logo Silverboy Club Music Award 2015


越年が常態と化してしまっている Silverboy Club Music Award、1年間の新譜レビューの評点を高いものから並べて総括するという安易な企画ですが、今回で第17回。本当なら昨年のうちにやってしまいたかったところですが、新譜レビューが終わらず。ようやくレビューが揃ったところで、早速発表に参りましょう。

2015年、輝く Silverboy Club Music Award、大賞はHARCOの「ゴマサバと夕顔と空心菜」に決まりました。パチパチ。HARCOさん、もしこれをご覧でしたら是非喜びのコメントをお願いします。

今年の採点を見ると、最高のスコアは「8竹」。この評価を受けた作品は大賞受賞作となったHARCOの他にデッド・ウェザー、山田稔明、コールドプレイ、テーム・インパラと複数あり、審査員の間でも激しい議論がありましたが、最もストレートに審査員の心情に訴えかけ、聴き終わった後に「また聴きたい」と思わせるポップ・ミュージックとしての端整さに評価が集まり、最終的には満場一致で大賞となりました。

HARCOは決してメイン・ストリームで大ヒットを出すようなアーティストではありませんが、CMやテレビの番組音楽などを多く手掛ける他、本作のようにアーティストとしても自ら水準の高い作品をコンスタントに発表し続けているプロフェッショナル。こうしたアーティストが真の意味でのポップ・ミュージックを下支えしているのだと思います。その功績を目に見える形で顕彰するためにも、今回の大賞は妥当なものでしょう。

次点にはデッド・ウェザーの「Dodge And Burn」が選ばれました。デッド・ウェザーは2010年に前作が3位に選ばれたのに続く2作連続入賞です。また、ジャック・ホワイトはソロ作で昨年の優秀賞にも入っており、もはや当アワードの常連と言ってもいいでしょう。圧倒的な熱量と有無を言わさぬ存在感で、現代におけるブルースの定義を更新して行く力量は無二のものであり、次点の選出に関しては大きな議論はありませんでした。

3位についてはコールドプレイ、テーム・インパラの間で再び熱い議論になりましたが、既にメジャーで確固たる地位を築いているコールドプレイに比べ、よりオルタナティブとして評価すべき存在であるとの意見が支持を得て、テーム・インパラの「Currents」が受賞することとなりました。サイケデリアが遠い虚空のどこかではなく、僕たちの日常のすぐ向こうにあることを示唆する興味深い作品です。今後の活躍を期待します。

山田稔明の「the loved one」も最高点である「8竹」の評価を受けましたが、以前より当サイトでは別格扱いのアーティストである上、今作はミニ・アルバムであることもあって入賞の対象としないことになりました。山田稔明に対しては、本作と著作『猫と五つ目の季節』に対して審査員特別賞を授与することになりました。このアルバムはこの本のサウンド・トラックとでも言うべきものであり、是非一緒に手に取って欲しいと思います。

選外となった作品のうち、入賞に次ぐ高評価を受けたもののプールである優秀賞には、大賞と同評価の「8竹」ながら選外のコールドプレイ「A Head Full Of Dreams」に加え、「8梅」の評価を受けたアッシュの「Kabrammo!」、ウィルコの「Star Wars」、ディアハンターの「Fading Frontier」、ノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズの「Chasing Yesterday」を挙げておきます。いずれも実力派という印象です。

また、これらの他に印象に残った作品としては、ザ・コレクターズの「言いたいこと 言えないこと 言いそびれたこと」、パンダ・ベアの「Panda Bear Meets The Grim Reaper」あたり(いずれも評価は「7松」)。今後の活躍を期待します。

引き続きCDの購入枚数を減らそうと思っているのですが、アワードの対象になる新譜は25枚と、昨年の19枚にくらべ増えてしまいました。購入対象はかなり絞ったつもりで、現に今まで手を出したことのないアーティストのCDはパンダ・ベアくらいしかないのですが、一方で昔の名前で出ている的なアーティストの「アウト・オブ・デイトな新譜」を結構買っていたりします。

新譜の中でも、ブルックリン系を初めとした、アメリカン・オルタナティヴを最近は好んで聴くようになってきており、今年もウィルコ、ディアハンター、デッド・ウェザー、パンダ・ベア、あとアメリカンじゃないけどテーム・インパラとか、ここ数年購買傾向が変わってきた自覚があります。

もともと好きなUKではヴァクシーンズもザ・ヴューも今ひとつピンと来ず、何よりポール・ウェラーの新譜が「7竹」に終わったのがちょっとアレでした。

2016年は名前や国や行きがかりをちょっと置いて、聴くべきものをきちんと選別して行きたいと思います。その上で新しいアーティストのモノがよければ聴けばいいし、逆に旧譜を全部持っているから新らしいのが出れば買わなければならない的な常連とか昔馴染みみたいな買い方がもったいない。常連特権みたいなものは極力排する方向で頑張りたいです。

