのないワン・アンド・オンリーの新作は、これまでの作品からも大きな飛躍を遂げた隔絶的な名作だと思います。エレクトロニカなのかフォークなのかオルタナティヴなのかよく分かりませんが、そうした議論を軽々と凌駕して行く、その意味でロック的な作品だと言えるでしょう。

次点の「★★★★☆(8竹)」にはクーラ・シェイカー、アニマル・コレクティヴ、ピクシーズ、ホイットニー、ザ・コレクターズの5アーティストが同点で並びました。審査は難航しましたが、まず、ザ・コレクターズは当サイトでは「ディスコグラフィ・レビュー」でも取り上げている別格のアーティストであることから、恒例により審査員特別賞を授与することとしました。

残る4アーティストのうち、表現の今日性を重視する声が強く、アニマル・コレクティヴとホイットニーが最終選考に残り、次点には新人としての将来性に期待する票を集めたホイットニーの「Light Upon The Lake」が選ばれました。シカゴ出身のオルタナティブ・フォーク・デュオですが、清新ながらカラフルな音楽とポップなメロディ、ジェンダーから浮遊するボーカルなど、ポップ・ソングとしての記名性を備えた意欲作です。

3位にはアニマル・コレクティヴの「Painting With」が選ばれました。アニマル・コレクティヴは2012年に前作で次点を取っており、既にその実力は定評のあるところ。ロックとしての定型から逸脱しながら、その表現自体はむしろ童謡にも通じるおおらかさとか分かりやすさの領域に。ロック表現の可能性を感じさせました。

同じ評点ながら選外となったクーラ・シェイカーの「K2.0」、ピクシーズの「Head Carrier」と、それに次ぐ「★★★★(8梅)」のザ・キルズ「Ash & Ice」、テデスキ・トラックス・バンドの「Let Me Get By」、そして山田稔明の「Pale みずいろの時代」には優秀賞が贈られます。どれも骨格のしっかりした聴きごたえのあるアルバムです。

2016年の大賞作品は24枚。ほぼ前年並みで、新譜を買う枚数を抑えようと思っている割りには結構買ったなという印象。面白いのはこのアワードで優秀賞までに入った8枚のうち、「ロッキング・オン」の年間ベスト50に入っていたのがボン・イヴェールだけだったということ。何かもうロックの主潮からは取り残されたところでひそかに好きなもの聴いてる感あって、それはそれでええって感じです。

もともとパンクからポスト・パンクのブリティッシュ系、特にネオアコとかクリエーション・レーベルとか、そういうギター・ポップ、インディ・バンド系を中心に聴いてきた訳ですが、ここに来て評点高く付けるバンドにはそういうのはもう入ってこないというか、プライマル・スクリームとかティーンエイジ・ファンクラブとかも買ってはいるんですが。

ちょっとそんな感じで、自分が変わったのかシーンが変わったのか、もうその辺も意識しなくていいのかなという境地にだんだん達してきた2016年だったなと。音楽を聴くという行為がもうほんとに個人の領域に沈潜してきて、それはたぶんオレの残りの人生でアルバム何枚聴けるかなとか50歳過ぎて考えるということかもしれません。

CDというメディアもいつまであるのか分からない感じで、ダウンロードとか定額ストリーミングサービスとか音楽の聴き方も変わってきて、その中でアルバム単位で音楽を聴く必然性もなくなり、パラダイム・シフトがあるような気もするし、意外とあんまり変わらないような気もしますが、少なくとも音楽がなくなることはないということだけは確かだと思います。

3月にはザ・コレクターズの武道館があります。音楽は続いて行くということを強く感じます。

個人的なロック体験としての第18回 Silverboy Club Music Award、大賞はボン・イヴェールさんでした。それではまた今年の年末か来年の年初にお目にかかりましょう。




選考結果

大賞
22, A MILLION Bon Iver
[選評] コミュニケーションの本質的な不完全性に絶望しながら、それでも遠く空間を隔てて切れ切れの声を届けることでギリギリの意思を通じ合うことへの焼けるような切望を歌う。21世紀のフォーク・ソングでありゴスペルでありそれ自体が祈り。何もない地平からコミュニケーションを再発見しようとする試みが、それ故に既存のどんなコミュニケーションよりも強く遠くまで声が届く奇跡。ロック表現が更新される瞬間を目にできるアルバムだ。

[評点] ★★★★★
 
2位
LIGHT UPON THE LAKE Whitney
[選評] トランプ大統領の誕生によってアメリカが引き裂かれようとするときに、「まあそれはちょっと置いといて」という感じで奏でられる音楽としての音楽。ファルセットなのか地声なのか、ジェンダーを超越したとでも言えるような細い声のボーカルは、あなたがトランプを支持しようがしまいが耳から入って脳に達する。歌というものの力がこの世界にどれだけ通用するかをシンプルに示した、2010年代の基準点になり得る現代的な平易さが命。

[評点] ★★★★☆
 
3位
PAINTING WITH Animal Collective
[選評] 8ビートでズットンズットンやるのがロックンロールであり、それがロックという音楽の出自であるならば、このアルバムはもはやそうしたフォーマットへの信頼から解放された現代のインテリゲンチャのための童謡であり子守唄であると思う。表現を真摯に追求した結果たどり着いた音楽が、なぜだか稚気にあふれたチャーミングでチアフルな景色を見せてくれるところがマジックであり示唆的だ。これもまたロックを拡幅する試みのひとつ。

[評点] ★★★★☆
 
優秀賞 (順不同)
[評点] ★★★★☆
K2.0 Kula Shaker
HEAD CARRIER Pixies

[評点] ★★★★
ASH & ICE The Kills
LET ME GET BY Tedeschi Trucks Band
PALE みずいろの時代 山田稔明

 
審査員特別賞
ROLL UP THE COLLECTORS The Collectors
[選評] いやもう30年だよ、アニキ。武道館だよ。コレクターズとは長いつきあいで、本当に毎日のように彼らのアルバムを繰り返し聴いていた時期があった。僕にとってコレクターズは切実なバンドだった。一時期ムダに重かったことがあって正直聴き流していたが、「夜明けと未来」あたりから突き抜けた感があり、本作はその中でも出色の明快さ。ああ、コレクターズってこうだよね、と素直に感じる清々しさがむしろ泣ける感じ。武道館行くぞ。

[評点] ★★★★☆



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