logo Silverboy Club Music Award 2012


皆さん、1年間のご無沙汰でした。1年間に聴いた新譜の中から最も評点の高かったものを集計して発表するというこの Silverboy Club Music Award も今回で第14回、もはやアレな感じのするレコード大賞よりも信頼できると評価の高い音楽賞となりました。我ながらエラいと思います。では、早速受賞作品の発表に参りましょう。

まず、2012年、評点として最高点をマークしたのはボックスのアルバム「Mighty Rose」でした。しかし、杉真理、松尾清憲は当サイトでは別格のアーティストのひとりであることから、吉例により審査員特別賞を授与することになりました。音楽の力というものがあるとすればこのアルバムのようなものかもしれないと思わせる開かれた快作だったと思います。杉真理さん、松尾清憲さん、是非コメントをお願いします。

さて、ではお待ちかねの大賞の発表です。2012年輝く Silverboy Club Music Award、大賞はザ・ヴァクシーンズのアルバム「Come Of Age」に決まりました。評点8竹にはヴァクシーンズの他、アニマル・コレクティヴ、ジェイク・バグの3枚が並び、厳しい審査となりましたが、この複雑にこんがらがった2010年代という時代に、あまりに身も蓋もないギター・ロックを鳴らした若き力の直接性を推す声が強く受賞に至りました。パチパチ。ヴァクシーンズの皆さん、これを見てたら喜びのコメントをお願いします。

ファーストも悪くなかったし、だからこそセカンドも買った訳ですが、この作品としての急速な成長には正直驚きました。今、ありとあらゆる歌がありとあらゆる形態で同時発生的に鳴り響く世界にあって、こういう「歌」をベースにしたギター・ロックには困難な時代のようにも見えます。しかし、ギターをジャカジャーンとやって声を張り上げて歌うという行為の身体的な意味は、直接性に飢えたこの時代にこそ多くの魂と共振するものだということ。それをこのアルバムは雄弁に語って見せたとの高い評価を受けました。

次点にはアニマル・コレクティヴの皆さんが入りました。実験的な作品であることは間違いないのですが、それがポップ・ソングとしても開かれているこの語義矛盾としか言いようのない奇跡を展開し、最後までヴァクシーンズと大賞を争いました。音楽的な革新性という意味ではこちらが大賞にふさわしいとの声も多数ありました。おめでとうございました。

3位は新人のジェイク・バグのデビュー・アルバムとなりました。年末に駆け込み的に聴いたのですが、各メディアが絶賛するのもうなずける質の高い作品です。シンプルでミニマルな作風にもかかわらずスケールを感じさせる作風、声の魅力、そして背伸び感も微笑ましい男の子的な「意地」の力。むしろこれが大賞との声もあったのですが、次作以降で真価を問われるということで、新人賞的な意味合いの3位ということになりました。

優秀賞は8梅の4作品となりました。ブルース・スプリングスティーン、ポール・ウェラー、ジャック・ホワイト、ビーチ・ボーイズと手堅い面子が並んでいます。音楽誌のランキングもバラバラな中で、ヘンな言い方ですがこうしたベテランがしっかりと「責任」を果たしたというか、職分をまっとうしたというか、シーンのメルクマール、スタンダードとなる作品をリリースした意味は大きかったと思います。

その他に高評点をマークした作品としてはキャスト、ウェディング・プレゼントなどこれもベテランが目立ちました。入賞作も含めてですが、これは、僕自身が雑誌や店頭POPのコメントなどで冒険をしなくなったことが大きいと思います。実際、買ったCDは洋邦新旧合わせても50枚程度、2011年より30枚くらい減ったはず。以前から知っているアーティストの作品がほとんどで、まったくの新人のアルバムはジェイク・バグくらいしか買ってません。

新しいものを聴かなければならない、時代に付いて行かねばならないというオブセッションをちょっと置いて、別に古いものでも懐かしいものでも聴きたいものをゆっくり聴けばいいというスタンスで一年やってみた訳です。結論としては「それでも十分生きて行ける」。既に十分すぎるくらいのCDのストックもあるし、旧譜を順繰りに聴き返すだけで残りの人生は生きて行けると。

そこにおいて、新しい音楽を僕が求めるとしたら、それはなぜなのか。そして、僕が求める新しい音楽とはどんなものなのか。お気に入りの旧譜を脇に置いてまで時間を割くに値する新しい音楽はどこにあるのか。

2013年も僕はこうした問いに引き続き向かい合うことになるでしょう。そして、最終的には、僕にとって音楽とは何なのかということを考えることになるのでしょう。

一方で世の中に目を向ければ、大の大人がメシを食うための生業としてロックが成り立つかどうかという危機はますます深まると思います。アーティストがCDを発表し、それを携えてツアーをするというビジネス・モデルが瓦解しつつある中で、ネット配信が本当にそれに代わるシステムになり得るのか。むしろコンテンツ無料がデフォのネットで、知的財産としてのロックはダンピングされる一方なのではないのか。価値のある表現にきちんと対価が支払われる新しい仕組みがきちんと構築されて行くのか、しっかりと注目して行く必要があるでしょう。

そんな訳で、個人的なロック体験としての第14回 Silverboy Club Music Award、大賞はザ・ヴァクシーンズの皆さんでした。それではまた今年の年末にお目にかかりましょう。




選考結果

大賞
COME OF AGE The Vaccines
The Vaccines [選評] ここに音楽的イノベーションは何ひとつない。あまりにありふれた、あまりに普通のギター・ロックがあるだけだ。しかし、それをこの無原則な2010年代に当たり前のような顔をして鳴らしたこの若きバンドの「普通さ」こそが僕たちにフィットしたのかもしれない。現代病へのワクチン。

[評点] 8竹
 
2位
CENTIPEDE HZ Animal Collective
Animal Collective [選評] もともとキラキラした非典型ロックのサイケデリアだったが、本作ではさらにエイト・ビートに背を向けた実験的な音響の世界へと足を踏み出した。しかしそれが得体の知れないコワい作品にならず、人なつこいポップへと最終的に回収されたのは曲の力か。内実においてはオーソドックス。

[評点] 8竹
 
3位
JAKE BUGG Jake Bugg
Jake Bugg [選評] ディランを引き合いに出して語られる破格の新人だが、その声の吸引力は確かにディランやジョン・レノンにも比肩され得る。歌詞が分からない日本のオヤジにも「おっ」と耳を傾けさせる何かは、理屈では説明できないものでありそれこそがロックの本質。その天性の資質の「次」を見たい。

[評点] 8竹
 
優秀賞 (評点4位、順不同)
WRECKING BALL Bruce Springsteen
SONIK KICKS Paul Weller
BLUNDERBUSS Jack White
THAT'S WHY GOD MADE THE RADIO The Beach Boys

[評点] 8梅
 
審査員特別賞
MIGHTY ROSE Box
Box [選評] もはやビートルズへのオマージュを超越し、それ自体の強度によって語られるべき作品に昇華された。同窓会的なテイストがないでもないが、今、我々が耳にしているすべての音楽をどんどん純化して行けば結局これになるというひとつのプロトタイプ。開かれた表現として高く買いたい作品。

[評点] 8松



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