一方で、これまで買いためて手元にある過去の音楽資産ともきちんと向き合いたい。ディスコグラフィ・レビューはそのための貴重な場で、新譜レビューとディスコグラフィ・レビューが常時並行してできるような感じにして行きたいと思っています。

昨年のアワードで、僕は、以下のように書きました。

「ボカロや『歌ってみた』など、誰もが自分の表現を簡単に発表できる機会が飛躍的に増え、プロアマが入り混じった巨大でグローバルな表現のプールから自分の気に入ったものをピックアップすること自体にスキルが必要になっているとも感じます」
「表現のプールが巨大になればなるほど、個人の趣味が細分化、多様化して行くのはモノの道理。今こそ、音楽は個人的な体験であるというこのサイトのスローガンが、実感を伴って我々の音楽の聴き方とフックするようになってきたのかもしれません」

この認識は変わりませんが、そうやってプロアマが入り乱れた巨大でグローバルな表現の坩堝は、表現者、鑑賞者の双方において表現へのアクセスを容易にする「表現の自由市場」であり、疑いなく表現の民主化、大衆化に直結するものですが、一方で既存の「表現のプライシング・システム」を崩壊させ、表現でメシを食うことを困難にしてしまう側面もあります。

要は、誰でもPCでそれなりの曲が制作でき、それが無料または極めて安価にネット空間で流通する結果、そしてまた、その中に時として極めて良質なものが含まれる結果、表現物のダンピングが起こり、カネを取って音楽を売るという既存の音楽産業のビジネス・モデルが成り立ちにくくなるとともに、アーティストが受け取る表現の対価もまた切り下がって行くということです。

その結果、プロがきちんとカネをかけて良質の音楽を作り、それを売ってメシを食うということが、ビジネスとして機能しなくなる訳です。表現の自由市場が特権的なプロを殺すのです。

もちろん、それでも音楽がなくなることはないでしょう。音楽流通のプラットフォームは今まさにシャッフルされているところです。そこをくぐり抜けてくる音楽に、僕は今年も耳をそばだてたいと思います。

個人的なロック体験としての第17回 Silverboy Club Music Award、大賞はHARCOさんでした。それではまた今年の年末か来年の年初にお目にかかりましょう。




選考結果

大賞
ゴマサバと夕顔と空心菜 HARCO
[選評] ポップ・ソングというのはこうやって作るのだというお手本のような作品。音楽を生業とすることへの矜持と、生意気な少年のようなシニカルな視線が同居するところが、アーティストとしてのHARCOの特徴か。置き忘れた憧憬を思い出させるような曲の数々、『カメラは嘘をつかない』がとりわけ素晴らしい。

[評点] 8竹
 
2位
DODGE AND BURN The Dead Weather
[選評] 現代においてブルースとは、オレたちの焼けつくような焦燥とか悔恨とかを焼きつけて行く音楽か。音楽にもし「強度」という評価軸があるとすれば間違いなく上位に入るくらいジャック・ホワイトの音楽はいつでも「強い」。何においても「強い」ことはひとつの美質であり価値。モシャートのクールなボーカルもいい。

[評点] 8竹
 
3位
CURRENTS Tame Impala
[選評] 飼い慣らされたインパラが見る極彩色の夢。あるいは孤絶した島国で特異な進化を遂げたカンガルーたちの宴。過剰性を手がかりにコミュニケートを試み、適正値を超えたスピードで意味を越えて行く現代のサイケデリア。真昼間にはっきり覚醒しながら宙空に見る、オレたちの夢のことを彼らは歌っている。

[評点] 8竹
 
優秀賞 (順不同)
[評点] 8竹
A HEAD FULL OF DREAMS Coldplay

[評点] 8梅
KABRAMMO! Ash
STAR WARS Wilco
FADING FRONTIER Deerhunter
CHASING YESTERDAY Noel Gallagher's High Flying Birds
 
審査員特別賞
the loved one[CD] / 猫と五つ目の季節[書籍] 山田稔明


[選評] 山田が長い間一緒に暮らした愛猫ポチの死をテーマにつづった「自伝的小説」と、そのサウンド・トラックともいうべきミニ・アルバム。

死について語ることと生について語ることは同義であり等価である。そしてこれはポチについての物語であると同時に、いや、それ以上に山田自身についての物語である。細い声で語られるが故にこそ遠くまで届く、山田の歌はいつもそんな驚きに満ちている。『small good things』が素晴らしい。

[評点] 8竹



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