logo Silverboy Club Music Award 2014


さあ、今年も Silverboy Club Music Award の時期がやって参りました。つかもう年も明けてんですけど、何とか2014年の新譜レビューも全部終わったので、そろそろやろうかっつうことです。昨年1年間の新譜レビューの中で評点の高かったものを発表するというシンプルな企画ですが、今回で第16回。第1回の時に生まれた赤ちゃんが、今や高校生ですよ。いや、別にそれが何だって話ですけど。

さて、それでは早速今年のアワードの発表に移りましょう。2014年、輝く Silverboy Club Music Award、大賞はロディ・フレームの「Seven Dials」です。今年の最高点は「8竹」ですが、これを獲得したのはこの作品だけでした。堂々の受賞です。パチパチ。ロディ・フレームさん、もしこれをご覧でしたら是非喜びのコメントをお願いします。

ロディ・フレームはこのアワードが始まる前の1998年に評点1位となった他、2002年 、2006年に優秀賞を受賞していますが、正式に対象を大賞を受賞するのは初めて。本作は、単なるノスタルジーにとどまらない清新で率直な2010年代型のアコースティック・ポップが僕たちの「ネオアコ」に対する屈折した愛情のようなものを軽々と凌駕する作品と、高く評価されました。

すべては地続きでありながら、僕たちの生は今、現にここにあるという共時性を強く感じさせる快作です。2010年のエドウィン・コリンズの受賞に続く快挙と言っていいでしょう。おめでとうございました。

評点2位の「8梅」には2作が並びました。一つはベックの「Morning Phase」、もう一つはザ・ヴァインズの「Wicked Nature」です。審査員の間で激しい議論となりましたが、CD2枚組の力作、クレイグ・ニコルズの心象風景を切り取ったかのような稠密さを作品に定着したザ・ヴァインズが最終的に次点に選ばれました。ヴァインズは2008年にも次点を獲得しています。次作では大賞を目指していただきたいと思います。

したがって、3位はベックとなりました。ベックは楽譜のみで発表した楽曲をいろんなアーティストに演奏させたオムニバスもリリースしており、ポップ・ミュージックへの自覚的なコミットメントは顕著でした。間違いなく現代のポップ・ミュージックを牽引する巨人で、まあ、敢えてこのサイトで評価するまでもない人。実際にもこれまでは2002年に優秀賞を受賞したのみで、本アワードには縁がありませんでした。引き続いて第一線での活躍を期待します。

優秀賞は「7松」には7アーティストが並びました。ピクシーズ、ジャック・ホワイト、ポール・ヒートン、プリンス、サーストン・ムーア、ヴァセリンズ、ベン・ワットといった面々です。評点「8」台は付けられないな、という評価だと思います。そういう意味では突出した圧倒的な音楽体験が新譜から得られなかった一年と言っていいかもしれません。

このところ毎年言っている、「CDの購入枚数を減らす」「本当に聴きたい音楽だけを聴く」というのが、ようやく昨年はある程度実践でき、アワードの対象になる新譜は2013年の31枚から19枚に大きく減りました。音楽各誌の年間ベストの中で聴いた枚数も明らかに少なくなりました。

逆にiPodで旧譜を聴くことが増え、また、昨年は大滝詠一のディスコグラフィ・レビューをやっていたこともあって、洋楽の新譜に対する興味は薄れた一年でした。もう、華々しく話題になっているイギリスの新人バンドとかあんまり食指が動かないし。それでいいと思います。もしかしたら2015年はもうアワードができるほど新譜を聴くことはないのかもしれない。

U2がiTunesで新譜を無料配信したり、トム・ヨークの新譜が配信のみでリリースされるなど、ディストリビューションの変化はますます加速しつつあります。中学・高校生たちの間はYouTubeなどで、曲単位で欲しいものだけを「拾う」という聴取行動が普通になりつつあり、アルバムという考え方自体が変化を迫られています。

YouTubeでの「拾い聴き」は僕たちがかつてラジオで新曲をエアチェックしてカセットテープをため込んだのと大差ない感じもするし、そうやって音楽の間口が広がること自体は悪くないようにも思いますが、いずれにしてもチャネルのあり方自体が急速に変化しつつあることは間違いない。

さらにはボカロや「歌ってみた」など、誰もが自分の表現を簡単に発表できる機会が飛躍的に増え、プロアマが入り混じった巨大でグローバルな表現のプールから自分の気に入ったものをピックアップすること自体にスキルが必要になっているとも感じます。

また、洋楽が聴かれなくなったという声もあります。表現のプールが巨大になればなるほど、個人の趣味が細分化、多様化して行くのはモノの道理。今こそ、音楽は個人的な体験であるというこのサイトのスローガンが、実感を伴って我々の音楽の聴き方とフックするようになってきたのかもしれません。

このような世界で、それでも僕たちは音楽を必要としています。僕は音楽を聴き続けて行きます。そこで何が起こるのかを見届け、その中で僕が好きな音楽、聴き続けたい音楽にシルシをつけて行きます。その音楽の何が僕のどこを打ったのかを考えて行きます。

個人的なロック体験としての第16回 Silverboy Club Music Award、大賞はロディ・フレームさんでした。それではまた今年の年末か来年の年初にお目にかかりましょう。




選考結果

大賞
SEVEN DIALS Roddy Frame
[選評] ジャカジャ〜ンと掻き鳴らされたギターがすべての理論を無効化して行くマジック。僕たちがネオアコと呼ぶ、1980年代の一時期にごく一部で流行した一連の症状の本質は結局のところそういうことだった。ミレニアムを越えた普遍性と僕たちが今ここにいる個別性との間に橋を架けてくれる名作。

[評点] 8竹
 
2位
WICKED NATURE The Vines
[選評] アスペルガー障害を抱えたクレイグ・ニコルズが見た風景を、ロックという仕掛けを通じて僕たちにも可視化してくれる。そして、その表現が、その成り立ちとはまったく無関係な地平でひとつの作品として完結することの意義。基本的に閉じた音楽だが、そこにはどこからか風が吹いている。

[評点] 8梅
 
3位
MORNING PHASE Beck
[選評] もうこの人自身が現代音楽のひとつのメディアなんだということだろう。しかし、どれだけメジャーになっても、その音楽そのものはどこまでも宅録的であり密室的、そして個的。本人の意志とは関係なくポップ・ミュージックのスタンダードであり続けるこの「正しさ」の源泉に興味がある。

[評点] 8梅
 
優秀賞 (評点4位、順不同)
INDIE CINDY Pixies
LAZARETTO Jack White
WHAT HAVE WE BECOME Paul Heaton & Jacqui Abbott
ART OFFICIAL AGE / PLECTRUMELECTRUM Prince
THE BEST DAY Thurstom Moore
V FOR VASELINES The Vaselines
HENDRA Ben Watt

[評点] 7松



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