logo Silverboy Club Music Award 2013


皆さん、1年間のご無沙汰でした。今年も越年してしまいましたが、1年間にこのサイトの新譜レビューで取り上げた作品の中から、最も評点の高かったものを集計して発表するという単純明快な企画意図で業界でも注目の Silverboy Club Music Award、気がつけば今回で第15回となりました。自分で言うのもアレですがなかなかできることじゃないです。では、早速受賞作品の発表に参りましょう。

さて、今年の最高点「8松」をマークした作品は3点ありました。マイ・ブラディ・ヴァレンタインの「mbv」、ディアハンターの「モノマニア」、そして山田稔明の「新しい青の時代」です。もっとも、この中で山田稔明は当サイトでは別格扱いのアーティストであることから、前作、前々作に続いて審査員特別賞を授与することになりました。日常に寄り添い小さな声に耳をそばだてるような、それでいて芯のしっかりした音楽として高い評価を得ました。山田稔明さん、これをご覧でしたら是非コメントをお願いします。

さて、ではお待ちかねの大賞の発表です。2013年輝く Silverboy Club Music Award、大賞はディアハンターのアルバム「モノマニア」に決まりました。同評点のマイ・ブラディ・ヴァレンタインとの厳しい審査となりましたが、2013年という時代相によりしっかりとコミットしたコンテンポラリーな作品としての価値を推す声が強く受賞に至りました。パチパチ。ディアハンターの皆さん、これを見てたら喜びのコメントをお願いします。

ギリギリでポップ・ミュージックの枠に踏みとどまりながら明らかに歪んだ音像は、高速で回転する21世紀型の情報資本主義社会に生きる我々の精神の危機にヴィヴィッドにコミットしたものであると高く評価する声があり、最終的にはこれに賛同する声が審査員の中でも多数となりました。堂々の受賞と言っていいでしょう。

次点にはマイ・ブラディ・ヴァレンタインの皆さんが選ばれました。まさかの新譜には意表を衝かれましたが、ブランクなどまるでなかったかのような狂暴なサウンドスケープと、それが21世紀のクロック感に奇跡のように同期している点が評価されました。若手に大賞を譲ったものの、唯一無二の存在として彼らを推す声が多く僅差での評決だったことも書いておかねばなりません。おめでとうございました。

3位は評点「8竹」を獲得した3作品の争いとなりました。エドウィン・コリンズの「アンダーステイテッド」、アーケード・ファイアの「リフレクター」、そしてプリファブ・スプラウトの「クリムゾン/レッド」の3作です。

プリファブ・スプラウトは2001年の、そしてエドウィン・コリンズは2010年の大賞受賞者であり、今回の頑張りも評価されたものの、オルタナティヴからメイン・ストリームへと表現のスケールを拡大させたアーケード・ファイアの同時代性を評価する声が多く聞かれ、激論の末、アーケード・ファイアの皆さんが3位を獲得しました。

という訳で、優秀賞はプリファブ・スプラウトとエドウィン・コリンズとなりました。いずれもベテランですが、表現の成熟というテーマを考える上で、何よりも確信の強さ、本質を的確に射抜く力こそが音楽を同時代に接地させる必要条件だということを如実に示してくれました。

残念ながら選に洩れた「8梅」にはジェイムズ・ブレイク、プライマル・スクリーム、ヴァンパイア・ウィークエンド、エルヴィス・コステロ&ザ・ルーツ、MGMT、フラテリス、ジェイク・バグなどがありました。どれも顔ぶれだけで何となく納得できるネームばかり。今年は音楽各誌のレビューでも豊作の一年と言われましたが確かに肯ける高水準の作品ばかりでした。特にMGMT、ジェイク・バグには大いに期待したいです。

音楽への向かい合い方という意味では引き続き購入するCDの枚数をグッと減らしたつもりでしたが、旧譜とかも含めて数えてみるとまだ2012年と同水準の50枚以上を購入。それでも得体の知れない新人のCDをレビューや店頭の試聴機で「スカウト」して買うケースはほぼありませんでした。

既に「最先端に何が何でもついて行こう」という気持ちはさらさらなく、新しいものでも「残りそうなもの」だけをフォローしたいと思うんですが、それって出始めの時にはなかなか判断できないので、まあ、一部「見込み違い」が混じるのは仕方ないとして。2014年も聴くモノは絞り込んで行きたいと思っています。

CDが売れなくなったと言いますが、ディストリビューション(配給)のチャネルが技術の発展に合わせて変化すること自体は当たり前で、要は既存の音楽産業がグリップしていないチャネルにディストリビューションが移行しつつあるというだけの話。音楽がなくなった訳でも、聴かれなくなった訳でもない。

問題はその新しいディストリビューションのチャネルで、プロが音楽を生業としてやって行けるだけの十分なリターンが保障されるかということでしょう。それができないと音楽はアマチュア発表会になってしまうかもしれません。

要は優れた音楽が継続して発表されるような持続可能な仕組が世の中にきちんと整備されること、そしてそれを通じて優れた音楽が現実に、安価に、安定してリスナーの手許に届けられるということで、それさえできるなら既存のレコード会社がどうなろうがそれは音楽の本質とあまり関わりのないことです。

僕は2014年もこうした観点から、音楽メディアをめぐって何が進行しているのかをしっかり目撃しなければならないと思っています。

そんな訳で、個人的なロック体験としての第15回 Silverboy Club Music Award、大賞はディアハンターの皆さんでした。それではまた今年の年末にお目にかかりましょう。




選考結果

大賞
MONOMANIA Deerhunter
Deerhunter [選評] 明らかに歪んでいるがその歪みが僕たちに心地よく感じられるのだとしたら僕たちもまた歪んでいるということに他ならないだろう。ソニック・ユースの嫡出子のようにも思われるがこの開き直ったかのような抜けのよさは21世紀型かも。オレもオマエも現代に生きる者は等しくキチガイだ。

[評点] 8松
 
2位
MBV My Bloody Valentine
My Bloody Valentine [選評] 「あのマイブラの新譜」ということで20年以上前の前作との相似性はさんざん取り沙汰されたが、前作と本作ではノイズの質が違う。一度きりなら出来心、試行錯誤で説明がつくが、確信を持って鳴らされた今回のノイズは確実に前作を凌駕し深化し狂暴化している。行く先は分からないが。

[評点] 8松
 
3位
REFLEKTOR Arcade Fire
Arcade Fire [選評] トーキング・ヘッズ的な頭でっかち音楽だが、それをロックのメイン・ストリームに還元したことでこの作品の価値は決まったと言える。それはつまり自らの表現の無限定のオープン化ということであり、あらゆる誤解や勘違いや的外れな批評をもはや恐れないということ。覚悟を決めた作品。

[評点] 8竹
 
優秀賞 (評点4位、順不同)
UNDERSTATED Edwyn Collins
CRIMSON / RED Prefab Sprout

[評点] 8竹
 
審査員特別賞
新しい青の時代 山田稔明
山田稔明 [選評] 僕たちが毎日をやり繰りするのに必要なのは、大げさなパラダイムのシフトなどではなくて、片目を交互につぶって見え方の違いを確かめてみるような小さなアクションであり、そんな毎日の繰り返しにこっそり名前をつけたりするささやかな抵抗。ブルースという言葉を身近に引き寄せた名作。

[評点] 8松



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