logo Silverboy Club Music Award 2011


皆さん、1年間のご無沙汰でした。輝く第13回 Silverboy Club Music Award、20世紀から続く伝統のアワード、このところ1年が過ぎるのが速くて信じられません。もうおっさんです。1年間に聴いた新譜の中から最も評点の高かったものを集計して発表するというこの企画、今年も早速2011年のベスト・ディスクを見て参りましょう。

まず、大賞の発表です。輝く第13回 Silverboy Club Music Award、大賞受賞者は、マイルズ・ケインさんに決まりました。今年、9点台の評点を獲得したのはこのアルバムだけでした。マイルズ・ケインさんはファースト・ソロ・アルバムでの受賞となります。パチパチ。マイルズ・ケインさん、これをご覧でしたら是非喜びのコメントをお願いします。

正統的なポップのフォーマットをしっかり踏まえた熟成度の高い作品だったと思います。聴いたときの勢いで高い評点をつけてしまった感は正直ないでもないですがアワードに値する作品であることは間違いないです。マイルズ・ケインは2008年にアークティク・モンキーズのアレックス・ターナーと組んだユニット、ラスト・シャドウ・パペッツのアルバムでも8梅の高評点を獲得しています。次作にも期待したいです。

次点にはザ・ヴューとザ・キルズが同評点(8松)で並びましたが、キルズが僅差でヴューを抑えて2位を獲得しました。決してポップな音楽ではないけれど、その音がそこで鳴っているべき厳しい必要性のようなものをきちんと感じさせるところ、そうして自分の地平を自分で切り開いて行く力が見えるところが審査員一同の高い評価を得ました。

ボーカルのアリソン・モシャートは、昨年ジャック・ホワイトと組んだユニット、デッド・ウェザーで3位を獲得しており、2年連続の入賞となりました。違ったユニットで2年連続の受賞は珍しいですね。たぶん史上初だと思います。

3位にはヴューが入りました。ヴューは2009年に2位を獲得しており、2作連続の入賞になります。若いバンドの中では際立った曲単位の構築力が引き続き高い評価を受けましたが、良くも悪くも期待された枠の中に収まっているところがキルズとの明暗を分けたポイントになりました。

ブリティッシュ・ロックとしては奇を衒ったところのないオーソドックスなポップですが、行き着くところはソングライティングのよさ。鼻歌を歌うときに伴奏は付きません。曲そのもののよさで勝負できるバンドとして質の高いアルバムを作り続けていると2位に押す声も強かったのですが、僅差で3位となりました。

優秀賞には同評点(8竹)で6作品が選ばれました。顔ぶれを見ると、R.E.M.、フー・ファイターズ、ポール・サイモン、ニック・ロウ、コールドプレイ、ウィルコと、ベテランを中心に大所が並びました。惜しくも解散したR.E.M.、夏にライブを見る機会のあったニック・ロウなど、出すべき人がいいアルバムを出してくれた一年でした。

その次の評点(8梅)で惜しくも入賞を逃したアーティストとしては、ヴァクシーンズ、ペインズ・オブ・ビーイング・ピュア・アット・ハート、フレンドリー・ファイアーズ、ジェイムス・ブレイクなど今後が期待される若手の作品が目白押しです。あと、トム・ウェイツとサーストン・ムーアはもうちょっといい点つけておいてもよかったかな…。

今年は自分として「これが聴きたい」と確信が持てるCDだけを聴こうという、どちらかというと保守的な姿勢で音楽に向かい合った一年でした(それでも買ったCDは60枚以上になりました)。そのことはアワードの入賞者、優秀賞の顔ぶれをみても何となく分かります。人生の残り時間でいったい何枚のCDを聴くことができるだろう、と考えたとき、本当に聴きたいもの、本当に聴く価値のあるものを聴いて行きたいと強く感じたのです。

CDの売り上げが落ち込み、違法・合法を問わず電子データとしての音楽の流通が進む中で、音楽産業はどのようにして音楽でメシを食うかというビジネス・モデルの再構築を迫られています。しかし、優れた音楽が安いコストで世界中に広がること自体は本来歓迎すべきことのはずで、ただ、その仕組みがクリエイターにとっても魅力的で持続可能なものである必要があるというだけのことなのだと僕は思います。

だとすれば、その流通の担い手がレコード会社でなくても僕たちは困らない。いい音楽が安定して供給される仕組みは必要だけれども、そこにレコード会社が介在することは僕たちにとって不可欠ではない。そんな時代にあって、僕はまだショップに出かけてCDを買っているけれど、この仕組みがどう変わって行くかは引き続きしっかり見届けないといけないと思っています。

そんな世界で僕たちを撃つのはどんな音楽なのか。まだまだ音楽を聴く楽しみは尽きそうにありません。

そんな訳で、個人的なロック体験としての第13回 Silverboy Club Music Award、大賞はマイルズ・ケインさんでした。それではまた今年の年末にお目にかかりましょう。




選考結果

大賞
COLOUR OF THE TRAP Miles Kane
Miles Kane [選評] かつてペイル・ファウンテンズのマイケル・ヘッドがバート・バカラックのロマンティシズムをかき鳴らされるギターの向こうに閉じこめたように、マイルズ・ケインもまたポップの黄金律を21世紀のスピード感、焦燥感とともにパッケージしようとしたのだろうか。これが音楽の可能性。

[評点] 9梅
 
2位
BLOOD PRESSURES The Kills
The Kills [選評] 流行とかスタイルとか気にせずに、できるだけ表現衝動の核に近いものだけを、その勢いを失わないことを何よりも重視して音楽に定着したらこうなったという作品。そしてそれが結果としてこのムダに忙しく余裕のない世界にぴったり寄り添ってしまうという奇跡。現代型のブルースだ。

[評点] 8松
 
3位
BREAD AND CIRCUSES The View
The View [選評] 今思えばデビュー・アルバムのタイトルが「大道芸人に脱帽」だったのは象徴的だったのかもしれない。今日的なスピードのビート・ロックだが、その背景にはバスキングに代表されるストリート・ミュージックの多様性、豊穣さが見える。曲の奥行きがアルバムに確かな色彩を与えている。

[評点] 8松
 
優秀賞 (評点4位、順不同)
COLLAPSE INTO NOW R.E.M.
WASTING LIGHT Foo Fighters
SO BEAUTIFUL OR SO WHAT Paul Simon
THE OLD MAGIC Nick Lowe
MYLO XYLOTO Coldplay
THE WHOLE LOVE Wilco

[評点] 8竹



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